IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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久々の投稿です。
しばらくはこんな感じに遅くなります。


#111 本物と贋物

 そこには本来、各国の首領たちがそれぞれの席に着くはずなのだが、今では大半の国が臨時の人間を立てている。その理由は悠夜が大半の人間を殺しかけたことで精神を害されてしまったからだ。

 その結果、ろくな引継ぎができず各国の人間はその椅子に座っているが、今回の目的ははっきりとしていた。

 

「では、ミスター轡木。学園祭に現れた所属不明の三機に関しては存じ上げている、ということですね」

「はい」

 

 今回で唯一、IS委員会に関して古株と言えるクロヴィス・ジアンが尋ねると、十蔵は頷いた。

 

「アレは我がラボで開発されたISに代わるパワードスーツです。もっとも、今後はあの三機以外は開発するつもりはありません」

 

 そうはっきりと言った十蔵を責めるように一人の女性が立ち上がって言った。

 

「それは本当かしら? 今回、我が国の人間をほぼ再起不能にしたのは、あなたの所の人間でしょう? 信じられないわ」

「それに関してはあなたたちが悪いとしか言いようがありませんね。一度、女尊男卑思考は認識を改め、ちゃんと桂木悠夜個人を見てあげては? 彼は確かに口は悪く、すぐに図に乗る癖はあることは認めましょう。ですが? 彼は今までむやみにISやルシフェリオンを使用して力で支配してきましたか? あの時の行為はあなたたちの方が生徒を人質に取ったことが原因でしょう?」

「じゃあ、彼は一体何なの。あんな魔法みたいなものを使うなんて―――」

「あなたたちが思っている通り、彼は化け物ですよ」

 

 その言葉に全員が驚きを露わにし、次々と意見を述べる。「だったらすぐに解剖するべきだろう!」や「それよりもあの所属不明機だ!」とも声を上げるものも現れた。

 それを聞いていた十蔵はその光景にため息を吐き、言った。

 

「私はどちらも、あなた方に提供するつもりはありませんよ」

 

 その声はそれほど大きくわけではなかった。だが思いの外、彼らの耳に届いたようで全員が十蔵に注目する。

 

「それは……どういうことかしら?」

「場合によってはあなた方と事を構える、そう取って頂いて構いません」

 

 アメリカの臨時代表であるメアリー・ハードソンが尋ねると十蔵がそう言った。

 さらに十蔵はそれに付け足すように続ける。

 

「なんでしたら、今すぐ全生徒を強制的に帰国させてもいいですが? 所詮、国家代表候補生と言えど、我々の所の足元にも及ばないでしょう?」

 

 その言葉に、いよいよ全員が怒りを露わにした。

 

 ―――テメェらのところよりこっちが強いんだよ、バーカ

 

 どれだけ正しく取り繕うが、要はそう言っているようなものだ。

 だが事実、これまでのことを考えれば十蔵の言う通り、国家代表候補生はIS学園に関する事件に関してはほとんど無力だ。

 何故ならこれまでの事件は、轡木ラボに所属する悠夜は単独でラボの機体を使って撃破している。唯一の例外は福音戦の時のルシフェリオンだが、その前に黒鋼とそれ用のバックパックで第一形態の福音を撃破しているのだ。操縦者の能力と武装に対する躊躇いのなさは折り紙付きだが、それ以上にラボの技術力の高さが窺える。

 それに第一、ISの数が圧倒的に足りない。

 大半がIS学園に占拠されており、其処の責任者は他ならぬ轡木十蔵。彼がやろうと思えば教員、生徒のISを動けなくすることも可能であり、何よりもここにいる時点で全員が彼に恐怖してしまうほどなのだ。

 どれだけの手練れだろうが関係ない。日本の国にいる脅威者のリストの中に入るほどであり、更識家や桂木陽子に隠れているが、IS学園の理事長を務めることは政治的に明るく、なおかつアメリカですら容易に干渉しにくい状況を作る必要があるのだ。ただの一般人に任せられるようなものではないのは確かだ。

 

「今のは警告ですよ。あなたたちがもし非合法な手段を取り、我々に牙を向けるならばそれなりの損害を覚悟した方がいい。今は現状維持に努め、その上で改善策を講じましょう。度が過ぎる欲望は、時としてあなた方の身すら滅ぼしかねませんよ」

