ーーー語るべくは無い。
強いて言うならオケアノスはよ(シルベーヌ美味い)
鏡夜が召喚したアサシンは本当に奇妙な英霊だった。彼を見るなり三つほどの質問を投げかけ、全てに本心と事実で答えると急に満足してうんうん、と頷く。
その意図を問うてみると、どうやら彼女は魔術師と聖杯が嫌いらしい。その点で言えば鏡夜は魔術師では無く魔術使い。更に聖杯にかける願いもなく、破壊か回収が目的。それが彼女には合格らしく、あっさりとマスターとして認められた。聖杯を魔力タンクにしている事は妥協してくれるらしい。
アサシン、真名は英霊となる際に捨てた為存在しない。否、正確には存在するのだが、最早誰も覚えていない。ある意味"アサシン"こそが彼女の真名。本人はハサンの名を継げなかった出来損ないと自嘲していた。真名がハサンでは無いのはその事情故だろう。
「つまりお前は歴代の長の全ての業を使えるって事か」
「うん…。私にはそれしか出来なかったから…」
いや、と鏡夜は語尾の弱いアサシンへ発破をかける。鏡夜は"真似"と言う行為に強い尊敬と嫌悪を抱いているのだ。"真似しか出来ない"と自分を卑下するのは間違いだと彼は考える。
「すげえよお前!全部真似したって!」
「……え?」
「いややべえわこの子。もうアサシンだけで良くね?が始まりそう。俺の実家も真似ばかりしてるからさ、その行為の凄さと穢さがよく分かるんだ。お前は誇っていい。お前のそれは間違い無く信仰心の結晶だよ」
すると照れ臭そうにそっぽを向いたアサシン。まさか褒められるとは思っていなかったのだろう。きっと不意打ちだ。
しばらくアサシンとコミュニケーションを取っていたいのだが、時間が無いの事実。まずは召還サークルの外に出て周囲を確認すべきだろう。
…見渡す限りの草原。昼下がりの肌に優しい気温とそよ風。どうやら当時のフランスの地で間違いは無いようだ。少なくとも現代では、この様な美しい草原には中々お目にかかれない。
ふと上を見上げる。きっと空も美しいのだろう、そんな軽い気持ちの行動だった。
「おいお前ら、上を」
「上ですか?一体何が…、…⁉︎」
「オイ、何だアレ?」
「大きな…光の輪?」
衛星軌道上に展開し、この地から遥か先までの地の天空で輝いている大輪を発見した。妖しく光る輪、それが何なのかは彼らには分からない。いや少なくとも、この時代でこの様な物は観測されていないはずだ。ならば聖杯の影響か、何者かの魔術式か。答えは出ない。
視認しても特に身体に害が生じない事から、どうやらまだ待機段階の物だろう。だがそれは本能的な警告を彼らに伝える程の圧力を有している。…アレは、危険だ。
だが対処のしようが無い。地上に存在するならまだしも、それが位置するのは遥か天空、成層圏の先。手の届かない範囲に無いのならば、誰も何も出来ない。苦虫を噛み締めた顔を浮かべながら、鏡夜は輪に手を伸ばす。
「せめて俺の手の届く中にいるなら……アレは
「ありませんね」
「賛成だな」
「私も賛成…」
異論は無いようである。何事も情報収集が優先だろう。この時代ならば百年戦争は比較的穏やかなはずなので、街にも多くの生ける人々がいるに違いない。
道中、軽く狂乱しているどこかの兵達に襲われたが、全員峰打ちにしてそこら辺に放置したので問題無いだろう。間違っても殺めてしまった兵はいない。はずだ。
先陣を切って気配遮断の活用でルートを探索してくれていたアサシンが、どうやら何かを発見したらしく高速で帰還した。聞けばボロいが砦を発見したと言う。しかも生きる人間が多数集まっていると。アサシンの頭を軽く撫でつつ、示してくれたルートを進む。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「これは……ひどいな」
「どこもかしこもズタボロじゃねえか。こりゃあ使い物にならねえな」
