ウチの【西連寺春菜】が一番カワイイ!!   作:充電中/放電中

2 / 19
difficulty 2. 『ふたりの兄と彩南祭』

11

 

 

天高く空気は澄み渡り、感じる気配は秋を実感させるようにひんやりとしている。朝と夕の気温差が広がり、衣替えをして凍える冬へと緩やかな着地体勢を促す。吐く息は白くはならないが、冷たい空気は眠たくけだるい頭を覚醒させるには充分だった。

 

彩南高校文化祭の当日の朝。俺は学校で"昆虫喫茶"の準備をしていた。時刻は午前6時半。なかなかの早朝具合だ。

 

「ったく、客来ねぇだろーに…」

 

ブツブツと文句をいいながら椅子や机の配置を行う。これが終われば彩南高校全体の会場設営の準備を手伝うことになっている。三年生は受験を控えている為、準備には参加できない。そのため二年生が中心となって文化祭を運営し、一年は少しの雑用の後、祭りをとにかく楽しむ…という役割分担(・・・・)が成立していた。

 

【天条院沙姫】が金をだしたのか無駄にリアルな森林を思わせる店内、さらに男女用の昆虫スーツ。なかなかによく出来ている。もともと優しい性格だからか”男は裏方”という役割分担(・・・・)をせず、皆が参加できるように全員分のスーツが用意されていた。その他人を思いやる優しさが【九条凛】や【藤崎綾】が慕う理由の一つなんだろう。

 

「…けどソレ今は邪魔だよ…空気読めよ…天上院…」

 

文句をいう俺とその他のモブキャラたちのおかげでみるみる完成に近づく店は、なかなか立派なものになっていた。女の子キャラがセクシーだったら客もたくさん来たし、喜んだろうに。――――よし、終わった。

 

ちなみに【西連寺春菜】はまだ彩南高校に来ていない。一年はゲスト側、昨日のうちにほぼアニマル喫茶は完成したみたいだし早く来てもすることは少ないし、居たら俺たち二年にこき使われるし、それに【結城リト】居ないし。「今日はしっかり(めか)し込んでおけ」と厳命してウチを出た。朝が弱い俺は【西連寺春菜】の用意したメシを食えなかった。

 

「西連寺ー、次設営いくぞー」

「ういーッス」

 

クラスメイトの男子が声をかけてくる。全くこき使ってくれる、ほとんど文化祭の描写なかったくせによ。

 

 

12

 

 

「「「いらっしゃいませー!アニマル喫茶へようこそ~」」」

 

私たちのお店はとても混雑している。特に"女豹ララさん"の人気が物凄い。

 

「い、いらっしゃ、ませー」

「ちょっと春菜~声小さいから、まーだ恥ずかしがってんの~?うりうり」

「り、里紗、押さないで」

 

"ライオン里紗"がコソコソと声をかけ肘でつっついてくる。お店の隅で棒立ちになり「いらっしゃいませ」と言うだけの私。だって気をつけて動かないとその、胸の部分とか、ズレて…

 

「そんな隅っこじゃお客にアピールできないジャンか、もとガシガシ前にでなきゃ!アタシらが頑張んないと裏で頑張ってる男どもが可愛そうっしょ?」

「そーだよ春菜!春菜カワイーんだから固定客つくよ!」

 

"リス未央"が目を輝かせながら大きな声で力説する。こういう格好が好きみたい

 

「いや、固定客って文化祭今日だけだから、おーいミオ~アタマだいじょぶか~」

 

"ライオン里紗"は"リス未央"の頭を撫でる

 

「大丈夫大丈夫!ヘーキヘーキ」

 

"リス未央"がグイグイ背中を押して私を前に出そうとしてくる

 

「わわ、ちょっと二人とも!」

「ほれほれ行くよー!」「春菜もがんばろーね!」

 

私、"ネコ春菜"はそのままアニマル喫茶…というよりは"女豹ララさんのお店"の中央へと引きづられていった。

 

 

13

 

 

「い、らっしゃませ、じゃなかった。おかえりなさいませご受信様!私達が迷道です」

 

校舎の入り口を陣取り、なにやらおかしな事を言う呼び込みメイド。思わず足を止めてしまった。メイドの周りには空洞と化していて見物客でごったがえす文化祭とは思えないほど人が居ない。

 

彼女の名前は【古手川唯】だ。特徴はツンデレ。以上。

 

――――え?短い?じゃあ「ハレンチ」って言葉が好きなツンデレ。以上。

えーっと、まだ他にあったっけ?えっとツンデレでややツリ目でツンデレな女のコ。初登場は二年になってからだ。今はまだ【結城リト】達に出会う前のツンデレだな。以上。

 

――――――――――――――――――――――――――もうないぞ?

