IS原作にたどり着け! 『本編完結』   作:エネボル

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たくさんのリクエストありがとうございました。大変参考になりました。今後ともよろしくお願いします。


第二章
18 束の『難題』 前編


 インフィニット・ストラトス。

 それは全地形に対応する『夢のマルチフォームスーツ』として誕生した、宇宙開発や宇宙探査を目的とする“未来への翼”である。

 開発者、篠ノ之束が手ずから製作した『白騎士』の登場より3年。まず日本の倉持から国産の第一号『秋桜』が誕生。続いてアメリカ、ロシア、ドイツ、フランス、イングランドという、名だたる世界の先進国が、次々と独自のISの開発に成功した。

 それら多くのISは後に“第一世代”と称される。

 そしてまた、そんな第一世代の誕生ラッシュを皮切りに、世界の技術は大いに進歩したと言えるだろう。

 しかし、そんな風に数多くの技術者が血眼になって研究を重ね、人々の生活に密接な形で強い影響を与えたISには唯一、どうしても解き明かせない『ブラックボックス』が存在した。

 ISをIS足らしめるモノ――『ISコア』である。

 それは所謂、普通の機械の機関や動力部とは一線を画した代物で、比喩をもってしかその説明が出来ない程に複雑怪奇。言うなれば、『人工的な生命体』にして、『模造された機械の魂』と呼べる代物だ。

 ソレだけが唯一、世界は解き明かせなかった。

 現時点で『ISコア』を独自に産み出し、それを有する技術を保持する者は世界で唯一、ISのパイオニアにして“天災”と称された科学者――篠ノ之束のみとされている。

 ソレを証明するかのように、独自にコアを研究して自社製のISコアの量産に拘った多くの技術者や企業は、ここ数年でその勢いを大きく削がれていた。また一向に解き明かせぬコアの複雑さに労力を割かれ、IS本体のフレーム開発という分野で大きな遅れを取った。

 そんな流れの中で、かつては老舗と呼ばれた大手の企業が衰退し、逆に中小に過ぎなかった子会社が隆盛すると言う現象が、世界中の至る所で散見された。

 また投資を生業とする人間にもその影響は大きく、一晩で莫大な財を作った者も在れば、逆に一晩で命を絶たざるを得ない程の負債を手にした者も存在した。

 ISという強烈な光は、世界の中にそうした闇も同時に作った。

 ――――故に、だろうか?

 束は『ISコア』について一切、その情報を明かさなかった。否、明かしたが、あえて凡人には理解出来ない複雑怪奇な説明のみしか行なわなかった。――――そしてISの開発ラッシュに沸く世界中を尻目に人知れず世界から姿を消した。

 束が3年程移り住んだ人工島の研究室で作られた総数500個のISコア。それを残して、束はまるで初めから居なかった様に忽然と歴史の表からその姿を消した。

 残された『ISコア』と、『世紀の大天災』の消息については、世界中で様々な憶測と陰謀論が叫ばれたが、遂に誰もその真意にたどり着く事は出来なかった。

 この世でただ一人、天災が弟子と慕った“少年”を除いて――――。

 

 

 

 

「――――“此処”、がそうなのか?」

 

 朽ちて捨てられた工場跡地。有刺鉄線で厳重に入口を封鎖されたその場所を訪れた件の少年は、手にしたスマホに表示させたメモを片手に思わず首を傾げた。

 年の頃は10に差し掛かったばかり。鬱蒼とした黒髪を無造作に流してゴム紐で結い、平均的に見て十分に整ったと言えるその面立ちには猛禽の様な強い眼光と年齢に不相応な深い隈。

 磨けば光る素材にも拘らず、まるでそんなモノには興味がないと言わんばかりに、黒を基調にした簡素で質素な衣装に身を包んだその少年の名は、“織斑秋斗”と言った。

 秋斗は再度、手にしたスマホのメモを確かめる。が、やはり住所に間違いは無く、この廃工場が“今度の目的地”のようだ。

 

(もったいぶって今更、博士は何を見せてくれるのやら――――)

 

 秋斗はそんな思いで小さく溜息を吐くと、実にかったるそうな足取りで封鎖された入口の有刺鉄線を潜り、その敷地に足を踏み入れた。

 その直ぐ脇に見つけた入口の立て札には、土地の所有者である“宇佐美アリス”の名と、進入禁止の警告札が掛けられてあった。

 秋斗がこの廃工場を訪れたのには理由がある。遡る事一年ほど前だ。それは師と仰いだ“天災”篠ノ之束が、その失踪の数ヶ月前に残した『ある伝言』が切っ掛けであった。

 

