IS研究の拠点として日本政府から束に貸与された“ある人工島”。
そこに近々、ISに携わる次世代の技術者や搭乗者の育成を目的とした、ある種専門の高等教育機関が設置されるという。
アラスカ条約の明文にある“超国家の研究機関”設置の一環で、それはIS管理を主とする国際IS委員会とはまた別の、来るべきIS社会の人材育成を視野に入れた計画だった。
話によると近いうちに、件の島は日本の統治から外れて、あらゆる国家の枠組みを越えた交流場になるという。
「――――で、その“IS学園”とやらで
七月の半ば。
"ありえない”と判りきっている為、その返しは完全に皮肉だ。
故に束も、そんな千冬の言葉に吐息交じりで答えた。
『まさか。そんな有象無象の凡人に構ってる余裕なんて、後にも先にも存在するわけ無いじゃん。唯でさえ委員会に押し付けられた研究者(笑)に、知識を叩き込むので大変なのにさ』
「それでもお前が見ず知らずの誰かの頼みを聞くとは意外だよ。……珍しい事もあったもんだ」
『別に聞きたくて聞いてるわけじゃないよ。コアの研究で有象無象の凡人達のデータが必要なだけ。そうじゃなかったらこんな要求、最初から突っぱねてるに決まってるじゃん』
「そう言うな。私も個人的にだが、お前が教鞭を握っている姿を見てみたいと思う。……まぁ、お前の生徒になる奴らには不憫な話かも知れんがな」
『それはちょっと酷くないかな~。まぁ、その通りだけど。で、その学園発足企画の第一陣として、近いうちに一般向けのIS適正調査が始まるらしいんだ。まぁ、間口はかなり狭いみたいだけど。でも試験をパスしたら国からの支援もいっぱい出るみたいだよ? ちーちゃんとしては“都合”がいいじゃないかなぁ』
「……なに?」
世間話もそこそこに束はようやく本題を切り出した。
「…………それは暗に、私にIS乗りになれと言っているのか?」
『そうだよ。それ以外にある?』
「………………」
束の言わんとする事を察した千冬は、少しだけ眉間に皺を寄せた。
最初のIS――“白騎士”の正体は決して明かさない。
なぜなら、それが束と交わした最後の契約だから。
開発者ならまだしも実際に事件を起した"張本人”ともなれば、その責任は何らかの形で世界中から追求されるだろう。
故に千冬は、ISが今後どういう筋道を辿って社会に浸透していくにしろ、リスクを避ける為に自ら関わりに行きたいと思っていなかった。
『私はね。ちーちゃんと一緒に宇宙に行きたいなぁ。それに誰にだって“秘密”の一つや二つはあるもんだよ。私やちーちゃんにしたってそうだし、あっくんだって同じだよ』
束はそんな千冬の戸惑いや憂いを遮る様にして言った。
それは想像した以上に純朴な理由で、実にらしいと思う提案だった。
――――が、そんな言葉の中に見つけた“ある一つの単語”に引っ掛かりを覚えて、千冬は思わず眉間に皺を寄せる。
「…………なぜそこで“秋斗”の名前が出てくるんだ?」
千冬は白騎士云々を一先ず脇に置き、思わず尋ねた。
『別に。ただ、あっくんもあっくんなりに、ちーちゃんやいっくんに楽させたいって、色々秘密にして頑張ってるって言っただけさ。この間もチャットで『白騎士のCAD』が欲しいって頼まれたしね。“また”なにやら面白い事を考えてるみたい。――――おっと、これは秘密だったかな♪』
「……おい、何だそれは? お前、あれほど言ったのにまさか秋斗に“妙な”事を吹き込んだのか?! と、いうか、なぜ秋斗と個人的に連絡が取れる? 私は聞いてないぞ!」
千冬は思わず声を荒げた。
『別に束さんが誰とお友達になろうと、ちーちゃんには関係ないじゃんか。それにあっくんに渡したPCは束さんが“調整”したものなんだよ? チャット機能を遠隔操作でインストールしてあげるぐらい朝飯前さ。それに一応言うけど、束さんからあっくんに“モノを教えた”事なんて、一度も無いよ?』
「…………よく言う。PCに始まり、今度は模型作りと言って妙な機械を惜しげも無く渡してるじゃないか? らしくも無い。お前はそんな気さくな女じゃないだろう?」
