IS原作にたどり着け! 『本編完結』   作:エネボル

36 / 51
36 『原作』にたどり着け!

 激走する4台の後方から、パトカーのサイレンが響く――――

 

『――――そこのシルビアと4WD! 止まりなさい!』

「ちっ、ようやくお出ましか。邪魔するんじゃねぇよ! おい!」

 

 オータムは追走する部下の操る2台に向けて片手でハンドサインを送る。すると2台は速度を落としてパトカーと併走する様な動きを見せた。

 そして同じ頃。

 秋斗もオータムと同じく警察の登場に思わず毒づいていた。

 

「こういう時だけ真面目に仕事してんじゃねェよ、クソ公務員が! 追いかけるのは“後ろの連中”だけでいいんだよ!」

 

 バックミラーに映る警察車両の赤いパトランプ。

 それに舌打ちしながら、秋斗はクラッチを叩く様に踏んで一気に4速から2速にギアを変速。同時にサイドブレーキを駆使して、強引なハンドル操作で、車体を無理やり捻じ曲げるように進路を変えた。

 直後にアクセルを踏み込みエンジンの回転数を上げると同時にギアを4速まで一気に跳ね上げる。

 傷害、強盗、器物破損、サイバーテロ、車体窃盗、無免許違反、速度違反、危険運転、銃の不法所持、発砲、モンドグロッソに対する犯行予告――――。

 この時点で秋斗の積み上げた罪はそれ程になる。

 まともに罪を問われると、もはや終身刑でも文句は言えないレベルである。

 が、しかしそれは罪を(おおやけ)に晒して問うことが出来ればの話だ。

 秋斗の外見の14歳という年齢と、事件に関係する組織の規模。

 それを考えれば、もはやこの時点で一国の警察組織が対応できるような規模の事件ではない。

 それほどに荒唐無稽な事件なのだ。

 ある意味で、それはかつての“白騎士事件”にも等しいだろう。

 そしてそれが判っているからこそ、秋斗は既に開き直っていた。

 

「捕まってたまるかよ……!」

 

 ポツリと零したその台詞は、テロリストに対してか、警察に対してか――――。

 余りにも現実離れた様々な出来事の末に、秋斗の脳みそからは大量のアドレナリンが分泌されていた。

 秋斗は半ばその感覚に酔っている様な気分である。

 ――――直後、銃声が響いた。

 秋斗の背後を追走する3台の4WDの内の2台が、警察を牽制するように減速。そしてその車体の窓から銃身を出していた。

 

 ――――ズダン! スダダダダ!

 

 特徴的な発砲音が響き、併走した2台から突如一斉に銃撃を受けたパトカーは大きく減速した。そしてハンドル操作を誤ったのか、そのままパトカーはガードレールに鼻先をぶつけるようにクラッシュした。

 

「滅茶苦茶やりやがる!」

 

 警察車両を無力化した事に気をよくしたのか、虎視眈々と蛇のように秋斗の後ろから追い詰めるオータムは、その笑みを深めていた。

 ――――続きといこうぜ?

 秋斗はそんな風なオータムの笑みを、バックミラー越しに見た。

 

 ――――そして直後。上空からけたたましい“ローター音”を響かせて飛来する黒く塗装した一機の武装した()()が、秋斗とオータムの戦いに乱入するように参加した。

 

「なんだ?」

「スコールか!? なんで――――」

 

 秋斗とオータムは突然のヘリの登場に驚きを隠せなかった。

 

『過激な男は嫌いじゃないけど、少しオイタが過ぎたわね。リトルマクレーン! それと、オータム。状況が変わったのよ!』

 

 ヘリに搭乗する妖艶なる金髪の美女――スコールは、その冷酷な視線で秋斗と秋斗の乗ったシルビアを見据えた。そしてヘリの後部座席に固定された“機関銃”を構えた。

 

 

 

 

「どういうつもりだ、スコール! アレはアタシ(・・・)の獲物だぞ!」

 

 ヘリに搭乗するスコールに向けてオータムは無線で怒鳴った。

 そもそもヘリは『織斑秋斗』を捕獲後に日本から逃走する為の()なのだ。それを持ち出したスコールの意図が判らず、オータムは吼えた。

 すると無線からスコールの声が響いた。

 その声はオータムの車両と同時に、強奪した無線を乗せた秋斗の駆るシルビアの車内にも響いた。

 

『だから状況が変わったのよ、オータム。織斑秋斗をなんとしてでも確保して頂戴!』

「そりゃ判ってるが、一体どうした!? そんなモン(ヘリ)まで持ち出して正気か?」

 

 スコールのいつになく切羽詰った物言いに、オータムは思わず眉を顰める。

 するとヘリの助手席に座るスコールは、短く状況を伝えた。

 