 

 忠告する十蔵。彼の目論見通り場は静まり返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。俺と簪、そしてラウラは轡木ラボに訪れていた。

 機体整備のこともそうだが、何よりも朱音ちゃんに頼まれたことがあるからだ。

 

「どうも、お待たせしました」

「お待たせ」

「待たせた」

 

 学生(厳密には生徒らしいけど)の俺たちは学業優先らしいが、今回の話相手の二人は違う。朝から働いてこれから仕事らしい。

 そんな彼らことアランとレオナが俺の姿を見ると挨拶をすると、何故かレオナはぶっきらぼうというか俺を敵視しているというか………まぁ、少なくとも「女が強い」というよりも「気丈に振舞っている」と言う感じが強い。……二つはあまり大差なさそうだが、前者は完全に男を見下しているが、後者は何らかのバリアを張っているという感じだ。

 

「お兄ちゃん!」

 

 そう言って抱き着いてくる朱音ちゃん。やれやれ。君は俺を殺すつもりかい? 君にその気がなくても場合によっては孫が大好きお爺ちゃんに殺されかねないんだよ?

 そんなことを思っていると、別の方向から「こらこら」と聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「あれ? 晴美さ……じゃなかった、轡木先生。どうしてこんなところに?」

「別に名前でいいんだけどね。まぁ、あれだ。娘の頼み事は忙しくない限りに手伝うのは親の役目だろう?」

 

 ということは、今日は痛い何かでもするつもりなのだろうか?

 そう思っていると、朱音ちゃんは辺りの照明を消し、空中投影ディスプレイを展開した。

 

「で、今日集まってもらったのは、ISとフェイクスードで戦ってもらいたいからです」

「………人数、足らなくないか?」

 

 少し詰まってからそれを指摘した。そう、俺たちは三人だが向こうは二人だ。

 ちなみにフェイクスードのことはラウラからある程度は聞いているし、実際凄いらしい。

 

「うん。今ちょっと護衛任務に出ているから………」

「そうか……」

 

 ISと同等と聞いているから必要はあるか。………まぁ、あの人に護衛が必要かと聞かれれば流石に必要だとは思うが、本気出したらどの部隊も全滅は必至だろう。

 数日前、俺たちの正体をばらされた時に俺はベッドに縛り付けられた。あの時に俺はおそらく重力で抑えつけられたのだろうと思っている。もしそれがIS相手に使われたら成す術がないことを知っている俺はどう思うだろう。

 

「それに問題ないわ。あなたの相手は私がするから」

「ちょっと待ってよレオナ! 俺だって戦いたいって」

 

 まだ決めていないのか急に揉め始める二人。正直な話、俺はどっちでもいいんだがな……。

 

「いっそのこと、二人同時ってのもどうだ? 俺は二人のコンビネーションを見てみたい」

「それもいいんだけど、お兄ちゃんとの対戦は絶対必須なの。……むしろ」

 

 朱音ちゃんは申し訳なさそうにラウラを見た。

 

「? どうした?」

「むしろラウラとの対戦データが必要ないの……」

「……ふむ。なるほどな」

 

 ラウラにしてみればそれなりのダメージは食らうと思ったが、思った以上にダメージは受けていないようだ。

 どういうことかと尋ねたら意外な言葉が返ってきた。

 

「今回はむしろ、ラボに所属していて成績を残している二人に善戦してこそ性能の高さを証明できるのです。兄様は学園別トーナメントでこそ一回戦敗退扱いですが、追加武装アリとはいえ軍用ISを一度は撃墜しています。さらに言えば、兄様に対する注目度でしょう」

「……注目度?」

「以前の学園祭、そこで兄様はほとんどの生徒を倒し、ほとんど単機で敵機を追い詰め、生身でもISを抑えつけるほどのスペック、さらに織斑千冬に大怪我を負わせるほどの能力を示しました。それを知った一部の生徒は徐々に兄様のことを見直し始めています」

 

 最後に「今更とは思いますが」と付け足すラウラ。評価とか気にしていないから興味なかったのだが、そういうことになっているのか。

 

「うん。そんな現状のお兄ちゃんに善戦でもしてくれれば……」

「フェイクスードの価値が高まるということか」

 

