1
「わたし!"すくーるあいどる"やりたーい!みんなでやろーよー!」
ある日の放課後、彩南高校の教室でララがそんなことを言い出した。
「…"すくーるあいどる"?」
きょとんとした顔でヤミは美柑へ小首を傾げる
「スクールアイドル…ああ、この前のマジカルキョーコ特別編の…ララさんはホントにテレビっ子だよね」
美柑がヤミへ棒アイスを手渡しながらそれに応える。放課後であったので、預けてあったセリーヌをミカドから迎えにやってきたのだ。そのままララに連れられ、こうして急遽開催された女子会に巻き込まれている。
「その特別編って…たしか、燃やしちゃった母校の再建だったっけ?面白かったよね、お兄ちゃんと一緒に観たよ」
「先輩ってそういうの見るのね…でもウチの高校燃えてないし、再建の必要ないじゃない」
春菜は秋人と観たマジカルキョーコ特別編の内容を思い返し付け加えたが、現実的な唯はララの提案に乗り気ではないようだった。
「なぜ"すくーるあいどる"をやりたいのですか、プリンセス」
ヤミの質問に「待ってました」と言わんばかりの満足気な顔をし、目をキラキラさせるララは一言で答える…
「たのしそーだから!」と。
ああ、やっぱり…という顔をするララ以外の三人。…ヤミは溜息をつき一口アイスをかじっただけであったが
「どうやってそのスクールアイドルをやるのよ?そもそも何をするの?」
「歌ったり踊ったり!えーっと…あとは歌って…踊ったりだよー!」
「何も考えてないってわけね…」
唯が一言で斬って捨てた。
ララの呼びかけに対し、皆の反応があまりにもそっけないのでララの眉がへの字に曲がり始める
「うー!皆ノリ悪いよー!前にもやったでしょー!戦隊モノ!あんな感じのをわたしはしたいんだよ-!」
「まあまあララさん…落ち着いて、あ、アレは台詞はともかく…ちょっとは楽しかった、かも…そういえばあの時美柑ちゃんは…」
「アレは楽しかったですね、台詞はともかく」
春菜は親友であるララを優しくなだめつつ回想する、美柑は春菜の追求がなされる前にさらっと躱した。
「それで?私たちは何するのよ」
一人、前回の戦隊モノに参加できなかった唯が少しふてくされながら言う
「うん!歌って踊って!…でもね!そっからわたしが考えたのは最後はおっきなロボット呼んで、燃やして解決!する!そんなスーパー"すくーるあいどる"がしたいの!もう発明品は作ったんだよ!」
変わらず瞳をキラキラと輝かせ、無邪気に宣言するララに一瞬沈黙した三人は苦笑いをこぼした。…ヤミは少し表情を崩しアイスを完食しただけであったが
「でもどこでやるのよ?その…ハレンチなんでしょ?アイドルって…露出度の高いハレンチな服をきて踊るんだから」
「ダイジョウブ!場所は彩南高校!ちゃんと衣装は簡易ペケバッチで作ってあるから!」
「歌…人前で歌うのは恥ずかしいよ、ララさん…」
「ダイジョウブ!はるなっ!きっとたのしーよ!」
「私はやってもいいけど…専属マネージャーはもちろん秋人さんで、ハードスケジュールだから四六時中一緒だよね」
ちょっと、どういう事それ…やっぱり美柑ちゃんはお兄ちゃんを…というジト目を向ける春菜
うっすら微笑みを浮かべる美柑…
「…メンバーが少なすぎるのではないですか?」
ヤミは始まりそうな女の戦いの幕が上る前に下ろした
「うーん、確かにそうかも、あとふたりくらいは欲しいねー!」
ガラッと開く教室のドア
「リトくーん!今アイドルの仕事終わったよー!つかれたぁ…」
「春菜、あの時の約束…秋人への野菜の食べさせ方を聞きにきたぞ」
こうして何もしらない二人のアイドルが加わえられたのだった。
2
彩南高校の朝は早い。
のんべんだらりとした朝の登校の時間は皆が憂鬱で足取りも重かったが、流れてくる軽快な歌声と男たちの唸り声に似た歓声に学生の皆は、興味に釣られグラウンドへ駆け出すのだった。