『渡したいモノがある――』

 

 その時の束は単刀直入にそんな言葉を残して、電話越しの秋斗にある場所の住所を伝えた。

 その最初の目的地は近所の畑。

 秋斗が電話から二日後に件の場所に向うと、その畑の側溝の脇にブリキで作られた“人参”の模型が置いてあるのを発見した。

 人参の模型は中が空洞で、そこには束直筆の手紙と奇妙な機械のパーツがあった。 

 

 あっくんへ

 今、この手紙を読んでいるという事は、どうやらちゃんと約束を守ってくれたようだね。

 と、言う訳で次の指示に移らせてもらおう♪ あ、でも安心してよ。

 ユグドラシルの葉っぱを探して来いとか言う無茶を言うつもりはないからね?

 有象無象の凡人は“天災”とか呼ぶけど、束さんもそこらへんの常識は弁えてるよ。

 きっとあっくんの事だから今頃「面倒くさ……」とかって思ってるんでしょ?

 当然、そんな事は束さんも分かってるつもりだよ。でもゴメンね?

 あぁ、それと以前使ってた“通話ソフト”のログにURLを貼ったから、それの確認もお願い。

 今、PCなかったんだっけ? まぁ、でも問題はなかろう!

 エッチな手段で一杯稼いでたんだから、新しいのなんて直ぐに買えるよ。

 捨て値のパーツで自分で組んでも良いしね。でも、ちーちゃんから返してもらう方が良いかも。

 あぁ、それと――――――――

 いい加減、「本題に入れ」って?

 仕方ない。そうと言われちゃ仕方ない。詳細は二枚目に記載してあるよ!

 天才の束さんより

  PS。この手紙は最後(・・)まで捨てたらダメだよ?

 

 それが最初の手紙である。

 そして同封してある“二枚目”に記載された住所。『その位置から東方向に386m先にある公園の西入り口から右手に2本目の桜の根元』に向うと、秋斗はまた別の束の手紙と、機械部品を発見する事になった。

 そんな風に束が次々指示する“宝探し”染みた遊びにつき合わされたのが、この一年の秋斗である。

 失踪した“天災”篠ノ之束が残した『遺産』の調査。

 大げさに言えばそんな言い回しも出来るが、実際には下らない手紙と、ネットでも容易に取り寄せられるような数百円程度の機械部品が見つかるばかりである。流石に秋斗も“何かしらの意味”がなければとても付き合ってられないと思い、そろそろこの茶番に飽き始めていた。

 そして根気強く束の茶番に付き合ううちに、秋斗は5年生となっていた。

 世界各国がISの独自開発に成功し、来年を目処に国際IS競技種目モンドグロッソが開かれようとしている頃。

 そうして最後に辿りついたのが、この廃工場であった。

 

「おじゃましま~す」

 

 秋斗は飄々とした足取りで、朽ちた工場の建物内部を散策した。

 トタンの屋根は風化して一部が崩れており、雨漏りの所為で残された大型機械は錆び付いている。他人の気配は当然無く、雰囲気は霧の中を歩くホラーゲームを髣髴とさせる程。とはいえ、並みの小学生ではない異端者――秋斗が、その程度の雰囲気に動じる事はなかった。

 故に秋斗は欠伸交じりに内部を探索する。

 ――――そうしてしばらくすると、秋斗のスマホが謎のメールを受信した。

 

「んぁ?」

 

 メールに宛名はなかった。しかし題名部分に短く、『2階、女子トイレ 個室の3つ目♪』と記されていた。

 流石の秋斗も“この状況”で匿名のそんな通知を見て平静にとはいかなかった。

 秋斗は一瞬背筋に冷たいものが走るのを感じた。が、しかし文面の最後の“♪”を見て直ぐに送り主を想像できた為、程なくして安堵の吐息を吐いた。

 そして秋斗は指示通りに女子トイレへと向った。

 既に廃屋と化しているので、トイレは既に水の流れすらも止まっている。

 秋斗はそんな様子を眺めつつ、指示にあった個室の戸を開く。

 すると中には、洋式の便器が一つ――――。 

 

「……此処か?」

 

 秋斗は半信半疑で便座を上げ、次にタンクの蓋を持ち上げた。

 タンクの中には鈍い光沢を持つ、掌に収まるような金属質の“ナニカ”が転がっていた。

 

