喫茶店経営している場合じゃねえ   作:気宇

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シルバーウィークが終わる。やめろー!こんなの人のする事じゃあ無い!何故休みを取り上げようする!やめろ!まだ学校に行きたくは無い!学校に行ったら執筆出来なくなる!

プーさん蹴るなぁァァ‼︎

私の発狂は無視してください。


大聖杯前

止む事の無い剣の嵐。正面を切る突破方が存在しないこの状況の中で、ある"裏技"を考えついた鏡夜。二人の賛同も得られた事で、全てがセイバーにかかっているその作戦を展開せんと動いた。

 

 

「ルーラー!」

 

「はい!令呪を持ちて、汝セイバーに命ずる!アーチャーの背後に転移しなさい!光の速さで‼︎」

 

 

瞬間、モードレッドの身体がジャンヌと鏡夜の背後から消え、アーチャーの真後ろから何も無い空間を裂いて現れ出でる。

 

 

令呪とは三画の命令権であると同時に、サーヴァントに対し奇跡を引き起こす事を可能とする赤い呪い。命令内容をより具体的に絞れば絞る程、より奇跡に近い現象が引き起こされる。

 

その点、「◯◯の背後に転移せよ」と言ったこれ以上無い程の具体的な命令は、令呪で引き起こす奇跡の中でも最上位の正確さを発揮出来る。速度は神代の空間転移魔術以上。

 

更に今回の場合、ジャンヌの「光の速さで」と言う条件も加わり、彼のアーチャーすら出し抜ける程の転移速度を記録した。光の速さでは一種のものの例えなのだが、儲け物だろう。

 

 

「背後はもらったぜ、アーチャー‼︎」

 

「っ……‼︎」

 

 

咄嗟に振り返ったアーチャーは夫婦剣を投影するが、その全工程を踏み終えた瞬間には、モードレッドの握る短剣が自身の心臓まで残り数センチメートルの所にまで到達してしまっていた。

 

 

理性ではその剣を受け入れたいものの、聖杯からの命令がそれをさせない。左足で強く地面を踏みつけ、全体重を後方に預け、僅かながらの回避成功の確率に賭ける行動を取った。

 

 

「ぬぅ…!」

 

「メシの為にとっとと死ねええぇ‼︎」

 

「動機が不純過ぎるぞ!」

 

 

アーチャーの叫びも虚しく、モードレッドが握り締めてきた短剣、「破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)」は正確にアーチャーの霊核を捉えていた。

 

アーチャーの周りから薄黒い何かが蒸発する様に大気中に放出され、彼は力無くその場に倒れ込む。出血は、無い。

 

モードレッドは首をかしげる。マスターから預かった短剣は自身の手によって確実に弓兵の霊核を貫いたはずだが、何故かそのアーチャーの胸から血が吹き出していないのだ。いや、傷口すら無い。返品推奨の不良品かと考えてしまう。

 

 

「なあ、マスター。これ不良品だぜ」

 

「いや、それ魔術破戒だから。攻撃性が無いんだ」

 

「なるほど。おい弓兵、起きろ。じゃなきゃぶっ飛ばす」

 

 

暑苦しくなったのか、モードレッドは自身を秘匿する兜を脱いだ。その素顔を目の当たりにしたアーチャーは倒れたまま、顔に出る程の衝撃を受けた。その顔に見覚えがある。摩耗した記憶の中でも数少なく、自身が強く魂にまで刻みつけていた彼女と瓜二つなのだから。

 

そこでアーチャーは大体を理解したのか、小さく笑い始める。その様子にモードレッドが口を挟まないはずがない。

 

 

「なるほどな。道理で…」

 

「オイお前、何ぶつぶつ呟いてんだよ。気持ち悪りィ」

 

「いや失敬。色々と似過ぎているのでな。思わず笑いが込み上げて来てしまったよ。しかしどうやら、言葉遣いは正反対らしい」

 

 

彼の言葉の意味が理解出来なかったモードレッドだったが、ひとまずはアーチャーが何もして来ない事を直感で判断し、マスターとルーラーを手招きで呼ぶ。

 

 

「アーチャー、魔力の残量は?」

 

「そうだな…。1日単独で行動できる程は残されている」

 

「オーケー。念の為この宝石を」

 

 

鏡夜から手渡された特大のルビーを見て、アーチャーは意図せずその目を見開いた。宝石に関しては素人の彼の目から見てもそれは特上品であり、日頃から経営に悩まされていた鏡夜がとても、手が出せる物では無かったからだ。いかにして入手したのか、その経路が気になる。

 

 

「鏡夜、この宝石は?」

 

「ん?ゼルレッチの爺さんから借りた物だけど?」

 

「キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグから…?」

 

 

なるほど、確かに彼の宝石爺ならこれ程の宝石を所有し、他人に貸す程の余裕は持ち合わせているだろう。そしておそらくここに彼らを派遣したのは他でも無いゼルレッチだ、と彼は推測する。面倒事だと同情したのは当然だろう。