 

「全く!なんで私がこんなことを!そもそも文化祭は展示物や演劇などもっと学生らしく…」

 

握りこぶしを豊満なEカップの胸の前で作り文句を言う【古手川唯】

おっぱい大きくなったんだよな、もう既にデカイな。【ララ・サタリン・デビルーク】と一センチしか変わらないのはアニメだけだったか?谷間が服の隙間から見えて眼福だけど…あー、アレじゃお客さんくるわけねーわな

 

「おい。【古手川唯】お前の1-Bはどこだ?」

 

眉間に皺を寄せ目をつぶって熱弁を振るう【古手川唯】に声をかける。律儀なやつだから"こっち側へ"帰ってくるだろ

 

「すなわち!本来の…え?」

「だから、1-Bの教室はどこなんだ?」

「えっ、えっと・・・・向こうの二階です」

 

"こっち側へ"の帰還へと成功したきょとんとした顔の【古手川唯】。今まで尋ねられたことが無かったのだろう、やや説明に手間取っている

 

「んで?」

「え?」

「お前何してんの【古手川唯】」

「よ、呼びこみをして…」

 

突然の声掛けに狼狽える【古手川唯】

 

「人居ないよ?」

「え?」

 

周りには先程より大きな空洞ができていた。メイド姿の【古手川唯】が突然演説を始めたからだ。

 

「お前、暇だろ?【古手川唯】」

「ひ、暇じゃないわよ!」

ウソつけ。

「俺、腹ペコな上に彩南高校が不慣れでさ、案内してくれ」

「…貴方は先輩なんじゃ…?」

「そ。だったら先輩の言う事聞いてくれよな」

「せ、先輩とはいえ後輩が先輩に何でも従う事は…」

「でもお前やることねーじゃん、【古手川唯】」

「ぐっ…」

 

わなわなと肩を震わせる【古手川唯】まずった、コイツ、ツンデレだった、本心突かれるとめちゃ怒るキャラだった

 

「俺、二年だから文化祭全体の運営を見て周ってんだよ、それ手伝え1年。んで、それやりながら呼び込みすりゃいいだろ」

「うっ…それならいいわ」

 

―――――――理詰めの優等生ツンデレキャラはこの手に弱い。【結城リト】にはまだ出会っていないがこのツンデレは要注意だ。優等生なウチの春菜(・・・・・)と若干キャラが被る。【古手川唯】のほとばしるツンデレで控えめな【西連寺春菜】のキャラが隠れてしまうからな、今のうちにもうちょい軟化ツンデレに教育しておくか

 

「ほれほれ、さっさと案内せんかい、【古手川唯】」

 

ばしばしとツンデレメイドの背を叩く。なかなか本格的な生地、【古手川唯】の躰の感触ってこんなゴワゴワしてんのか、ってこりゃメイド服の感触だ。

 

「わかったわよ!そもそもどうして私の名前知ってるのよ?」

見上げてくる【古手川唯】は頭一つ低い。

 

「そりゃ1年にツンデレアリって有名だし。」

「つ、つんでれ?なによそれ?」

眉を寄せ怪訝な表情をするツンデレメイド

 

「知らんのか、あ、あとお前さっき「ご受信様」とか「迷道」とかほざいてたぞ」

「え!?嘘!?」

口元を隠し驚くが既にその口は間違いを言い放った後だぞ?

 

「プププー、優等生で成績優秀ツンデレのクセにだっせー!」

バシバシと背中を叩き笑う

「うっ、煩い!ちょっと間違えただけじゃない!大体このハレンチな格好が良くないのよ!」

 

【古手川唯】は顔を赤くしながら狼狽しあの(・・)台詞を言ってくれた

 

「はい、ハレンチ頂きましたー!ってどこがハレンチだよ?フツーのメイドコスじゃん」

「どこが!スカートこんなに短いじゃない!」

 

ギャーギャーと会話を交わしながら【古手川唯】と1-Bへ向かう。今頃は昆虫喫茶の閑散具合に腹を立てた【天条院沙姫】が【結城リト】達のクラスに打倒【ララ・サタリン・デビルーク】目的で突入していることだろう。

 

…―――――――――春菜(・・)、うまくやれよ

 