「――――なんだ、こりゃ?」

 

 ソレは今まで束から送られたパーツ類とは一線を画す奇妙な素材の様に見えた。

 思わず首を傾げた矢先――――。

 秋斗のスマホが再び鳴った。

 

「もしもし――――」

『やぁやぁやぁ! 遂にそこまで辿り着いたんだね! おめでとう! 流石、束さんの弟子なだけあるよ』

「……博士か?」

『イェ~ス。束さんだよっ♪ 一年ぶりぐらいかな? 元気してたかな? かな?』

「…………どこかで見てるのか?」

 

 数ヶ月前に失踪したと世間で騒がれた束。その人物からの直接の連絡に驚きつつ、秋斗は見越したようなタイミングでの連絡に、思わず周囲を見渡した。

 

『いや、直接には見てないよ。だけど張り巡らせたセンサーと、置いておいた“ソレ”に触れたでしょう? その反応を見て、遂に来たか! と、確信したのさ♪』

 

 束はそんな秋斗の様子を察したかのように、種を明かした。

 

「センサー? まさかさっきのトイレに行けっていうメールも――――」

『そ。予めその廃墟に仕込んでおいたセンサーから送られたものだよ。おっと、驚いてもらっちゃ困るよ? その程度の仕掛けなんて大したモノじゃないしね。それにそもそもその土地は、“今日の日の為に”束さんが買っておいた場所だし』

「………………そっか」

『ありゃ、あんまり驚いてくれないねぇ。久しぶりにしては淡白な反応でちょっと寂しいよ。一体、どうしたの? 具合悪いの?』

「いや、相変わらずな博士で安心した所だよ」

 

 秋斗は万感の思いを吐き出すように、短く返した。

 篠ノ之一家が地方へ転居したのを皮切りに、程なくして束も世界からその姿を消した。原作でもその通りの展開になっていたのを知っていた秋斗は、世界中の人間に比べてその失踪に対する驚きは少なかったが、逆にこうして脈絡の無い連絡が自分に届くのは意外に思えた。

 それだけ懇意にされている事をありがたいやら、不安にやらと思いつつ、秋斗は尋ねた。

 

「――――で、この丸一年近く掛けた茶番は一体、何すか? いきなり失踪した理由とか、世間じゃ色々騒いでるけど、そんな事はどうでもいいから、流石にそろそろこの“茶番”の理由を説明してはもらえませんかね?」

 

 秋斗は便座の上に腰を下し、そして先程見つけた謎金属を掌で転がしながら、問う。

 対する束は電話の奥で苦笑を浮かべたように声に小さく吐息を混ぜた。

 

『茶番とは酷いなぁ、結構真面目に考えたのに。まぁいいや。で、あっくんは最初の手紙に記した“URL”の中身は見てるよね?』

「一応」

 

 秋斗は出発点となった最初の手紙に同封してあった指示を思い出す。

 その指示は、まだ織斑家の救済に秋斗が四苦八苦していた頃、連日束と会話して過ごした音声通話ソフトのチャットログに残されたURLを見ろと言うものだ。

 件のURLはストレージサービスのもので、秋斗はそこで、“何かしらのプログラムコード”が書かれたZIPファイルをダウンロードさせられている。ソレを読み解く為に、千冬にマジ土下座をしてノートPC(トチロー1号)を返却して貰ったのだ。なのでよく覚えている。

 ふとそんな風にこの一年を振り返る秋斗を見越して、束は言った。

 

『――――つまり、コレで“材料”は全て揃ったと言うわけだ』

「材料?」

『そう。これからあっくんには束さんの弟子として、一つ“課題”に取り組んで欲しいのさ。と、いうより今までの“茶番”は全てこの時の為の準備期間だね。あっくんにはこれから、たった今手にしたその“ISコア”を育てて欲しい』

「………………は? ISコア?」

 

 秋斗は思わず手の中に収めた謎金属に視線を落とした。

 篠ノ之束が失踪した事で、もはや世界に500しかないと言われたISの心臓部。それが今、この瞬間に己の掌にあるという事実を聞かされ、秋斗は思わず眼を見開いた。

 

『あっくんに今日までの面倒を積み重ねて貰ったのは、世間を欺く為だと思ってくれて良い。まぁ私が失踪したのと同じ理由だよ。手元にある(・・)って事が知られると実に面倒くさいんだよねぇ……』

