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「おかえりなさい、私のお兄ちゃん~野菜も食べようね~」と書かれた横断幕。
西連寺家で行われているお祭り…サンデー・ナイト・フィーバーは―――
「では、不肖、西連寺春菜が乾杯の音頭を……」
「んなのいいから早くしろっての」
片手にグラスを持ち、堅苦しい挨拶をしようとする春菜。不肖て、お前は将来リーマンにでもなるつもりか。「将来の夢はお嫁さん」とか言ういつまでもカワイイ春菜で居てほしい。そして俺に早くメシを食わせてほしい。カレコレもう3時間以上はテーブルで待たされている。準備&もりつけ&俺が居なかった日々の出来事の報告……日記を見たが、結城リトは相変わらずだったようだな、思わず日記をやぶきそうに握りしめてしまった。ふ、ふーん……春菜の胸を計6…尻を計8…ねぇ…あらヤダ不思議…俺にも
「もう、こういうのはけじめが大切なんだよ?」
頬を膨らまし、いじけたように言う春菜。春菜なりのプランがあったようだ、俺に出鼻をくじかれた事が不満なご様子。
「しるかっての。早くメシ食わせろ、宅配ピザでも良かっただろ?たまにはジャンクな物も食べたいお年ごろ」
ジトリとテーブルにつっぷしながら見上げると、そこには…クリスマスイヴのシックなドレスを身に纏っている西連寺春菜。何を張り切っているんだか、薄く塗ったグロスが…―――
「ダメです。ああいうものは体によくありません。体がちゃんと作られているお年ごろ」
―――誘うように瞳に収まる。目をつぶってグラスを胸の前で両手で持ちの春菜。アーメンとでも言う気か
ああもう!さっさと食わせろ!と叫ぶ。リビングに木霊する俺の声…春菜は慣れているように耳を塞ぐ。
「もう、仕方ないなぁお兄ちゃんは…」
苦笑いをする春菜、おおこれはこれはお許しのサイン…では!いただきまーす!
「でもダメ」
オイ。
素早く俺の箸を奪い取る春菜は変わらず笑顔。コホンと話を変えるような咳をする。
「お兄ちゃんは私を哀しませましたね?」
「ん?何のことかな」
ぴーと口笛を吹く、こういう時に限って音が出ない。なぜ…
「クリスマスイヴの夜に『心配すんな、お前が、【西連寺春菜】が捨てられる未来はない』…って言ったよね?ね、お兄ちゃん」
「ぐ…」
腕組みをして俺を見下ろす春菜の像。また説教か…ああ、ホカホカタンドリーチキンさんが…
「私は悲しくて哀しくて寂しくて一人、泣きました。」
「ぐ…」
ワザとなのか、哀しげな声をだす春菜。しっかりしなを作っている
「たくさんたくさん泣きました。」
「ぐぬぬ…」
「それはもう涙で海ができちゃうくらいに…」
喉の奥でフフフと鳴らす春菜。似合ってないからな?…そんなに笑いを堪えて震えるくらいならムリをするんじゃない
「わ、わるかっ…「だから!お兄ちゃんに罰をあたえます」たあ?」
「なんだよ?何すりゃいいんだ?」
「簡単ですよ。お兄ちゃんが好きなお肉を私に食べさせて下さい。以上が罰になりますね」
―――なに?なんなのその口調。また美柑を真似てんの?美柑が好きなの?ガールズラブ?
スッと俺の膝の上に座る春菜。二人羽織かよ、座るなら横向きじゃないのか?目の前の後頭部へ頭突きをする。あいたっ、とカワイイ声。頭を叩くと鳴きますよ、ラブリーエンジェル春菜ヴォイス。1/1西連寺春菜フィギュア…―――睨むなよ
横向きに座り直す春菜に仕方なく…仕方なく食べさせる。嗚呼…俺のチキンちゃんが…春菜の口へと消えていく…
もぐもぐと咀嚼する春菜。ちきしょう……目を閉じてにっこり満足気な顔しやがって…ちきしょう、くやしい…春菜に尻に敷かれながら餌付けなど…いつからこんな酷い仕打ちをする清純ヒロインになってしまったのだ……お兄ちゃんは育て方を誤ってしまったようです
「もう、そんな目で見ないでよ、食べにくいよお兄ちゃん」
そりゃ見るだろ。腹ペコ、餓死寸前のヤツの目の前でうまそうに肉食ってみろ。暴動が起きるぞ。既に俺の中では「俺たちは西連寺春菜の刑に断固反対するー!」とマイクで叫ぶ謎の集団ふぁ…ん?…うまい
「はい、おしまい。今度は私がたべさせてあげるね」
笑顔でまたも箸を奪い、俺の口にはいつの間にか先ほどまで春菜に食べさせていたチキンちゃん。とってもジューシー、何日ぶりかの家庭の味。春菜の味つけだ
「でもこれじゃ二人で食べられないね、私もお腹空いてるのに…あ、こうすればいいね」
パクリと俺に向けチキンちゃんを咥え向ける春菜。桃色に染まった頬。潤んだ瞳を閉じて。首に腕までまわしている…したいならしたいと言えっての。恥ずかしがり屋の春菜らしいと言えば春菜らしいが―――
三度目のキスは甘くも濃厚な味だった。
おしまい
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