喫茶店経営している場合じゃねえ   作:気宇

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オケアノスきた(セイバーピース絞り過ぎだろう……。頭庄司)

リリィにプリコスつけるのハマってます。魔法少女プリズマ☆リリィ。可愛い(確定事項)

割とセイバーピースが落ちなくてイラっ☆と来ている凡夫です。本日の更新が遅れたのも執筆が鈍化したのも全部それのせい。あ、地味に考査準備期間入りました。なので亀化しますがご容赦願います。高等学校の試験は流石に怠けたら危ない(FGOプレイしつつ)


邪竜を沈めろ

ーーーワイバーン達の強襲は続く。

 

敵もとうとう最終決戦に持ち込むつもりだろう。これまでとはそれこそ、比べ物にならない数のワイバーンをけしかけて来る。中には赤い個体だったり、更に巨体を誇る個体だったりと多種多様。

 

それでも負けやしない。魔力消費は最小限にまで、各人が持ち得る武器を巧みに扱う。魔弾を飛ばす者、火を吐く者、得物を存分に振るう者。いくら数の暴力で攻めてこようが、そこに技能が存在しなければ話にならない。せめて回避訓練は積ませておくべきだったのだろう、面白い程にワイバーンが堕ちていく。

 

 

「サーヴァント反応…⁉︎みなさん、一騎来ます!」

 

 

視認した。彼女の言う通り一騎、手には映える大きな弓が握られている。おそらくは未遭遇のアーチャーのサーヴァントだろう。そしてこれまたおそらく、バーサークを付与されている。

 

ーーー厄介だ。

 

消耗を最低限にまで抑えてオルレアンへ進撃、との算段だったのだが、中途でサーヴァントと遭遇してしまえば必然的に負担は増える。特にアーチャーともなればその宝具は弓の技量、仮に矢を雨の様に降らせる物ならば余計だ。

 

軽く舌打ちをする。アーチャー(エミヤ)かあの愚直で好ましい正義の味方でもいれば、一方的に契約が解除出来るのだが。よく考えればこちらの陣営にアーチャーはいない。奪えるともなれば……よそう。起こりもしない現実は捨てるんだ。

 

 

正体は一人の女性。無造作に伸ばされた髪に美しさを感じる。眼は野獣の様に鋭く、そこに貴人の如き滑らかさは無い。

その表情は淡白な物では無くどこか苦しみに耐えている様な、苦悶の物だった。彼女は先程からこちらを見据えるのみで行動に移さない。弓を引く事も、言語を発する事も。

 

鏡夜は意を決し、この不可解な静寂を打破する。

 

 

「アーチャーのサーヴァント…だな」

 

こくり、と頷く。頭の獣耳の様な物は崩れない。ーーもしかすると、アレは本物かも知れない。

 

「いかにも。汝らは竜の魔女を打破する者だな?」

 

「ああ。だから聞きたい、貴女は敵か?それとも味方か?はたまた中立の立場を取るか?」

 

 

今はただそれだけだ。敵ならばプライドや暗黙の了解を踏み潰してでも、数で圧して倒す。味方ならば魔女の呪縛から解放する為に走り回ろう。中立の立場ならばそこを退け。

 

 

「理性は味方だ。だが身体はそうもいかない。だから話せるのは時間の問題だ」

 

「つまり理性がある内に自分を討ち取れって事か」

 

「その通り。それと汝青年、マスターと見受ける」

 

 

念の為ポケットの鏡に手をしのばせながらも肯定。しかし何故この場でその様な事を問うて来たのだろうか。

可能性は二つ。自身の解放の依頼か、この身の削除か。後者は無いと信じたいが、いざ黒い彼女が理性を奪いアーチャーを殺戮マシーンに変貌させるか分かった物では無い。

 

アーチャーは何も握っていない左手に毛皮の様な物を実体化させる。猪の頭部付き毛皮。どこから見ても剥取り品だが、内包する神秘は宝具級のそれ。アレはまさしく、アーチャーの所有する宝具の一つ。

 

 

「これから汝が赴く戦場は竜の蠢く死地。百にも及ぶあの山を人間が越える事は困難だ。だからこれを使え。「諍いの戦利品」、魔力を流せば直線を高速移動出来る。真名解放を必要としない宝具だ。汝でも扱える」

 

「……待てアーチャー。俺の様な至らぬ身にこの様な逸品は過ぎた物。何故これを?」

 

 

アーチャーは押し黙り、どこか哀しげな表情を見せた。万人に共通する、懺悔の表情。

何と無く察した。これは彼女なりの罪滅ぼしなのだろう。そこにいかなる理由があるかは見当つかないが、その様にに感じた。

 

