君を想う 〜ラブライブ!~   作:瀬戸蒼志

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 早速原作とは全く違う道のりに。
 今回は、タイトルを見て分かる通りに主人公は殆んど出ません。
 




第二話 不思議だけどナカヨシ?りんぱな編

 

 

 

 

 

「はぁ……授業ってホント退屈〜~。もっと、面白いことやってほしいー。」

 

「ホントだよねぇ。眠かったー。ねぇ、今日はどうする?」

 

「あーどうしよっか。入る部活決めたー?」

 

「まだー。悩むよねぇ……。」

 

「ほんと、部活数少ないし困る。」

 

 

 翌日の放課後。

 

 相変わらず、あの娘たちは今日も事あるごとにグループで行動していた。そして、相変わらず興味のない話を延々としていた。まあ口を開けば、大体がだるい、つまんない、面倒、可愛い、好き、ありえないだの…。お手洗いも何故か全員一緒に行っていたし。そんな貴女たちが私からしたら正直あり得ないわね。

 

 

 (はぁ……。)

 

 

 ようやく、教室から出て行くみたいで一安心だった。今日、教室には彼女たちと私しか居ないから、これでようやく安堵できる。

 

 チラッと横目で彼女たちに視線を向ければ、その中の一人と目が合ってしまった。不覚だった。だけど、その娘はそのグループの中でも比較的大人しめな娘だった。昨日、聞こえちゃうよと心配そうに言っていた娘だった。

 

 あの娘とは一度も話した事はないけれど、私はどうしてあの娘があのグループにいるのか……、それが理解できなかった。だって、明らかに一人だけ浮いてると思う。いや、浮いてるというか頑張って他の四人に併せてると言った方が正しいかしら。結果、浮いてるように見える。

 

 あのグループにさえ居なければ、仲良くなっていたかもしれない。…なんてね。きっとそんな事、あり得ないのだけど。

 

 結局直ぐに彼女の方から視線を逸らされ、逃げるように鞄を持って教室から去っていった。あからさま過ぎて、なんかもう。

 

 

「はぁ……。」

 

 

 いつものようにピアノを弾く為に音楽室に行こうと思ったのだが、見たい本があったのを思い出し、先に図書室に寄ろうと思い準備を始めた。

 

 いつものように鞄を持って、教室を後にしようと視線を上げた時だった。

 

 目の前から人が来るのに気づいたのは……。

 

 

「あっ。」

 

 

 間一髪だった。寸前で回避した。あと、一秒でも気付くのが遅れていたら真正面からぶつかっていたかもしれない。

 

 

「きゃああっ!!?」

 

 

 ただ、相手の女の子は上手く避ける事が出来なかったらしく横の扉へと激突していた。痛そうな音をたて、彼女が手に持っていたノートの山はバラバラと床へと散らばった。

 手に残ったのは数冊だけで、三十冊近いノートが私と彼女の周りの床へ散乱した。

 

「ご、ごめんなさいっ!!」

 

 慌てた様子で謝り、床に座ってノートを拾う彼女。

 

 初めて見る子だった。いや、一度ぐらいは見た事があるだろうか……。確か、クラスメイト全員で自己紹介してた時に担任から声が小さいと怒られていた子だ。自己紹介とか、あんまし興味なかったからアレだったけど。

 

 彼女は目が悪いのか分厚いレンズの黒縁眼鏡を掛けており、茶髪のボブカット。見るからに親しみやすそうで、大人しめな女の子だった。さっきのグループにいたあの目があった娘よりも、ずっと。

 眼鏡じゃなくて、コンタクトにすればいいのにと私は思う。そうした方がきっと、倍……いや、数倍は可愛らしくなるんじゃないかと思う。なんか、ちょっと勿体無いわね。

 

「だ、大丈夫ですかっ!?」

 

「……いや私は平気だけど。貴女は大丈夫なの?」

 

「あ、う、うんっ! 私はぜんぜんっ!! あなたに怪我なくてよかったですっ。」

 

 ノートを拾い集めながら下から謝罪してくる彼女に、立ち上がったままで上から大丈夫だという私。 

 