 

 

「いよしアーチャー、とりあえず状況説明するわ」

 

「頼んだ。私は聖杯からの配分知識しか持ち合わせていないのでな。何故私とセイバーが召喚されたのか、理解していない」

 

「そこら辺含めて全部知ってるから安心しろ」

 

 

語られたのはおよそ耳を疑う内容だった。前半はすんなりと理解出来たが、いきなり人類の未来が消滅したとか伝えられても耳を疑うのみである。現実なので文句の言いようは無いが、アーチャーの理解が多少遅れたのは致し方あるまい。

 

とは言え、信憑性が皆無な訳でも無い。それを指し示す物証こそ無いものの、この状況で嘘をつく必要がない状況証拠ならある。それに何より、彼との信頼関係がアーチャーに事実を刷り込ませた。

 

アーチャーはゆらりと立ち上がり、鏡夜に協力する旨を伝えた。鏡夜の都合上、契約自体は不可能だが、そんな事をせずともアーチャーは頼りになる。土壇場でこちらを裏切るなどはありえない。尤も、ジャンヌが二画の令呪を有しているので、先程のモードレッドと同じく奇跡の再現は可能だ。

 

と、そこで、鏡夜が一番気にしていた事をアーチャーに問いかける。「セイバーの真名」。共に大聖杯を守護していたのなら、可能性の域を出ないが、アーチャーがその者の真名を把握していると言う事象もある。特にこのアーチャー、剣を解析する事は他の誰にも引けを取らず、平常で英霊の剣すらも解析してしまう程の得意な才能を持っている。

 

セイバーは剣の英霊。彼もしくは彼女の剣を見ていれば、その特性から知識の海を検索し、候補人物をあげることがアーチャーには可能だ。アーチャーはもったいぶらず、覚悟していたかの目つきで事実を述べた。

 

 

「私達にとっては最悪の敵だよ、鏡夜。アーサー王、アルトリア・ペンドラゴン。それが此度召喚されたセイバーの真名だ」

 

 

 

ーーーーーー

 

ーーーー

 

ーー

 

 

ーーモードレッドは酷く歓喜に打ち震えた。生前最も敬愛し、最も憎んだ最愛(最悪)()、アルトリア・ペンドラゴン。彼がこの現世に、しかも目と鼻の先に召喚されているのだ。

 

 

ーモードレッドは酷く歓喜に打ち震えた。生前、自身に見向きもしなかった麗しき父。淡い希望だが、同格のセイバーとして対峙すれば一言、自分を息子と呼んでくれるかもしれないからだ。

 

 

小さく、それでいて強い笑い声を零し、対アーチャーの為に秘匿していた聖剣クラレントを呼び出し、背中に担ぐ。父の星の聖剣には及ばぬものの、クラレントはモードレッドが頼りにする程の性能を有している。強奪された所以を持つ故に、本来の性能のほぼ全てが停止してしまっている聖剣クラレント。だが唯一、増幅の機能だけは生きていた。

 

今こそ宝具を解放する瞬間(とき)だろう。待ち受けるであろう父との剣戟に、あわよくばの会話に、性別に似合ったときめきで胸を焦がしながら、先陣を切ってモードレッドは進む。

 

 

「マスター、次はオレだけでやらせてくれ」

 

 

ーその言葉の意味を、鏡夜は理解出来る。

 

 

モードレッド、叛逆の騎士。伝承ではアーサー王と姉の不貞により生まれた子……らしいが、アーサー王が女性の時点でその伝承は虚偽と化している。双子レベルで瓜二つな顔。料理の好み。息子、娘と言うよりはクローンに近い。

 

だか彼女の生がどうであれ、王に息子として認めて貰えなかった事実に変わりはない。父に認められたいが故にあれこれと尽くし、王位を継承出来なかった彼女は叛逆した。

 

無言でモードレッドの言葉に頷く。ここから先は彼女の叛逆。何者にも侵し難い、彼女の希望を掴む物語。

 

 

 

ー大聖杯の輝きが見える。その目前、黒い鎧に身を包んだ騎士が、漆黒の聖剣を大地に穿っている姿があった。彼女は鏡夜の到達と同時にゆっくりとその目を開き、自らが敵を見据えた。

 

 

水晶色の瞳と黄金の瞳がぶつかる。しばしの沈黙を挟み、先手で言葉を発したのはアルトリアだった。

 

 

「良くぞ参られたキョウヤ、オルレアンの聖女。そしてどら娘よ」




背中が痒いよ。こんな時に呪腕のハサンのあの腕は便利なんだろうなあ。まさに痒い所に手が届く。


一応8話、序章終了までは毎日投稿が可能です。と言っても後2話なんですけどね。それ以降は感覚が生じますが、お付き合い頂ければと思います。それでは、また次回。

追記
お伝えし忘れていましたが、カルデラは何とか生きてます。ぐだ、マシュ、ロマン、ダヴィンチと十数名は無事です。

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