 俺が言葉を引き継ぐと全員が頷いた。

 

「……じゃあ、こうしよう。今日は俺と簪が二人の内のどちらかと戦い、明日は俺が今日の内に戦わなかった方と戦い、次にラウラがどちらかと戦うってのはどうだ?」

「うん。会議はまた数日後に行うらしいから、そっちの方がいいかも」

 

 朱音ちゃんの了承を得たので、今度は残りの二人に尋ねる。

 

「私たちは構わないわ」

 

 レオナが俺を睨むように見てそう答えた。ラウラが間に入ろうとしたが、手で制す。

 

「じゃあみんな、お願いね」

 

 その言葉に俺はちょっと鼻血を流しそうになったけど、なんとか抑えることに成功した。………やばいな。久々に朱音ちゃんと会ったから妙に興奮している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 轡木ラボが開発しているのは、ISとフェイクスードだけではない。

 他の工業関連にも手を出しており、特に力を入れているのは主にバリア発生装置などであり、五月の襲撃の後の修理はラボの技術が使われるようになった。……それでも零落白夜には負けてしまったが、あれは元々エネルギーを消失させる働きがあるため、そもそもエネルギーバリアでは歯が立たない。

 だがラボの技術は朱音ちゃんのおかげで従来よりもより高性能であり、近いこともあってよく設置などで利用される。

 そしてこの戦いにはフェイクスードの性能テストもあるが、新製品の開発テストが含まれている。それを知っているのは朱音と他の開発者のみだった。

 

 悠夜と対戦相手であるレオナはそれぞれ機体を展開し、宙に浮いている。周囲にはビットとサードアイシステムをの要素を組み込んだカメラが飛んでおり、それらは二人の邪魔にならないようになっていた。

 

(……これがロンドシュワルベか……)

 

 ―――フェイクスード三号機「ロンドシュワルベ」

 

 フェイクスードは全部で4機あり、その内の一つである「ロンドシュワルベ」は遠距離戦を得意とするレオナように作られた機体だ。

 だからと言って近接武器がないわけではないが、武装は遠距離寄りなのはレオナ用が故である。

 周囲にプロペラが付いた棒が8個漂い、二人を囲う。そして中央にカウントダウンを始める四角いタイマー。それが0になった瞬間、二人はそれぞれ動いた。

 レオナは上へと飛ぶ。悠夜はその様子を眺めるだけで動こうとしない。

 その隙にレオナはライフルを構え、悠夜に照準を合わせる。その時、悠夜は右に体を動かすとレオナはすぐさまそちらにずらして引き金を引いた。

 銃弾が射出される。悠夜はすぐさまその場で体を反転させると同時に落下を始め、回避するが、レオナは続けざまに軽くライフルを下げて素早く撃った。

 

(対応が早い)

 

 悠夜の口元が歪む。するとレオナは青い自機を移動させ、悠夜の右側へと移動した。そして両肩の装甲を開かせてミサイルを飛ばし、レオナはそれをライフルで撃ち抜いた。

 ミサイルが爆発すると白い粉が撒き散らされる。それが何かをすぐに理解した悠夜はサードアイを起動するが、それよりも早く後ろから斬りつけられた。

 その分のシールドエネルギーが減る。それを確認せずに悠夜は《サーヴァント》を飛ばしてレオナを追い払った。

 

「…………やるか」

 

 飛行形態に変形した黒鋼はすぐさま移動を開始。レオナは移動しながらもライフルで黒鋼を狙うが、さっきとは違って早いそのスピードに驚きを露わにする。

 

(予想以上に早いわね……でも!)

 

 すぐに眼を慣らした彼女は何度も悠夜に向けて発砲する。

 だが悠夜はランダムに軌道を描き、回避した。

 

(このままじゃ埒が明かない………やるか)

 

 あまり余裕がない操縦席で左の操縦桿から手を話し、自分の額に触れる悠夜。そしてある状態になろうとした瞬間、背筋に寒気が走った。

 

『―――フフフ………アハハハハハハ!!』

 

 すると黒鋼が揺れ、真下へと落下していく。

 機体状況を確認すると、真上に何かが乗っていた。

 

(ちょっと待て!? 黒鋼とあの機体はかなり距離が空いていたはずだろ!?)