『心外だね~。そもそも最初に頼んできたのはちーちゃんの方なのにさ。第一、あっくんの欲しがる道具なんて全部市販で買えるんだよ? つまり私が持ってても使わないゴミさ。それを譲ってあげるのがそんなに不思議かなぁ?』
「…………お前が他人に何かを“譲る”というのが解せん」
『わ~お。ちーちゃんが普段、私をドンな風に見てるかよく判る台詞だねぇ……』
「事実、お前の心は狭いだろ?」
『まぁ、ね~』
千冬は強い警戒心を纏って追求するが、束は『暖簾に腕押し』な飄々とした態度で言い返した。
『“気にいった相手”に良くしてあげるのが、そんなに変な事かなぁ? それに束さんがどういう存在か知ってるくせに、他の凡人と違ってあっくんは私にリソースの無駄遣いを強要とかしないしね。まぁ、言ってみればちーちゃんと一緒だよ。気に言った理由としては。それ以上の答えはないよ」
「………………」
束が楽しそうな声色で言い返した言葉に、千冬は思わず詰まった。
束はそれを見透かしたように言った。
『まぁ、束さんを疑いたがるのも無理はないと思うがね~。私だってあっくんにこんなに興味が沸くとは思わなかったし。多分、根っこの部分が似てるのかな? まぁ、それはそうと話を戻すけど、〝誰にだって墓の下まで持って行きたい秘密”はあるモンなのさ。偶々ちーちゃんにとっての〝白騎士”の真相がソレだってだけ。明言しなきゃ大丈夫だよ。それに、“強み”を生かしてお金を稼げるなら、ちーちゃんだって望むところでしょ?』
「……………相変わらず回りくどい言い方をする奴だ。はっきり言え。なぜ私をもう一度ISに乗せたがる?」
『そんなの決まってるじゃないか――――』
そこで束は言葉を切った。
『――――親友なら同じ〝目線”に立って欲しい。それにISが完成したその片割れが、〝無名”のまま埋もれて死ぬなんて絶対に嫌だモン……』
束の声色が寂しげなモノに変わった。
流石にそこに含まれる〝感情”を察せぬ程、千冬も束との付き合いは薄くなかった。
☆
多くの技術者にとってISとは、ある意味で『海外の輸入製品』と同じ感覚。
なぜなら技術提供を受けて、初めて大掛かりな研究が始まるという構図が、まさにソレだからだ。
世間は七月。
今日は一学期最後の終業式である。
その行事に参加する直前、秋斗はテレビニュースの経済コーナーを見てふと思った。
(――――株、買いてぇな。てか、絶対買おう)
手元に資金さえあれば、秋斗は今直ぐにでも投資を始めただろう。
なぜか?
それはISの登場と、ソレに含まれる革新的な技術によって、各分野で様々な動きが広がったからだ。
簡単に言ってしまえば、世界中の先進国で景気回復の兆候が見られたからで、ある。
重工、電子、医療、通信、物流――――。
日本もISの齎した技術による“特需景気”によって、少しずつだが"不景気”と呼ばれた冬の時代から脱却を始めていた。
ISが軍事兵器なら、これらの経済結果はありえなかっただろう。
しかしISの研究も、その恩恵である特需景気も、日本国民にはもろ手を挙げて喜ばれていた。
なぜか?
『アラスカ条約』の明文に"ISの軍事利用は不可”とある故だ。
故に戦争アレルギーとも言われる多くの日本人は、ISの研究に携わる事や研究によって富を得る事に対して非常に肯定的になれたのだ。
このIS特需という景気の回復が、民間の私生活に影響及ぼすのも、もはや時間の問題だと専門家は言った。
が、ソレを非常に喜ばしいと思う反面、秋斗は同時に苦笑いを浮かべざるを得なかった。
(織斑家的には良いこったけど、男としちゃあちょっと複雑だねぇ……この流れは――――)
IS原作の特徴である『女尊男卑』思想。
この景気回復の影響が、後の原作と同じ歪んだ思想の浸透した未来に繋がる予感がしたのだ。
前世で原作を読んでいた身としては、たった10年でそんな思想が世界に浸透するのをありえないと考えていたが、今の社会と経済の動きを見ているとそれが意外に
なぜか?
