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「それは良かったじゃないか、努力の成果ということだな」
「…そうか?テキトーにやってるだけだぞ?」
三限目と四限目の間の少し長い休み時間。"いつもの"屋上で凛と経過について話をする。
彩南祭が終わって数日。学校はまだ浮ついた空気が漂っている。しかしソレを引き締めるように肌寒い。…服装って次話ではハイ、元通りーってなもんじゃないの?なんなの?やっぱ登場人物補正的なものがないから?
『無くしたのですか、制服をなくさないでくださいね西連寺くん、注文になりますから5日程待っていなさい。代わりに体操着のジャージを羽織っていていいですよ』じゃねーよ!名も無きモブ担任め!俺の骨川センセを出せ!
「それでは、妹君との関係は良好なのだな?」
「んー、まぁ、一応、とりあえず、なんとか…?」
「なんだ、歯切れの悪い。」
「だってよ~、向こうで妹いねーもんよ」
「そういえばそうだったな、だが聞く限りでは上手くいっているように思うが?」
視線をグラウンドへ飛ばす。ここのところの春菜はなかなか行動的だ。【結城リト】との日直で共にゴミ捨てに行ったり、この前は帰り道で二人して買い食いをしたと聞いた。前に教えた通り降って湧いたチャンスにきちんと行動で【結城リト】に好意を
『清純ヒロインがいきなり行動的になるのはマズイ。まだ他のヒロインが投下されるには時間がある!今のうちに寄り添うように傍にいてやれ!"陰日向に策アリ"作戦だ!』
「まあ君がその誠実さを保っている限り上手くいくだろうさ」
うんうんと一人納得している凛。手に持つ竹刀が異様な存在感だ。彼女がこうして竹刀を持っているのには理由がある。
俺と二人で休み時間ぬけ出すのに【天条院沙姫】が怪しみ
「私の凛を貴方はたぶらかしたのですわね!私は認めませんわよ!!!!私を倒してから凛を奪いとっていきなさい!!!!」
と仁王立ちで指さされたのだ。凛は感動して身を震わせていたが目を付けられた俺はそれどころじゃねーっての。
結局騒動は凛が
「この男の行動には目に余るものがあり、個人的に紳士教育を施しております」
と謎の言葉を【天条院沙姫】に言うまで続いた。その間【藤崎綾】にはメガネの奥の怖い目で睨まれるわ【天条院沙姫】はガミガミとうるさいわで超疲れた。ほとんど席に座って頬杖ついて聞いてやってるフリしてたけどさ。
「…誠実ってなんスか先輩」
「ん?正直で真っ直ぐな気持ちではないか?」
「正直っスか、」
「ああ」
「なら自分、一話完結みたいな形でヒロイン達とイチャコラしたいッス。日替わりで恋人やってイチャつくッス。んで次話では無かったことになるッス、そうすれば他のヒロイン蔑ろにしないし。読者は楽しめるし、言う事ないじゃないッスか」
「……果たしてそれは誠実なのか?」
「違うッスか?」
首をひねる凛。ちょっと難しかったか?ラッキースケベがハッピースケベにクラスチェンジするんだぜ?キャーいやーッ!→もう、そんなに触りたかったら後で♡ってダークネスの【モモ・ベリア・デビルーク】みたいな反応を他ヒロインから見れたり…ん?ダークネスで他キャラもやりだしたか?最近読んでないから分からないな
「まぁ、それは難しいんじゃないか?