 

14

 

 

「お疲れ様。結城くん」

 

私は椅子に疲労でうなだれる結城くんへとジュースを運ぶ、里紗達のおかげでこの猫の格好でも人前で動けるようになり、アニマル喫茶でもララさん達と接客できるまでになった。

 

「はい、ジュース」

「あ、ど…どーも」

ジュースを飲む結城くんの隣へ座る(・・・・)

 

「思ったより楽しいね、アニマル喫茶」

「そっか!よかったな西連寺!」

「うん」

自分の事のように喜んでくれる結城くんの笑顔にドキリとする。

 

「結城くんはどうだった?」

「俺?いやーアニマル喫茶混んでたよなー、おかげで文化祭まわれなかったよ」

「そうだよね、私も」

 

労るように微笑む私、結城くんは視線をぷいと逸らした

 

「く、クレープとかお好み焼きとか、まだやってるかなー」

慌てたように話を変える結城くんは――――

 

「わ、私も食べて見たかったかも…」

「そ、そっか、?そ、それじゃあ西連寺…」

「う、うん」

真っ赤になる結城くん。この先言おうとしていることが解る。

 

『いいか、春菜。【結城リト】には"癒やし"だ』

『癒やし?』

『そうだ!周りは騒がしいキャラばっかり。たまには一休みしたいのが主人公だ』

『う、うん』

『だからその疲れを取り除いてやれ、お前の!お前らしい"癒やしの行動"をとってみろ!』

『えーっと、疲れた時にはアセロラドリンクとか・・・ビタミンC?』

『うむ。飲み物持って行く気か、いんじゃね』

『えっと食事?も?』

『その通り!文化祭やってんだから二人で周れ!』

『ええ!?二人で!?むむむ無理だよ!』

『大丈夫だっての。お前が飲み物持って行った時に【結城リト】と軽く話をしてやれ、そうすりゃ文化祭周ることになる。二人で』

『でもララさんも居るよ?』

『そっちはソレどころじゃなくなるから心配すんなっての』

『?』

『ま、お前は飲み物持って行って苦労を労ってやれ!そうすりゃ二人で楽しく文化祭周れるよ!』

 

 

――――結局お兄ちゃんの言ったとおりになった。まさか結城くんと二人きりで文化祭をまわれるなんて夢にも思わなかった。今日までお兄ちゃんは私にあれこれアドバイスをくれている。きっと一人ではこんな事できなかった。帰ったら必ずお兄ちゃんにお礼を言おう。そういえば朝何も食べてなかったけど、大丈夫かな…

 

 

15

 

 

「うーん。リトどこ行っちゃったかなー」

 

私はリトを探して屋上へ来ていた。さっきまでは大胆な格好(・・・・・)の人が居たけどどっかいっちゃった。

 

「…ここには居ないか」

一人呟く。

 

「…リトって誰が好きなのかな…」

 

リトの本当の気持ちが自分に向いてない事はなんとなく分かる。地球の生活は楽しい。宇宙の歴史の勉強。礼儀作法の勉強。それが終わったらお見合いお見合いお見合いの毎日。

その中から逃げ出した私。手を引いて一緒に逃げてくれたリト。そして始まる新しい輝かしい日々。

 

"自分の好きなように自由に生きたい"

 

その気持ちを理解してくれたリト。地球に来てから春菜って同い年の友達もできた。リトの妹の美柑もカワイイ。置いてきちゃった妹達を思い出すけど、あんまり心配はしてない。だって私の妹だから。きっとモモもナナも"自分の好きなように自由に生きる"ことを選ぶと思う。

 

「うーん。ちょっと休憩!」

 

フェンスに腕を乗せ眼下の文化祭を見渡す。地球って賑やか。楽しい事がいっぱいあって気持ちがいつも高まってる。こんな高揚感は初めて、ペケくらいにしか普段自由に話せなかった日々が嘘みたい。

 

ぐぅ。

私のお腹が空腹を告げる。あ、接客に夢中で何も食べてなかったっけ

 

「食うか?コレ、不味いけど」

「いただきまーす!」

 

横から差し出されたソレをもぐもぐと箸で頬張る私。ソース?だっけコレ、この前美柑が教えてくれた黒い液体

 

「う…おいしくない」

「そうだろそうだろ。【古手川唯】が作ったやつだし、ツンデレが作るとそうなるのが"お約束"だな」

「このソースは美味しいのにー・・・」

「まぁそれは作ってないしな、生地が最悪だろ?なんで卵の殻ごと入るんだっての」

「あ、このバリバリしたやつが殻?」

口のなかでバリバリと音がする。う、苦ーい!