「それはどういう――――」

『私の中で、実は既に“ISが男に反応しない理由が分かっている”と言ったらどうする? 世間に身を晒している状況でその条件を発表したら、今の世間(・・・・)はどうなると思う?』

「…………は?」

 

 束は声の中に少しばかりの寂しさと苦悩を滲ませ、そんな風にぼやいた。

 

『――――さて、あっくん。コレが最後の伝言だよ。今まで渡した手紙の内、最初の一枚は全て“縦読み”。そしてそれがパスワードだ。ランダムに解除コードが変わる様になってるから、今までの手紙の中のどれが今の“当たり”かは分からないけど、ソレを使って開いた先が、『白騎士』の生まれた場所――束さんの旧ラボ。そこであるモノを作ってもらう為に、あっくんには今日まで動いてもらったんだ』

 

 束はそんな風に、ある意味で最後となる言伝を秋斗に送った。

 

『面倒かもしれないけど、私が信用できる男の子はあっくんしか居ない。だから、ごめんね? コレはあっくんにしか頼めない仕事なんだ。どうかな?』

「…………とりあえず、話が見えてこないからもう少し具体的に説明してくれ」

 

 秋斗は小さく吐息を吐き、そして言葉の続きを促した。

 

 

 

 

 500作られたISコアはその管理を超国家機関、国際IS委員会が行なっている。作られたコアは国土の広さや人口や技術力の優劣で配布数が取り決められ、ソレを使う事で、世界はISを独自に開発した。

 ISは世間に着実に普及を始めている。

 傍から見れば、それは発明家としては大成功の部類だと言える。

 が、しかし束には、そんな世間の様子が“想定”したISの未来に繋がらない道筋を辿っていると思えた。

 そんな風に秋斗は、束から失踪した真意を聞かされた。

 

『――――500って数は、まぁ、競技には丁度良くて戦争利用するには心もとない数だ。だからココらが潮時かなぁっと思ってね。男が乗れない理由を明かすのもそうだけど、これ以上はISコアの生産の目処が立たないって事になればさ、そんなに軍事軍事と言われないでしょ?』

 

 与えられた人工島の研究室。世間に繋がるその場所に居る限り、束は確実にISコアの生産を今後も“せっつかれる”。だからこそ一時的に世間から身を隠したと束は言った。

 宇宙開発を目的とするならば500あれば十分。

 より必要であるならコアの増産も受け入れるが、しかし“今の世間の流れ”でこれ以上のコアの生産は、ISの本来の目的から外れかねない。

 そうした理由を、束は珍しい比喩を用いて端的に語った。

 

『別に束さんは“アルフレッド・ノーベル”になりたいわけじゃないしね』

「ノーベルって、確かダイナマイト作った発明家だったっけか?」

『そ。そのノーベルであってるよ』

 

 秋斗の意見を束は苦笑混じりに肯定した。

 アルフレッド・ノーベル。それは“ダイナマイト”を作り出した発明家にして、世界平和を尊んだ偉人である。

 彼の生み出したダイナマイトは元々、鉱山開発や開墾作業という現場で人々の暮らしに役立つようにという希望を持って生み出された。が、しかし結果は性能故に世界中の戦争に利用されて武器と化した。

 ノーベルは晩年になってもダイナマイトの発明を悔やみ、そしてダイナマイトの発明で得た莫大な財を使って、“ノーベル賞”という人類の平和と発展を称える賞を作り、没した。

 珍しく他人の名前を口にした束は、そんな彼の偉人の様に“成りたくない”という自身の本音を秋斗にだけ吐露した。

 

「……ISも何れダイナマイトに等しくなる、か」

 

 宇宙開発という本来の目的を忘れて、ただの一つの武器、抑止力と化す。

 その流れは確かにダイナマイトに等しいと秋斗は思った。

 そして、そうした流れに釘を刺す為の失踪であり、コアの生産数の打ち止めだと束は言った。

 秋斗は不意に、原作でISが“超兵器”として描かれている描写を思い出した。

 

(そういや、原作じゃドイツのIS特殊部隊のキャラが居たっけな。それにアメリカ製の“ゴスペル”だったか――――)

 