女性にしか扱えないISの登場で、
――――女が不景気から社会を立て直した。
――――女が国防を司る様になった。
――――女しか乗れないISのお陰で“核の傘”が半ば形骸化し、ソレに護られずとも国家が独り立ちする可能性も生まれたから。
IS保有国として脚光を浴びれば、必ずそう言われる日が来るだろう。
それで女性側の自尊心が非常に高くなる事に、秋斗は頷けてしまったのだ。
『やはり男はダメだ』
と、女にしか扱えないISで経済復興すれば、国民感情として女性側にそんな意見が出るのは十分にありえる。
全ての女性がそうで無いにしろ、ISで“良くなった事実”だけを掻い摘み、無理に話を誇張して極端な男不要論を持ち出す勘違い馬鹿は確実に現れ、そして大騒ぎするはずだ。
秋斗はその手の馬鹿に大きな力を渡した結果が、所謂原作の『女尊男卑社会』であると考えた。
しかしそう思ったところで今の秋斗に出来る事は何も無く、故に秋斗は憂鬱だったのだ。
(…………肩身の狭い時代を生きるのは嫌だが、それでも納得して"諦める”しかねぇのかな)
今日も朝早くから『女性の社会進出』を声高に叫ぶ街宣車が通った。
とある政党の女性政治家だ。
来るべきIS中心社会とソレを、形成する女性の社会的地位向上を謳い上げる団体。
彼女らはその後援会の規模を着々と増やしている。
それは秋斗の様な原作知識が無くとも、今後『原作と同じ未来』が来る事を予想した者が、現時点でも少なからず居るという証拠。
(たぶん、大まかな流れは変わらねェだろうな。さて、どうなる事やら――――)
秋斗は安堵と憂鬱の混ざった深い吐息を吐いた。
「おい、秋斗。朝から辛気臭い溜息なんて吐くなよ。明日から“夏休み”だぜ? もっと喜ぶところだろ?」
「あぁ、そうだな」
一夏はそんな苦言を呈した。
後にこの世界で唯一となる一夏は、明日からの夏休みに向けて既に顔を綻ばせていた。
―――――微笑ましい。
秋斗は思わず、そんな苦笑を漏らした。
そんな一夏の様子を見てから、秋斗は未来に対する憂いを脇に置いて、目の前の現実に対す思考に切り替えた。
明日――否、今日は『現状可能な織斑家最大の資金策』の実行日である。
そして一夏も秋斗とは別に、自身で企画した野菜の栽培計画を発動する。
故に織斑兄弟のこの夏休みに賭ける意識は非常に高かった。
一学期最後の終業式に出席した後、二人は家に帰って直ぐに“夏休みの宿題”に取り掛かった。
「――――日記ってホント厄介だよなぁ……」
「その日の朝飯に何を作ったかで良いんじゃねェか?」
「あぁ、それもそっか」
テーブルに宿題を広げて、秋斗と一夏はそれぞれの分の宿題に取り掛かった。
書き取り、計算問題、読書感想文3冊分、毎日の一言日記、自由課題。
これに加えて毎日のラジオ体操と、一定のプール参加。
正直言えば、マジで面倒くさい課題ばかり。
秋斗は込み上げる溜息を押し殺しながら、計画を阻む邪魔な
そして途中で一夏の様子を確認しながら、難しい内容については教えつつ、秋斗は書き取りと計算問題集を半日掛けて終わらせる事に成功した。
「――――次の次は読書感想文か」
「あ~俺苦手だわ。そういえば秋斗は作文得意だったっけ?」
「…………その話はやめろ」
学校から貰った原稿用紙を取り出す手が思わず固まった。
一夏の一言で、秋斗は思い出したくも無い黒歴史が脳裏を過ぎるのを感じる。
秋斗は一夏を軽く睨んだ。
「ごめん、そんなに怒るなよ。でも悪い意味で言ったんじゃないぞ?」
「……知ってるよ。でもあんまり思い出したくねェから、その話は忘れてくれ。……な?」
「……はい」
一夏は素直に頷いた。
秋斗もそれを確認して、小さく溜息を吐く。