 

 しかし、これが現実であり、悠夜は見覚えがある二丁拳銃を向けられていた。

 

「これでチェックメイトよ。いくら特別な可変機体といってもこの距離じゃ避けられないでしょ?」

「……確かにな」

 

 ―――スペック、高すぎね?

 

 悠夜がそう思うのも無理はない。先ほどまで黒鋼とロンドシュワルベは500mは空いていたのだ。

 それを一瞬で詰めたその機体の機動力を評価しつつ、悠夜は思考を切り替えた。

 

「だがそれは、俺以外に言えることだ! サーヴァント!!」

 

 機体からビットが分離し、ロンドシュワルベに攻撃した。

 ダメージを食らいながら回避したレオナ。瞬間、彼女の前に雷が落ちる。

 

「絶対防御かそれの類似するシールドはあるんだろ? だったら、手加減抜きで行くぜ!」

 

 そう言って悠夜は電気を帯びた剣戟を連続で飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その様子を十蔵たちは見ていた。

 瞬間移動したかと思わせる機動力の高さ、さらに悠夜の攻撃を避ける回避性能の高さ。

 決して悠夜は手加減しているわけではない。その証拠に、飛ばされる弾丸を一つ残らず彼が持つ《蒼竜》で弾き飛ばしているのだ。

 まさしく高レベルの―――それこそモンド・グロッソの準決勝ぐらいで見れそうな戦いを二人は見せていた。

 

「何なんだ……これは……」

「これがISを動かして半年の動きか!?」

 

 信じられないと言わんばかりの反応をする。

 それを見ながら、十蔵に一人の男性が耳打ちをした。

 

「やはり、レオナでは荷が重いようですね」

「いえ。これくらいがちょうどいいでしょう。あなたが出れば、余計な被害が出る可能性がありますからねぇ」

「………余計な被害、ですか」

 

 不満なのか、その男性は不承不承に少し離れる。

 

「あなたにはここですることがあります。それに、悠夜君が本気を出したらまたすぐに騒ぐでしょう? 最悪、あなたの機体では止められない可能性がある」

「………なるほど、そういうことですか」

 

 男性―――リベルト・バリーニの戦闘能力は十蔵と陽子が引き取った四人の遺伝子強化素体の中では学園に残してきたアランとレオナの二人と一線を画すほどだ。彼ともう一人、そしてアランとレオナでは強化ランクが違う。そして何より、リベルトは生まれて数年では戦場を駆けるほどの実力者だ。

 実は密かに研究員や投資者を数人殺しており、今でも同じような仕事をしていた。おそらく、現段階では四人の中で最強になっているだろう。

 そしてその実力は悠夜があの状態になりかねない存在として恐れた十蔵は敢えて連れてきたのだ。ここですることなど、今彼が思いついた即席の理由でしかない。

 十蔵は席を立ちあがり、そこに集まる全員に言った。

 

「さて、この戦いはもういいでしょう。ではこちらをご覧ください」

 

 十蔵の言葉に合わせてリベルトが機会を操作する。

 画面が切り替わり、今度は簪とアランが駆る「イクスイェーガー」の戦闘シーンに切り替わる。

 その戦闘シーンで全員が息をのんだ。

 ここにいる全員は何らかの形でISに関わってきた人間ばかりであり、当然のことだが簪が今年度の学年別トーナメントの優勝者であることは知っている。

 その簪がなんと―――武装からして近接メインの「イクスイェーガー」に押されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 簪は正直なところ、舐めていた。

 日頃から少々気弱なところもそうだが、どこか腰が低いアランが本当に戦えるか心配だったが―――杞憂だったのだ。

 最初は苦しい顔をしていた簪だが、次第に笑顔になる。

 

 ―――久しぶり

 

 以前の戦闘はただ、周りの人間を守るために動いていた。だから満足に戦えた気がしなかった。だが、今は違う。相手を打ちのめしていいのだ。

 しかも嬉しいことに相手の装甲は厚く、ちょっとやそっとではくたばらない。

 簪には女尊男卑思考はないが、自分と対等と思える相手にはどうしても会えない。スペック的な問題もそうだが、周りにとっては非常識な動きをするからだ。

 ウイングスラスターに収納されているプラズマレール砲《襲穿》を展開し、交互に連射する。

 アランはそれを回避しつつやり過ごすが、一発かすり装甲の一部を吹き飛ばした。もっとも、イクスイェーガーは二重装甲となっているのでその一部が吹き飛んだだけだが、代わりにスピードが上がった。

