IS原作にたどり着け! 『本編完結』   作:エネボル

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前回のネトゲの話には不評の声もあると思います。
ですが、一応必要な要素なのでご了承ください。
後、前回、を読まなくても具体的流れが把握できるように今回補足しました。
よろしくお願いします。


29 『友情』そして終わりの始まり

 夏の中体連が終った。

 中学で織斑双子兄弟の『爽やかな方』と言われる一夏は、一年生にして剣道部団体戦のレギュラー出場を勝ち取っていた。

 同大会に先鋒として参加した一夏は、その努力と才能で鍛えた腕前で、悉く対戦相手を打ち倒していった。

 そして剣道部は団体戦で地区優勝を飾り、最終的には全国ベスト16まで辿りついた。

 無論、彼らが打ち倒した相手には“強豪”と恐れられる全国大会常連校もあった。

 故にこの夏の日々は、一夏を含めた中学の剣道部にとっては掛け替えの無い青春の思い出となった。

 また一夏は個人戦の方でも全国で3位という脅威的な成績を残し、夏休みが終わる頃には“織斑一夏”という名前が一夏達が通う中学、そして近隣の中学では有名選手として広まりつつあった。

 それが織斑一夏の中学一年生の夏である。

 

「――――おめっとさん」

「おめでと、一夏!」

 

 剣道部の打ち上げは別で開かれた。しかし友人として個人的に一夏を祝おうと、その祝賀会が鈴の実家の中華飯店で行なわれた。

 集まったのは数馬、弾、鈴、秋斗の計4人。

 祝賀会と言っても別に真新しく何か特別な料理が振る舞われたり、ビール掛けや樽を割るわけでもない。

 身近な友人同士が集まって、晩飯がてらにちょっと豪華な中華を喰うという、軽いノリである。

 その席で弾は個人的に気になった疑問を、“秋斗”に尋ねた。

 

「なぁ、秋斗さ。お前なんで剣道やらねぇの?」

「……ぁん?」

「いや、な? 千冬さんと一夏がアレ(・・)だから、秋斗も才能在るんじゃないかと思ってさ。もしそうなら凄い勿体ないなぁと思ったり思わなかったり」

「……何が言いたい?」

 

 弾の歯切れの悪い質問に、秋斗はウーロン茶のグラスを傾けながら先を促した。

 すると弾は頭を搔きながら、「あ~もぅ!」っといった様子で、端的に言った。

 

「いや、だから! お前も剣道やってたら一夏程とは言わんけど、絶対モテてるって話だよっ!」

「あぁ、そう言うことか」

 

 秋斗はそこで、弾が言わんとする言葉の意味を察した。

 

「そう言えば、そうよね。昔は秋斗も剣道やってたんでしょ? 何で辞めちゃったの?」

 

 と、弾と秋斗の話に鈴が口を挟んだ。

 織斑兄弟との付き合いは、このメンバーの中では鈴が古参である。

 そしてどこかで一夏が話してきかせたのか、鈴は以前に秋斗も剣道をやっていた事を知っていた。

 その質問に秋斗はふと視線を宙に移し、そして左手に持った箸で餃子を口に放り込みながら言った。

 

「まぁ、単純に飽きたから、かな? 後はそうだな。姉貴と一夏を見てりゃ分かると思うけど、同じ土俵で勝負して勝ちに行くってなるとかなり“しんどい”だろ? だからさっさと身を引いたんだよ」

 

 より深く話を掘り下げれば、そこに更に“当時貧乏だった織斑家の為、金を稼ぐ為に時間を欲した”という言葉が付け加えられる。

 しかし秋斗はその理由に関しては、態々明かす必要も無いと口を閉ざした。

 

「まぁ、要するに……俺は“出がらし”なんだよ。織斑家の」

「――――あぁ、なるほど。兄弟間の才能の格差って奴か。判るぜ?」

 

 秋斗の返しに、弾はそんな風に納得して小さく吐息を吐いた。

 今居るメンバーの中で兄弟――妹を持つのは弾、1人だけである。故に、何となく秋斗の言った理由には、心当たりがある様子だった。

 

「俺の妹――蘭の奴もなまじ勉強出来て、運動できるからよ。親戚とかで集まるとすっげぇ可愛がられてんの。今はもう諦めてるけど、小遣いとかお年玉を合計したら、多分アイツ()、俺より貰ってんじゃねェかなァ……」

 

 弾は吐息交じりに言った。

 

「“出がらし”って、流石に卑下しすぎやで? 秋斗君はかな~り“個性”あると思うけどなぁ」

 

