IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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たぶんこれが読んだ人全員が思うんだろうなぁ。

「セリフ多すぎ!」

ってさ。


#109 亡霊の後夜祭

 そこはまるでパーティー会場を縮小したような場所だった。

 豪華絢爛で彩られたその場所に似つかわしくないほどに落ち込んでいるオータムの姿があり、正面には満面の笑みを浮かべているスコール。周りには下らなさそうに見ているMと嘲笑うように観察する0の姿があった。Tは整備のため、席を外している。

 

「で、オータム? 何か言いたいことはある?」

「………………」

 

 無言を貫くオータムだが、格好をつけているわけではない。目の前にいるスコールが怖すぎて一言も発せないのだ。

 それほどまでスコールから怒気が漏れており、常人なら卒倒しているほどだ。

 

「別にあなたが完全に悪いって言うつもりはないわ。現にあなたは一度、織斑一夏からISを奪ってるし」

「いや、もはやその時点で回避に徹しなかったのが原因じゃないかな? っていうかあれだけ逃げろって言ったのに戦ったオータムの脳みそが小さいだけだと思う」

「それに関しては同感だな。あれくらい、勝って当たり前だろう」

「そういうマドカだってそこまで時間を稼げないからあまり調子に乗らない方が良いと思うけどな~」

 

 後ろで罵倒と軽口を叩く二人をスコールは睨みを利かせて黙らせた。

 

「………だって、勝てるって……」

「思うこと自体が間違ってるんだけどね。大体、身内の僕が言うけどアレは化け物だよ。本来の属性は「地」だけのはずなのに、全属性を平然と使えて、挙句「ゲームの真似」とか言ってマヒャ○ドスとかギガ○インとかを普通にするんだよ」

「あら、あなただって凍らせることはできるじゃない」

「できるのは精々それくらいだよ。他のはからっきし」

 

 そう言った0はそのままMの方に腕を伸ばすが、それに気付いたMは叩いた。

 

「もう。Mのケチ。おっぱいの一つや二つ触らせてくれたっていいじゃん」

「ふざけるなよ。誰が貴様に触らせるか」

「まぁまぁ、どうせ触ってもらえる相手なんていないんだからケチケチしないでよ」

 

 それを聞いたMとオータムは仲が悪いが同時に0を睨む。だが0にとってはどこ吹く風であり、懲りずにMに手を伸ばすがMはそれをはたく。

 するとドアが開き、Tが中に入ってきた。

 

「あーもう。やってられなーい」

「どうしたの?」

 

 Tが気怠そうにそう叫ぶと、心配そうに0が声をかける。

 

「零夜様ぁ、聞いてくださいよぁ~。私が放った無人兵が一機も戻ってこなかったんですよぉ~」

「そりゃあ仕方ないよ。どこか馬鹿がさっさと退散しないし、影は出張るしヤンデレは暴れるし、挙句IS学園で天変地異の連続だったから。むしろちゃんと破壊されているかを心配しなきゃ」

 

 だが零夜と呼ばれた少年の心配は杞憂だった。

 何故なら悠夜と陽子が起こした天変地異の連続と悠夜がぶち切れて能力を行使した結果、学園の部隊と対峙していた機体は原型を留めないほど破壊しつくされており、他の場所は撃墜後にキッチリと爆破し証拠を隠滅できているからである。

 

「まぁ、後軽く1000個は残っているので大した問題はありませんけどね~」

「流石ティア。機械に関しては右に出るものはいないね」

「兵器なんて量産してなんぼなんですぅ~」

 

 物騒なことを平然と宣言したティア。零夜は彼女を引き寄せて撫でていると、Mが言った。

 

「ふん。貴様はよくそんな浮気男に撫でられて嬉しく思うな。正気とは思えん」

「浮気って言っても零夜様ってなんだかんだで朝帰りしないし~」

 

 その答えに当然と言わんばかりに満足を示さないMだが、ティアは気にせず小型端末を操作する。

 

「そうそう、サイレント・ゼフィルスを調整したから今から試運転していてよ~」

「必要ない。貴様の整備能力だけは信頼しているからな」

「わぁ~マドっちに褒められたぁ~」

「マドっち言うな!」

「まぁまぁ、マドカ。あまり怒ると血圧上がるよ」

「誰のせいだ、誰の」

 

 呆れを見せるマドカに零夜とティアのコンビは慈愛の眼差しを向けるが、零夜は思い出したかのように言った。

 

「そういえば、そこのブスの処分はどうするの?」

「おい待て! 今なんつった!?」

「ブスだって。だってそこまで美しいとも思えないし」

 