「そ。歯ごたえあるだろ?はは」

「うん!美味しくないね!あはは!」

 

なんだか何を落ち込み始めていたのか気になら無くなるくらい楽しくなる。楽しい文化祭の熱が胸に戻ってくる。

 

「ははは、まあこの不慣れな手作り感覚が文化祭の醍醐味だよな!」

「そっか、そうなんだ!やっぱり地球って楽しいね!あははは!…って誰?」

そういえば屋上には誰も居なかった。お店も無かったのに。

躰はフェンスへ乗り出したまま、顔だけを横へ向ける。黒髪に瞳の色は紫色。身長は私より10センチは高い、もちろんリトよりも。学校の制服を着てるからこの学校の人。

 

「今頃気づいたんかい。大丈夫かデビルーク星」

「うん?デビルーク星知ってるの?」

「識らね、宇宙のどっかにあることくらいしか」

「おー、凄い!リト以外にデビルークの事知ってる人いないのに」

 

どこかで感じたことのある雰囲気。

 

「ん?もしかして春菜の家族?」

「おお、やっぱ分かんのかそこらヘン鋭いな」

 

やっぱりそうだった。春菜もこの男の人も雰囲気が似てる。優しい空気を纏ってる。

 

「ほれ、こっちは美味いぞ」

「アリガトー!・・・もぐ・・あ、ホントだ!美味し・・・ん?最初っから美味しい方くれればよかったんじゃ・・?」

「ははは、バレたか。ほらそっち寄越せ、不味い方は俺が食ってやる」

私の元からソースのかかった地球食を奪う手

「コレ、なんて食べ物?」

「"お好み焼き"だ、【ララ・サタリン・デビルーク】」

「もぐもぐ…へー、コレ好きかも!ん、ララでいいよ?春菜のお兄ちゃん」

「了解。【ララ・サタリン・デビルーク】」

「んー、ララでいいってば」

「んぐもぐ・・・殻が酷いな、生地もよく混ざってない。二回目で成功させたのは奇跡だな、ちなみにそっちが食ってるのは二回目のやつだ【ララ・サタリン・デビルーク】」

お箸で器用に食べる春菜のお兄ちゃん。大分慣れたけど私はまだお箸がうまく使えない。

「へーそうなんだー!ってだからララでいいってばー」

「分かったぞ、【ララ・サタリン・デビルーク】」

「もぐ…うー…春菜のお兄ちゃんは人の話を聞いてくれないね」

「お前に言われたくねーぞ、【ララ・サタリン・デビルーク】…それで何悩んでたんだ?」

「え?」

「押せ押せの積極的ヒロインが立ち止まって悩むのはよくある事だ。で?なんだ?何を悩んでたんだよ?」

 

「…。」

 

つい、私は黙ってしまう。屋上には文化祭の声がよく響く。喧騒が何もない屋上へと届き楽しげな空気を伝える。

 

「…何も悩んでないよ?」

嘘。

「もぐ…もぐ、そっか、ならいいけどよ」

「うん。」

グラウンドの方から春菜のお兄ちゃんへと躰の向きを変え頷く。

「ま、お前はお前らしく"自由に"振る舞えばいいんじゃねぇか?考えての行動なんてらしくねーぞ」

「…。」

 

私の手元をちらと見てから春菜のお兄ちゃんはお好み焼きの入っていた箱を私から回収する。

 

「"自由に"振る舞えなくなって悩んだら話くらい聞いてやる、これでも一応先輩だしな」

「…うん。アリガト」

 

肩に男物の制服のブレザーがかけられる。今の今まで気づいてなかったけど今日はちょっと肌寒い。屋上なら余計に、女豹の格好で躰がすっかり冷えていた。ペケを置いて来ちゃったからアニマル喫茶の格好のままだったのを忘れてた。

 

「アリガト、」

「それ、最初にお好み焼き渡した時に言えよな」

「えへへ、そういえばそうだね!アリガトー!春菜のお兄ちゃん!」

「へいへい、どーいたしまして。」

 

にこりと優しい笑顔を浮かべる春菜のお兄ちゃん。

 

――――春菜のお兄ちゃんに私も笑顔を向ける。三姉妹の一番上の私に地球で兄ができた気がした。地球ではリト以外の男のコの知り合いが居なかった私。デビルークでのお見合いで知り合った婚約者候補はたくさん居たけど全員好きじゃなかった。私の気持ちを考えてくれなかったから。…春菜、いいなぁー、