「そッスかね」
「ああ、そういう話は聞いたことがなかった」
「うッス」
楽しげに微笑む凛。こんなによく微笑みを浮かべるキャラだっけ?やはり【結城リト】に出会う前に何か隠れた過去的なものがあったのかも。キャラを深く掘り下げるには過去とか背景って大事だよね
「ふふ、しかしその格好は滑稽だな」
「うるせー!好きでこうしてるわけじゃねーっての!」
【ララ・サタリン・デビルーク】にブレザーを奪われてから、それナシで登校しようとする俺に春菜のヤツが
「それだと朝は寒いよ?こっちのジャケット着て行ったら?」
と、【西連寺秋人】が持っていた私服の黒いジャケットを手渡してきたのだ。
「いらね、目立つし」
「でも風邪引いちゃうよ?」
「この格好でいいっての」
「シャツだけじゃ寒いよ、コレ制服っぽいし丁度良いんじゃない?」
「だからいいっての、こういうのは学校ついたら元通りなんだよ」
「じゃあ学校つくまででも「いいっての」」
とのやり取りがあり結局押し切られたのだ。お節介め、その世話焼きさをもっと【結城リト】に向けてやれっての
そんなわけでチョットしたリーマン風になってしまった。緑のネクタイは大体いつも外しているためパッと見てここの生徒だと分からない。
「優しい妹君だな、
「識らね、【西連寺秋人】に似たんじゃねーの?」
「…ふ、そうかもしれないな」
なんだか自分だけ解ってるような顔の凛。そこへチャイムの鐘の音が鳴り響く。
「おっと、もう時間か、では戻ろうか」
「へーい」
――――結局、彼女が、凛が何を"解ってる"のか聞けないまま屋上をあとにした。それを知るのはしばらく後になることに気づかないまま。
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「えーっと次はエリンギを…っとあった、コレか…」
今日はきのこ鍋。【ララ・サタリン・デビルーク】が【結城リト】と喧嘩
して家出してきた。しかも春菜に会わずに何故か俺のところに真っ直ぐ向かってきて泣きついてきたのだ
『お兄ちゃん!リトが酷い!今日お兄ちゃんのウチに泊まってっていく!』
と俺の教室2-Aに攻め入ってきたのだ。そんな宣言されましても。あと俺はお前のお兄ちゃんじゃない。それよかはよ制服返せっての、
とりあえず学校からウチへと連れ帰り(早退した)【ララ・サタリン・デビルーク】の話を聞いた。まぁこんな感じだ
『私はリトの為をおもって、喜ばせたくってアイテムを使ったんだけど…』
『おう』
『リトが冷たくって…怒鳴って…』
[やはりあの地球人とララ様は不釣り合いです。他の候補者にも目を向けては?]
『やっぱりこういうのってダメかな?お兄ちゃん』
[ララ様の魅力に気づかないあの地球人が悪いのです]
『…お兄ちゃんはどう思う?』
『俺か?俺はそうだな……』
―――全く、面倒な事になった。
「お次は舞茸か…コレか?」
「そっちはえのきですよ、お兄さん」
「おっと!サンキュー…ってあれ?」
「お久しぶりですお兄さん。この間はどうも」
すぐ横に立つ黄色い買い物カゴを手に持った【結城美柑】頑張り屋さんの小学5年生。特徴的なパイナップル頭。たしかにこの時間にスーパーに居ても不思議なキャラじゃないな
「おう、【結城美柑】か俺んち今日はきのこ鍋だ」
「あ、それイイですね、ウチもそうしようかな」
「ん?二人で鍋は寂しいから辞めたほうがいいんじゃね?」
「え?ララさんも入れて三人ですよ?」
「【ララ・サタリン・デビルーク】は今日は俺んちだ」
「…何かあったんですか?」
【ララ・サタリン・デビルーク】から俺の事を聞いたことがあったのか、知り合いだったんですか?、とは聞かずに今日居ない理由から尋ねる【結城美柑】。原作では【結城リト】とヒロインの恋を時に茶化し、時に叱咤する良いキャラクターだ。
「…なるほど、そうだったんですか…リトは女心が分かりませんからね」
「だよなー、はっきりしてほしいよな」
「ですね。でもそうなるとお兄さんは大変なんじゃ?」
小首を傾げる【結城美柑】が和風だしの素を手に取る
「なんで?」
「…例えばですけど、春菜さんとウチのリトが付き合ったら、どうします?」
覗きこむようにして尋ねる【結城美柑】は俺より頭二つ分は背が低い。
「いいじゃん。願ったり叶ったりだ」
お、肉肉…とつぶやきながら豚ロース350gを3つ手に取りカゴに放り込む。
「え?そんなもんですか?」
「そんなもんですよ?」
買い物カゴへ食材を詰めながら納得いかない顔をする【結城美柑】。いつも家事をしているだけあって手馴れている。俺のカゴにはキノコと肉が大量だ。
「【結城美柑】的にはどうなの?」
「なにがですか?」
「【結城リト】と
【結城美柑】が俺にした質問と同じ事を問う。【結城美柑】は【結城リト】に妹のものだけでない好意を読者に匂わせていた。まぁ後付でどうにかするつもりなんだろう、イマイチ血の繋がりがあるのかないのか分からない。
「いいんじゃないですか、願ったり叶ったりですね」
イタズラな笑みを浮かべながら俺と同じ返しをする【結城美柑】。賢いな、対人関係で一番頭が回るのはやっぱり彼女か?