 そこに数馬が苦笑いを浮かべながらそう相槌を打った。

 すると一夏も同様に相槌を打って、そして渋い顔をして口を挟む。

 

「何が出がらしだよ、まったく。お前はそんな薄い奴と違うだろ? 大体、ウチ(織斑家)で一番滅茶苦茶やらかすのは何時もお前(秋斗)じゃねーか?」

「ぁん? んなわけねぇだろ。滅茶苦茶って何を――――」

「この間は飲まず食わずの引き篭もりネトゲ廃人。その次は千冬姉と似たり寄ったりでまったく家に帰らずに、部活の先輩の家に入り浸る半浮浪者。しかもそんな自由奔放な生活してるくせに成績は学年主席。……俺の方がよっぽど地味だぜ?」

「……え?」

「え、それマジ?」

 

 一夏の言葉に弾と鈴はぎょっと驚いた様子で眼を剥いた。

 中間テストと同様に期末テストでも秋斗は一位だったが、その裏で行なわれた様々な“余罪”を聞いたのは初めてだったからだ。

 そんな鈴と弾のリアクションを受けた秋斗と、そしてその頃の全貌(・・)を良く知る数馬は、苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。

 

「まぁ、……“部活動”の一環だ」

 

 秋斗は短く言った。

 

「いやいやいや、ネトゲをやる部活なんてきいたことねーよ。なに? 模型部ってそういう部活なの? 俺も入ろうかな……」

「入部するのは自由やけど、その代わり一切女子にモテへんくなるで? それで良いなら、弾も入ればええんちゃう? 後、ネトゲやからって並みの運動部より楽とはかぎらへんで?」

 

 数馬は弾の言葉にしみじみと言った。

 それに対して鈴は、理解が出来ないと言った様子で首をかしげる。

 

「運動部よりキツくて、しかもネトゲをやる部活って、何? 意味がわかんないんだけど?」

「まぁ、真実は模型部しか知らん話や。やけど、色々あったんやで? …………特に今年の夏はね」

「なんだよそれ。それスゲー気になるんだけど?」

 

 数馬の言葉に一夏は恐る恐る、だが興味深そうに尋ねた。そして秋斗の方を見た。

 

「なぁ、秋斗。お前、今年の夏何やってたんだ?」

「…………“修羅”に入ってた。まぁ、一言で言うならそんな感じかな?」

 

 秋斗はコトリとグラスを置いて、深々と吐息を吐いた。

 ネトゲ廃人な生活も、その後に行なわれた模型部部長――青峰清十郎宅に入り浸った生活も、全ては模型部活動の為である。

 それは運動部が大会に出るように、毎日過酷な練習を積み重ねるのと根本は同じである。

 唯一、違うのは単純な“理解者”の数だけだ。

 寧ろ大会があるから練習をする運動部員よりも、秋斗は模型部全員の夏のワンフェスに掛けた“思い”の方が強いと思っていた。

 学校の記録にも残らない。

 表彰があるわけでも無い。

 参加するには自腹を切るしかない。

 そして成し遂げたとしても、それが一般人(パンピー)に理解されるとすら思えない。

 故に傍から見ればそれは余りにも非生産的で、労力の無駄とも思える趣味への限界挑戦とも言える無謀な試みだった。

 しかし最初で最後の模型部5人で参加するイベント――夏のワンフェスに出たいという部長――青峰清十郎の気持ちと、その意思を汲み取りその為に夏を捧げた模型部員の全員の覚悟は、ひたすらに純粋だった。

 故にそんな模型部を“嘲笑う”存在は、例えそれが家族(一夏)友人()であっても、秋斗は許せそうにないと思う。

 

「――――まぁ、色々あったんだよ」

 

 秋斗は夏の出来事を思い返した。

 

 

 

 

 夏のワンフェス。

 それは現在の模型部“5名”で参加出来る唯一の、最初で最後の大きなイベントだった。

 それを目指す為に、秋斗も数馬も山口も若原も全員がその身を削った。

 模型部が今年の夏のワンフェスを目指すのは、オンラインゲーム“幻想惑星”のコラボ企画として配布された3機の“ISを模した装備”にある。

 秋桜、デアメテオール、スターエンジェルの3機。

 ISというマルチフォームスーツは前回のモンドグロッソで一気にその名が世間に浸透し、それが故に敢行されたオンラインゲームとのタイアップ企画であった。

 

