喫茶店経営している場合じゃねえ   作:気宇

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全セイバー(数名除く)への熱い風評被害。

ジャンヌも健啖家だし、モーさんに至っては親の血を引き継ぎまくっている……。もうやめて!店長のサイフポイントはとっくに0よ!




セイバーはよく食べる

テーブルに座り、出て来る料理を待つセイバー。何やらそわそわしている。それでも鎧と兜は外さない。椅子が潰れそうで怖い。

 

 

そんなセイバーを凝視するジャンヌ。どうやら自身の真名看破が通用しない事に疑問を感じているらしい。あの鎧に秘匿効果があるのならば頷けるが。事実そうなのだが、ルーラーの意地がセイバーの真名を看破する努力を中止しない。

 

 

「(なんだこいつ……オレの事凝視して…。もしかしてファンか?)」

 

 

「(おかしいですねえ。私の幸運がCなのがいけないのでしょうか?)」

 

 

おそらくお互いの真名を知ったら取っ組み合いの喧嘩を始めそうな二人。全く噛み合わない事をお互いに思っていた。

 

 

厨房の奥から鏡夜が、料理を運ぶ様に製作した木の台車にパンケーキからステーキまでもをこれでもかと乗せ運んで来た。それら一つ一つを丁寧にセイバーの前に置く。もしセイバーに尻尾があるのならば、千切れる程振られているだろう。

 

 

「一応言うが、毒も自白剤も混ぜてねえからな」

 

「分かってるよ。何と無くそんな事しなさそうな顔してるし。んじゃ、いっただきまーす」

 

 

食事の際には兜は邪魔だろう。さあセイバー、その兜を取り外す時が来たのだ。セイバーに悟られぬ様、出来る限り不自然さを取り除いて食事の仕草を見つめる。

鏡夜とジャンヌは次の瞬間、とんでもない物を目にした。

 

 

「っと兜邪魔だな。口のとこだけ開けるか」

 

 

ぱかっと擬音を立て、器用に口の部分のみが開いたセイバーの兜。一体どんな経験をすれば口の部分のみが開く兜を被ろうと考える様になるのか。素顔を観れると期待していた二人は内心、ひどく落胆する。

 

「嘘だろオイ」

 

「ん?ああもしかして兜か?へへ、残念だったな」

 

何処か得意げに笑ったセイバーはナイフとフォークを手に取り、まずは肉を一口。ゆっくりと、まるで料理番組の審査員の様に唸りながらその味を吟味する。この瞬間だけは鏡夜とジャンヌの間にも緊張が走った。

 

 

「………美味い!」

 

 

どうやら、お気に召したらしい。

 

 

音速で皿の上から消えていく料理。おそらく一人を1日半養えるはあろう鏡夜の料理達は、セイバーの胃袋の中に抵抗する術無く落ちていった。あの口と胃はブラックホールか何かか。

 

 

「何でオレらのブリテンにはクソマズいメシしか無かったんだよオイ……。あれか、全部ランスロが悪いな。死ねランスロ」

 

 

ランスロとはおそらくランスロットの事だろう。円卓の騎士の一人、裏切り騎士。王の妃との不貞を王の息子のモードレッドに暴かれ、円卓を追放された。それがブリテンが滅ぶ一因となっている。果たして同胞の騎士に対して「死ね」は赦される物なのだろうか。

 

 

「いやー、美味い!どれもこれも全部美味い!こんな美味い物を作れる奴は悪い奴じゃないな!おいマスター、おかわりだ!」

 

「…おう!」

 

 

こうと美味い美味いと連発されては料理人のスイッチが入る。厨房にジャンヌを動員。ご飯を炊き、魚を焼き、野菜を炒める。その間は今日のおやつにと用意しておいたケーキを出しお茶濁し。紅茶も忘れない。あっという間にケーキは胃袋と言うブラックホールに吸い込まれた。

 

 

「マスター、もしかしてセイバーの真名に?」

 

「おう。あの食いっぷり、そしてあの声。ランスロ呼び。なあジャンヌ、騎士王には一人息子が居るらしいぜ」

 

「……!」

 

 

どうやらジャンヌも察しがついたようだ。だが今はそれは後回し。ひとまずは腹ペコ騎士を満足させなければならない。騎士王が居なくて本当に良かった。

 

 

ーーーーーー

 

ーーーー

 

ーー

 

 

「ごちそうさーん。いやあ食った食った。サーヴァントはメシを必要としねえが…これなら毎日でも食いたいぜ」

 

「今日みたいに数人前を一瞬で平らげなければ検討しよう」

 

「えー、マスターのケチ」

 

「俺だって財政があるんだよ。あのな、この喫茶店経営ギリギリなの。収入ギリギリなの。オーケー?」

 

「ノー」

 

 

暴君ここに極まれり。ブリテンの王候補は腹ペコしか居ないのだろうか。と言うよりセイバーは腹ペコなのだろうか。そう言えばジャンヌも自称セイバー適性があるらしい。今ここに全セイバーに対する誤解が生じた。

 

 

「ま、お前なら信頼出来そうだな。事情は知らねえが手伝ってやるよマスター」

 

 

立ち上がったセイバーは兜と鎧を取り外す。二人が面食らったのは言うまでも無い。あのアーサー王と、それこそ瓜二つの少女が現れたのだから。

 

 

「モードレッドだ。知ってるよな?」

 

「あ、ああ。それは一応…」

 

「なら話は早え。とりあえず状況説明を求めるぜ」

 

 

 

第5次聖杯戦争の説明から開始し、現在の聖杯の状況、召喚されているサーヴァント、人類の未来の滅亡までを包み隠さずに説明する。セイバー……モードレッドも真摯に話を聞いてくれた為、そこまで時間を要さずに全ての説明が完了した。こんな姿を見ると、やはり騎士だと言うことを実感させられる。おまけに理解力も高い。アーサー王の活躍を話した時のはしゃぎっぷりは目を瞑ろう。

 

 

「はー、なるほどな。そいつはマズい。マスターの料理を食えなくなる可能性は排除する」

 

「人類の未来の救済は?」

 

「二の次」

 

 

その果ての目的はともかく、人類の未来の救済と言う過程は共に踏んでくれるらしい。モードレッド、叛逆の騎士。だがその実力は屈指のものであり、仲間にするならとても心強い。

 

 

ー現在時刻は夜の11時半。聖杯戦争の戦闘が執り行われるには持ってこいの時間帯だ。目指すは大聖杯の下。それを守護する二騎のサーヴァントを蹴散らし、人類救済の第一歩を踏み出そうではないか。




その頃、大聖杯近くではアル何とかさんがお腹を減らしてそわそわしていた……かもしれない。

令呪でセイバーに働けと命じたらどうなるのか。カニファンでバイトしてたしきちんとするかも…?そもそも王が働く必要はない(暴論)

切嗣「令呪を似て我が傀儡に命ず!セイバー、仕事を探せ!今すぐに!」なんて展開も見てみたい気もします。

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