【完結】ヤンデレの女の子に死ぬほど愛されて眠れない兄になって死にたくなってきた   作:食卓塩准将

52 / 75
第2話 あなたは何にも悪くない

 棺の中で瞼を閉じている悠の顔は、陳腐な言い回しになるけど、それはそれはきれいなモノだった。

 爆発に巻き込まれたことによる重度の火傷と、包丁でめった刺しにされ出血多量による死亡……死因からして目も当てられない状況なのを覚悟していたが、『納棺師が頑張った』と殆ど顔を見た事の無かった悠のご両親に言われた。

 ただし、それは首から下までの話。そこから先の身体は……見せられるものではないとも。

 

 だからだろうか。

 たまにこの手の場面を描写する際に見られる『今にも目を覚ますんじゃないか』という感覚はまるで無く。

 俺は、棺の中にいるそれがもはや命の尽きた悠の肉体でしかない事を、この上なく理解するばかりだった。

 

 葬儀には当然俺以外にもたくさんの人がいたから、すぐに俺は会場の端に追いやられてしまう。

 全員の顔や名前を知るわけもないが、この街の町長や県知事など、市民がよく知る人間なんかも居て、改めて自分の友人がどんなに大きな家の人間だったのかを思い知る。

 

 大人たちの中で一人、俺が悠の友人だと把握していた男性に声を掛けられた。

 その人は悠が幼少期の頃から関わりのある方だったらしいが、『彼は私たちの前では表情が崩れることが無かった』と言われて、少し驚いた。

 表の顔──俺にとっては裏の顔になるのかもしれないが、悠が社会人を相手にどんなふるまいをしていたかを、初めて知ったからだ。

 こうして穏やかな表情を見たのが死んでからで、それがとても残念で仕方ない、と。

 

 あいつは、自分よりずっと年齢も人生経験もある大人たちと付き合いながら、俺たちの前では等身大の姿を見せてくれてたんだと、こんなタイミングで知ることになった。

 

 式には咲夜も来ていた。彼女の両親と思わしき人物は見えなかったが、それを尋ねる気には到底ならない。

 全てが終わり、棺が霊柩車に運ばれる前、悠の両親に声を掛けられた。最後にもう一回、彼の顔を見てくれないか、と。

 断る理由は無い。俺は頷いてもう一度、親友の顔を見る。

 

 ああ、やだなぁ。

 

 そんな言葉が脳裏にふっと浮かんでしまった。

 

 悠の顔を見たくないからではない。似たような経験と記憶を、俺の意識は記憶しているからだ。

 俺ではない、俺……前世の自分(頸城縁)が幼なじみだった女の子の死に顔を見た時と、今の自分が重なってしまう。

 頸城縁は女の子の葬式には行かなかった。俺はこうして来たが……悠のきれいな死に顔を見て、これが今から骨と灰だけになってしまうのだと思ったら、どうしようもなく嫌になった。

 

『悠の友人で居てくれてありがとう』

 

 彼の父親に、言われた言葉だ。

 

『悠には自分たちの都合で昔から窮屈な想いをさせ続け、自分たちにはそれをどうすることもできなかった』

『この街に来て、君と出会ってからは、まるで彼が綾小路の人間じゃなく、ごく普通の家庭の男の子のように見える時が何度もあった』

『それは綾小路家の人間にとっては許せない事だったかもしれないが、純粋にあの子の親としては、ある意味で救いの様にも見えていた』

『だから、彼を幽夜ではなく、悠にしてくれたことを本当に感謝している』

 

 そんなことを言われて、俺は返す言葉なんて持ってるはずも無かった。

 ただただ頷いて、受け入れるしかなかった。

 その後すぐに、出棺されて棺は今時珍しく豪勢な造りの霊柩車に乗せられていき、俺もつつがなく帰宅する運びに。

 

 出棺直前、悠に言った言葉はありがとうでもさようならでもなく、誰にも聞こえないくらいの小声で呟いた『もう、いたくないよな』だった。

 

 帰り際、葬儀中には会話しなかった咲夜とすれ違って、『悠を刺した犯人は火傷のせいで死んだ』と教えられた。

 全身が損傷しており、顔も指紋も焼けただれて、詳しい身元を判明できるモノがないとも。

 そんなことを伝えられても、もはや俺にはどうしようもない。

 生きてれば殺せたのに。そう思うしかなかった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 その後、俺は帰宅した……はずだったのだが、何故かその記憶があいまいで、気が付けば体は真っ暗になった俺の部屋のベッドの上で、そばには渚が寄り添うように寝てた。

 あんまりにも急な展開で頭がこんがらがるが、状況から察するに俺は帰ってからすぐに、塩を撒くことも忘れて眠ってしまったらしい。

 それにしたって、なんで渚が横にぴったりくっ付いてる……? 