 原作のインフィニット・ストラトスは結局のところ、ISを兵器にしたいのか、宇宙に飛ばしたいのかがまだ不明だった。

 そして原作のその時期の束はある種の『狂人』にも似ており、享楽的に事件を起してISを自ら戦わせているようにも思えた。

 その真意を今現在の秋斗が推し量る事は出来ないが、しかし後に、今の束がそうなる事を思うとなぜだか少し悲しくなった。

 保持する性能故に関心が軍事に向くのは仕方がない。

 事実、『白騎士事件』でもその性能が大きく取り沙汰されている。

 未知より、目先の利――――。

 まだ世間の小学生の方がISに対して夢を見ている様な気がして、秋斗はそんな“現実”の有り様に今生でも溜息を吐く。

 

『――――まぁ、そう言うわけだから束さんは失踪したわけですよ♪ たった500しか作れないんじゃ、まかり間違っても“兵器として優れてる”なんて寝ぼけた事、言えないしね』

 

 束の声には諦観のような色が篭った。

 何時に無く、束にしては真面目なその声のトーンが、秋斗には不思議と哀しんでいるように聞えた。

 そしてそんな束の言葉を聞く最中、秋斗は不意に前世の事を思い出していた。

 

(……そう言えば、割りと早死にしたっけな)

 

 おぼろげだが、秋斗はかつて“夢”に生きていた。その人生を総括すると、『好きなように生きて、好きな様に死んだ』とも言える。

 やりたい事、学びたい事を軸に生きた。その結果が今日に続く“天災”の弟子だと思うと、秋斗は“今”の状態がなるべくして成ったとさえ思えた。

 そして同時に思う――――。今生はどう生きようか、と。

 そんな風に秋斗は自問するその傍らで、束にも問うた。

 

「――――なぁ、博士は今の世界をどう思う? 面白いと思うか?」

『……うん? いきなり、妙な事を聞くね。そりゃあ不満はいっぱいあるけど、そこまで嫌じゃないよ。どちらかと言うと“面白い”って思ってるよ?』

「……そっか」

 

 束のそんな返答を聞いて、秋斗は思わず小さな笑みを浮かべた。

 

「……事情は大体分かった。博士の選んだ事だ。俺はソレで良いと思う。――――で、俺に何を手伝って欲しい?」

『手伝ってくれるのかい?』

「あぁ。今更手を引くってのも寝覚めが悪い。俺に何が出来るかまでは保証してやれないけど、それでもいいなら、手伝ってやるよ」

 

 秋斗はそんな風に言葉を返して、手の中に収めたISコアに視線を落とした。

 コレまでは原作にたどり着く為に生きてきたが、たどり着いた先でも人生は続くのだ。

 その時になって、今の自分がどうしているのかは分からないが、少なくとも所謂“普通”の中に納まる気がしない。

 更に言うと、だ。

 

「博士とつるんであれこれ企むのは結構面白いからな。少なくとも、俺は退屈はしない。博士はどうよ?」

『そうだね。束さんもそれは同じかな? だから協力してくれるのは本当に嬉しいぜ! いやぁ、流石あっくんだね! 頼もしすぎる!』

「……煽てても期待に添えるかはわからねぇけど、な。まぁ、“退屈”はさせないつもりだ」

 

 束は秋斗の了承の返事を聞いて、そんな風に喜色を上げた。

 その声の色は原作からイメージされる束とは大きく違っていた。

 そんな風に、今生の“友人”に与えた自身の影響を鑑みて秋斗は、寧ろこのままで良いと改めて思う。

 『斜に構えて世界を諦観する』なんていう遅まきの中2病を煩う原作を思えば、今の方が遥かに好ましい。

 故に、それから程なくして秋斗は自宅に戻った。そして必要な道具や材料、『宝探し』で得た束の手紙と各種パーツ。手元に戻ったノートPC(トチロー1号)を手に、秋斗は再度家を出発して、束が最後の目的地に示した“旧研究ラボ”に足を運んだ。

 篠ノ之神社から南に歩いて500m先――そこはISコアを見つけた廃工場と同じく、打ち捨てられた倉庫があった。

 秋斗は朽ちた外観に似合わない厳重な鋼鉄の扉と電子ロックの前に立ち、パスワードを入力した。

 

 『愛と勇気とIS愛して』

 

 時間によってランダムに正解が移り変わる為、正解を見つけるのに少し時間はかかったものの、秋斗はついにパスワードを探り当てる。

 

「まぁ、確かに内容を聞く限りじゃ、一夏や姉貴(千冬)には無理な話だ。俺にしか出来ないって言うなら、やってみるか」

 

 決意を新たに、秋斗はISの生まれた『始まりの地』に降り立った。

 そこで秋斗は、男の為の“IS開発”という未曾有の『難題』に取り掛かった。

 


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