 アランは腰にマウントされている《ソルジャーソード》を抜いて距離を詰めた簪に斬りかかる。それを《銀氷》で受け止めた簪は片手でビームライフル《ライトニング》を展開して攻撃しようとしたが、そのまま押し切られる。

 

「こいつの馬力、舐めんじゃねええええ!!」

 

 そう叫びながらアランは荒鋼をそのまま押し続ける。が、それは長く続かなかった。

 

 ―――!?

 

 二人は急激に膨らむ殺気を感じ、そっちを見る。視界に自分たちに向かってくる存在を認識した二人はそのまま回避した。

 自分たちの戦いをしたのは悠夜とレオナ。悠夜は黒鋼のバーストモードを使い、同等の機動力を持つロンドシュワルベを駆るレオナと戦っているのである。

 

「え? ちょっ!?」

 

 わけがわからないアランだが、近くで高エネルギーを感知した彼はすぐにそこから逃げる。

 すると簪は遠慮なく全弾発射してアラン、レオナ、悠夜を攻撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………フフフ……アハハハハ』

 

 スピーカーから恐怖を思わせる笑い声が聞こえ、試合を見ていたラウラは急に縮こまって震え始めた。

 そのことに疑問を感じた朱音だったが、今彼女はラウラに構っている暇がなかった。何故なら、こんなことになるのは予想外だったから。

 すべてリアルタイムで送信され、見られていることを敢えて伝えていないのはあくまで朱音の配慮だったのだが、ここまで狂うのは予想外だったのだ。さらに言えば悠夜がバーストモードを使うこと自体、意外なことなのだが。

 何度も四人に呼び掛ける朱音だが、アラン以外の三人は戦うのに夢中になっているので返事をしない。しかもアランは戦闘区域の真っただ中。さらに簪に触発されてか他の二人もジャンジャンぶっ放すので回避に集中しないと撃墜されるのだ。なにせ三人の内二人は射撃タイプで、悠夜自身もそれなりに高い射撃能力を持っているのである。

 

 そしてこの光景を見ていた重役たちはブーイングを起こした。

 統率を取れない隊。そんな奴らに大事なISや同類の兵器を預けてもいいのかと声が上がり始めた。

 だが当の十蔵は余裕を見せており、その光景を楽しそうに見ていた。

 

(………そういえば、ガス抜きらしいガス抜きをしていませんでしたね)

 

 これまで彼らは常に命を懸けた戦いをしていた。ISがいくら自分たちを守ると言っても限度がある。さらに言えば絶対防御が切れればそこで終わりであり、悠夜はルシフェリオンという尋常ではない力を持ってからも自分を売るわせるほどの戦いに巡り合ったことがないのだ。

 そこに来てデモンストレーションを兼ねた対戦。暴走したのは予想外だったが、結果オーライと言えるだろう。

 

「みなさん、これで判明したでしょう? 轡木ラボはIS並びに新たなパワードスーツの保有を辞退させるべきです!」

 

 呼びかけるようにメアリーはそう言うと、十蔵ははっきりと言った。

 

「確かに。この光景を見られればそう言われるのは仕方ありませんね。わかりました。我々ラボが保有する全パワードスーツ、そしてそれに関する資料は破棄。ISも解体して初期化しましょう」

「………何ですって?」

「何か? 我々はあなたが言う通り辞退し、すべての研究成果を破棄するだけですが。我々が保有するのは問題があるんでしょう?」

 

 十蔵の言葉にメアリーは口を閉ざしてしまった。

 だがすぐに反撃の言葉を思いついたのか、口を開いて言い返す。

 

「何もそこまでしなくても……」

「あの研究所は私のものです。だったら、私がどう指示しようが構わないはずだ。それにこれでしばらくは桂木悠夜以下二名のメタル小隊も休ませることもできますから、一石二鳥ですね」

「………休ませるって……」

「最近、彼らは―――特に桂木悠夜君は五月からずっと戦闘続きでしたからね。我々のラボから全パワードスーツを回収するんでしょう? だったら、桂木君も黒鋼を手放すことになる」

 