 

「私は無辜の民をこの弓で殺めかけた。この弓はその様な愚行を犯す為の物では無い。それでも私は……ッ!」

 

 

その精神はやはり、狂わされてなお英雄だった。ひしひしと伝わる屈辱、後悔、懺悔の念。そして自身の手で黒を倒せない事に対する怒り。だからこそ彼女は託したのだろう。半身とも言える宝具を他の誰でも無い、名も知らぬ黒の敵(マスター)に。

 

ならばその思い、汲み取らずして何が魔術使いか。彼女の手から毛皮を拝借し、防具の類を一切身に付けていないヒトの身体に纏わせる。それを見た彼女はうん、と頷いた。

 

 

「感謝する、アーチャー」

 

「頼んだぞ青年。……ッ、そろそろ限界だ。私を殺せ」

 

「ああ、そうしよう。この宝具は黒打倒の暁、俺の手での破壊を似て貴女への変換とさせて貰う」

 

 

腰から愛用の短刀を引き抜き、正確に心臓に穿つ。せめてこの手で彼女を倒す事が、彼女の懺悔に対する救いになればと信じた。

 

アーチャーの身体が霧散して行く。より霊核に直結している心臓を破壊されれば霊核にもダメージが及び、自然と実体を保つ事が不可能になる。魔力で編まれた肉体は黄金の粒子に還元され、風に溶ける様に流れて行った。

 

 

「ーーールーラー、彼女の名は」

 

「アタランテです。女神アルテミスの加護を受けた、純潔の狩人」

 

それさえ知る事が出来れば良い。天を仰ぎはしない、振り返りもしない。ただゆっくりと、草原を駆け抜けるのみ。

 

 

「分かった。行こう、みんな」

 

 

ーーーーーー

 

ーーーー

 

ーー

 

 

ーーーついに来た。

 

オルレアンの城。辺り一帯に蠢くワイバーン達。そして彼らを統率する邪竜ファブニール。遭遇したサーヴァント全ての反応も確認出来る。まさしく、ここが決戦場。

 

緊張が奔る。身体中の血と言う血が沸き立ち、心臓が跳ねる。生の人間にこの手の場所は重過ぎると言う物。それでも、歯を食いしばり恐怖から来る興奮を抑える。

 

 

先行するは鏡夜、ジークフリート、ゲオルギウスの三名。ファブニールさえ討伐すればワイバーン達の統率は無と化す。可能性の域だが、混乱に陥り互いが互いを屠り合う、との自滅にまで誘い込めるかも知れない。否、どちらにせよこの決戦が此度の戦争の勝敗を分ける。これから待つ各サーヴァント達の戦いに竜は不要。

 

 

「マスター、正直に言う。俺がファブニールを倒したのはまぐれだ」

 

「ーーーおい」

 

「何と……」

 

「殆ど何も覚えていない。ただ一つ言えるのは、あの戦いは無数の敗北から勝利を掬い上げる物だった」

 

 

ああなるほど、確かにその比喩は的確だろう。例えば砂漠の中から一粒の砂を見つけると同義。例えば太平洋に落ちた硬貨を捜し出すと同義。無数に広がる可能性の未来。その中からたった一つある"無損害の勝利"を掬い上げ、この身に手繰り寄せる。そうする事で初めて、ファブニールは倒せるのだろう。

 

大師父から拝借した一級品のルビーを飲み込む。いくら聖杯とは言え魔力量にも限界がある。先刻からの過負荷以上の行使により貯蔵量は七割を切っていた。聖杯から見れば足しにもならないが、鏡夜から見ればルビーに込められた魔力はまさに救いの手。同時に負荷をかける事なく魔術回路を叩き起こせる。

 

 

ファブニールの雄叫びがこだまする。天空を貫かんとする、邪なる咆哮。威嚇の意の表明だろうか、それとも滾る殺意を露わにしたのだろうか。ーーいや、どちらにせよ構わない。こちらが奴を屠ればそれで終了する話だ。

 

 

「行くぞジークフリート、ゲオルギウス。後方支援は任せろ」

 

「頼んだぞマスター。さあファブニール、もう一度眠りに就く時だ」

 

「ええ、お任せします。……邪竜よ、汝に罪ありき。主の祝福を似て汝を浄化せん」

 

 

 

 

ーーー走る。

 

はしる、走る、奔る。ワイバーンの妨害の雨を鏡夜の魔弾と言う傘で遮り、渇いた大地を踏みしめ、彼の邪竜の胸元へ跳躍。竜を殺す神秘を宿す剣の一閃。高貴なる幻想の結晶体の一撃。

