そうか、皆様はそこまで私の裸どじょうすくいが見たいのですね。え?見たくない?失礼いたしました。
冗談はここまでにして、本当に感謝感激です。これからも精進していく所存です。どうぞよろしくお願いいたします。
ーーーその先は
大聖杯の降臨する大空洞。そこは天然の洞窟を魔術で改造した一種の、半人工的自然要塞。大聖杯の起動が不十分な事が幸いしたのか、今の今まで敵らしきものとは遭遇していない。
「敵、いねえな」
「いませんね」
「お前ら血の気が多いなオイ」
ここで現在の鏡夜のパーティを確認してみよう。
まずはマスター、空白鏡夜。ジャンヌとモードレッドの二重契約をしている、そこそこ実力はある魔術使い。幸運はD。
ジャンヌ・ダルク。とある方法を経て受肉している為霊体化が不可能。だが宝具と啓示は健在。幸運はC。
モードレッド。彼のアーサー王とも互角に渡り合える実力を有している、このパーティのメインアタッカー。幸運はD。
つまるところ全員幸運値が微妙なのである。まだEでは無いだけマシだろうが、本当に気休め程度にしかならない。そんな低い幸運値でウロついていたら召喚されたであろうセイバーかアーチャーにバッタリ出会す可能性があるのだ。こちらとしてはサクッと大聖杯を破壊するか取り込むかしたいので戦闘は避けたい。
ーーそこで何をしている、貴様達
その声に感想を抱く間も無く、鏡夜達の周囲を無数の剣が包囲する。三人の目から見てもそれら全てが"宝具"と言う事は理解出来、流石のモードレッドも戦慄を感じた。
射出されぬ剣の矢。コツコツと洞窟を靴が蹴る音が響く。暗がりの向こうから現れたのは赤い弓兵。その手にはしっかりと白黒の夫婦剣が握られている。弓兵を鋭い目つきで睨むジャンヌとモードレッド。その中で鏡夜だけが、場違いな感想を口にした。
「何だお前、黒服とか似合わねえぞ。髪下ろしちゃって」
「む……。仕方が無いだろう。突然この姿で呼び出されたのだ。私も赤原礼装が恋しい」
「投影しろよ。あ、待って。やめて」
唖然とするジャンヌとモードレッド。そんな彼女達をよそ目に、鏡夜は再会した釣り同盟の仲間との会話を続ける。
「おいアーチャー、この剣の矢どけてくれよ。殺す気か」
「私自身君達を害するつもりは無いが…聖杯に縛られているのでな。鏡夜、何とかして欲しい」
なるほど。理解する。おそらく今のアーチャーにはこの矢を消去する程の抵抗力は残されていないのだろう。こうして会話の余裕を作る為に射出を抑える事で精一杯なのだ。ならばアーチャーのその小さな抵抗を無駄にしてはならない。
三人を取り囲む剣の檻。これらをアーチャーの抑えが保たれている間にどかす事は不可能だろう。ならばこの隙にジャンヌの宝具を使用させる事が好ましいだろう。
「
「セイバー、剣は抜くなよ」
「どうしてだ?」
「奴は…アーチャーはあらゆる剣を解析出来る。だが奴は今の時点ではお前を知らないはずだ。それは絶対的なアドバンテージとなる」
そう、自身の記憶が確かなら、アーチャーはモードレッドを見た事が無い。可能性としては平行世界に呼び出された時に…と言う事も捨て切れないが、どちらかといえば知らない確率の方が高い。ならばむざむざ手の内を明かす必要は無い。
モードレッドは騎士道など知らぬを突き通す人物だ。勝つ為なら命と同等に価値のある剣を投げつける事も、空中で敵を踏み台にする事も平然とやってのける。
助言通りモードレッドは剣を呼び出さず、代わりに鏡夜の強化短刀を使う。無論宝具でも無いその短刀が役に立つ事は無いだろうが、ブラフ程度にはなる。
「鏡夜、そろそろ限界だ」
「オーケー。ジャンヌ、頼んだ」
「お任せを。…我が旗よ!我が同胞を守りたまえ!」