 

 眠りが浅かったのか、気を張り続けていたのか、はたまた俺の疑問に答えるためか、起きたのを察して渚もすぐに目を覚まし、暗い部屋の中でも俺と目が合う。

 渚は安心したようにため息と小さな笑顔を浮かべた。

 

 そこから、暗い部屋のまま、俺は渚に改めて起きたことを伝えられる。

 

 

 俺が帰ってきたことを玄関が開く音で渚は気づいたけど、ただいまという言葉が聴こえず、中々リビングに入ってこないのがおかしいと思い、渚が様子を伺おうと玄関まで行くと前のめりで倒れている俺が居たとのこと。

 急いで医者を呼んで見てもらったところ、過度の心労によるものだと分かり、そのまま部屋で寝させることになったという。

 さすがに医者に運ばせるわけにもいかず、仕方なく綾瀬や夢見に手伝ってもらい、男の俺を部屋まで連れて行ったと言われた時は、申し訳なさよりも起きない自分に恥ずかしさを抱いてしまった。

 

「綾瀬さんにはお兄ちゃんが起きたらすぐ伝えるからって宥めて帰ってもらったけど……居てもらった方がよかった?」

「……いや、ありがとう」

 

 全部聴き終わった俺は、枕元に置いてあったスマホの着信履歴に綾瀬から何件も来てたのに気づきながら、渚にそう言った。

 そうして、話を聞く間起こしていた半身を倒して、枕に頭を深々と預ける。

 

「葬式行ったくらいで倒れるって、案外俺のメンタルって脆かったんだな」

「……そんな事ないよ、お兄ちゃんにとって悠さんは……本当に仲のいいお友達だったんだから」

「……俺さ、いまだに、ああして死に顔も見たのに、まだ無いんだよ」

「無いって、何が?」

「泣いて、無い」

 

 そうだ。

 悠の両親に声を掛けられても、悠の死に顔を見ても、心が苦しむことがあったって涙だけは出てこなかった。

 あんまりにも涙腺が反応しないから、ひょっとして俺はあいつの事を心の奥底では友人とは思ってないんじゃないかと焦りだしたし、でもだからってそうやって無理やり出した涙なんかに価値はあるのかと思うと、更に涙が出る気配を感じなくなる。

 

「あいつは、死ぬ前に涙流したのかな。流すよな、痛いかったんだから。苦しかったんだから」

「……」

 

 渚は敢えて何も言わず、俺に喋る時間を作ってくれる。

 

「頸城縁が、瑠衣の死に顔見た時はすぐ泣いたんだよ。泣いて泣いて、心が壊れてさ」

 

 なのに、頸城縁の来世に当たる俺は泣かない。

 片や幼なじみ、片や親友。失ったのはどちらも同じ、かけがえのない大切な人。

 ならどうして、頸城縁は涙を流し、俺はそうじゃない? 

 

 薄情な人間だからか。

 かけがえないワケではないからか。

 幼なじみと親友とはいうが女の子と男の子で性別が異なるからか。

 

 違う。

 

「俺はさ、これが初めての死別だったら泣いてと思う。どうしようもなく」

「初めてじゃないから……お兄ちゃんの頭の中に、頸城縁さんの記憶があるから、泣けないの?」

「……っ」

 

 果たして、そうなのだろうか。

 実のところ、渚に先に言われるまではそれを理由にしようとした。

 けれど、先に言われたことで掃除したくなくなる小学生じゃないが、いざ考えてみたらそれにも疑問が生じる。

 

「たぶん、違う」

「じゃあ、なんで?」

 

 思い出す。俺ではなく頸城縁の記憶を、自分と近しいが限りなく遠い心の隣人の記憶を掘り起こす。

 初めて彼が死別したのは実の母親。自殺だった。

 その次が瑠衣。

 最後が堀内……まあこの場合はこっち側が死んでの死別だったが。

 

 そして、今の俺が死別した、親友の悠。

 

 それらを並べて、比べて、当時と今の心の模様を見る。

 そこまでしてようやく、少しだけ分かった。

 

「俺は、瑠衣が死んだときはすぐに泣いた。もちろん悲しかったってのもあるだろうけど、それだけが理由じゃない。……死ぬまでの過程に、俺が関わってた事が分かったから。俺のせいで死んだってのがすぐ分かったから、罪悪感が涙を出させた」

 

 俺の記憶にある頸城縁のみみっちい人生についてはとっくに渚に説明している。

 だから渚も、何か言いたげではあるが、否定の言葉を言うのをグッと我慢した。

 

「逆に、頸城縁の母親が自殺した時は、俺が死因に関わってないのが分かって、涙は流したと思うけど、それ以上に呆然とした。何やってんだろこの人って」

 

 じゃあ、今回はどうだ? 