そして学校の図書館で去年。暇つぶしに読んだ本の内容を思い出しながら、秋斗はサラサラと感想文を書き始めた。
――――しかし、ソレとは対照的に一夏の感想文を書く手が止まっていた。
「……なぁ、秋斗。何か良い本ないか? 読みやすくて面白い感じのでさ」
「……ソレを探すのがこの課題なんじゃねェの? まぁ、いいけど。まぁ、読みやすいっつったら『バリーバートン』のシリーズだな。俺もその内容で書いてるし」
「へぇ、どんな内容なんだ?」
「まぁ、おおざっぱに言うなら――――」
『バリーバートンと星達の意思』
『バリーバートンと秘密の地下研究所』
『バリーバートンとアンブレラの囚人』
『バリーバートンと炎のタイラント』
『バリーバートンとゴリラの武装師団』
『バリーバートンと蟻のプリンセス』
『バリーバートンと死のウィルス』
秋斗は全七巻のサブタイトルと、大まかなあらすじを説明した。
「――――中年魔法使いバリーバートンが魔法の44マグナムを使って、悪の魔法薬品企業アンブレラと戦う話だ。アンブレラの研究施設に侵入したり、ソレが生み出した改造生物と戦ったり、要人救出やテロの阻止もやったりする。んで、各巻の最後では必ず、それぞれの最終決戦の舞台が爆発炎上するな。……中々面白いぞ?」
「へぇ~。それって学校の図書館にも有るか?」
「ある。と、いうか俺は全部学校で読んだ」
「そっか。じゃあ今度、俺も試しに借りて読んでみるぜ。ありがとな」
「あぁ」
一夏は感想文に取り掛かるのを辞めてその日の宿題はそこで打ち切りにした。
そして気晴らしとばかりに、夕食の買出しに出て行った。
秋斗は独り静かになった家の中で読書感想文を書き終えた後、ノートPCを開いた。
そして直ぐにメールをチェックした。
案の定、束からの新着メールが届いていた。
:タイトル 【YA-HA- 束さんだZE】~=≡Σ((( つ•̀ω•́)つ
:
:ハローハロー元気にしてるかな? かな?
:注文どおりPDFで白騎士の三面図、送ってあげたから確認してね。
:あと、出来上がったら私にも写真見せて欲し~な~
:JPEGでいいからカモンщ(゚д゚щ)カモーン♪
:もし仕上がりが良かったらこの間の件は了承してあげるかもよ?
:それじゃ頑張ってね~。
:応援してるジェイ((⊂(`ω´∩) しゅっしゅっ
:
:束博士より
最近になって束は、秋斗のノートPCに対してハッキングを仕掛け、知らない間にソフトを勝手にインストールしてくる。
故にいつの間にか、秋斗のPCに搭載されたチャット機能とメール機能のリストの一番上には、篠ノ之束の名前が存在した。
愉快犯的な行動だが、PCの製作者本人である事と、今は害悪でない事から、秋斗は半ばその行動を諦める事にして、逆にその伝をちょくちょくと利用させて貰っていた。
秋斗は束からのメールを読んでから、同封されていたZIPファイルの白騎士の
白騎士のデータを欲したのは夏休みの自由研究と、今後の為だ。
この夏休みで秋斗は、独自の資金策と平行して、『白騎士のフルスクラッチ』をやろうと考えている。
そして上手く作れた場合は模型雑誌に投稿し、将来的にはソレを複製してもらって『篠ノ之束監修』の名の下に『レジンキット1/12スケール 白騎士』として、ネットで売り捌こうと考えていた。
メールにある“了承”とはまさにソレの事。
将来的に様々な国家で様々な企業が独自にISを製作するが、最初の“白騎士”に関してだけは、その著作権も版権も最後まで束が握っている筈と考えた秋斗。
ならば誰よりも先に束から“許可”を得る事が出来れば、それは強力な“切り札”となると秋斗は思ったのだ。