「え?そんなもんスか?」
「そんなもんスね」
だから俺も同じ返しをする。乾麺を手に取りながらイタズラな笑みを崩さず応じてくれる【結城美柑】おー、春菜達とは違う楽しさがあるな。胸のうちでそっと彼女に拍手を送る。
二人で並んでスーパーを出る。結城家は和風きのこパスタにするらしい。今日の買い物の量は少ないから運ぶのを手伝わなくて良いみたいだ、ちょっと残念。【結城美柑】と話すのは楽しかった。代わりに俺は大量の買い物。両手がふさがっている。
「では、ララさんをお願いします。リトには
「おう、よろしく頼む【結城美柑】!」
彼女に任せておけば上手く行くだろう。なんなら俺いらねーんじゃね?
「じゃなー【結城美柑】、
「ハイ、それでは」
ペコリとお辞儀をする【結城美紺】に手を振り、その場を後にする。今頃はウチの春菜と【ララ・サタリン・デビルーク】のヒロイン二人で盛り上がっているだろう。ヒロイン同士仲良くするのは良いことだ。
「あのー!お兄さーん!」
「ん?」
遠く離れた【結城美柑】が声を張り上げ俺を呼びかけてくる。夕焼けを背にした彼女の顔が見えない。顔や表情はキャラの命だ、特にこの"ToLOVEるの世界"では
「もう一つ聞きたいですー!」
「なーんだよー!」
俺も声を上げる。周りの買い物客がちらちら見るが所詮はモブキャラ、気にする必要ナッスィング
「お兄さん自身の恋の相手はいないんですかぁー!」
「俺はヒロインみんな好きだぞー!」
即答する俺。ハーレムエンド否定派だが、それはあくまで"今のこの世界"での話。入り直し、接続しなおし、なんでもいいがやり直してしまえばいい。凛の言ったとおり一度入れたのだ。また出て入れるのは容易いだろ。
「ヒロインって誰のことですかぁー!」
「【結城美柑】みたいなキャラの事だぞー!」
「わかりましたー!なら私立候補しまぁーす!」
自由な片手を挙げる【結城美柑】の表情は逆光で見えない。だけれどたぶん、あのイタズラな笑みを浮かべて言ってるような気がした。
「おーう!ばっちこーい!このアイス大好きっ子めがー!」
俺も彼女と同じようなイタズラな笑みを浮かべながら声を張る。
「冬はたべてませーん!」
「さみーからなー!こっちの世界寒すぎなんだよー!早くオールフォージーズン薄着オーケーになーれー!」
「なんですかぁー!それー!」
「こっちの話だーゆうきみかーん!」
「わかりましたー!じゃあまたお話しましょーうー!」
「おーう!」
影が手を振る。俺も手を振る。ガサガサと音を立てるビニール袋。ぶんぶんと手を振る美柑の方も片方だが、音を立てているような気がした。面白い
――――お兄さんと別れ、家路へ小走りで急ぐ私。聞いた話でララさんとリトがケンカしたと分かったから、それならきっとリトは探しに家を飛び出していくはず。まったくリトには世話がかかる、お兄さんみたいにもうチョット"オトナ"になって欲しいよね、
さっきの話を反芻する、楽しかった。正直時間が許すならもっと話をして居たかった。周りは"コドモ"ばっかりで"オトナ"な姿勢で周りを見渡すことができる人が居ない。フォローにまわる貧乏クジの私。あたしは人間関係の
……でもちょっとした冗談の言葉に自爆しちゃうなんて、
