喫茶店経営している場合じゃねえ   作:気宇

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ーーーオケアノスだ、ついて来れるか?


お待たせ致しました、ローマ突入後第2話です。


全ての道はローマに通ず

さて、古代ローマ兵の力量とは一体どれ程の物なのか。実を言うと鍛え上げた現代の軍人よりも強い、と彼らは語った。

 

果たしていつまでこれを繰り返せば良いのか。先刻より雪崩れの如く押し寄せてくる目下の敵兵達。そもそも"命を奪ってはいけない"と言う縛りが存在する為に手加減を強いられる彼らは、その微々たる調整により意識を伝達させる為に、とくにモードレッド達はオルレアンでの戦闘よりも疲労の蓄積が早いと感じる。あの地なら敵がワイバーンだのホネだのゾンビだの、いくら全力で吹っ飛ばしても文句は言われなかった為に、更にストレスも溜まる。

セイバー・アルトリアには峰打の心得は十二分と形容出来る程に存在する為、うなじの部分を的確に刀身で殴り、見事に気絶させる事が出来る。あの聖杯戦争から約一年、士郎も士郎で多少なり進歩を遂げており、セイバーに回せる魔力量も見違える、と言う事は無いが確実に増量している。つまるところ、セイバーは一歩ずつ本来のスペックに近づいているのだ。

 

ジャンヌーーーシロい方もどちらかと言えば敵を殺める事を躊躇うタイプの人間だ。故に、時に加減をしくじっても本能がブレーキをかける。それらが物の見事に作用し合い、シロの剣戟は敵の意識を奪うと言う点では素晴らしい活躍を見せている。

 

 

彼女らに対して二人、モードレッドとクロは非常に"やりずらい"を強いられた。モードレッドは手加減などとは無縁の世界の存在、クロに至っては大量虐殺が得意なキラー系ガールだ。そんな彼女からすれば峰打など、通常の三倍の労力を以てようやく達成出来る武術なのだ。

 

 

「ああもう!数が多いわよ!」

「倒しても倒しても湧いて来るって、俺達料理人の敵のーーー」

「ストップ!それ以上言わないで!」

 

 

鏡夜、士郎、凛のマスター組とアーチャー・エミヤは丘の上から各々の得意とする形で狙撃を行っていた。鏡夜は得意分野の魔力弾精製、凛は敵兵の腹部にガンドを飛翔させる。そして彼ら、"えみやしろう"は考えた。彼らの得意とする投影魔術、その真価である剣の投影。士郎はあの金ぴかとの対峙の際に視認した全てを瞬刻で投影する荒技をやってのけたのを思い出し、その応用で剣の"柄だけ"を投影し掃射した。これならば身体のどこに命中しても致命傷にまでは至らない。これにはアーチャーも素直に感心したのが、直後には彼も全く同様の投影を行使した。やはり彼も無益な殺生は御免被る。

 

ーーーではアサシンはどこにいるのか?

 

 

『ぶー……』

「怒らないでくれよアサシン。ほら、もしかするとサーヴァントが来るかも知れねえだろ?」

『暇…』

 

 

霊体化して鏡夜の背後に、それこそまるで亡霊の様に佇んでいる。

と言うのも、仮に敵性サーヴァントが強襲をかけて来た際に、背後から妄想心音(ザバーニーヤ)を発動して殺した方が楽じゃね?と言う非常に投げやりな発想を鏡夜が提案した為に、アサシンは彼の思惑通り待機組と化してしまった。若干戦闘狂の気質がある彼女に意見させれば、何も無いこの時間が苦痛だが。それでも彼の言う事にも僅かながらの一理もあり、そもそも良くしてもらっているマスターの頼みを断るのも気が引けた為にいざ了承したのだが、まさかここまで暇だとはその瞬間の彼女は思いも寄らなかった。

 

 

『むぅ……』

「悪い悪い。ほら、後で美味しい物食べさせてやるからさ」

『うぅ……。それなら我慢する…』

 

 

アサシンはその場に座り込み、懐から愛用している投擲剣ダークを取り出し、それらを順番に研ぎ始めた。

 

刹那、鏡夜の双眼が果てに強大なナニカを視認する。雑兵達とは一線を画す、例えるならば皇帝の様な派手な装飾と色合いをした鎧に身を包む、大柄な男。兵達を掻き分け、まさに一心不乱に誰かを目指し駆け抜けている。そう、奴はーーー。

 

 

「「「バーサーカー……」」」

 