力強く聖旗を天へ掲げ、祈りを声に出す。
ー奇跡は舞い降りた。
「ッ……!」
鏡夜達へ向けて射出される宝具の山。それら一つ一つが贋作だとしても、害するには十分過ぎる程の神秘を有している。
だが、それらはアーチャーの目論見通りには、正確には聖杯を起動させた者の目論見通りにはいかず、次々に何かに阻まれ鏡夜達の周りへ墜ちる。ジャンヌの結界は宝具であろうと問答無用に弾き飛ばすのだ。
数秒の剣の嵐。吹き抜ければしばしの沈黙がこの場を包む。モードレッドとジャンヌはいかにして宝具の山を斬り崩すかを脳内でシミュレートし、鏡夜はいかに彼女達の邪魔にならぬバックアップを行えるかを模索する。
ーーその静寂を打ち砕いたのはやはり、叛逆の騎士モードレッドであった。
駆け出し、跳躍。この三次元的な機動こそがモードレッドの個性であり、彼女の強みでもある。おそらくレンタル品だと言う事は頭から抜け落ちているだろうその短刀を思い切り振り下ろした。
重厚な鎧を纏うその姿に反して、軽快にこちらへ詰め寄ってくるその姿に弓兵は多少なり衝撃を受けたものの、止まらない。即座に夫婦剣を交差させ、できたミゾで短刀を受け止めた。
だが、重い。
騎士王の彼女とはまた違った重さがこの剣にはある。一見乱雑に見えるその手捌きだからこそ、風貌から騎士の戦いを想定していた弓兵を出し抜けるのだ。
刃が交わる音が響く。モードレッドはその手の軌道を大回りに、時に小回りと器用にフェイクをかけながら、弓兵の胸板を抉らんと襲い掛かる。対するアーチャーは黒の剣でそれを捌き、時に受け止め、白の剣でモードレッドの首を狙う。
アーチャーの剣は凡人が研鑽の末に辿り着いた物。それは天賦の才を持って生まれて来た騎士王や叛逆の騎士から見ても頷けるものであり、同時にまたとない強敵となっている。
だがしかし、その強敵だからこそ、モードレッドのやる気に火がつくのだ。
逆説、モードレッドも一対一の勝負に拘っているわけでは無い。要は何をしようとぶつかり合いの末に自身が立っていれば良いのだ。
モードレッドの野生の本能とも言える直感が響き、アーチャーの血の滲む努力の果てに宿した心眼が機能する。お互いのスキルがお互いの次手を読み合い、予測し合い、剣戟を半永遠に続けさせる。
才能の壁を修練のみで乗り越えたアーチャーの剣技はおよそ弓兵らしかぬ物であり、またモードレッドが対峙経験の無い型の武術である為、彼女は描いた通りの斬撃をアーチャーに刻みつけられずにいた。
それはアーチャーも同じ事である。やはり凡俗にとって天才は天敵以外の何者でも無く、また乱雑そうに見えて実際は精巧に研ぎ澄まされたモードレッドの剣技に、アーチャーは僅かながら押されていた。
数字にして51%vs49%。本当に微々たる差でモードレッド側に軍配が上がりかねない状況の中、更に彼女を三歩先に行かせる為の仕掛けが発動する。
「……!」
「形振り構っていられないのです、お許しをっ‼︎」
割り込んで来たのはジャンヌ・ダルク。意識をモードレッドと剣に向けていたアーチャーはその存在に、彼女の持つ旗の剣が、僅か数メートルしか残されていない圏内まで侵入されるまでに気がつかなかった。逆に言えば、それほどモードレッドがアーチャーにとって得難い難敵なのだ。
咄嗟に高く跳躍。ヒットこそ避けたものの、そこへ追撃の散弾。流石のアーチャーも回避直後に重ねて回避運動を取る事は不可能だった。
残念な事にアーチャーの対魔力はD。一工程の魔術なら無効化出来るが、約三工程を踏み撃ち放った魔力弾はせいぜい、威力を削る事で止まってしまう。
「ぐっ……!」
「セイバー!ルーラー!そこを狙え!」