束からしてみれば、態々模型としてフルスクラッチする手間等掛けずに、設計データから3Dプリンターで複製を作って、売ればいいだけの事だ。
実際それを思いつかない束ではないと、秋斗も提案した時点では考えていた。
が、『中々面白い』とチャンスをくれた束からの返事を見て、秋斗は思わず笑みを零し、気合を入れなおした。
「――――よっしゃ! 作るか!」
白騎士の模型製作に取り掛かるには、先ずはそれなりの材料が必要になる。
そしてその為の準備資金を作るのも夏休みの課題であり、ソレこそがこの夏に秋斗が行なおうとする最大の資金策だ。
秋斗はネットオークションで競り落としたフィギュアのジャンクパーツを取り出し、ベランダに設置した塗装ブースで作業を開始した。
束からお古の模型道具を貰ってから、秋斗はちょくちょくと作業を進めているが、秋斗はその度に千冬と一夏の“妨害”にあっている。
故に秋斗にとって、この夏の間にどれだけの期間、独りで“家に引き篭もれるか”が勝負だった。
部屋の中でポリパテを使えば『臭い』と言われ、換気扇のある台所や風呂場で作業すれば、『辞めろ!』と怒鳴られ、そして辿りついたのが家のベランダ。
ホームセンターで買った蛸足の延長コードを伸ばして、スタンドライトの明かりをベランダに点し、秋斗は作業を開始した。
夏の夕方と夜は直ぐに明かりに蟲が寄ってくるので、材料と同時に殺虫剤も常に用意しなければならないのが誤算だった。
そんなベランダの模型ブースで心身共に疲弊しながら、家族にも明かさずたった一人で怒られながら秋斗の行なう資金策とはつまり――――『改造フィギュア』であった。
秋斗が今年の夏休みに実行しようと考えた手段は、版権の厳しい某特撮ヒーローの改造フィギュアを製作して、ソレを『趣味で作ったものですが、置き場所が無いので売ります』と、いういいわけで、ネットオークションに流す事であった。
黒か白か言えば限りなく黒に近いグレーで、著作権違反で企業に通報されたら言い逃れできない完全アウト。
今生のネット社会にも改造フィギュアは出回っているが、まだ逮捕者が居ないのがある意味で救いである。
秋斗の前世ではそれで見せしめの逮捕者が出た事案だが、秋斗は織斑家を立て直す為の資金策にあえてそんなハイリスクな道を選んだ。
なぜなら、『道具と技術さえ揃えば、容易に稼げるから』だ。
秋斗は短時間で可能な限り量産をして、それを最低回数のオークションで売り払い、後は自らアカウントを停止して逃げる計画を立て、それを実行するために今回の夏休みを待っていた。
捕まったら全てがアウトだ。
悪い偶然を引いて、いきなり己が見せしめでしょっぴかれる可能性も勿論ある。
しかし現実問題、8歳の子供が正当な手段で潤沢な資金を用意するにはどうすればいい?
親が金持ちという条件が成立しないなら、それこそ何かしらの不正に手を出さねば不可能なのだ。
前世の知識と前世で染み込んだ内職の技が秋斗の武器。
ソレを最大限に生かす手段が、秋斗にとっての改造フィギュアだ。
秋斗はネットでかき集めた画像資料を下に、『マスクドライダーBB』やその過去のシリーズに登場する、“人気は高いがマイナーで、確実に玩具として生産されない”だろう怪人や戦士を選んで作った。
芯となるジャンクフィギュアをナイフで削り、それにポリパテを盛り、リューターや紙やすりで切削し、ナイフで筋を彫り、またパテを盛るを延々と繰り返す。
全身を蚊に刺され、削りカスで粉塗れになりながら、秋斗は今年の夏休みを過ごした。
そして秋斗の作った最初の改造フィギュアには――――7万の値が付いた。
書き溜めはここまで。ちょっと11月頃まで手がつけられないかもですので、また気長にお待ちくださいませ。