 私はその何ていうか、この子を見下しているようなそんな体勢が嫌で、その辺の誰のだか分からない机の上に鞄を置くと腰を落とした。自身の近くに散らばったノートを十数冊拾い集めると立ち上がり、彼女の前で再び腰を落とした。彼女が綺麗に積んだノートの束の上に自らが持っているそれを重ねようとして、ほんの少しだけ置くのを戸惑った。

 

 

 (……もしかしたら、この子なら。それに、これを理由に話していけるわけだし。)

 

 

 なんて、彼――奏多の言葉を信じてみる訳じゃないけど……。ほら、ちょっと周りに目を向けてみるのも、自分の為になるのかなぁとか理由をつけて。……あ、いや私違うのよ。だって、ほんとに私の為になるんだから。彼に言われたからって訳じゃないのよ。ただ、昨日の今日だから、彼の言葉を間に受けたみたいになっちゃうんだけど。ち、違うんだからね。決してその、彼がって訳じゃないの。あんなバカの言葉を、私は確かに信じてるけど。それとこれとはまた話が別で―――。

 

 

「―――……に、西木野さん?」

 

 彼女に名前を呼ばれ、はっと我に返る。

 

「あ、……え、っと、私も手伝うわ。」

 

 尻込んでしまうのは私の悪い癖だというのは、分かっている。それに笑顔で言えば、また状況が変わるというのも分かっているのだけれど、私にはそれが出来ない。いや普段、パーティーとかでなら出来るんだけど。

 

「ええ、わ、悪いよっ!! ほ、ほら、西木野さん。何処かに行く途中だったんでしょ? お、音楽室とか。」

 

「まあ、そうなんだけど。………って、なんで私が音楽室に居るの、知ってるのよ!!」

 

 私が音楽室に行っているのを知っているのは理事長と担任を含めた数名の教師しか知らない筈だった。だって、別棟の音楽室は少し遠いところにあるんだもの。

 

 この学校に吹奏楽部はないから、音楽室は使い放題。軽音部はあるみたいだけど、軽音部には別の場所があるらしくて、だから音楽室はどの部も使わない。それに気付いた私は、担任と理事長に使用許可を貰った。

 

 だけど、生徒は知らない筈だった。

 いや、やっぱり一人はいた。二年の高坂(こうさか)穂乃果(ほのか)って先輩は知ってるわね。

 来年の入学希望者を増やすという目的で、スクールアイドルっていうのを始めた先輩は私に、作曲を頼んできた。作曲をした後は、可愛いから一緒にやらないかとまで言ってきた。私には向いてないし流石に断ったけど。

 

 

「ご、ごめん。」

 

「な、なんで謝るのよ!? 別に謝る必要なんてないわよ。ただ、なんで知ってるのかを聞いてるの。」

 

「あ、…えっとね、一人で暇なときに学校探検してたんだ。そしたらね、綺麗な音と歌声が耳に入ってきて……それで、覗いてみたら西木野さんでね。あんな、素敵な音楽、凄いねっ。」

 

「ゔええ、な、なによそれ!」

 

 花が開いたような笑顔でそう言われ、私は胸がむず痒くなるのを感じた。

 出来る事が当たり前だと思われている私は周りから褒められる事自体が少ないから、何だか違和感たっぷりで。でもその違和感っていうのは決して嫌なものじゃなくて。

 

 

 ――《綺麗な音》

 何時だったか、彼にも同じような事を言ってもらった。あと、高坂先輩もそんな事を言ってたっけ。

 

 彼に褒められた時の私は少し捻くれてはいたものの、まだ純粋だった。だから、素直に喜んだのを覚えている。

 

 いつからだっけ……。

 

 こんなに可愛げのない上手く笑いも出来ない捻くれた私になったのは……。

 

 (おぼ)えてないや……。

 

 

「……でもまあ、私、人見知りだからね……声は掛けられなかったんだ。」

 

「……名前。」

 

「へ?」

 

「あ、貴女の名前。その…、教えて頂戴よ。」

 

 彼女は私を西木野さんと呼んでくれた。彼女の性格から予想して、きっと真姫という下の名前も知っている筈。それなのに、私は彼女について何も知らない。

 

 何だか、不公平に思えて私は彼女に尋ねた。尋ね方がぎこちないのは、目を瞑ってもらいたい。

 

「あ、……え、っと、小泉(こいずみ)です。小泉(こいずみ)花陽(はなよ)ですっ」

 