 明らかな挑発にオータムは乗りそうになるが、スコールの雰囲気を読み取ったオータムは動きを止めた。

 

「そうね。しばらくアレを禁止しましょうか?」

「………嘘だろ」

「そう世界の終わりみたいな顔をしないの。何も永遠に禁止にするわけじゃないんだし」

「というかこんなババアの何が楽しめるのか聞きたいくらいだ」

 

 瞬間、精製された火球が零夜に迫るが、手前で弾け飛んだ。

 

「………あなたも十分化け物ね、零夜。あの一族の第二継承権を持つだけはあるわ」

「それって要はあの化け物が死なないと継げないよね? まぁ、別にそんなものを継ぐ気はないんだけど」

 

 そして零夜は消え、スコールの後ろに現れて展開した剣で彼女を斬る。だがそれよりも早くスコールは自身のIS「ゴールデン・ドーン」を展開して防ぐ。

 だがそのISは姿を保てなくなったのか、一瞬で霧散した。

 

「何のつもりかしら、ティア」

「理由はどうあれ、ISを展開したらこの艦が沈む」

「そうそう。どうせなら生身で戦わないと………ねぇ、もう一つの裏切りの一族って言われているミューゼルの頭目?」

「既に弟に譲っているわ」

 

 そう言ってスコールは部屋を出る。

 

「………相変わらず、貴様はウザいな」

「いやぁ。ちょっとはっちゃけていなかったらここではやっていけないでしょ」

 

 マドカの言葉に笑みを浮かべながら答える零夜はどこか満足気だった。

 そしてふと、何かを思い出したようにティアに尋ねる。

 

「そうだ。ティア、例のアレの準備はできてる?」

「……一応できてる。…出るの?」

「うん。だって僕だけお留守番ってつまらないし、ちょうど勧誘したい人間がいるからね」

 

 その言葉に聞いていたティアとマドカの二人は疑問に思ったが、零夜はどこか楽しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。リゼットと寝た(ただしいかがわしいことは一切していない)せいでまともに寝れなかった俺はラウラの抱き枕で寝直していたら起こされて、生徒会に向かった。

 そしてそこで織斑と対面。すぐさま睨みつけられたが、まるで子供が頑張った程度にしか感じられなかった。

 

「揃ったわね」

 

 そう言って楯無は織斑に今回のことを説明する。

 亡国機業が織斑を狙ったことで楯無がそれを防ぐために同居を始めたこと。そして俺は委員会の圧力がかかって止む無く本音と同居したが、代わりに簪とラウラが勝手に侵入していたのを見逃していたこと。

 

「あの………更識先輩って、一体何者なんですか?」

「別に何者でもないわよ? ただ、生徒会長になるとそういう仕事も来るってわけ」

 

 だが、やはりそれは楯無が暗部であることもあるだろう。何故そうであることを隠しているのかわからないが。

 

「でも、どうしてIS委員会が悠夜の部屋わりに圧力をかけるんですか? おかしいでしょう?」

「それは彼がルシフェリオンで悪さをしたからよ」

「例のシステムに関して言えば、よからぬことを考えた向こうの自業自得だ。なにせ俺は容認していないのだからな」

 

 そう説明するが、織斑は納得していないようだ。どうやら姉の一件で俺のことを完全に疑っているらしい。

 

「まぁでも、これで当面の危機は去ったようだし、私も少しは気が休まるわ」

「すぐに部屋替えですか!? それはた……寂しくなりますね」

 

 今、絶対こいつ「助かります」って言いかけたよな。

 そう言えば何故か織斑は楯無と同居してからやつれていたが、何かしたのだろうか……?

 

「まだ完全にってわけじゃないから二、三日ぐらいは残るわよ」

 

 見事に嫌そうな顔をする織斑。だが、俺は俺で別の方が気になっていた。……それは……

 

「使うか、使わないか。それが問題」

 

 隣でさっきから不穏な空気を放っている簪だ。

 見覚えがある小瓶を弄んでいて、目がうつろになっている。ラウラはそれを見てガクガクと震えている。

 

「ところで……あの、ボランティア部って何ですか? そんな部、聞いたことないですけど……」

「そのままの意味よ。明日からってのは流石に無理だけど、私が部屋を出たぐらいに指定する部活動に行ってマネージャーとかをしてもらうの」

「待ってくださいよ! 俺、そんなの了承したことないですけど!?」

「そんなの今更でしょ?」

 

 そう言われてがっくりとする織斑だが、日頃から迷惑を被っている俺としてはザマァとしか言いようがない。

 そもそも、他人の意思を尊重しないのはお前ら姉弟の得意分野だろうに、何を言ってるのやら。

 

「ところで、それって悠夜もするんですか?」

「何で俺があんな低能なゴミ共の世話をしなければならない。俺が世話をするものは高貴且つまともな奴と決めている」

「………それって、あのシャルロットの妹?」

「………………ああ」

 

 高貴……か?