 

鏡夜は詠唱を続ける。放出、圧縮、形成の三工程を突破した何の変哲も無い魔力塊の弾丸。いやむしろ、変哲が無いからこそ環境や相性に左右されずの安定した威力を発揮させられる。ワイバーンの火炎を相殺し、無差別にワイバーンを屠り、邪竜の眼へそれらを撃ち込む。

……が、奴らが身を呈した盾となりそれらは届かない。ダメだ、ワイバーンが減ってもファブニールにダメージが無ければ何の意味も無いのだ。あんな下級など特性を持つものなら多少の魔力で召喚出来る。つまり大元を殺さなければいたちごっこ。魔力が無駄になって行くのみ。

 

 

軽く舌打ちをする。マリー、アマデウス、清姫の三名が数多のワイバーンの気を引いているとは言え絶対数が多過ぎる。こちらへ流れて来る個体も少なくは無い。それらの妨害によってーーージークフリートとゲオルギウスは邪竜への接近が困難の物へとなっていた。この時ばかりは、竜の魔女を本気で殴りたくなる。

苛立ちと焦燥が募る。聖杯にも限度があるのだ、待ち受けるであろうこれからの戦闘に回す為にも、()() ()爬虫類如きに手間をかけている余裕は無い。

 

 

それはジークフリートとゲオルギウスも同じだった。走り抜けようにも、雑魚の群れが壁となり盾となる。屠っても屠っても、泉の如く湧き上がる。中には賢く徒党を組んで襲撃して来る個体もあった。いくら下級とは言え侮るべからず、と言う事だろう。

ワイバーン達は本能的な殺意と憤怒、諸々の負の感情を剥き出しにする。常人ならばそれだけで生を失ってしまうかの殺意、強風。英霊の身なら特に何も無いが、仮契約中の彼はそうもいかないだろう。ますます、早期討伐が求められる。

 

ジークフリートはワイバーンを堕とし、その個体を踏み台にして更に上空の個体を墜とす。ゲオルギウスは自身を取り巻くワイバーンを一体一体、確実に斬り裂く。それぞれが持ち得る芸を本能から引き出し、疲労を英気で噛み砕く。

 

火球が彼らを襲う。直線的だが、速度は何よりも速い。相手を燃やす為だけに存在する、奴ら最大の攻撃手段。竜と言う事をこの上無い利点と取った、人間には到底真似出来ない代物。いくら火魔術と言えど、口内から火を吐く事は不可能だろう。

 

避け切れる限りは避け、間に合わぬ物体は剣で裂く。質量を殆ど持たぬそれだが、幻想の結晶体の前には歯が立たぬ。まるで包丁が野菜を切る様に、剣豪が竹林の中の一本を軽々と斬る様に、火球は両断される。彼らの真横を通る半球の火球は着弾した時点で最後の抵抗の小爆発を起こし、霧散。

 

 

否、鏡夜に負担は無い。いやそれよりは、"負担を掻き消す程の胆力が湧き上がっている"と表現して方が正しいだろう。扉を開けた反動か、それとも前の経験がインプットされたのか。鏡夜自身に知る由は存在しないが。

 

ふと、取り零しのワイバーンがこちらへ急速で接近して来るのを鈍化した視界で、本能と理性が確実に認識した。この距離でならば魔弾を撃てば、爆発の衝撃でこちらも無事では済まない。ならばどうするか。思考回路が稲妻の如き速度で回転し、空白鏡夜としての知識と経験が脳内に全面展開される。そして更に、もっと。その奥にある扉を開ける。新しい(古い)何かを(経験を)手に入れる(呼び醒ます)

 

下した命令(オーダー)は理性に伝達される前に、神経を伝わり、疑似神経の魔術回路を奔り、定められたコマンドを肉体に実行させる。

 

 

左腰に提げている短刀の柄に手をかけた。左足を大股に背後に押し出し、腰を据え、詠唱破棄の強化の魔術。腕力と視力を限界まで強化し尽くし、奴が間合いに侵入して来た刹那の瞬間、何にも勝る覇気と雄叫びを振り絞り、飛竜の首をもぎ取った。獲物は力無く大地に堕ちる。

 

鏡夜の短刀は、鏡夜すらその由来を知らぬ。物心ついた時から常にそばにあった半身の様な物。最強の鈍刀。"自身が斬ると強く、靭く決定した物のみ"しか斬り伏せる事が叶わぬ。