「小泉、さんね。小泉花陽さん。……うん、覚えたわ。ねぇ、半分持っていいかしら?」

 

「ええっ!?」

 

 立ち上がった小泉さんの手の中にあるノートを了解を得る前に半分ぐらい眼検討で奪った。そして、何か言われる前に歩き出す。

 すると、案の定彼女は後ろから付いて来てノートを奪い返そうとする。

 

「わ、悪いよ!! 重たいしっ!」

 

「いいの。重たいんでしょ? なら二人で持ったほうがいいじゃない。……それに、私がいいって言ってるんだから貴女は甘えときなさい。」

 

 我ながら、本当に可愛くない。

 いや、女の子相手に可愛いと思われようともしてないのだけど……。私の可愛げのなさは異常だなとは思う。

 

 溜息をつきそうになるのに耐えてノートをよく見てみれば、現代文のものだった。

 きっと、こないだ提出した課題の返還だろう。

 

 

「西木野さん、やっぱし悪いよ〜!」

 

「いいの、それにあと少しじゃない。ここで渡す方が労力かかって余計に迷惑だから。」

 

 

 無理矢理論破させれば、渋々諦めたようで二人で教卓まで運んだ。

 それを配ろうとしたのだが、生憎私はクラスメイトの席も名前も把握出来てない。情けなくて溜息をつこうとした時、小泉さんからお礼の言葉を言われる。

 

 

「ありがとう、西木野さん。」

 

「べ、別にいいわよこのくらい。お礼なんていらないし。」

 

「ううん、そうじゃなくて。いやそれも確かにあるんだけどね。ほら、私からじゃきっと……、ずっと声なんて掛けられなかったから。こうやって西木野さんと話せて嬉しいの。」

 

 

 呆気に取られるとはこの事なのだろう。

 お礼を言われる事も、悪意のない笑顔を向けられる事も、久しぶりのことで正直思考が停止しかけた。

 

 私の都合の良い夢なんじゃないかって……。まだ、夢の中にいるんじゃないかって……。

 

 

「……。あ、あの。」

 

「ん?」

 

「小泉さんは、……私の事、何とも思わないの?」

 

 質問してすぐにこれを投げ掛けたのは間違いだと思う。それにこんな質問、普段ならしない。

 だって結局傷つくのはいつも自分だもの。

 

「へ? ……あ、えっと、もしかして、肥留川(ひるかわ)さんのことかな?」

 

「ひるかわ?」

 

 ひるかわ。……肥留川。

 確かに、中学生のとき声を掛けてきた娘はそんな名前だった気がする。

 

 そう考えていると、彼女はそっと口を開いた。

 

「私は、気にしてないよ…っていうかね、ああいう事好きじゃないんだ。…私も、こういう感じだから陰口経験あるんだけどね。……だって西木野さんは、西木野さんでしょ? 西木野さんのお家がどうであれ、私は西木野真姫さんと仲良くなれたら嬉しいな……って思ってるんだけど、その、やっぱし、迷惑、かな……?」

 

「あ、えっと…、」

 

 嬉しい、素直に嬉しかった。

 だから、逆にどうしたらいいのか分からなくなった。早く答えなきゃ、彼女に嫌な思いをさせてしまう。勘違いさせてしまう。

 

 だけど、ジッと見つめられると頭の中がパニックになって余計にどう返したらいいか分からない。

 

「その、「かーよーちーん、またせちゃってごめんねー!! ……って、あれ西木野さん?」」

 

 ありがとう。

 そう言おうとした言葉は誰かに遮られてしまった。あまりのタイミングの悪さに、やり場のない思いが込み上げる。

 

「あ、凛ちゃん!」

 

「かよちーん、疲れたにゃー。」

 

 小泉さんに凛ちゃんと呼ばれた子は私の方を見て不思議そうな顔して近付いてきたと思ったら、急に彼女は小泉さんへと抱き着いていた。と思えば、今度はドサッと教卓前の机の上に座った。

 

 自由奔放ていうか、なんていうか。語尾に「にゃー」ってこの子、前世は猫かなんかなの……。いや確かに、何だか、雰囲気といい行動といい猫っぽいんだけど。

 

 いきなり過ぎる人物の登場に私は、どうしたらいいのか分からなくなった。

 