 

「そこが問題なんだ」

「どう問題なの?」

「俺、最後にあいつとどんな会話したっけ」

「会話……ごめん、覚えてない」

「ああ、俺もだよ」

 

 思い返すが、夕焼けに照らされたアイツの笑顔は思い出せても、交わした言葉が何だったのかまでは、思い出せなかった。 

 

「どう頑張ってもさ、大した会話してないんだよ。また後でとか、また明日とか、じゃあなとか、そんなありふれた言葉だけしか交わしてなかった」

「……しょうがないよ、だって、こんな事になるなんて分かるわけないもん」

「そうだよな。俺たちの最後の会話に、この後あいつが爆発に巻き込まれたうえに刺されて死ぬような未来が分かる事、無かったよな……」

 

 声が震えだすのが分かってきたが、抑える事なんて出来ない。

 

「俺、あいつにひどい事言ってなかったよな? 悠に、悠があんな場所に行くような切っ掛け与えることなんて何一つ言わなかったよな?」

 

 そう、それが理由だ。

 自分の行動に、悠を死に繋げる何かがあったんじゃないか。

 それもはっきりしないうちに、ただ悲しみの涙を流すなんてことは、悠の命に対する侮辱なんじゃないか。

 考えすぎかもしれないけど、いざそう思うと最後、俺が俺の涙を許さなかった。

 もし……もし、俺の覚えてない言動や所作の一つで、あいつが死ぬ原因を作っていたのなら……俺は……それすら分からないのが、悔しいっ! 

 

「ちくしょう……ちくしょう、こんな事になるなら、もっといろいろ話したかった。話して、1分でも長くいたなら、あいつが死ぬことも無かったかもしれなかったのに……なんで、どうして、あんなアッサリさよならしたんだよ俺は……」

「お兄ちゃん……」

 

 渚が俺の頭を自分の胸元に寄せて、優しく頭をなでる。

 子どもをあやすような仕草に、普段なら跳ね除ける俺の手は、そのまま渚の背中に回っていた。

 いつかの……俺が頸城縁の生まれ故郷から帰った電車の中と同じように、渚の胸に顔を預けて、抱きしめながら、俺はとうとう、そしてようやく、悠の死に──悠の死を前にした、自分の心に、真正面から向き合う。

 

「死んだ……死んじゃったよ悠が……悠がぁ……」

「いいんだよ、お兄ちゃん。ちゃんと泣いて、言いたい事も涙も全部、吐き出そう? お兄ちゃんは何も悪くない……お兄ちゃんは、純粋に悠さんのために泣いて良いの。ここには私しか居ないから、ね?」

「──っ!」

 

 その言葉が最後の堰を切って、俺は暗い部屋の中、ようやく、やっと──ひたすらに泣いた。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「──それじゃあ、行ってくるね、お兄ちゃん」

「……あぁ」

 

 翌日。玄関で靴を履きながら話す渚に、俺はそう答える。

 恥ずかしいが、昨夜は泣き疲れてそのまま寝てしまった。

 悠の訃報を聞いてからずっと登校していないのだが、葬式を終えたとはいえ、今日も登校する気にはならず休みにした。

 

 渚は一緒に休もうと提案してくれたが、俺のことは良いからと半ば無理やり学園に行かせることにした。

 起きて早々に綾瀬にも同じことを伝えて、当然綾瀬からもかなり心配されちゃったけど……明日にはとりあえず登校すると約束。守れるかは分からないけどね。

 

「渚」

「なに?」

「気を付けてな。あと」

「あと?」

「いや……うん、それだけだ。いってらっしゃい」

 

 そう言って、笑顔で渚を見送る。

 最後、渚に言おうとした言葉はこうだ。『渚は俺の前から消えないでくれ』。こんな気持ち悪い言葉、普段なら絶対言わないし考えもしない。

 やっぱり、まだ心が本調子とは程遠いらしい。今日も休みにして正解だ。

 

「……自習でもするか」

 

 授業を何日も受けてないってことは、それだけ勉強に遅れが生じてるワケで。

 悠の死に心を痛めても、世間はそれを同情しても考慮してくれやしない。

 授業のスピードに追い付けるかは分からないけど、来年は俺も受験生になるんだし、勉強しないとな。

 それこそ……浪人にでもなったら、悠に怒られそうだ。

 悠に──悠だって、本来は進路があったはずで……あいつとどんな進路にするか、そんな会話もしたかったのに。

 

「あぁ、ったく。止めろ俺、考えるな」

 

 気を抜くと──気を張りすぎても、思考が悠のことに繋げてしまいがちだ。

 やっぱり、本当に今日も休みを取って良かった。もしこんな調子で学園に行ったら、教室のあいつが居ない席を見ただけで──ああ止め止め! 考えただけで情緒が崩れる。

 

「……シャワー浴びてさっぱりさせてから勉強するか」

 

 思考回路のスイッチを切り替える意味も込めて、俺は今日最初のアクションを勉強から朝シャワーに変更した。

 

 

 