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「いただきまーす!」
「いっぱいあるから、遠慮しないで食べてね」
「うん!アリガトー春菜!」
「おい、コイツはもともと遠慮なんかするキャラじゃねーぞ春菜、むしろ遠慮を促してやれ」
「そ、そんなことないよ、ね?ララさん」
「んー!おいしー!エンリョって何?」
「ほれみろ」
「ははは…でもそこがララさんの良いところだよ」
ヒロイン二人と鍋をつつく、原作だと蛤食ってたな。ほかほかグツグツを熱気を伝える鍋には俺のおかげで大量の具材。贅沢な鍋となっていた。なにせ豚肉、鶏肉、牛肉が入っているからな
「春菜、俺肉多めだからな」
「はいはい、ちゃんときのこも食べてね?」
「善処しよう」
「もう、相変わらずお肉大好きなんだから」
甲斐甲斐しく小皿へ具をよそう春菜。三種の肉を呆れたように選びとるその表情にも同じく呆れた顔。
「へー、お兄ちゃんてお肉が好きなの?春菜」
パクつくララは箸使いが大分おぼつかない。
「そう。その代わり野菜をあんまり食べてくれないの。昔から」
「食べなきゃダメだよー!今度美味しい野菜採ってきてあげるね!」
「いらね、お前のはきっと俺の想像する野菜じゃねーし」
春菜から肉たっぷりの小皿を受け取り箸でつまむ。うむ!やっぱ鍋の主役は肉だ!本格的な冬になったらすき焼きもいいな、春菜に作らせよう。これだけ世話を焼いてやっているのだ。対価で肉くらいいいだろ。
「春菜ー!次は私がお兄ちゃんによそってあげたい!」
「うん、お願いするね」
「えー、デビルーク星人って肉と野菜の区別つくんですかー?僕不安でたまりませーん」
「つくよー!ひどいなー!」
「野菜はしゃべったり動いたりしないんですよー?」
「お兄ちゃん、それはちょっとバカにしすぎじゃ…」
「え?そうなの?」
「え”」
「ほらみろ、コイツはこんなヤツだぞ?君の常識は通用せんのだよ」
箸を咥え小首を傾げる【ララ・サタリン・デビルーク】と驚いて固まる春菜。良かったなこれから見舞われるトラブルに耐性がついたぞ。意味があるかわからんけども
「ほい、おかわり、【ララ・サタリン・デビルーク】これと同じ肉だけついでくれ、これだぞ」
鍋の中でグツグツ煮える牛肉を箸でさす。
「はーい!美味しいのついであげるね!」
「食べるの早いね、お兄ちゃん。きのこも食べてね?」
おたまを春菜から受け取りやる気充分なデビルーク星人、ここは念を押しておかねば
「ほいほい。【ララ・サタリン・デビルーク】肉だけでいいからな、これだぞ」
再び牛肉。美味しそう。
「ララさん、こっちのエリンギ煮えてるからついであげてもらえる?」
「わかった!春菜!任せて!」
…エリンギ。美味しくなさそう。
「おい!肉だけでいいっての!」
これとか!これとか!と豚肉ちゃん、鶏肉ちゃんを指名する
「ララさん、こっちのえのきも煮えてるから」
「はーい!」
指名した俺の肉嬢たちは呼びされること無く……
「聞けよ!兄貴呼ばわりするくせにこういう時は言う事きかねーのか
よ!」
「「それとこれは別!」」
綺麗にユニゾンする【ララ・サタリン・デビルーク】と【西連寺春菜】の
ヒロイン二人。対称的な二人のユニゾンとは初めてじゃないのか?