 立ち場的には確かに高貴なんだろう? だが、ほぼ全裸で飛び込んで来たリする奴が本当に高貴かと問われれば疑問に感じる。

 ……いや、逆に考えるんだ。アレは俺を心から信頼しているからできる行動であり、他の奴にはしないと………おかしい。俺はアイツの兄としての立場でいたはずなんだが、どうしてこうなった。

 

「まぁ、悠夜君はこういう性格だし、それに彼は前にも言ったけど他の部活に所属しているからその必要はないの」

「………………」

 

 黙り込む織斑。まぁ、織斑千冬をめぐって争っている以上、一緒に部活をしようとは思わないだろう。

 

「それにボランティア部に所属した方がちょうどいいのよ。ボランティア部で部活動できるし、その一環として各部活動に行くことで生徒たちも納得する。剣道部とかに所属したら常に人が集まって他の部から嫌がらせなどが来る可能性もあるからね」

「嫌がらせって、そんな―――」

「―――ずっと疑問だったのですが」

 

 書類整理をしている虚さんが急に口を挟んで織斑に尋ねた。

 

「織斑君はどうして悠夜君が色々と言われているのに何も言い返さないのですか?」

「あー、確かにそうだよな。7月で俺が絡まれている時も勝手に来たが、あまり言い返さないよな。それはそれで助かるが」

「…た、助かるって…」

 

 意外そうに俺を見る織斑だが、実際こいつの介入ほどウザいと思ったことはない。

 

「止めさせようと思ったことは何度もありますよ。でも悠夜は、まるでその状況を楽しんでいるって感じがするんです」

「その結果がクラスメイトが侮辱されたりしているけどな」

「それは―――」

「要はビビッているだけだろ」

 

 そう言うと織斑は動きを止めた。

 

「ビビってるって………」

「結局、お前は俺を怖がっているんだよ。そりゃそうだろうなぁ。自分は結局見ているだけなのに、後から専用機持ちになった俺は次々と強敵を倒すだけではなく、自分たちが倒せなかった奴を俺が単独で一度落とすほどだしな。そりゃあ、俺を怖がるのは仕方がないことだ」

「怖がってねぇ!」

「虚勢乙」

 

 そう言うと織斑は俺を睨む。図星を突かれたからか顔を赤くしていた。

 

「そこまでにしなさい、二人とも。それ以上喧嘩するならこっちにだって考えがあるわよ」

「へいへい。大人しく引っ込みますよ」

 

 俺はラウラを持って席を立つとそのまま生徒会室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠夜が出て行った後、生徒会では沈黙が訪れた。

 しかしそれは3秒ぐらいで解かれる。

 

「とりあえず、今後織斑君への指示はメールでするわ。ニ、三日前ぐらいでいいかしら?」

「……はい。それくらいなら」

 

 そう聞いた楯無は一度頷くと、早速あることを切り出した。

 

「これまでのことで分かったと思うけど、正直悠夜君はあなたのことをよく思っていないわ。それはもう気付いているわよね?」

「………ええ、まぁ」

 

 もっとも、一夏がそれに気付いたのはつい昨日のことだ。

 あれだけのこと―――さらに自分の姉にあんなことをしたが、結局謝らずに帰ったのを見て「こいつとは仲良くなれない」と思ったのである。

 

「じゃあ質問するけど、織斑君はどうして悠夜君が君にあんな態度を取るか理解できる?」

「………さぁ? 考えてみれば前々から似たような反応はされていましたけど………」

「質問を変えるわね。あなたはいつ、どこでISを動かしたの?」

 

 その質問をどうしてするか疑問を感じる一夏だったが、とりあえず答えた。

 

「……えっと、藍越学園の試験会場を探していたら、ISの試験会場に入って、それで触れたら……」

「その時点でおかしいと思わない?」

「え?」

 

 楯無の指摘に驚く一夏。その様子を見ていた簪が小さく言った。

 

「そんな矛盾に気付いているなら、織斑君はとっくに悠夜さんに謝っていると思う」

「………それもそうね」

 