 その甲斐はあったのか、着替えて頭を乾かした後、勉強机に向かってからはずっと自習だけに意識が向いてくれた。

 普段なら間違っても味わいたくない勉強時の刺激が、今回ばかりは鬱屈した脳みそに良い意味で新鮮になったらしい。

 まるで文豪が締め切りに向けて怒涛の追い上げをするときみたいに、途中トイレに行くのも忘れて勉強に没頭できた。きっと、俺の理性も心も、何か別の集中できるものを求めていたんだろう。

 

 殊勝な学生らしい熱心な自主学習に、休憩を与える切っ掛けになったのは、俺の集中力に訪れた限界──などではなく、枕元に置いてあったスマートフォンが鳴らした着信を告げるメロディだった。

 ただの着信音ではない。特定の人物からの着信がなったときにだけ設定した曲のモノだ。

 しかもとびきり親しい人物からの着信──つまり、彼女の綾瀬からの着信ってこと。

 

 急いでシャーペンを置いて、俺は椅子から立ち上がるとベッドまでの数歩を早歩きで詰めていく。

 掛け時計の針を見たら、勉強を始めたのが8時半過ぎだったのに、もう12時45分……学園では昼休みの時間になっている。

 おいおい、普段からこれくらい集中して勉強してみたいもんだ。そう自分を揶揄しながら、俺は綾瀬からの電話に出た。

 

「もしもし?」

『あ、出た。良かった……出るのが遅いから寝てたのかと思った』

「さっきまで勉強してたんだ。──おおっと、俺がこんな時間まで勉強してることに驚くなよ?」

『そんな無理なこと言わないで。もうとっくに驚いてる』

「酷いなぁ」

 

 電話越しでも、面と向かったときと変わらない会話を交わす。

 この他愛のない時間が、過集中気味に脳を使った俺を癒してくれる。

 

『──うん、でも良かった。調子は戻ってきたみたい』

「うん。まぁ……こうして綾瀬と話ができる間は、何とかね」

『ふふ……なら、電話して正解』

「本当その通りだよ。……いや本当に、ありがとう綾瀬。声を聴けて嬉しい」

『ちょっと……そう言ってくれるのは嬉しいけど、少し大げさだって』

 

 そう言う綾瀬の声は、たぶん照れ隠しから少し上擦っていた。

 

「大げさじゃないよ。ここ数日はほとんど文字だけのやり取りだったから……まぁ、俺が悪いんだけど」

『縁……違うわ。あなたは何にも悪くない』

「ありがとうそう言ってくれると、心が軽くなる。……なぁ、綾瀬」

『なに?』

「会いたいな。こうして電話じゃなくて、ちゃんと目で君を見て、手で触れたい」

『縁っ、え、ちょっと……急にそんなこと』

 

 電話の向こうでガチ照れしてるのが分かる。

 おそらく、トレードマークのヘアリボンを弄って動揺を抑えてるんじゃないか、そんな姿を想うだけで、一層会いたい気持ちが強くなってしまう。

 

「急にごめん、やっぱまだセンチメンタルな状態みたいだ」

『……本当驚いた』

 

 驚く姿も可愛いから見たかった──そう言いかけた口を押さえて、小さく笑うだけにする。あんまり本音でも言い過ぎは毒になる。

 

「明日には必ず登校するよ、そしたらもう一回、同じことを今度は目の前で言うから」

『そんなことしたら、恥ずかしくなってあなたの方が倒れるんじゃない?』

「確かに」

『調子よくなったと思ったらこれなんだから……ねぇ縁』

「ん?」

 

 説教モードに入るかな? と心構えしたが、綾瀬はやや間を置いてから、予想とは違うことを言った。

 

『会いたいのは、アタシも同じだから』

「……うん」

『アタシも、できるなら今すぐあなたに会って、話して、触れたい』

「──いざ言われると、嬉しいけど恥ずかしいな」

『茶化さない』

「はい」

『もう──……だから、今日、授業終わったら、すぐに会いに行っていい?』

 

 そんな提案、断る方がどうかしている。

 

「ああ、もちろん。待ってる」

『……うん、待ってて。会えるのが楽しみ』

「俺も」

 

 予定を前倒しして今日会う約束を結んだ矢先に、綾瀬の方から昼休み終わり5分前を告げるチャイムがうっすら聞こえてきた。

 さっきも見た掛け時計を見ると、確かにもうそんな時間だ。

 

「じゃあ、名残惜しいけど」

『えぇ。また後でね』

「ああ。また後で」

 

 そう言って、どちらからともなく電話を切った。

 

「──さて、俺も遅まきの昼食、するか」

 

 言葉にしたら、待ってましたと言わんばかりに腹の虫が鳴る。

 今日は色々素直だな、なんて思いながら、俺は1階に降りた。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 そこから、どうせやることも無かったので、勉強を再開すること3時間後。