 はっきりとそう言う十蔵に、メアリーは「当然だ」という態度を取る。

 その様子を見ていたクロヴィスは冷たい何かを感じた。そして、あることに気付いたのである。

 

「とすれば1年生の専用機は減りますねぇ。まぁ、多少減ったところで今年度の一年生の専用機持ち所属率は高いのですが」

(………やばい)

 

 悠夜が知らないところでだが助けられていた彼だからこそ、十蔵が言わんとしていることに気付いた。

 十蔵とクロヴィスは立ち場的に敵になることが多いが友人でもある。そのため、何度か食事をする機会があったのだが、悠夜一個人の戦力、そして悠夜が黒鋼以外のISを嫌っているという話をよく聞いていた。

 さらに言えばこれまでの戦闘記録はクロヴィスも知っていて、それをもとにしても悠夜単体の戦闘力は高い。

 

 ―――これまでの戦績を考えれば、悠夜はIS学園の立派な中心戦力と言える

 

 そんな悠夜と同質の機体を持つ学年別トーナメント覇者の一人、さらに元黒ウサギ隊隊長からISを回収した場合、残るメイン戦力は生身の悠夜相手ですら歯が立たなかった織斑千冬と学園部隊、そして「イージス」のコンビに今回の騒動で負傷した生徒会長、後は一年専用機持ちの四人だ。その内の一人は一度ISを奪われており、とても戦力の一つとして数えていいのかと考えるべき存在なのだ。

 もっと言えば、今回の騒動で発覚したルシフェリオンと同等の機体の存在に大量に存在した無人機。

 まともな戦力を考えれば山田真耶を含めた五人ぐらいで、クロヴィスは内心申し訳ないと思いつつも一年生と学園の部隊はまず使えないと思っている。さらに今の千冬は専用機を使えない状態にあり、ほとんど学園部隊と変わらない。そしてそれは真耶も同じであり、実質IS学園での守備として使えるのは三人。だがそれはあくまで「無人機」相手を想定しており、ルシフェリオンと同等と言った二機に関しては「0」だ。

 さらに言えばクロヴィスは今の悠夜の性格も恐れていた。

 悠夜はこれまで過度な虐めを受けていた。そのせいか周りとは極力関わろうとしていない。もし今、悠夜たちを戦力から外した場合、下手をすれば対応に遅れて生徒から死人が出る可能性がある。

 そしてクロヴィスはある盟約を思い出していた。それはルシフェリオンに関することで、ルシフェリオンは通常、黒鋼で対応できない敵が現れた時か十蔵の付き添いに限り使用を許可するとなっている。もしそれで悠夜はただ傍観しているだけで死人が出たとしてここに呼ばれたとしても「黒鋼が取られたので相手が強かったなんてわからない」なんてごねられたら終わり。もっと言えばメアリーなどが癇癪を起して兵を悠夜に向けたとしても、ISすら足止めできる超能力を持っている悠夜にしてみれば軍隊を物理的に消滅させることなんて容易いことだろう。

 

 そこまでわかっているからこそ、十蔵はメアリーを潰すためにあえてそう言ったのだ。

 

 クロヴィスは自分が情けないと思っているが、結局のところ悠夜の力がなくては今のIS学園の防衛力は成り立たないと自覚した。

 

「………轡木ラボのパワードスーツ保有の件はこのまま見送る」

 

 委員長代理であるクロヴィスはそう言うと、辺りが騒がしくなる。

 だがクロヴィスはそれを一蹴するように言った。

 

「では誰か、別種の機体に対する案はあるか? ルシフェリオンと同等の機体を止める方法をだ。当然のことだが、桂木悠夜とルシフェリオンを離すことは禁ずる。そうすればまた情報を抜かれるのがオチだ。それと桂木悠夜を止められる方法を思いついた者は挙手しろ。言っておくが今のあの少年は警戒心が強い。女を送ったことで死体で返されるのがオチだぞ」

 

 そこまで言ったクロヴィスに誰も手を挙げなかった。当然、メアリーも含めて。

 

「つまりこういうことだ。轡木十蔵、あなたにはこれからも桂木悠夜の手綱を引き続き握ってもらう。できるな?」

「仰せのままに」

 

 そう言うことで会議は終了し、轡木ラボの安泰は約束された。


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