待ってましたと言わんばかりにモードレッドとジャンヌがアーチャーと対等の高度まで一思いに飛び跳ね、モードレッドは彼の腹に短刀を穿ち、ジャンヌは旗を振り下ろした。
岩の床の上で弓兵の身体が跳ね、全身にまで傷と埃が刻みつけられている。短刀が穿たれた腹の傷口からは鮮血が流れ出ており、これだけでも相当のダメージを与える事が出来た。
しかし違和感。確かに三対一の数の暴力で押しているが、彼の弓兵がこうもあっさりと大傷を負う事は考えにくい。たしかにサーヴァントのスペックとしてはアーチャーは平凡の域を出ないが、それは飽くまでカタログ。実際の彼はケルトの大英雄やブリテンの騎士王、神話の大英雄とも戦いを繰り広げる強者。が、そこで思考を中断する。
「っ……」
アーチャーが立ち上がった。投影した長い剣を杖代わりに、腹の短剣を引き抜きこちらへ投げ返す。息も絶え絶えだが、まだ彼の目は死んではいない。
「へっ、まだ立ち上がるか。その根性は見上げた物だな」
「すまないなセイバー、今の私は聖杯に近づく者を駆逐する様プログラムされているのでね。中々どうして、思考とは別の行動を取ってしまう」
再び投影される無数の宝具。聖杯が近接戦では勝ち目が無いと判断したのか、アーチャーに更に上回る物量で殺せと命令したのだろう。アーチャー自身も夫婦剣から本来の役柄である弓を持つ。
先程の檻と同等。いや、それ以上。彼の魔力が尽きぬ限りは、その投影は継続される。だが今の彼のマスターは意志持たぬ魔力の塊、聖杯。投影の終了を待つ事は不可能。必然的に剣の嵐を潜り抜ける必要性が存在して来る。
アーチャーの弓から放たれた、捻れた矢を筆頭に、続くのはさしずめソードストーム。それらに技巧や作戦は存在せず、ただひたすらに直進するのみ。
ジャンヌは踊り出、再び旗を掲げ、自らが主と同胞を守る結界を再展開した。だが彼女に「啓示」が降りる。このままでは負けると。
しかし打つ手が無い。聖杯との繋がりを断つ事が出来れば、アーチャー自身を縛る排除の呪縛を消去し、宝石を飲ませれば味方に引きずり込める。だがそんな、契約を破棄する礼装など存在しない。
ーーー訂正。一つだけ存在する。ここからは賭けだ。聖杯の介入無しに、アーチャーが投影したソレを自分達の誰かがアーチャーに穿つ事が出来たならば。そして三秒程結界無しに投影の嵐を遮る方法があれば、その目論見は成功する。
「アーチャー!ルルブレ寄越せ!さっさと投影しろ!」
「……!賭けてみようか。
投影された奇妙な姿をした短剣を、アーチャーは結界の真横に投擲する。そこに手を伸ばし回収。この中で一番突破確率の高いモードレッドへと託した。条件の一つ目はクリア。もう一つ。この嵐を潜り抜ける術さえあれば。
少し待て、頭を冷やせ。現在自分を取り巻く事象を整理しろ。
何故失念していた。こちらの陣営には"裁定者"がいるではないか。
「ルーラー、セイバー、突破法がある」
「嘘じゃねえだろうな」
「本当だ。セイバー、お前の瞬発力を頼りたい」
「…!おう、任せときな!」
セイバーは頼りにされた事が嬉しかったのか、少し明るい表情を見せた。彼女に耳打ちをし、自身の考える手段を伝える。聞かされたのはかなり危ない橋を渡る物だったが、それでも、頼りにされたからには信頼すべきだろう。
「ルーラー、令呪を。セイバーの分あるだろ?」
「…!分かりました。ではセイバー、準備を」
さあ、アーチャーを聖杯から分捕ってやろうじゃないか。
リビングでニヤニヤしながら小説情報を見てたら、家族に冷ややかな目線を送られてしまいました。ごめんよ母ちゃん…もうニヤニヤしないから。
それはさておき今回は笑えるポイントがなかったなあと反省。両立つって難しいです。
ところでオケアノスはよ