 現在、秋桜を除いてネット上にもISに関する詳しい資料が存在しない。

 故に、ゲームとはいえISを模した装備が出る事を知った一同は、『コレしかない!』と思った。

 加えて“海外製のIS”の資料を得るまたと無い機会である。

 故に早速それら“資料”の収集に、模型部一同は動き、全員でオンラインゲーム“幻想惑星”の世界にログインした。

 ドイツからの応援――“クラリッサ”という戦友の援護もあり、模型部はゲーム内で、地獄の30時間耐久レアドロップマラソン(デスマーチ)を駆け抜け、目的の3機のISの装備と武器のデータを手に入れる事に成功した。

 その過酷な戦いの末に模型部――クラリッサを含めた一同の結束が、先輩後輩や男女、国境の垣根を越えた“熱い友情”に昇華したのは言うまでも無い。

 それは過酷な合宿を乗り越えた運動部の絆に勝るとも劣らないだろう。

 そんな“最初の資料集め(ネトゲ廃人プレイ)”を終えた模型部一同は、睡眠という少しの休みを置いて直ぐに、イベントに展示するIS3機分の模型の制作に取り掛かった。

 学校の部室で作業するだけでは時間が足りないと悟った部長青峰が部員を実家に呼び、そこで入り浸っての作業を早々に提案。

 もしも青峰が医者の息子でなく、その潤沢な経済支援による素材提供と、MAYAや3Dプリンター等という高価な道具による作業の効率化がなければ、状況は更に過酷になったといえるだろう。

 更には学生の本分として、七月の頭には期末テストが迫っていた。

 補習を受けるハメになればそれだけ作業の時間が削られる。

 その為、模型部一同は勉強も平行して行なう必要があった。

 しかしそこでも青峰が、発起人(いいだしっぺ)としての“男気”を見せた。

 期末テストを見越した青峰は、先輩としての経験とその無駄に“高成績を叩きだす頭脳”を生かし、模型部一年生部員全員に、過去に出題された期末テストの出題傾向を伝授したのだ。

 それにより模型部一同は1人も赤点も無く――――と、いうより寧ろ学年の上位成績者に全員がその名を連ねるという結果を出した。

 ――――そんな期末テストを無事に乗り越えた模型部一同は、終業式を経て夏休みに入った。

 イベント前の最後の追い込みとして、秋斗達はほとんど家に帰らず青峰の実家に入り浸った。

 そして来るべき7月24日――――。

 模型部一同はワンフェスの会場となる“幕張メッセ”の土地を踏みしめた。

 

「――――拙者は、この日を生涯忘れる事は無いでござるよ」

 

 青峰はワンフェス会場に用意したサークルの椅子に座り、傍らの秋斗にそう言い聞かせた。

 秋斗は青峰の言葉に受けつつ、この日のために作った模型部のブースに展示された3機のISの模型に視線を移した。

 会場に足を運んだ無数の模型ディーラー。そしてサブカルを愛する数多くの来場者。

 それら多くの人々が模型部のブースの前に足を止めて、『写真撮影いいですか?』と、尋ねてくれる。

 余りに過酷なスケジュールと時間の無さがたたり、まともに塗装して完成見本として展示出来たのは“秋桜”の模型一つだけだったが、それでも多くのお客さんが『凄い!』や、『感動した!』という言葉を贈ってくれた。

 賞状にも残らず、表彰台にも登る事の無い、自己満足を突き詰めた世界だが、その中で模型部一同の心は確かな感動で満たされていた。

 

「……最初に話を聞いたときは無茶苦茶だと思ったけど、終ってみればいい思い出だな。よかったよ、部長と戦えて」

「それは拙者も同じでござるよ。ありがとう、秋斗殿。コレで心置きなく卒業できるでござる」

 

 撤収作業の途中で、秋斗と青峰はそんな言葉を交わした。

 そして互いに、この日の友情が恐らく生涯続いていくと感じた。

 

 

 

 

 夏休みが終わり、季節は秋になる。

 季節は文化祭のころだ。

 文化祭の部活の出し物で模型部は、夏のワンフェスに展示したアメリカ、日本、ドイツ製の3機のIS模型を、完成見本として展示する事にした。

 この文化祭が今年の模型部が参加するイベントとしては最後になる。

 しかしイベントと言っても、文化祭で部として新しい模型を造る気は無い為、この時の模型部にはわりと暇があった。

 故に、そんな時間を使って、秋斗はかねてより数馬、若原、山口に紹介しようと思っていたジークンドーの師範――劉老人を紹介した。

 

 趣味の方向性は違えど、全員がそれなりのオタクである。

 加えて男らしく、強さには一定の興味がある。

 そして“いじめられた経験”から、護身としての幾つかの技を覚えて“自信をつけたい”という意思もあった。

 流石に秋斗程の天性の才覚はないにしても、その結果数馬達はそれまでのインドアな趣味から一変して、鍛錬に外に出る機会が多くなった。

 劉老人が鍛錬に付き合う時間は基本夕方から夜である。

 そんな劉老人との鍛錬を行い、夕食に鈴の中華飯店に訪れた秋斗含む模型部は、開口一番に鈴にある指摘をされた。

 