元々アサシンがボロいとは言っていたが、最早この有様はボロいでは言い表せ無い程に傷み、抉り傷を付けられ、まるで羅生門の如く朽ち果てている。ここにいる兵達も士気を上げ集結した…と言うよりは逃げ延びて来たか、死に場所をここに選んだか。その様な程に萎えきっていた。
そんな彼らに鞭を打つようだが、話を聞きたいと思う。何か少しでも有益な情報を手に入れられれば、可能性の域だが彼らの手助けを出来るかも知れない。そんな淡い期待を持ちつつ、近くに座り込んでいた一人の兵に声をかけた。ジャンヌ達は念の為近くの木陰で待機をさせている。
「失礼。俺は旅の者です。ここで一体何が?」
「旅人?ああ、あんたも不幸だな。この砦は"魔女"の手で焼かれちまった」
魔女。その言葉が気にかかる。この時代に魔女と呼ばれた人間は居ないはず。…いや、彼女を嫌う人間が彼女をそう呼んでいる可能性は捨て切れないが。
「魔女…ですか?」
兵は力無くその言葉に首を縦に振った。肯定の意。こちらの疑問を察したのか、兵の口がもう一度言葉を放ち始める。
「ジャンヌ・ダルク様だよ。あの方は悪魔と契約して蘇ったんだ。髪色や服装はかなり違うが、それでもあの方はジャンヌ様だ。イングランドは撤退したってのに、俺達は自国でも帰る場所が無いんだよ。クソッ‼︎」
ーー耳を疑った。それはおかしい…、否、確率としては天文学的数字の物だ。彼の語り振りから、現時刻がジャンヌ・ダルク死後の物では間違いないだろう。彼女は死ねば英霊の座に招かれる。いや、そんな死後間も無い時間でジャンヌ・ダルクは呼び出されるのだろうか?
答えは否に近い。魔術師が意図的に、彼女の聖遺物を持てば召喚は可能だろうが、察するにそれを行おうとする人物はいないだろう。いてもその者が聖杯無しにジャンヌ・ダルクを召喚出来る道理が無い。この時代にある聖杯に接続されているのならば話は別だが。
それにおかしな話だ。彼女は生前死後も人を恨んだ事が無い。少なくとも彼が知るジャンヌ・ダルクはその様な人物ではない、正真正銘の聖人。そんな人物が自国の砦を焼くだろうか。動機としては復讐が相応しいが、それもまた奇妙。兵に礼を伝え、木陰に隠しておいたジャンヌ達へ合流する。
「私が……?」
「一応確率としてはある。…が、どうも理解出来ない」
「だろうな。コイツが恨み衝動的に仲間の砦を焼くなんて考えられねェ。偽者か、あるいは……」
「"ジャンヌ・ダルクが魔女"との信仰が具現化した、もう一人のジャンヌ・ダルク…」
推測はいくらでも出来るが、答えは本人に会わなければ導かれない。優先目的は決まった。そのジャンヌ・ダルク…便宜上黒ジャンヌと呼称するに会おう。彼女の存在が聖杯に関係しているかも知れない。
ふとアサシンがピクリと身体を跳ねらせ、北東の先に視線をやった。何かを感じ取ったのだろう。
やがてアサシンの視線の先から黒い点が視認され、それらはだんだんと大きくなっていた。つまり、こちらに接近しているのだ。
…いや、あり得ない。何故あの様な生物が飛行しているのか。ここが神代ならば理解出来るのだが。おかしい、おかしいおかしい事しか続かない。
「ワイバーン…?」
空想上の存在、最強の爬虫類。その派生であるワイバーンらしき生物は、確かにこちらへ侵攻して来ていた。あのホネとは一線を画す、バケモノである。
もうダメだあ……、(ギャグパートが)おしまいだぁ……。
今回とうとう店長の魔術に関する伏線的な何かが。本格的に店長の魔術が活躍するのはもう少し後です。
清姫(嘘つき焼き殺すガール)が可愛い。でも店長のヤンデレ枠はもう埋まっています。狐ではありませんよ。
明日から地獄の一週間のスタートですね。皆様、何が何でも生き抜きましょう。私は体育と言うそびえ立つ壁ががが……。
強化だけで良いので魔術を下さい(懇願)