「凛、あなたの好きな男性のタイプってどのようなものですの?」
ふとヒマ人な沙姫が傍らの凛に水を向ける
「私ですか?私は―――」
思い浮かべるのは同じクラスにいる黒髪…素直になれない男の顔。長い廊下のその先に1年後輩のレンという男子と談笑するその男が居た。レンの顔は赤い、また不埒な話をしているようだ、全く困ったやつだ
「まぁまぁ沙姫様、凛の好みのタイプと言えばアレですよ…"拙者"とか"小生"とか言ってしまうような、そんな古風な男性にきまってますよ」
「あら?まあ、そうですの、凛?」
「違います!私だってその…」
ムッとクスクス笑う綾を睨みつけるが、続きの言葉が喉でつまる。言ってしまおうか、だが…この二人は危険だ。自身の淡い恋心がタイヘンな嵐に見舞われてしまう気がする…予感めいた想像だが、温泉宿なんか危険なのではないだろうか…
「そのうえ"破廉恥"とか"非常識"とかそういう言葉が好きな男性、じゃないですかね、凛の相方ならやっぱり和風で古風で、厳格な強面の男性が似合うのでは?軽薄そうな…あの男子とかダメですよね、沙姫様」
指を差し向ける先には素直になれない男が変わらず談笑していた。なんだ、そのジェスチャーは秋人、陶器かなにかか?壺…くびれか
「…言い過ぎだぞ、綾、秋人は軽薄そうなのは見た目だけで実際は……「すいません、通してもらえませんか?」
「っ!ああ、すまない」
いかんいかん、三人で廊下を塞いでしまっていた。ちっあと少しでしたのに…とは何のことですか沙姫様?
「ありがとうございます」
「ああ、いや、こちらこそすまない」
ペコリと会釈する女子生徒…ん?見ると下級生か、両手でプリントを抱えて運ぶとは…重そうだな。それより女子にこのように重いものを運ばせるとは…周りに気の利く男は居ないのか。あの素直になれない男のように
「手伝おう」
「いえいえっ大丈夫で…っ」
先輩である私に気を使ってか遠慮する下級生。さっとプリントの束を奪いとる……よくよく見ると苦労して運んでた下級生は美しい黒髪。あの男と同じか、猫のようなツリ目だな、どこかキツイ感じがする……真面目なんだろう、纏う雰囲気もそんな感じだ、好ましい。
「笑顔ですわね…凛て実は女性が好きなんですの?」
「そうなのですかね、沙姫様…私達の勘違い?こういうちょっとした気遣いで始まる恋ってありますよね」
「…という事は
「まぁ困っているところ、弱っているところに優しさを向ける相手に惚れる…よくある展開ですよね、沙姫様」
とんとん拍子で進む話、現在進行形
「「ちょっ!違います!沙姫様!(先輩!)」」
ん?私の声にかぶらなかったか?
「私は里紗が好きとかそんな事はありません!ただ少し胸を開発されて…」
なにやらゴニョゴニョと呟く下級生
「なんかこういう好きな相手の前で素直になれないところ、似てますわね、綾」
「ええ、全く。」
クスクス笑い合う沙姫様と綾……誂われている…全部知っててこの二人は…
「そら!行こう!運ぶのは生徒会室でいいのか?」
「そりゃその、気持よかったけど、どうせ揉まれるなら初恋の先輩の方が…」
似てない。私はこのように妄想に浸ったりなどしない、妄想で絡んだりもしない……よく見ればキツイ目元は似ている、か…?和服が似合うような、そんな和風なイメージも…
プリント束を抱えた腕で、未だ妄想の世界にいるキツイ目元の下級生の背を押しながら、似てない、似てない……とぶつぶつ言いつつ場を後にする凛。
沙姫と綾がそれを微笑ましく見守っていた。
凛が黒髪でキツめの下級生……古手川唯をちょっとだけ敵視し、秋人の前でちょっとだけ素直になるのはまた別の話。