「ったく、俺それ食ったら出かけるからな、後は二人で片付けといていいぞ」
「え?どこか行くの?お兄ちゃん」
「あ、私も行くよー!お兄ちゃんとお出かけしたい!春菜も一緒にいこ?」
「ダメだっての、俺一人で行く」
【ララ・サタリン・デビルーク】から"きのこたっぷり肉少なめ"の小皿を受け取りガツガツ口に運び食べる…ちきしょう。
「えー!ずるーい!私も行きたい!」
「何かの用事?お兄ちゃん」
空になった皿と箸をテーブルに置き、席を立つ。
「…大事な
「確認?」
「なんの?」
――――ヒロイン【ララ・サタリン・デビルーク】と【西連寺春菜】を見やる。まだまだヒロインは出尽くしていないがメインはこの二人だ。軸がぶれてしまうと作品はつまらなくなる。主人公も同じ事。"傍観者"として知っておきたいことがあるのだ。想像どおりならば
「んじゃ、ちょっと行ってくる。」
「うん、気をつけてね?」
「早く確認終わらせて早く帰ってきてね!お兄ちゃん!」
「へいへい、あ、肉残してくれててもいいからな、帰ってきたら
「うん、準備しとくね」
「
「おい春菜、このデビルーク星人に作らせるんじゃねーぞ」
「う、うん…」
ガチャリ、と外気に触れて冷たくなっている玄関のドアを閉じる。【西連寺秋人】のものであるトレンチ風のジャケットを羽織って
――――ドアを閉じる寸前に見たどこか心配げな【西連寺春菜】と笑顔の【ララ・サタリン・デビルーク】の顔が走る俺の視界にチラつく。……全くもって面倒くさい。ああ、なんて面倒なんだ。主人公は【結城リト】だ。本来ならばアイツの仕事だろ、俺は人間関係の
「ああああぁぁあ!!もっとお気楽で!お手軽で!ラクショーな世界になんねーのかよ!夢ならなんとかしろ!おれええええええええ!!!」
冷たい空気を吸いながら叫ぶ、全力で走りながら叫ぶと途端に脇腹が痛くなる、体力をごっそりと奪われてしまう、…げ、マズい、まだかなりあんのに
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「はぁ、ハァ、ララのヤツどこいっちまったんだよ・・・」
ウチに帰ったらララが帰ってなかった。教室を飛び出して最近よく話に上る春菜ちゃんのお兄さんのところに行ったらしい。後を追おうと動いたけどララのアイテムで身動きが取れなかったんだ
「ったく!心配ばっかかけやがって!」
美柑に聞いたけど春菜ちゃんのお兄さんもララの行方を知らないらしい。春菜ちゃんのお兄さんのところに居るなら心配しなかったけど、
彩南町を走り回る、河原、商店街、ゲーセン、ララの居そうな場所を虱潰しに探しまわる。居ない、見つからない
「はぁはぁ、ハァ、ここにもいない・・・」
思いつくうちのラスト、公園。遊具は少なく狭い。美柑と雪の日に遊んだ公園、ララと来たかは覚えてないけど、『どこにも居なかったら案外公園にでも居るかも』って美柑から聞いてこの場所へ走ってきた
「はぁ、はッ、はァ、どこいっちまったんだよ…あのバカ」
白くなった息が暗い空気に溶ける。額の汗は拭えるけど服の中の汗が気持ち悪い
「…ふぅー、ララがきてからトラブルばっかりだ…」
息を整えながら公園を見渡し思い返す
『じゃ結婚しよ♡リトっ!!』
『はぁ!?』
いきなりウチにきて、
『どーせパパは後継者の方が…!!』
『いーえ!そんな『いい加減にしろっ!!!!』』
『デビルーク星の後継者とか…お見合いとか…!!!』
『結婚とか…だから…もう帰れ!!自由にさせろよ!!!!!』
勝手に勘違いして、
―――それで今度は勝手に出て行くのかよ、
「ったく、勝手すぎなんだ!アイツは!」