 さすがに脳みそが慣れない長時間自主学習に疲れを訴えだして、そろそろやめようかと思い始めた頃、示し合わせたようにまたスマートフォンから着信が来た。

 

 次は渚からの着信音で、さては授業が全部終わったから心配で掛けてきたのかな、と思いつつ電話に出る。

 

「あぁもしもし、どうした渚」

 

 昨日……というかここ最近ずっと暗い姿しか見せてこなかった分、電話で少しは明るい声を聴かせようと、ちょっとだけ元気な雰囲気で電話に出たが、

 

『お兄ちゃん……お兄ちゃん、どうしよう……』

 

 返ってきた渚の声は、恐怖と混乱に満ちたものだった。

 否が応でも、何か悪いことが起きたのだと理解する。

 

「どうした、何かあったか? 落ち着いて話せ、な?」

『どうしよう、綾瀬さん……』

「!?」

 

 綾瀬の名前が出た瞬間、スマートフォンを握る手に力が入り、心臓がギュッと締め付けられる感覚に襲われ、全身にわたって寒気が走る。

 駄目だ、渚に落ち着けって言ったばかりなのに。俺が落ち着かないと。

 

「渚。綾瀬が、どうした……?」

 

 ともすれと震えてしまう声。

 できる限り平静を装って渚に話の続きを促した。

 その先を聞いたら、絶対後悔してしまう未来を分かっていながら。

 

『綾瀬さんが……綾瀬さんが、階段から落ちて──』

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 渚の電話を受けて、吐きそうになる自分を必死に堪えて、悠が搬送された日と同じ病院に向かう途中、俺の脳裏に浮かんだのは頸城縁の記憶だった。

 幼なじみの、大事な女の子が送られた病院に向かう。

 初めての経験であり、もう一度味わう地獄。そんな誰にも共感してくれやしない苦痛が綾瀬の病院に、病室に近づくにつれ強くなっていった。

 

 頭がちゃんと働いてくれたのは、渚が言った『まだ生きてる』という言葉があったからに他ならない。

 頸城縁の記憶とは違う。彼の幼なじみは死んだが、綾瀬は生きている。死んでないんだ。

 それだけ、本当それだけが、俺が『最後の一線』を越えてしまうのをギリギリ踏みとどめてくれた。

 

 そうやってなけなしの理性を総動員して辿り着いた先に俺が見たのは、全身にチューブが刺さって、口には酸素マスクがされている恋人の姿だった。

 

『頭を強く打って、このまま目を覚まさない可能性もある……先生はそう言ってた』

 

 先に職場から駆け付けていた綾瀬のお父さんから告げられた言葉が、頭の中に深々と突き刺さる。

 綾瀬は『死んでいない』だけで、もう植物人間と同じ状態になっていた。

 頭部を強打して、脳内出血も起きたから、今は大丈夫な脳の血管も、破れて出血を起こす可能性が高く、今は生きてるけど、この先死ぬことも十分にあり得る。そう言われた。

 

 死ぬ? 

 綾瀬が、死んでしまうって? 

 信じられない。

 今日のお昼、俺に元気な声をかけてくれた彼女が──放課後に会う約束をしていた彼女が、今は病院のベッドで、いつ目が覚めるか──いや、二度と目が覚めないかもしれないだなんて。

 

 なのに、どうしようもなく現実は、事実を淡々と見せつけてくるばかりで、世界を変える力なんて無い俺は、理不尽に押し付けられた現実をただひたすら受け入れるしかなかった。

 結局、病院にはほんの数分しか居られなかった。ご両親が居た手前もあるし、医者が再度綾瀬の容態を調べるために検査をするという話で、別の部屋に運ばれたからだ。

 

 結局、急いで向かった俺にできたのは、おとぎ話の王子様なんかとは違って、眠る綾瀬がただベッドごと運ばれていくのを見届けることだけ。

 ご両親はその後も病院に残り、恋人とは言え家族ではない俺は、未練がましくも家に帰ることになった。

 

 

 行きはタクシーを使ったが、帰りは歩き。

 理由は簡単で、俺は焦って行きの駄賃分しか財布に無く、渚も救急車に同行して病院に来たので運賃なんて財布になかったから。

 それに合わせて、もう1人──同じく渚と救急車に乗ってきた、夢見もまた、俺と渚と一緒に帰った。

 

「……あの、お兄ちゃん」

 

 終始無言、というか何も話す気力の無い俺に、困り顔で夢見が言った。

 

「こんなことになって、お兄ちゃんも渚ちゃんも、つらいよね……。あたしも、綾瀬ちゃんと久しぶりに会って、これから前みたいに仲良くしていきたいって思ってたのに……」

「……夢見ちゃんこそ、大変だろ。引っ越してそうそう周りでこんなことが立て続けに。災難、だよな」

 

