モモンガ様は自称美少女天才魔導師と出会ったようです   作:shinano

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第二話 支配者の苦悩

 爆風と衝撃波が、大気をどよめかせる。

 大地が見る見るうちに、薄皮をめくったようにめくれ上がっていった。

 家々は薙ぎ倒され、その壁は石くれとなって宙に舞う。

 あまりの爆音、閃光。

 モモンガはとっさに耳を押え、身を小さくした。

 無限障壁<インフィニティ・ウォール>を展開しているうえに、今の彼は日本人の鈴木悟ではない。

 強力無比なアンデッド、オーバーロードだ。

 耐久度的には、その場に平然と立っていられるかもしれない。

 が、今のモモンガはとてもそれどころではなかった。

 とにかく、日本人としての本能が身を守ることに専念しろと叫んでいた。

 

「あはは……ちょーっと力入りすぎちゃったかな?」

 

 やがて響いた、呑気なリナの声。

 モモンガはふっと息を漏らすと、ゆっくりと立ち上がった。

 振り返れば、そこには巨大なクレーターが出来ていた。

 瓦礫も何もかも、綺麗に吹き飛ばされてしまっている。

 それなりに栄えた町があったはずが、完全な更地だ。

 ほとんど跡形も残っていない。

 

「この破壊力、超位魔法クラスか? いや、下手したらワールドアイテム……?」

 

 天地を支える巨人の手によって、掬い取られたかのような大地。

 その圧倒的な破壊の惨状に、モモンガは半ば呆然とつぶやく。

 クレーターの端から端まで軽く数百メートルはありそうだ。

 彼は顎に手を押し当てると、思案に暮れる。

 

 ユグドラシルに、これに対抗し得るような魔法はあるだろうか。

 日に四回だけ使用することができる、最強の超位魔法。

 それならあるいはと思うが、単純な破壊力では厳しいように思う。

 もっとも、設定だけならば「天地を粉砕する」とかテキストに入っているものもあるが……そのあたりがこの世界に来たことによって、どう変化したのかはまだ未検証だ。

 

「リナッ!! 俺を殺す気か!!!!」

 

 クレーターの中央から、ガウリイの叫び声が聞こえた。

 あの男、生きていたのか!

 疲れてはいるものの、叫ぶ元気のあるガウリイにモモンガは驚愕せざるを得ない。

 身内への非殺傷設定でもあるのだろうか。

 もし、素の状態で堪えていたとするのならば恐ろしいタフネスだ。

 

 一方で、リナの方は恐るべき生命力を見せたガウリイに鷹揚なしぐさで対応する。

 

「ごめんごめん、でもあんたなら生きてるって信じてたわ!」

「調子のいいこと言いやがって! 俺を何だと思ってるんだよ、まったく」

「まあまあ、そう怒らないでよ。ちゃんとドラゴンは倒せたんだしさ。これで、金貨三百枚は私のものッ! やったね、リナちゃん!」

「どこがじゃッ!!!!」

「あわッ!?」

 

 膨れ上がった大地の向こうから、老人がぬうっと顔を覗かせた。

 さらに引き続いて、避難していたらしい街の住人達までもが姿を現す。

 彼らが発する、ただならぬ恨みのこもった視線。

 さしものリナも、彼らの言わんとしていることを察して冷や汗をかいた。

 

「き、金貨二百五十枚でいいわ! 町、少し壊しちゃったし」

「バカたれ! どこが少しじゃ! ドラゴンよりも、お前の方がよっぽど性質が悪いわ!」

「そんなこと言ったって、不可抗力――」

「つべこべ言わずに弁償しろー!!」

 

 吠える老人。

 そのあまりの剣幕に、口八丁手八丁のリナも不可能を察した。

 彼女は素早く、近くにいたガウリイの服を掴む。

 

「逃げるわよ!」

「おい!? 俺を巻き込むなよッ!!」

「あんただって、私が竜破斬を撃つのに協力したんだから同罪よ!」

「どんな理屈だァ!! 違う、絶対に違う!」

「いいから、早くッ!!」

 

 お互いに揉めつつも、猛烈な速度で逃げ出した二人。

 モモンガは魔法の詳細を聞くべく二人を呼び止めようとしたが、取りつく島もなかった。

 あっという間に、その背中は近くの森の中へと消えて行ってしまう。

 

