長らくお待たせした割には内容が薄っぺらです。
ーーージャンヌ一行の買い物同刻。
さて、聖杯とは通常、降臨した土地の地脈から少量の魔力を長期にまたがり吸い上げる事によって、その黄金の中に魔力を貯蔵する。ここ冬木の場合、地脈との相性から聖杯を満たすのには60年の時を要してしまう。
鏡夜が一時的に預かっている冬木聖杯は酷使から魔力残量が五割を下回ってしまった。単純計算では再び十全の状態に至る為に30年が必要。しかし、極自然の事だがそれ程の時間を待っている余裕は無い。ならば急速に吸い上げるか。否、地脈を枯らす訳にもいかぬ。
円蔵山の奥深くにある大空洞。半天然の魔術要塞と化しているその中で、鏡夜、士郎、凛、ゼルレッチの四名が聖杯の"充電"の下準備を敷いている。へっぽこ士郎はあくまでも付き添い兼学習……だが、実際連れて来ると彼の投影魔術は予想以上に貢献してくれる。
理論はひたすら単純な物だ。宝石剣の性質は並行世界に通ずる孔を開ける物。その人が通れない程の小さな穴でも、待機中に満ちている
ならば回収する
実際に穴を開けるのはゼルレッチと凛の二名。宝石剣はゼルレッチ本人か彼に系譜する家系しか使用不可能な代物。
余談だが、鏡夜が持つ二号機のみ、"聖杯によって歪められた特異点への道を開く"機能のみを集約させている為、ゼルレッチに系譜しない家系生まれの彼も行使可能なのだ。
士郎はとあるシスターに見せて貰った
そして彼、鏡夜は中継地点を成す。期間は短いが聖杯を体内に埋め込んでいた事実と彼の起源から、それを可能にするのは彼ぐらいしかいないのだ。
ゼルレッチの合図で扉が開く。
ぴくりと身体が跳ねる。何か大きな物が身体に流れて来たかと思えば、それらはすぐに虚脱感と共に消え去る。間違い無い、この身を間に挟んで魔力は流れている。
熱い。ただひたすらに身体が熱い。それこそ、内側で火が燃えている様な。苦痛は神経を奔流し、地脈より出ずる魔力の塊は神経を通じ、パスを通じ、接続されている大聖杯へと注がれて行く。
「くぁ……、っ…!」
「鏡夜!」
苦悶の息を漏らした鏡夜に士郎は近付き、四肢に赤い聖骸布を巻く。彼が苦悶すると言う事は、当初の予定ーーー体内に取り込んだ特注のルビーを中継とする作戦ーーーから外れ、流れ迸る魔力が四肢に溢れ出ているのだろう。
あくまで応急的な処置でしか無いが、それを
「っ、……すまない士郎。なんとか……っ、」
「鏡夜、回復用のルビーだ。ゆっくり」
神経が天蓋を衝いた今の彼には、小さな異物を宝石を飲み込む行為すら地獄の炎で身を焼かれるかの様な、それ程までに苦痛と疲労にまみれていた。
それでも、だとしても、作業は継続される。士郎は鏡夜の苦痛を和らげてやる事の出来無い己の無力さを悔やみ、凛は鏡夜のみに負債を押し付けている事を恥じ、ゼルレッチは遣る瀬無さを引き摺りながら、詠唱を続ける口を閉じない。
一層聖杯の輝きが本来にまで肉薄する。その神々しさは即ち、工程の凌駕を意味する物。ようやく、この苦痛から解放される。
「っ…ぷはっ!オエェ……、死ぬかと思った」
「ご苦労だった鏡の少年。聖杯の貯蔵量は八割以上にまで到達した。後は次の出発までここで寝かせておけば良い」
「うぃーす……。すまん士郎、おぶってくれ。立てない」
力無くその場に座り込んでいる鏡夜を、士郎は一思いに引き起こし背に負う。彼の頭頂から詰めの先まで、そのありとあらゆる全身から「歩いてたまるものか」と言った鉄の気迫を感じた士郎は、思わず苦笑いした。
「ごめんな鏡夜。お前ばっかりに……」
「気にすんな。元はと言えば二人は学生だし、社会人の俺の方が動きやすいから仕方無いだろ。それに俺の起源的にも相性良いし。こればっかりはどうしようも無いって」
「そうじゃ。仕方無い事は仕方無い」
「「「アンタは黙っとれ!」」」
この場ーーいや、おそらく人類の中でも年長最上位層に位置する者の台詞では無いだろう、と三人は思い切り突っ込んだ。
実はたったこれだけを書くのに10回ぐらいボツにしたと言う裏話が。スランプとは不定期に突然訪れるもの、恐ろしや。あ、次回からローマ突入です。
では僭越ながら今回の補足を。
ぶっちゃけ店長が聖杯とパス繋げるのはあの人の起源のせい。ルーラーの持つパスを参考に起源でどうにかして充電用パスをコネクトしました。ただし反動で充電中は全身に激痛が走る。またか。
英雄とは身体を張るもの(暴論)
無限エーテル砲理論の応用も「これ撃ち出すのやめたらいけるんじゃね?」的な発想の産物です。捏造設定なので突っ込まないで頂けるとありがたいです。
それではまた次回お会いしましょう。