視認した物、出来事、事象の全ての鏡像を作り結界内に記録する。その際出来事などカタチの無い物は本などの仮の形式が取られる。
宝具ならば真名解放も可能。ただしこちらは無限の剣製とは違い、鏡像自体を結界内から取り出す為壊れたらそこでお終い。もう一度視認すれば鏡像の復元は可能。
固有結界を展開すれば鏡像を取り出す手間が存在しない、取り込んだ者の全てを理解する、の二つのメリットが得られる。
ぶっちゃけやり過ぎかなあ、と思ったので没に。
あ、やべえ。没ネタから本採用ネタにシフトチェンジしたくなって来たぞ……。
これ程自分の無力さを呪った事は無い。
どうにか全速力で駆ける事により、近隣の街にいたモードレッド組と合流する事が出来た。新たに二人程サーヴァントが増えているが、目的が同じなら拒む必要が無い。
ーーーまだ間に合う
時間にして約五分。たったの五分で合流が現実に成ったのだ。もう五分かければマリーの下へ戻る事が可能。彼女程の人物が、十分でやられている訳が無い。まだ間に合う。しかし……。
オーバーロード。これ以上の魔術行使は身体に許容量を超えた負担をかける。暫く身体を休めない限り、最早強化の魔術すら叶わず。今だって立っているだけで限界だ。
それでも、助けたい物がある。助けたい人がいる。今ここで彼女が散るのは、彼には許容出来ない。全てを終えた刻、彼女は、マリー・アントワネットはヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトと共に座に還るべきなのだ。今ここで彼女だけが還るのは到底、許容出来ない。
感覚を研ぎ澄ませ。慎重に流れを読み、持ち得る武器を整理しろ。何がある、何を使えば良い。何をどうすれば。
…いや、あるじゃないか。今この瞬間に使わなければどうする。何の為の呪いなのだ。限定された奇跡の再現。それを使えば、どんな不可能さえも超越出来る。後はどちらに命じるか。
モードレッドだろう。本格的に武の達人と打ち合えるのは彼女のみ。アサシンは優秀だが、その本質はやはり暗殺。正面切って敵サーヴァントと戦わせるのは酷だろう。
「ジャンヌ、令呪を出せ。モード用のな」
「はい…?何をする……ってまさか⁉︎」
「おうそうだ。当たり前だろ?」
ーーーマリーさんを助ける。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「なんだ、もう一人の私は逃げたのですね。情け無い」
「違うわ。彼女は希望を持って行ったのよ、竜の魔女さん」
身体が震える。眼前の竜の魔女は自分よりも遥か格上。本格的な戦闘に移行すれば、果たして数分持つか持たないか。
確かに怖い。けれども立ち向かう。この身はフランス王妃。民を愛し、国を愛し、そして民と国の為に死ぬのなら本望では無いか。そう自分を奮い立たせる。
彼女は忌々し気な顔を見せたまま。あくまで自分は取るに足らないと視界に入れぬかの様に、それでも確実にこちらに殺意を向けている。今の彼女にとってはいけ全てが敵で、全てが有象無象。視界に入ったものを滅ぼすだけなのだろう。それは敵がマリー・アントワネットでも変わらない。
ーーー少し悔しいかも
どうせなら王妃を討ち取れる事に悦びを見せながらーーーその方が格好良く散れるのに。少しは先程打倒したサンソンを見習って欲しい物だ。
「まあ良いでしょう。貴女がマリー・アントワネットであろうと何であろうと、立ち塞がるのなら消します。私の炎で、私の憤怒で」
「……やっぱり貴女は怒っているのよね。うん、きっとそう。だってあんな仕打ちを受けて、恨まない人間なんていないもの。けれど、それでも聞くわ。貴女は誰?竜の魔女」
「……黙れ!」
心臓が跳ねる。心の中で彼、アマデウスへの謝罪を述べた。もう会う事は叶わないだろう。英霊の座で互いの座を見つけられれば違うのだが、あの無駄に広い空間ではそうもいかない。
こちらも宝具を展開する。ああ、叶うなら彼のピアノを聞きたかった。いや、今思えばすれ違ってばかりだった。彼のピアノを聞けないのも当然、運命だろう。ならば後はフランス王妃らしく、最後まで足掻き、死を受け入れるまでーーー。
「おいモード!失敗したら永劫晩飯抜きだからなッ!」
「そりゃないぜキョーヤ!