「――――折角なんだから、もう少しマシな髪型にしてみなさいな? その方がモテるわよ、きっと」

「ぁん?」

「前々から思ってたんだけどさ。あんた達(模型部)全員顔立ちは悪くないのよ? 特に秋斗。アンタもうちょっと外見を意識しなさいよ。勿体無い」

「……外見ねぇ」

「外見か」

「外見なぁ」

「外見……」

 

 兼ねてから秋斗は、鈴と弾からもう少し身なりを整えろと指摘されていた。

 秋斗の髪型はこの時点で肩まで届くほど伸ばし放題。そして服装は、削りカスと塗料の飛沫がついた汚い装いである。

 また数馬他、模型部全員も似たり寄ったりな出で立ちである。

 鈴は最近顔を見せるようになった秋斗含む模型部一同を見て、常々歯がゆく思っていた。

 

「模型の完成度に拘る前に、自分の完成度に拘りなさいよ。そんなだから模型部はキモいとか陰口叩かれてるのよ? 悔しくないの?」

「まぁ、悔しいと言うか……なんだろうな。どうでもいいんだが――――」

「その考えが良くない! 絶対に何とかしなさい! 何とかするまで出禁にするわよ!」

「……そりゃ横暴だろ」

「横暴じゃない!」

 

 鈴はますます意固地になった。

 何をそんなに鈴は意地になっているのか判らず、秋斗は首をかしげた。

 

「――――そりゃお前、秋斗が本気出せば一夏に匹敵するだろうからさ」

「……どういう意味だよ?」

 

 翌日の放課後。

 一夏は部活に行き、鈴は基本女子のグループで行動する為、帰路を同じにする弾に秋斗と数馬は昨日の鈴の一件を相談した。

 すると弾はあっけらかんと言ってのけた。

 

「お前等も知ってると思うけど、鈴の奴は一夏に惚れてるだろ?」

「あぁ」

「せやな。それがどうかしたん?」

 

 半年もつるめば微妙な人間関係も多少は把握出来る。故に、この時点で弾も数馬も鈴が一夏に惚れている事は看破していた。

 だからこそだと、弾は言葉を続けた。

 

「我等が同志“織斑一夏”だが、あいつは凄まじくモテる。入学直後に上級生のお姉様8人から告白された事も記憶に新しいだろう? そして、この間の中体連で一夏の人気は近隣――否、全国区に広がりつつある。だから鈴は不安なのさ」

「それはしゃあないんちゃう? 鈴が好きになってしまったんやから、鈴がそれを受け止めるしかないで? 一夏が悪いとか言う話ちゃうやろ?」

「そりゃそうさ。だけど、一夏に一極集中する人気を散らす事が出来るとしたらどうする?」

「…………は?」

「あ、なるほど。そう言うことか」

 

 弾の言う言葉の意味を秋斗は察せず、数馬は察した。

 その様子に弾は小さく溜息を吐いた。

 

「おいおい、秋斗も自覚無し(・・・・)かよ。いいか? お前本気出せば一夏並とは大げさかもしれないが、間違いなくモテる。だから鈴は秋斗に本気出してもらって、一夏の女性人気を少しでも散らしたいんだよ」

 

 弾の台詞に数馬もうんと頷いた。

 それを見て、秋斗は思わず溜息を吐いた。

 

「……んな回りくどい事せずに、好きなら好きってさっさと告れよ。あの酢豚娘」

「ま、そいつは無理だろうな。肝心なところでアイツ()へたれだもん」

「弾にヘタレって言われるなんて相当やな、鈴」

 

 男3人のそんな評価に、剣道場で一夏の姿を見守る栗色のツインテールがくしゃみをしたが、それを一同が知る由も無い。

 

 ――――それから数日が過ぎた。

 秋斗は鈴の中華飯店に顔を覗かせる度に鈴から口煩く『お洒落しろ』という小言と、サンプルとしての雑誌モデルの写真を幾つも突き渡された。

 

「――――はぁ。仕方ねェな。まったく」

「ん? 秋斗君、どうしたん?」

「……数馬。ちょっと山口と若原を呼んでくれ。俺は弾を呼ぶからよ」

「一体どうしたん?」

「……ちょっと本気出す」

「……マジでか?」

 

 鈴の執念に、秋斗は遂に折れた。

 ――――そしてこの“妥協”が、後の事件の引き金となった。


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