「はぁ、ハァ、はぁ、ハァ、まったく、同、意見だ。」
「ララ!?…え!?」
さっきまで誰も居なかった小さな公園の入り口に春菜ちゃんのお兄さんが立っていた。
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「はぁ、ハァー、ふぃーっ、よう、【結城リト】
「は、ハイ、初めまして…」
緊張と驚きでカチコチに固まる"主人公"【結城リト】、分かりやすい。気持ちが身体に如実に現れてるな
「こんな夜中にこんな場所で何してんだ?」
「あ!そうだ!西連寺のお兄さん!ララ知りませんか!?」
「知ってますけど?」
「マジですか!?どこに居るか分かりますか!?!」
「分かりますけど?」
「どこに居ますか!?」
焦っている様子の【結城リト】顔の汗がオレンジの灯りを反射させている。
「その前に聞かせろ【結城リト】」
「な、なんですか?」
俺は妙に作った低い声で目の前の"主人公"に問いかける。俄に頑張る大事なだーいじなアタッ…質問だ。
「お前的にラッキースケベについてどう思ってんの?」
「へ?らっきーすけべ?って何ですか?」
「んー、例えば【ララ・サタリン・デビルーク】の裸見ちゃったり、おっぱい揉んじゃったり【西連寺春菜】のお尻に抱きついたりすることだ、しかも自分の意思じゃなく偶然に」
「!!」
思い出したのか真っ赤な顔になる【結城リト】
「やっぱ味噌汁の豆腐的な感想?」
「と、豆腐?!」
「味噌汁になんで入ってんの?味しねーじゃん!食った気しねーじゃん!みたいな感じ」
「???」
「でも入ってないと味気ないし、入ってこその味噌汁のイメージだよな」
「は、はい…そうですね…た、確かに…」
なんだか分かったような分かっていないような複雑な表情をする【結城リト】
「お前はその
「えっと、俺もないと味気なく思います」
「…そうか」
「あ、あと俺、豆腐が変わったら分かります」
「ん。俺もだ」
「そうですか!気、合いますね!」
――――――
目の前のヒロインに真剣になって身体をはれるヤツだ。
いい加減な真似をしないヤツだ。
軽率な行動はしないヤツだ。
純情で素直な言葉がだせないヤツだ。
「
「は、ハイ!」
俺はこの世界に来て初めて【西連寺秋人】のキャラを演じる。想定より随分と
「
目の前の"主人公"を睨みつける。【結城リト】はこの世界の中心。"ToLOVEる"の世界はコイツが中心で回ってる。そんな相手に敵意を向ける"脇役"の俺。きっとこの後の展開は碌なものにならないだろう。だが、
「…ハイ!」
―――きちんと想いが伝わったのか、真剣なイイ表情をする【結城リト】まだまだこの"
「ん。良い返事だぞ、"主人公"!あと【ララ・サタリン・デビルーク】なら心配すんなウチに居る」
「え!?本当ですか」
「ウソ」
「え!?」
「ホントだ」
「マジですか!?」
「ホントはウソ」
「えぇ!???」
「ホントのホントはウソ」
「どっちなんですか!」
ころころと驚き、安心、と表情を変える【結城リト】をからかう、春菜のヤツもこんな感じだ。似てるな。
―――"俺"の望み。【西連寺春菜】と【結城リト】をくっつけて崩壊、脱出のこの"
朧げな街灯に薄い俺の影が明かされる。別の世界でしかないここでのリアルがやけに胸を埋め冷たく、重くした。
感想・評価をよろしくお願い致します。
2016/07/15 一部改訂
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【 Subtitle 】
17 微笑ましき兄
18 美柑さんはアイスがお好き
19 妹に勝る兄なし
20 梨斗の試練