「む、私もそろそろ退却した方が良いか」

 

 恐るべき速度で逃げ去ってしまった二人。

 怒りのやり場を失ってしまった住人達は、苛立った様子で周囲を見渡す。

 いつの間にか表れていた、得体の知れないよそ者。

 排斥するには十分すぎる要素が揃っている。

 この世界のことがよくわからないうちに、敵を作るのはまずい。

 モモンガはすぐさま転移呪文を唱えて、彼らに気づかれないうちにその場から逃げ去ろうとした。

 だがその時、不意にキラリと輝く何かが目に留まる。

 

「リナとやらの落とし物か?」

 

 拾ってみれば、それは小さな女神像だった。

 くすんだ銀色をしたそれは、手に食い込んでくるような重さがある。

 すぐに銀かと思ったが、それにしては色が低かった。

 加えて、何となくではあるが力が吸い込まれるような感じがする。

 

「道具上位鑑定<オール・アプレーザル・マジックアイテム>」

 

 すぐに鑑定魔法をかける。

 だが、その魔力は到達した途端にかき消されてしまった。

 道具上位鑑定は、上位と付くだけあってレジストするようなアイテムはめったにない。

 レジストされた時点で、お宝であることはまず間違いなかった。

 

「仕方ない、持って帰るか」

 

 魔法では分からなくとも、ナザリックに持ち帰って調べれば何かわかるかもしれない。

 訳の分からない世界に居る以上、手がかりは少しでも多い方が良い。

 モモンガは女神像をレジストリの中へと放り込むと、すぐさま異界門<ゲート>を唱える。

 たちまち空間が歪み、不可思議な光を放つ裂け目のようなものが出来た。

 それを潜り抜けたところで、モモンガはほっと胸をなでおろす。

 

「やれやれ……。精神的にかなり疲れたな……」

「モモンガ様ッ!」

「うおッ!?」

 

 一仕事終えて、素に戻りかけた状態。

 そこで大きな声を掛けられたモモンガは、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

 振り返れば、そこには黒鉄の全身鎧――ヘルメス・トリスメギストスを身にまとったアルベドの姿がある。

 刺々しい鎧が、あやうく彼の動揺をさらに加速させそうになった。

 だが、アンデッドになったことで得た精神安定の力が、それをどうにか抑え込む。

 

「……アルベドか。その姿、何事かあったのか?」

「先ほど、微かですが『揺れ』を感知しましたもので……。御身に万が一のことがあってはと、後を追いかける準備を整えておりました」

「そのことか。ならば、私からも話がある。守護者たちを早急にこの場に集めよ!」

「はッ!」

 

 優雅に礼をすると、その後はキビキビとした動きでその場から立ち去るアルベド。

 彼女が玉座の間を出たところで、モモンガは大きく息をついた。

 まずは何よりも、守護者たちを抑えることが肝要だ。

 どうにもギルドを崇拝しすぎている彼らは、今にも暴走しそうな気配がある。

 ここで現地の人間たちと何かトラブルを起こされでもしたら――アインズ・ウール・ゴウンは危機的状況を迎えるかもしれない。

 あのような魔法――竜破斬を撃てる人間が大挙してやってきたらと思うと、アンデッドながら背筋が冷える。

 それだけは避けなければならない。

 

「今は雌伏の時だな」

 

 そうつぶやくと、玉座の背もたれにもたれかかるモモンガ。

 いっそダンジョン内部に引きこもってしまおうかとも思うが、あいにくとナザリックは巨大だ。

 そのうち発見されて、冒険者のような連中が乗り込んでこないとも限らない。

 最悪、不法占拠と見做されて国家などから攻撃を受ける可能性だってある。

 そうなったとき、今のままの状態では非常にまずい。

 それに――

 

「ナザリックを、引きこもるためだけに使うわけにも……」

 

 仲間たちと作り上げた、この世で最も誇り高く偉大なギルド。

 その主として、モモンガは相応の行動を取りたかった。

 いや、「いつか戻ってくるかもしれない」仲間たちのためにも、取り続けなければならなかった――。

 




何気に、モモンガ様は自分が一番厄介事を引き込んでいるかもしれない……!

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