 

どうやら奴は、ジャンヌ達の真名看破を誘発させたらしい。

 

 

鏡夜君(マスター)、情報を共有します」

「ちょっと、鏡夜(マスター)に送るのは私の仕事ですよ」

「にゃにをー!」

「良いから送れ阿呆」

 

 

こうしていつもいつも唐突に喧嘩を始めるシロクロツインズに鏡夜は頭を悩ませつつも、パスから共有された敵性サーヴァントの情報を確認する。

ーーー成る程。この時代では最高の知名度補正を得られるだろう。

 

 

"カリギュラ"。かつてのローマ皇帝の一人。そしてその称号に恥じぬ、筋力はA+、耐久と俊敏はB+と、狂化の恩恵を得ていても目を見張る程の化け物ステータスである。そして尚更厄介なのが、その宝具。

 

"我が心を喰らえ、月の光(フルクティクス・ディアーナ)"。月の光を以て彼の狂気を拡散する精神汚染の宝具。幸い未だ日は高いが、仮にここで放置し、夜襲でも受けてみてはどうだろうか。良くも悪くも個性的であるこの陣営が弊害を受ける事は無いだろうが、果たして一般兵がそれに拮抗出来るかと問われるとーーー解は否。

仮にカリギュラが特異点の弊害を"受けた側"だとしても、狂化したカリギュラを野放しにしておけば、宝具発動により戦場は混沌と化すだろう。故に鏡夜は冷静冷酷に、そしてこの場で最も正しい解を出す。

 

曰く、ーーー殺せと。

 

 

その命に、モードレッドは優々とした声をあげた。

 

 

『おい良いんだなキョーヤ!手加減するのは疲れる!』

「ああ、やっちまえ。問答無用で叩き潰せ。兵達が敵味方関係無く殺し合う地獄絵図何て起こしてたまるか」

『それに敵のニオイがしますからね』

 

 

ーーーネロォォォォォォォォ‼︎

 

 

『あ、アレ間違い無く敵よ鏡夜。狂気に触れてネロ……ローマ皇帝だっけ?をストーカーするとか敵以外の何者でも無いわ』

「だなクロ。よしモードレッド、何が何でも殺せ。じゃなきゃ俺達がやられる」

『オーライ!セイバー・モードレッド、出るぜェ!』

 

 

景気良く声を張り上げたモードレッドは彼女のスキルである魔力放出を発動し、一陣の風の如く戦場を駆け抜けた。

 

 

 

 

「さて士郎、遠坂。ここからはカルチャーショックの連続だぜ」

 

 

そう、これは何の縛りも無い聖杯戦争。あの冬の地よりも更に血生臭く、そこには一片の武士の情けも騎士の誉れも無い。そして何より、確実にこちらがアウェイとなる限界状況。言峰教会の様にマスターの身を保護してくれる機関も無い。衣食住、全てをその場で戦場と戦場を渡りながら探すサバイバルゲーム。

逆説。つまりは、よりアウトローな事をしても赦されてしまうのだ。一対一の決闘に乱入しても誰からも文句を言われず、誰からも批判と憤怒を預かる事も無い。

 

 

モードレッドはその視界の限界位置にカリギュラの姿を捉えた。先手必勝、彼女は有無を言わず、言わせず、カリギュラに斬りかかる。

 

しかし通らず。カリギュラはその張り詰めた双腕で、モードレッドの王剣を受け止めた。

 

 

「ハァ⁉︎何あのサーヴァント⁉︎それこそヘラクレスとタイマン張れそうじゃないの⁉︎」

「落ち着けって遠坂。それにしても、セイバーの息子…娘?のモードレッドの剣が受け止められるとは……」

「さて、な。援護はいるか?モードレッド?」

『ヘッ!勝手にしな!』

 

 

モードレッドは数歩分の距離を置いた後、その場に落ちていた石ころをカリギュラの顔面に向けて蹴り飛ばす。彼女特有の、勝利の方程式。勝つ為ならば手段を選ばない騎士から見た外法の使い手。しかしそれは、全勝を強いられる鏡夜達の立場から見ればこれ以上頼りになる物は無い。

 

カリギュラの拳がモードレッドへ向けて唸る。よもやバーサーカーとは思えぬ、計算されたコンパクトな右ストレート。カリギュラからすれば最大級の調子を得た、絶賛の拳だろう。事実モードレッドも命中するその直前に、どうにか王剣の刀身を盾にする事で被弾を避けた程だ。やはり皇帝の力は伊達では無い。