 皮肉でも何でもなく、心からそう思った。

 夢見の面倒を見てあげて、と母さんから言われてすぐ、こんなに参る出来事ばかりが起きたのは、確かに辛い。

 でも、それを当事者より半歩後ろから見させられている夢見だって、居心地が悪いに違いないだろう。

 しかもタイミングがタイミングだ、人によっては『自分が来たせいでこうなってるんじゃないか』と自分を責めてしまう可能性だってある。

 もちろん彼女に対してそんなことは微塵も考えてはいない。だけど、ただでさえ不安定な環境からこっちに越してきたばかり。落ち着く前からこれじゃ、彼女にしか分からない心労だってきっとあるだろう。

 

「夢見ちゃんが気にする必要なんて全然ないぞ。確かに悲しいことが続いてるけど、それにめげてしまうと2人に怒られるからな」

「でも……」

「大丈夫……に、するから。むしろ、情けないトコばっか見せてかっこ悪いな、ごめん」

 

 まずは何より、夢見を安心させたい。

 そう思って口にした言葉だったが、

 

「そんなことない、そんなことないよお兄ちゃん!」

 

 思ったより強い口調で反論されて、つい足を止めて夢見を見た。

 夢見の目にはうっすらとだが涙が浮かんでいて、俺も渚も、少しだけたじろいだ。

 

「お兄ちゃんは情けなくなんかない。むしろ、自分の気持ちを我慢してあたしに気を使ってくれるなんて……変な言い方だけど、凄いと思う」

「凄いって……確かに変な言い方だ。なぁ渚?」

「……うぅん、凄いとは違うけど、夢見ちゃんがお兄ちゃんに伝えたいことが何かは伝わるよ」

「おいおい、渚まで」

「お兄ちゃん!」

 

 渚まで妙なことを言い出して、どうしたものかと思った俺の手を、夢見がぎゅっと握る。

 ちょっとだけ、渚の視線が冷たく鋭いものになった気が絶対するが、それには敢えて触れないでおく。

 

「今は素直に、自分のことを優先して良いの。むしろ逆、あたしがお兄ちゃんの力になるから」

「いや、そんなこと考えなくったって──」

「考えるの! お兄ちゃんには引っ越す前からずっと助けられてきたの、だから……綾瀬さんに比べたら頼りないかもだけど、頼って! ね?」

 

 俺を見つめながら話す彼女に、俺の中でこれ以上反対する理由も言葉も、出てこなくなった。

 こんなにまっすぐな気持ちを向けられて、その厚意を厚かましく思えるほど、俺は不貞腐れちゃいない。

 

「……分かった。ありがとう」

 

 そう返すと、握っている手の力をもう少しだけ強くして、夢見は確信しているかのように言った。

 

「きっと今は苦しくても、これから絶対いい出来事が起きるはずだから。一緒にがんばろうね」

「……あぁ」

 

 重く苦しい心が、ほんのちょっぴりだけ、軽くなった気がした。──その矢先。

 

「あのー? 私のこと忘れてない?」

 

 俺たちの手に自分の手を覆うように重ねて、『笑顔』の渚が全然笑ってないテンションで間に入る。

 

「うぉ!?」

「きゃ! 渚ちゃん急にびっくりさせないでよー!」

 

 思わず互いに手を振り払って、数歩後ろに後ずさりしてしまう。

 そんな俺たちに呆れたようにため息をこぼしつつ、場の空気をまとめる様に渚が言った。

 

「もう……夢見ちゃんさりげなく私を仲間外れにしないで。お兄ちゃんも、夢見ちゃんに頼る前にまず、同じ家に住んでる私を頼るのが先でしょ?」

「うー、ごめんなさい渚ちゃん……つい」

「『つい』で存在消さないで」

「ごめんってー!」

 

 年下の渚に対して本気で謝ってる夢見と、そんな夢見が面白くて内心そんな怒ってないくせに怒るふりをする渚。

 そんな2人をみていたら──、

 

「──はは、あはは!」

 

 自然と、本当に自然と、いつもみたいに笑い声が出た。

 あぁ良かった。この2人が居てくれて。おかげでまだ心は死んでいない。

 

「はっ! そう、こういう風に笑いを誘うためにわざと渚ちゃんを忘れたふりしてたの」

「さすがにその嘘に騙される人はいないと思いますよ、夢見さん」

「敬語になってる……!?」

「もういいって、そこまで」

 

 そう言って、2人の頭をわしっと掴む。

 びくっとしながらも手を振り払ったりはしないので、そのままワシャワシャと頭を撫でまわした。

 女の子の、セットしてるだろう髪の毛を不格好に撫でまわすのは普段ならしない行為だけど、今だけはすっごくしたくなったから仕方ない。

 

「……ありがとう、元気出た。早速2人に助けられちゃったな」

「もぅ……でも、うん」

「良かったぁ……お兄ちゃんの笑顔、久しぶりに見たから安心」

 

 