『あの子、ネット上に“亡国機業”の名前を使った犯行声明をモンドグロッソ委員会と更識(・・)に出したのよ。ご丁寧にこちらの送り込んだ兵士を“自分”に見立ててね! モンドグロッソの参加者の親族を殺すっていう風によ。だからおかげでドイツ側の警備規模も跳ね上がって、予備の“織斑一夏”の捕獲プランも完全に潰されたわ!』

「なんだと?」

 

 スコールの言葉にオータムは絶句する。

 更にスコールは苛立ちをはき捨てる様に続けた。

 

『ついでに“亡国機業”の名前も世界中に拡散した。ココで確実に捕らえて点数を稼ぐか、確実に仕留めるかしないと、この失態で私達の首も飛ぶわよ! だから遊びは終わり。手足の1、2本捥げようが、確実に連れ帰る! 良いわね!』

「っ!? 了解!」

 

 オータムは鋭い形相で、前方のシルビアを睨みつける。

 そんなオータムとスコールのやり取りを無線で聞いた秋斗も、思わず運転席で表情をしかめる。

 

「ココまで来て、手足の一本だろうとくれてやるかよ! ココからどうする? ――何処に行く!?」

 

 秋斗は後方からの銃撃を避けるように全力で車を走らせながら、必死に逃走先を考える。

 このままガソリンが切れるまで走り続けるのも無理。

 故に、どこかで追跡を振り切るしかない。

 その瞬間、車内に飛び散った銃弾が秋斗の肩を掠めた。

 

「っ!?」

 

 ISコアソケットの“懐中時計”が張るシールド防御機能が致命傷を防いだ。

 

「……コイツ(懐中時計)もいつまで護ってくれるのかわからねぇ」

 

 ISコアを搭載しているとは言っても、決してISではない。

 そしてシールドエネルギーにしても、無尽蔵に有るわけでも無い。つまりいつか(・・・)は無くなる可能性がある。

 

「っ……そうだ!」

 

 ――――そこまで考えた時、秋斗の脳裏にふと閃きが過ぎる。

 

 『IS学園』

 

 その場所の事を秋斗は思い出した。

 そこはかつて束と後進のIS研究者の育成と研究の為に作られた人工島で、現在は高等学校教育期間として、日本国内にありながらも唯一の治外法権の場所だった。

 そこにはおよそ30機に近いISが常に待機状態で鎮座している。そして学園の警備職員や教師もISに搭乗できる“資格者”。

 この状況でこの状況をひっくり返すとなると、もはや『原作(IS学園)にたどり着くしかない!』と、秋斗は思った。

 故に、秋斗は“原作の始まる彼の地”へ向かう為に、クラッチ操作とハンドル、サイドブレーキを駆使して、唐突にカーブを切った。

 

 

 

 

 その頃、千冬は運営委員会から、第2回モンドグロッソに送られた犯行声明が事実だと知った。

 そして同時に、日本政府から“織斑家に何者かが侵入した痕跡がある”という報告を受けた。

 前回優勝者(ブリュンヒルデ)の家族を狙った犯行。

 その情報は直ぐに選手間に広まり、モンドグロッソは各国の大会参加者親族の安全確認の為、一時中止となった。

 千冬は何とか日本政府の伝を辿って、秋斗の無事とその所在を確かめようとした。

 その結果情報として手に入ったのは、一夏の受けた言葉を証明する『秋斗が逃走した』という報告のみ。

 つまり襲撃を察知した秋斗が、テロリストに捕まる前に逃亡したという情報だけであった。

 秋斗の所在はいまだ判らず、日本政府も公安を通じて全力でその所在を追っている。

 が、しかし未だにその安否は不明――――。

 千冬は憔悴しきった顔で、一夏の滞在するホテルに向った。

 

「秋斗なら大丈夫だよ、千冬姉。だってアイツ、いつだって大変な状況をとんでもない方法(・・・・・・・・)でひっくり返してきたじゃないか! だから大丈夫だって!」

「……一夏」

「だからは大丈夫だ。俺達の弟がそう簡単にくたばるわけないだろ! 絶対に――――」

 

 ベッドに腰を下してうなだれる千冬に、一夏は拳を握り込みながら強い口調で言った。

 一夏にしても、これ程に憔悴しきった千冬の姿を見るのは初めてだった。

 故に、自身の秋斗の安否を不安に思う気持ちを無理やり押し殺して、何とか目の前の千冬を励まそうと、一夏は言葉を紡ぎだす。

 

「……電話の時の秋斗はさ、なんていうか……いつもの真面目か本気か良く判らない“あの”調子だったんだよ。だからきっとあいつは何とかするよ。絶対に……」

「……そうだな。あぁ、そうだとも」

 

 励まそうとする一夏の言葉に、千冬は顔を上げる。

 そして不安を吐き出すように大きく息を吐く。

 

「“成るな”と言っておいて、結局、()みたいに成長してくれた愚弟なんだ。早々、簡単に――――」

「っ!?」

 