逆説。斬ると決意した物は確実に斬る。例え対象が人外であろうと、幻想種であろうと、その決意の前には逆らえぬのだ。

 

 

その僅かな、細い糸の如き時間をジークフリートとゲオルギウスは見逃さなかった。剣を扱う彼らから見ても、あの抜刀斬りは頷ける物。……否、自分達と肩を並べるだろう逸品。

二人は"鏡夜の防衛"を意識の外に放り出した。マスターならば戦える。愚直で冷酷に近い判断だが、それは鏡夜も望んだ事。本来のサーヴァントの仕事の一つ、マスターの防衛。サーヴァントにとってマスターは第二の心臓。絶対に破壊(死なせて)されてはならぬ存在。特に信頼関係を築いたマスターならば、損得無しに守りたくなる。

 

 

実際その感情はあった。いやそれしか無かった。あれ程勇敢な青年をこの様な無意味な戦場で、命のやり取りの中に置いておきたくは無い。あれ程勇敢な青年には、もっと相応しい安全な場所で生きていて欲しい。そしてそこへ帰るまでに、怪我の一つもして欲しく無い。

だからこそこの勇敢さに賭けたのだ。ジークフリートとゲオルギウスは振り返る事無く、背中で語ると勢いでワイバーン達を殺して行く。何度も何度も、英霊の高潔さと英霊の野獣の獰猛さを合わせた芸術品の位に位置する剣技を魅せ、剣を打突し、個体を踏みつける。

 

 

ーーーチャンスは一瞬

 

 

永遠に続くかと錯覚する程の徒労の先。多少なりワイバーンの絶対数が減少した今こそが、奴らを諸共滅ぼす絶好にして唯一の機会。まさに決戦を分ける判定の一撃。

 

 

最高純度にまで精製した魔力、ショートするかの如くまで活性化させた魔術回路。その全てが空白鏡夜と言う人間を次のステージにまで引き上げる。弾丸型の魔弾を太い槍の形状に変化させ、貫通。

 

 

「ーーージークフリート…!ゲオルギウス……!」

 

 

最早理性などそこにあらず。血湧き、血沸く身体の中で微かに絞り出した、頼れる二人の仲間の名を呼ぶ。それが最後の合図。

 

 

「ーーー了解…!」

「お見せ致しましょう……!」

 

 

ワイバーンの死骸によって形作られた道を二人は駆け抜ける。ファブニールの豪炎さえも眼中にあらず。互いが、互いの宝具が一番高威力を発揮出来る最高の間合いにまで詰め入る。

 

方や彼の邪竜を一度屠った、奴からしたら最悪の剣。方や民衆の助けの声に応えた、祝福の剣。どちらも竜を殺すワザの結晶。遺憾無く、解放する。

 

「邪悪なる竜は失墜し…!」

「ーーーこれこそがアスカロンの真実…!」

 

魔力を流す。蒼い魔力の電流が刀身を奔り、形になった神秘を目覚めさせる。それは人々の幻想を骨子とした形ある奇跡。

 

 

「世界は今落陽に至る!」

「汝は竜、罪ありき!」

 

 

いよいよファブニールが戦慄する。ただえさえ片方を喰らえば滅びかけるこの身に、また別の奇跡を重ねられたら……。すなわち、死。

 

 

「いっ………、けぇぇ‼︎」

 

「撃ち墜とす!幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)‼︎」

 

力屠る祝福の剣(アスカロン)‼︎」

 

 

祝福が邪悪なる竜の胸を裂く。 文字通りドス黒い血液がそこから吹き出す。ファブニールは苦痛の呻き声を漏らした。

 

いや、終わらぬ。もう一度あの日を繰り返す。ニーベルンゲンの歌にも記された、邪竜の崩壊。抵抗する間も与えず、最期の抵抗も許さ無い。何よりも強い信念を持ちて、幻想大剣を解放し続ける。

 

ーーー邪竜よ、再び眠れ。

光りが奔り抜けた跡地には、最早彼の邪竜の姿は無かった。




高等学校の試験は流石に怠けたら危ない(落第騎士の英雄譚見つつ)
バトルアニメが始まるとアチャ男か士郎&凛か腕士郎辺りを突っ込んだ妄想をするクセあり。

はい、ファブニール討伐です。筆が乗ると物凄い勢いで進むのが私の特徴。スタミナか切れると番外編に逃げるのも特徴。

次回はエリちゃんvsばば…カーミラさん、モーさんvsヴラド、アサ子&マリーさんvsデオンを一気に。そいでその次がvs黒ジャンヌ、次の次の次が二章終了の話ですね。お付き合いください。

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