 確かに、苦しい現実は変わらない。

 悠は死んで、綾瀬だっていつ目が覚めるかも分からない。

 きっと頸城縁の時にこうなったら、耐えられなかっただろう。

 でも、俺には彼と違い、まだ心の支えになってくれる存在が──妹と、妹分のイトコがいる。

 

 だったら、まだ──心を折るには早すぎるよな。

 

「帰ろう、明日からも頑張るためにも、晩ご飯作らなきゃ」

 

 今日は簡単に作れる鍋にしようかな。それとも渚と夢見と一緒に黙々と餃子でも作っちゃおうか。

 勝手に脳内で今日の献立を考えながら、俺は先頭に立って家までの歩みを再開した。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 帰りはじめとは打って変わって、途中何度も会話を挟みながら帰っている途中、大通りの交差点で赤信号に捕まった。

 車の通りが少なければ、点滅中に小走りで向こう側まで行くのも考えたが、ここは病院と家までの道で一番人も車も交通量が多い十字路。そんな真似はできない。

 若干もどかしい思いをしながらも、素直に青信号になるのを待っていたら、頬に何かが落ちる感触がした。

 

「──雨、小雨か」

「えー。傘持ってきてない……渚ちゃんは?」

「カバンに折り畳みがあるけど……夢見さんには貸さないですよ?」

「あたしは大丈夫……って、まだ敬語続けるの? 渚ちゃん酷い~!」

 

 後ろでそんな会話をしてるのを聞いて、内心小さく笑いながら、俺は反面で急に湧いて出てきた別の感情──恐怖感から目を逸らす。

 

 雨。

 雨が降る日、頸城縁の人生では常に最悪の事態が起きていた。

 母が死に、幼なじみが死に、自身も死んだ。

 まるで命を洗い流さんとばかりに、彼の人生において『雨』と『死』は密接だった。

 

 当然、それは前世の話。

 今の俺に、今日まで雨とつながる不幸なジンクスは存在しない。

 でも、立て続けに起こった不幸と、頸城縁の幼なじみが無くなった時と重なる今の雨が、しきりに心を揺さぶる。

 

 もし、最悪の場面で必ず雨が降るというならば。

 悠が亡くなり、綾瀬が意識不明の状況でなお、俺にとって『最悪の場面』では無かったのだとしたら。

 雨が降り始めた今から、ソレが起こるのではないか。

 そしてそれは、俺からもっと大事なものを無残に奪って────

 

「お兄ちゃん?」

 

 渚の心配する声が、思考の袋小路に陥りかけていた俺を正気に戻す。

 

「……ん?」

 

 なんとか平静を保ちつつ、俺があいまいに答えると、渚は優しく答えた。

 

「青信号だよ、いこう?」

 

 渚の言う通り、信号はいつの間にか青に変わっている。

 俺ら以外にも周りにいた歩行者がスタスタと歩くのを見て、俺もようやく、余計な恐怖心に縛れるのではなく、歩みだすことに意識を向けられた。

 

 そうさ、雨の不幸なんてものは今の俺には関係ない。

 気にするな、馬鹿らしい。……半ば言い聞かせてる自覚をしつつも、俺は改めて今日の献立を何にするか考える方向に、脳のリソースを割こうとした。

 そう、『した』。何故『する』ではないのか、理由は単純で、ポケットに入れていたスマートフォンが微振動を起こしたからだ。

 

 取り出して画面を見ると、表示されているのは綾瀬のお母さん。

 ──たぶん、この時点で俺は、もう確信してしまったんだろう。『嫌な予感』なんてあいまいなモノではなく、その先に絶望があると分かったうえで、電話に出た。

 

「──縁くん……綾瀬が、あの子が……今……」

 

 横断歩道の真ん中で、足が止まった。

 

 ──ああぁ、やっぱりか。という諦観と。

 ──雨の不幸はやっぱりあったんだという絶望と。

 ──『こんなもので終わるわけがない』という確信が、ごちゃ混ぜになる。

 

 頸城縁の時と同じ、雨が降る中、最愛の女の子を失う。

 なら、この次にあるのは──、

 

「お兄ちゃん! 避けて!」

 

 また渚の言葉が、今度は殴りかかるように俺の意識を無理やり現実に引き戻す。

 そうして、次に俺が認識したのは、まだ青信号のままなのに、車道からまっすぐこちらに向かってくる乗用車だった。

 スピードが弛む気配はなく、きっと瞬きするよりも早く、これが俺を跳ね飛ばすだろうことが、そんな中指立てたくなる未来が、やけにリアルに想像できた。

 

 死ぬ瀬戸際の集中力がなせる業なのか、正面のガラスにうっすら映る男性は、俯きながら片手でハンドルを握っている。

 ……なんだ、スマホでも弄ってよそ見運転してるのか。そんな馬鹿に、今から俺は撥ね殺されるんだ。

 あーうん、確かにそんな人生の幕切れは『最悪』だね。

 そんな風に、避ける仕草なんかせずに、眼前に迫った死を受け入れようとした、その時。

 

 車がぶつかるよりほんのちょっとだけ早く、何かが俺に当たった。

 それは俺を車が当たる正面コースから少し逸らし、正面からミンチになるのではなく、車体のわきに僅かにぶつかる程度のものにしてくれた。

 それでもスピードが出てる車にかすってるから、当然コロコロとアスファルトを転びまわったが、その痛みなんてまるでどうでも良い。

 

 死ぬはずだった俺を、内出血と骨折程度にしたのは何なのか、それを確認する方が先だ。

 俺はいま、誰に助けられた? 