 と、そこまで言った時である。

 千冬と一夏は同時に気づいた(・・・・)

 あの『天災』ならば、もしかしたら、と――――。

 

 

 

 

 水きり遊びのように連続でアスファルトが破裂する。

 そんな強烈な銃撃が、スコールの搭乗するヘリから次々と放たれた。

 秋斗は銃撃を避けるように、紙一重な動きで左右にハンドルを切る。

 また警戒するのはヘリからの銃撃だけでは無い。後方からはオータムの乗った4WDが迫っている。

 スコールとオータム。そんな“モノクローム・アバター”の首領と側近が繰り出す攻勢の模様は、まるで羊を追う猟犬の様であった。

 

「あと少し!」

 

 秋斗は上空からの追撃を避ける為にルートを選ばされつつあるが、同時にこの状況をひっくり返してのける唯一の場所――“IS学園”に向けて懸命に車を走らせる。

 そして時々、牽制するように強奪した拳銃(M9A1)を撃つ。

 だがそんな射撃がまともに当たるはずも無く、包囲網は徐々に迫っていた。

 

『この先に工事中のトンネルがあるわ! その先で追い詰めて!』

『了解!』

 

 強奪した無線からスコールとオータムのそんなやり取りが響いた。

 それが秋斗の心を更に焦らせる。

 視界の先には工事中の柵が立てられた海底トンネルがあった。

 秋斗は進路をどうにか東にずらそうとするが、それを見越して上空からの銃撃が飛んでくる。

 

「くっそ!」

 

 秋斗はやむなく、視界の先に湾岸沿いにあった工事中札のついた海底トンネルへと潜った。

 それを確認したオータムは、後方で笑みを深める。

 

『――――チェックメイトだ! 織斑秋斗!』

 

 4WDが更に速度を上げる。

 秋斗の選んだルートは、選ばされた(・・・・・)出口無き終焉への袋小路。

 徐々に壁が迫る中、秋斗は奥歯を噛み締める。

 ――――しかし追い詰められている事を察しても、それでも決して(・・・)諦めなかった。

 

「頼む!」

 

 秋斗は神に祈るような気持ちで、壁に向って4速から5速にギアを上げて一気に加速した。

 そして壁の直前で急ブレーキを踏み、直後にハンドルを切ると同時にクラッチを外して、サイドブレーキを引き、無理やり車体を旋回(・・)させた。

 

『――――なに!?』

 

 驚愕するオータムの前で、シルビアのブレーキランプが闇を切り裂くように一閃する。

 それはサーキットで“サイドターン”と呼ばれる技であった。

 秋斗は押し戻ろうとする車体の力に逆らわず、リアタイヤが滑るように180度の半円を描いたところで、クラッチを再び繋いだ。

 ――――そして秋斗の駆るシルビアと、オータムの乗った4WDが“正面”から向い合う。

 

「――――クソガキ!?」

「――――くたばれ!」

 

 秋斗とオータムの視線が交錯する。秋斗は運転席から、ハンドルの上で腕をクロスさせるように、左手で発砲した。

 直後、秋斗の放った三発の銃弾が、4WDのフロントガラスに蜘蛛の巣の様な皹を作った。

 運転手はその影響を受けてハンドル操作を誤り、トンネルの終点にある壁面へと叩きつけられた。

 そしてオータム諸共、4WDは爆散した。

 

「っしゃあ! オラァ!」

 

 秋斗は思わず叫んだ。

 かつて(前世)地元近くの埠頭でMTを転がして遊んだ経験が生きたからだ。

 秋斗はトンネルの出口へとシルビアを加速させる。

 そこには進路を塞ぐようにして、機関銃を構えるスコールの駆るヘリが漂っていた。

 

「警察車両を牽制中のB班、C班は離脱して! オータム達の回収を最優先!」

「いいんですか!?」

「うるさい!」

 

 怒鳴るように部下に指示を出したスコールは、ヘリから殆ど半身を乗り出したまま片腕で機関銃を構えた。

 弾蔵BOXから伸びる弾帯(リンクベルト)がジャラリと音を立てる。

 スコールの金糸の様な髪が夜空を舞った。

 その様は一つの完成された絵の様に成るが、しかしその形相には憤怒の色しかない。

 

「届けぇ!」

 

 秋斗はハンドルを左右に切りながら、ハンドガンに残った弾をありったけ放つ。

 スコールは秋斗の銃撃に晒されながらも、憤怒の形相で片腕で構える機関銃を撃ちまくる。

 秋斗の撃った銃弾がスコールの右頬を掠めると同時、シルビアの左前輪、そしてボンネットとフロントガラスが撃ちぬかれた。

 

「っ!?」

 

 秋斗はハンドルを大きく左に取られた。

 右腕で一本で何とか体勢を立て直そうとするも遂には至らず、そのまま秋斗の乗ったシルビアはトンネルの壁面に叩きつけられた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。