 

「うげほっ!げほっ!殻が今頃喉に・・!」

「え!?大丈夫?」

 

肩にかかるブレザーを片手で押さえ、私のお兄ちゃん(・・・・・・・・)の背を擦る。地球に来てから楽しい事。嬉しいこと。驚くこと。いっぱいあったけど、こんな温かい気持ちを感じたことは初めてだった。

 

 

16

 

 

「よう、ただいま」

「おかえりなさい。お兄ちゃん、お疲れ様」

「おう、あー働いた働いた、腕いてー」

「筋肉痛?湿布はる?」

「んにゃ、冷やすわ」

「え?そう?じゃあ冷たいタオル用意するね…あれ、ブレザーはどうしたの?」

「盗られた」

「へ?」

 

ずいぶん暗くなってから秋人お兄ちゃんが帰ってきた。私達一年生はクラスの片付けと全体の軽い掃除。お兄ちゃんたちはクラスの片付けとグラウンドに設営されたステージやテントといった大道具の片付け。一年生は簡単な分、二年生は大変だった。

 

「それよか、うまくいったか?【結城リト】との文化祭は」

 

キッチンで冷たいタオルを用意する私の背中に声をかけられる。

 

「う、うん…」

 

氷水を用意してタオルを浸す

 

「へー、良かったじゃねぇか、んで、文化祭は二人で周れたか?」

「うん、お兄ちゃんの言ってた通りに…」

 

軽く絞ってリビングの椅子へ座るお兄ちゃんへ渡す。結城くんと二人で周った今日の文化祭を思い出し私の頬が熱を帯び始める。

 

「そっかそっか、うむうむ。」

 

そんな私を見ながら、お兄ちゃんは腕を冷やしながら満足気だった。

 

「お兄ちゃんは楽しかった?」

「俺か?そうだな、疲れたけど楽しかったかな、色んなキャラ達に会えたし、描写の少なかった文化祭も細かく見れたし、ヒロインたちの相手は激しく疲れたけど激しく。」

 

「…どこか周ったりした?」

 

なんだかまたヘンな単語が聞こえたけど、気づかないふりをする。

 

「おう、彩南高校スペシャルバトルロワイヤルボンバーセットってのを頼んだぞ、アレのドリンクはただのグレープフルーツジュースだろ?」

「うん。たぶんそうだよ」

「やっぱか、セットのクレープが美味しかったぞ」

「あ、私もそれ食べたかも、1-Cのお店だよね?」

「知らね、店多かったし」

「もう。たぶんそうだよ」

 

お兄ちゃんからぬるくなったタオルを受け取り、再びキッチンへと冷やしに戻る。

 

「ね、お兄ちゃん、」

「ん?」

 

タオルを再び氷水へ。手の体温がどんどん奪われ冷たくなっていく。反対に気持ちはどんどん暖かくなっていく。目を閉じて告げる…――――

 

「…ありがと、」

 

―――――心からの感謝の言葉は気持ちに反してとてもか弱く、リビングの兄に聞こえたかどうかも分からない。本当はちゃんと顔を見て伝えるつもりだった。でも恥ずかしくて、どきどきして、顔を見てしまったら、うまく口にできるかわからなかったから…

 

「どーいたしまして。」

 

背に私のお兄ちゃん(・・・・・・・)の返事が届く。この背に伝わる音はきっと優しい笑顔をしてる。見えなくったって分かる。………………"兄妹"だから。

 

 

―――――あの日のヘンな秋人お兄ちゃんになってから、私の周りがどんどん騒がしくなっていく、そして心が、季節が動き出して行く。結城くんの事。私の事。―――秋人お兄ちゃんの事。

こうして坂道を転がるように動き出した気持ちはどこに行き着くのか、まだ分からないけれど、きっとヘンな秋人お兄ちゃんが、またヘンなこと言い出して手を引いてくれる。導いてくれる―――そんな気がした。

 




感想・評価をよろしくお願い致します。


人気投票の「恋人にしたいキャラ」での西連寺春菜の順位に困惑してます。
こんなはずじゃ・・・

※2015/11/04 一部改訂。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【 Subtitle 】
11 雑用モブ兄

12 こんにちは、わたしネコ春菜

13 ふたりの出会い③

14 頑張るナンバーワンヒロイン

15 ふたりの出会い④

16 兆し

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。