 もっと厳密に言えば。

 誰が、俺の代わりに死んだ? 

 

「夢見ちゃん! 夢見ちゃん、なんで、嫌ぁ!」

 

 渚のそんな絶叫が、渚は無事という安堵と共に答えをくれる。

 寸前のところで俺を突き飛ばしたのは、夢見だったのだ。

 その夢見は、人を跳ね飛ばしてようやく事態に気づき、急ブレーキをかけた車の数メートル先で、血だまりを作りながら壊れた人形みたいにグッタリしていた。

 

「夢見……夢見ちゃん。いや、だめだ、ダメだろおい! ふざけんな!」

 

 右足がうまく動かない、骨折してるようだ。

 でも肉は繋がってる。俺は動かない足を引きずりながら、騒然としてる野次馬をかき分けて、夢見のもとに向かう。

 

「夢見ちゃん、なんで……ああもう、そんなことより、救急車に……」

 

 倒れている夢見の身体を上半身だけ抱きかかえて、俺は救急車を呼ぼうとして──スマートフォンが無いことに気づく。

 すぐに、視界の端にぐしゃっとなってるそれが見えた。

 今頃、電話していた綾瀬のお母さんも何が起きたか分からずにいるだろう。

 

「──渚、救急車を呼んで、早く!」

「う……うん、うん……!」

 

 大声で少し離れた場所にいる渚に指示をすると、パニック寸前ながらも渚は何とか理性を振り起し、自分のスマートフォンで電話をし始める。

 

「──お、にいちゃん?」

「夢見ちゃん、大丈夫だ、すぐに救急車が来るから」

 

 良かった、即死じゃない。死んでない。

 まだ大丈夫だ、助かる、そうに決まってる。

 強くなっていく雨足に焦燥感を強めながらも、俺は自分に言い聞かせるように夢見に大丈夫だ、と言い続ける。

 

「──けが、してない?」

「俺の心配なんてするな……なんで、どうして俺の代わりになんて……」

「そっか……よかったぁ」

「良くなんてねえよ、お前が死にそうになってんじゃダメだろ!」

「……えへへ」

「……夢見ちゃん?」

 

 返事をしなくなった。心なしか、さっきより少しだけ、腕に感じる重みが増えて──命を抱いてる気がしなくなった。

 

「夢見ちゃん、なんかしゃべってくれ。うんでもすんでも良いから……返事してくれ」

 

 どんなに声をかけても、夢見は目を開いたまま、何も言わなくなった。

 思い知る。理解させられる。夢見は、今俺の腕の中で──、

 

「ああ、なんで……どうして」

 

 これなら、素直に車にひかれた方が──そう思って、ああこれが『最悪』かと、思い知らされる。

 同時に、さっきまで呆然と停車していた車が、唐突にエンジンを吹かす音が耳に入った。

 雨と、頭から流れ始めた自分の血でさっきみたいにガラスの先は見えないが、何となく運転手は、慌てているんだと分かった。

 

 ──慌てて、もう一度俺たちを轢こうとしているんだと。

 

 そういえば、そんなひき逃げ事故が報道されたこともあったなぁ。

 走馬灯代わりにそんな些細なことを思い出して、俺は今度こそ、迫ってくる馬鹿の車から逃げることを放棄する。

 渚が間に合う距離でなく、右足が動かない俺にとっさに避ける余力なんて無く、何より──もうこれ以上、夢見の身体をぐちゃぐちゃにされたくなかった。

 

 妨害するものが皆無な車は、迷いなくよどみなく、俺と夢見に迫る。

 

 ずっと昔、どっかの宗教の偉い方が、こんなことをテレビか何かで言っていた。

 神様は、人間とは違う目線で人々を見ており、ひとりひとりに試練を与える、とか。

 もし、俺にこんな人生を与えるのが神様なりの試練だとしたら、うん。

 

 ──お前、相当いかれてるよ。

 

 

 人々の──渚の悲鳴が耳朶に響き、鋼鉄の塊が俺を肉塊に変えた、その前後で。

 

 初めて嗅いだ(とても懐かしい)、香りがしたような気がした。

 

 

 

 ──to be continued


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。