 姉妹が一人でに納得しているのを一夏は何故かわからず見ていた。

 

「あのね、織斑君。あなたも男だからISのような機械に触れたくなる気持ちは理解するわ。でもね、時と場合を考えなさい。どうして試験会場を間違えたらすぐに引き返そうと思わなかったの? 聞いたけどあなた、あの時は試験時間に遅れていたんでしょう? それに入り口に「関係者以外立ち入り禁止」って貼ってあったはずだけど?」

「そりゃあ、書いていましたけど……そこかと思いまして」

「………男なのにISの試験なんてどうするつもりだったの?」

 

 簪に指摘されて口ごもる一夏に、楯無が止めを刺しにかかる。

 

「さらに言えばね、織斑君。あなたはIS学園に入学するまで何か大変な目にあった?」

「え? 家にマスコミとかが来て大変でしたよ。ずっと写真とか取られたり―――」

「その程度で済んでよかったわね。悠夜君は女権団と警察に追われたけど」

「……はい? いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ!? 警察に追われたって」

「警察の中にいる女権団の人間が部下を使って罪をでっちあげた。まぁ、全員返り討ちにあったけど」

「………それって、公務執行妨害なんじゃ………」

 

 一夏の言葉に簪は怪しげな笑みを浮かべた。

 

「例えそうだとしても、機動隊が全滅するような人間を相手にどうやって立ち向かえって言うの?」

「………全滅って……そんな………」

「何を今さら。悠夜さんはマフィアや暗部と言った裏の人間を怒りだけで倒した。それだけじゃない。あなたたちが福音を相手にてこずっている時には女権団を事実上壊滅させているし、それ以外にも小学生の時点で本来ならIS以上に英雄扱いされてもおかしくはないことをしているの。それに比べて、あなたは何をしたの? クラス対抗戦の時は三機がかりでようやく一機を倒し、学園別トーナメントでは自分の姉を真似されたからと言う理由で暴走。さらに福音を相手にした時、篠ノ之箒を諫めていたけど、あの場合の彼女の言葉は間違っていない。むしろ、密漁船を庇ったあなたに全面的に非があり、本来ならあなたが落ちた時点で放置してもおかしくなかった。それにあの密漁船、実は悠夜さんを殺すためにやってきていた船なの。つまりあなたは、悠夜さんを殺そうとしていたわけ」

「そ、そういうつもりで俺はあの船を庇ったわけじゃ………」

「あなたがどう思うが知ったことじゃない。結果的にはそうなっているし、本来なら作戦を終了と同時に悠夜さんに消されてもおかしくはない。けど悠夜さんが優しかったのと普段以上に暴れて疲れていたからすぐに引っ込んだ。それを含めて織斑先生が死んでいないのはまさしく不幸中の幸いと言っても過言ではないわ」

 

 そこまで言われた一夏は思わず黙るしかなかった。

 いや、一夏だけではない。楯無も虚も、そして本音も、今の簪が物凄く怒っていることを察している。

 

「それにまだ他の生徒は知らないけど、悠夜さんは別の組織から勧誘されているの」

「え?」

「ちょっと待って!? それってどういうこと?!」

 

 楯無も初耳だったのか、思わず反応してしまった。

 

「……そう言えば、お姉ちゃんも気絶していたんだっけ? 今のは本当。だけど悠夜さんは自分のお祖母さんを倒すためにこっちに残ったの。つまりあなたのお姉さんという犠牲程度で残ってくれたの。境遇を考えれば向こうの方が絶対いいのにね」

 

 どこか楽しそうに話す簪は不気味な笑みを見せると席を立つ。そしてドアノブを掴んで言った。

 

「織斑君。もう理解していると思うけど、あなたと悠夜さんの立場はもう完全に逆転しているし、鈍感クソ野郎はこれから大人しくして、悠夜さん……ううん、ご主人様の手を煩わせないでね」

 

 そう言って部屋を出る簪はどこか楽し気で、さらに生徒会室に沈黙させる。そしてその数秒後、

 

「ど、鈍感クソ野郎って誰のことだよ………」

 

 そんなことを発した一夏に、その場に残っていた三人は一斉に「あなたのこと」だと伝えるのだった。




ということで楯無とは何だったのかと言いたくなるほどの意外性がある簪の毒舌……え? 今更? むしろこの世界だと毒舌者の割合が異常?
それはともかく、今回で第五章は最終回となります。次回からは第六巻……つまり第六章に入るわけです。もう話数キッチリなんてずぼらな私にできるわけがなかったんだ。

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