 

 

「ネ、ロ……!我が、愛しき、妹の子、よ……!」

「あぁん?どいつと間違ってるか知らねェが、生憎オレはそのネロとか言う奴じゃねェんだわ。悪りィな‼︎」

 

 

モードレッドはカリギュラの左腕を蹴り上げ、そのまま魔力放出を乗せた重厚な斬撃を鎧に阻まれた血肉に向けて放つ。鈍い金属の拮抗の音が響き、特筆すべき謂れの無いその鎧は、王剣の燦然銀の一撃でヒビが走った。

カリギュラはその事に驚愕はせず、突進する猛牛の様にモードレッドに食らいつく。その命を奪わんと、まさに狂気に取り憑かれた猛々しい格闘術。視覚を最大限に強化した鏡夜と凛ですら、その全貌を捉え切る事は至難。

 

ふと、同じ様に待機していたアーチャーが一本の剣を投影した。アーチャーは黒塗りの洋弓にそれを当て、弦を引き絞る。

 

 

「私の出番と見た。モードレッド、タイミングを計って脱出しろ」

『了解だぜ!父上!そこら辺の雑魚から距離を置こう!キョーヤの命令だからな!』

『分かりました。確かに、無闇に命を奪うのは良くない』

 

 

いよいよ打倒の瞬間。鏡夜は背後に座っているアサシンに指で指示を出し、並行して念話をジャンヌとクロに飛ばす。

 

 

「ジャンヌ、クロ、その場からその赤い人の兵を連れて逃げろ」

『何をするのですか?』

「アーチャーが真名解放を行う。なるべくカリギュラのターゲットのモードレッドには離れて貰っているが、保険の為な」

『オーケー、分かったわ。ほら赤い人、行くわよ』

 

 

クロは赤に指示をしろと伝達し、彼女の判断に従った赤は自らの兵を撤退させる。その経路を作るのは、二人のジャンヌ。

 

 

『よしっ、ここなら大丈夫だな。じゃあ父上、タイミング良くオレの回収頼むぜ』

『任せて下さい。魔力放出ーーー』

 

どうやら全ての工程を凌駕した様だ。モードレッドは再度、彼女を追うカリギュラに斬り込み、拮抗を演出する。

 

 

 

「さあ行け、捻れた剣ーー!」

 

 

アーチャーの手から弦が離れ、反動で彼が改造した稲妻の剣、その贋作である偽・螺旋剣(カラドボルグII)がカリギュラへ向けて、空間を裂くかの勢いで直進する。風を斬る独特の音に気が付いたのか、矢が行く虚空にカリギュラの顔が向いた。

ーーー今だ!

 

士郎がそう叫ぶと、魔力放出によるジェットを手に入れているアルトリアが駿足でモードレッドの背後に着地し、彼女を抱えてその場から消える。

そして同刻同瞬。

 

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)…!」

 

 

神秘の奔流、内包された魔力が連鎖的に爆発し、その場にいたカリギュラごと大地を抉った。

爆煙が走り、火の粉が舞い上がる。その緋の淵から男の苦痛の呻きが戦場に発された。

 

「うぬうううぅぅう!ネロォォォォォ‼︎」

 

 

「まだ生きてる⁉︎」

 

 

 

凛が驚愕の声を上げる。それもそのはず、あの爆発は大抵の英霊ですら直撃すれば殺傷可能な代物。いくらカリギュラの耐久が高いとは言え、回避動作すら無い着弾と直撃を決めてやったのに、まさかまだ活動可能だとーーー⁉︎

そんな凛の不安を感じ取ったのか、鏡夜がほくそ笑む。そしてただ一人、この場にいない"彼女"へと声をかけた。

 

 

 

「ーーー出番だぜ、アサシン‼︎」

「遅い店長さん……。妄想心音(ザバーニーヤ)ーーー‼︎」

 

 

 

焼けたカリギュラの胸板を、呪われた赤い豪腕が貫く。その鮮血の花火を以て、此度の戦闘は終了と成す。




今後ややこしくなりそうなので伯父上には退場して頂きました。
まあね、皇帝だから強いしね。みんなで協力して倒したんだよ。

あ、懲りずに新作投稿します。ダーク店長のダーク店長によるダーク店長とジャンヌとおじさんと桜ちゃんの為の救済のお話です。お時間があれば一度お目をお通し頂き、何か感想を書いて下さると私ハッピーだったりします。


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