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「……また、貴方ですか」
心の底からの感想だった。あの日以来妙に自分の脳裏に浮かび、更にこうしてライダーの殺傷までもを妨害して来る魔術師の男。取るにならないはずなのに、どうにも気にかかる。
故に悪態を吐きたかった。出何処の分からない感覚ではあるが、何故か自分はこの男に負けている気がする。もちろん、そんな事実も記憶も記録も歴史も無い。ーーああ、確かにファブニールの時は敗北とも言うか。
彼は顔をしかめる事無く、皮肉気な薄らい笑みを見せ言葉を返して来た。彼の背後には白銀甲冑の騎士。そして二人に守られる様にマリー・アントワネット。
さあどうするか。このまま宝具を解放して諸共焼き尽くすか、それとも上手く立ち回りマリー・アントワネットを消すか、それともあの男を捕らえるか。どれか一つの未来なら確実に手に入る。
ーーーいや消そう
そうすればこの苛立ちも、記憶にかかる不快感も全部、全部消え去るだろう。手に持つ竜の旗をもう一度前に突き出し、真名を唱える。この身の宝具は魔女の炎。生前の自分を焼いたのが聖なる炎なのならば、それの対極に位置する物。正邪関係無く焼き尽くす憤怒の化身。例えあの男自身に怒りも恨みも無くても、命中すれば灰に還る。
「
ーーー来るか
正直な話妨害すればそれで撤退するかと思っていたが、現実は正反対だった。彼女はもう自分達を処分するらしい。
軽く舌打ちをする。もう限界だと言うのに神は、天は、彼女はまだこの身を痛めつけるつもりか。率直に言えばもう魔術の行使は懲り懲りだ。
けれども、彼女の宝具が何であれ、防ぐ手段を持つのはこの身しか無い。魔術回路の数本は惜しま無い方が良いか。
「
もしかすると、祖母は自分が聖杯戦争に参加する事を想定していたのかも知れない。まさかこれ程燃費の悪い鏡が、まさに絶体絶命の状況に希望を灯す役割を果たしたのだ。
先刻より稼働状態を継続していた魔術回路がとうとう悲鳴を上げる。今すぐ魔術行使を中止せよと警告を発する。それを受け取った本能が詠唱を続ける口を塞がんと電気信号を送る。
それでも、やめない。やめたら負けだから。子供の我儘の様な、それでも純粋過ぎる理由。今まで
鏡夜の眼前に三枚の鏡が展開する。それは先刻の青とは違い、草原の如き新緑の鏡。一枚一枚が互いと接続され、一種の巨大な盾となる。黒い彼女の真名解放完了と同時に、鏡夜自身の詠唱も終了を迎え、鏡は刻み付けられた奇跡を再現する。
「
「
その光はある意味、信念の現れだった。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「なんて……ことよ…」
認めない、認めたくなかった。何故、真名解放し魔女の炎を引き起こしたのに彼は生きて…それも傷一つ無いのか。
それも全てあの鏡だ。思えばファブニールの炎を反射したあの鏡とは色が違う。また別の物を取り出したのだろう。…否、今は鏡の種類などどうでも良い。彼らに向けられた炎は何処へ行ったのか。
大地も焦げていない。建築物も燃えていない。人も焼けていない。おかしな話だ、まさか炎は異次元に消えたとでも言うのか。いやそうだろう、その表現がこの現実を表すに一番的を射ている。何かに吸い寄せられる様に、我が炎は失せた。
また、あの男だ。
今もサーヴァントを背後に、自身に対峙する愚者。サーヴァントを道具として見ていないのか。笑わせる、そんな偽善者は一番毛嫌いする人種だ。愚かだった小娘の頃を見せつけられいる様で、本当に不快だ。
ーーーああ不快だ。何もかもが不快だ。
気が乗らない。マリー・アントワネットの処分は次に持ち越そう。今は城に戻り一眠りでもしたい。そうで無いとこの不快感を忘れる事は出来ないだろう。
過去も、街も、人も、サーヴァントも、男も全てが不快だ。今すぐに滅ぼしたい蹂躙したい。特にあの男。このまでやってくれたのだ。この身自ら焼かなければ気が収まらない。
けれども。
そして。
ーーもう一つ、認めたくない事がある。
あの鏡の光に、安堵と救済を覚えてしまった。
すまない、駆け足気味だ。
恒例?店長の鏡2種類目です。性質は何なのか、是非予想してやって下さい。後1種類残っていますが、本人曰くクソッタレな鏡らしいです。
マリーさん生存。店長もイワークする事なくモードチームと合流出来ます。なお店長の魔術回路は死にかけの模様。店長の仕事は死にかける。