<<what 'bout my star♪>>
ステージ上で振りまく弾ける笑顔のララ、少しだけ緊張した様子があったが優しい笑顔の春菜の二人を中心に歌って踊るスクールアイドル6人組。なぜか全員がララのデビルーク正装コスチュームだった。
<<what 'bout my star♪>>
歳不相応なアンバランスなオトナの笑みを浮かべる美柑、表情は少ないが美しい面立ちと流れる金髪が神秘的なヤミ
<<what 'bout my star♪>>
"別に好きでやってるんじゃないんだからねっ!"とややつり上がったネコ目の古手川唯がハレンチボディを揺らし、同じく武士娘は真剣で静かな表情で舞う。
<<what 'bout my star♪>>
ルンはさすがの現役アイドルといった感じで時折歌いながら笑顔で観客にマイクを向けていた。
うおぉおお!やべーえララたーん!西連寺春菜さん…可憐だ…おお、あの美柑って娘チョー美少女!ヤミヤミ幼女萌え!萌えー!ハレンチ風紀委員長さーんもっとこっち睨んでぇええ!踏みつけてぇえ!アレは…凛?なにをしているのかしら…沙姫様、凛はどうして一人だけ竹刀を持ってるんでしょう?マイクではなく…とルンにはあまり感想を持っていない観客たち…ルンは愛想笑いを一層濃くした。
「…何やってんだあいつら」
だらだらと歩いていた秋人が騒ぎの中へやってくる。今朝、春菜手作りの朝の豪華な食事がなく、おにぎりが一つ、ぽつねんと置かれていたことにちょっと不機嫌であった。
目ざとく目当ての男を見つけたスクールアイドルたち数名は一斉にウインクを飛ばす、
俺にだろ!?いや俺だろ!?と騒ぐ観客、本命の男はただ不機嫌さが増しただけだった。
――――カワイイ妹たちに向けられる男たちの視線が不快だったのである
ララは笑顔で歌って踊る。春菜も吹っ切れたようで楽しそうに歌って踊る、美柑もしょうがないなぁ、と笑顔、ヤミも少しだけ笑顔、唯も見られて感じだしたのか頬を赤らめ、凛は"凛"として舞い、ルンは愛想よく自身に注目を集めようと必死の笑顔で歌って踊る。
――――そうして、ララの制作したという"超絶合体ずっこけリトロボット"も出ること無く、わずか一曲だけのララライブは惜しみない盛況の中、幕を下ろすのであった。
ララが設置した"なんかいれてね♪"と書いた箱には多数の菓子や花束、長々書いたラブレター、スカウトに来たプロデューサーの名刺などなどが箱に収められないほど入っていた。
歌がちがうんじゃねーの?という当然の疑問を持ちながら、その"なんかいれてください"箱を面倒くさそうに、処分も検討に考え運ぶ秋人は知らない。ララが歌に込めていた意味を――――――
まぁまぁお兄ちゃん、ララさんも楽しそうだったし、皆で歌うのって案外楽しかったよ?と充足感に満たされた笑顔で見守る春菜は知っている――――――いつも天真爛漫で無邪気なララはこの時、少しだけホームシックだったのだ。だから"私の星はどうかな?"と秋人に尋ねたのだ。普段のララらしく気持ちをはっきり言葉にせず、歌にのせて間接的に表現するところに同じ女性として、春菜はとても微笑ましく思っていた。
…それには"家族"として秋人共にデビルーク星に帰りたいのか、ソレ以外の何かがあるのかまでは親友であり、姉妹でもある春菜にもわからなかったが――――――
これから始まる春はまた違ったものになる、そんな予感に胸を膨らませる春菜だった。
…これがきっかけでララが"超銀河シンデレラ"という2つ名を手にし、その人気に嫉妬したルンがアイドルとして更に努力しその実力を上げ、コアな人気が上がったのは余談である。
あけましておめでとうございます。
時系列的には『貴方にキスの花束を―――』と『ウチの【西蓮寺春菜】が一番カワイイ!!』の間のお話です。