「凛ちゃん、ちゃんと挨拶しなきゃダメだよ。西木野さん、困ってるから。」

 

「ん〜……あっ、そうだった。えっと、星空(ほしぞら)(りん)です。よろしくね、西木野さん。」

 

 星空。星の空。

 その苗字は天体観測が趣味な私からしたら、とても羨ましいものだと思った。

 それと同時に最近、星見てないなぁと場違いな事も思う。

 

 そして、はいっと言わんばかりに目の前へ手を差し出された。

 けれど私には訳が分からなくて、差し出されたその手を凝視するしかなかった。

 

 これは……握手、という事で良いのだろうか。

 手をぎゅっと握りしめ、よろしくと返せば彼女は吃驚した顔で私の顔を見た。

 

 

 (え、何か違ったの? それとも、もしかして何かしちゃった?)

 

 

 

「……かよちん、凛、やっぱり西木野さんのこと勘違いしてたみたいにゃ。」

 

「え?」

 

 小泉さんに向かって内緒話をするように、ぼそぼそと話す彼女だったが、その内容は丸聞こえだった。

 

「でしょ? 凛ちゃん、人を外見で判断するのは良くないんだからね。見掛けはちょっとアレかもしれないけど、西木野さんは良い人なんだからねっ。」

 

 

 (えーと、気のせいよね。さり気なく(けな)されてる気がするんだけど……。気のせいだと思いたいわよ。いや、だって、まさか小泉さんがね。)

 

 

 そんな事を考えていると、星空さんが急に頭を下げた。

 

「……あの、ごめんなさいっ!! 凛、ずっと、西木野さんのこと、偉そうで生意気で世間を知らないお金持ちな同級生だと思ってました!!」

 

 初めはなんで頭を下げられたのか、謝られたのか、全く分からなかったけれど直ぐにはっきりした。

 

 偉そうで、生意気で、世間知らずで、お金持ちの同級生………。

 

 普段だったら、直ぐにでもブチギレているような単語のオンパレードだった。

 まあ、普段だったらね。

 大体の人がそれを陰で言うから余計なんだけど。直接言いなさいよって思うんだけど、直接言われても正直な話むっとするのよね。

 

 それを星空さんは申し訳無さそうにしながらも、私に面と向かって言った。

 

 

 

 ―――――『真姫ちゃんってさー、ほんと偉そうで小生意気な小学生だよなぁ。二個も下のくせに〜~。』

 

 

 

 彼に、昔そう言われた事を思い出してしまった。その時の顔があまりにも面白いものだったことも思い出してしまって、私は吹き出した。

 

「ふっ、……ふふ。」

 

「……えっと凛、なんか変なこと言ったかな?」

 

「いや、何でもないの。急に笑ったりしてごめんなさいね、貴女の言葉に昔の事思い出しちゃって。」

 

「……変態?」

 

「はぁ?」

 

 今度は、聞き捨てならない単語が聞こえた気がした。

 

「思い出し笑いは変態がすることだって、お母さんが言ってたよ。だから、西木野さんは変態さんなんだにゃ。」

 

「だ、誰か変態よ!!!!」

 

「お、怒ったにゃ〜~!!!」

 

 逃げ出した星空さんを追い掛ける。取り敢えずは一発、頭に拳入れてやろうと思った。

 

「大体、何よ。偉そうで小生意気で世間を知らなそうって、初対面の人に言っていい言葉じゃないでしょ!」 

 

「小生意気だなんて言ってない。凛は生意気だって言ったんだにゃー!」

 

「変わらないわよ!!!」

 

「変わるにゃ〜っ。てか、初対面の人をいきなり殴ろうとするのもどうかと思うにゃーー。かよちん、そんなとこで見てないで助けてよ〜!」

 

「えええっ!」

 

 立っていた小泉さんの後ろへと隠れる。

 

 ぴょこと顔を出したと思ったら、べーと舌を出して人の怒りを煽ってくる。

 

 

「小泉さん、その猫を渡しなさい。渡してくれれば、それだけでいいから。ね?」

 

「に、西木野さん? ええと、その……。」

 

 

 拳は構えたまま、表情はこれ以上ないってぐらいにっこりと笑顔で小泉さんへと問掛ける。

 

 

「かよちん、ダメだよっ。このままだと凛、ヤラれちゃうからね。あのツリ目女子から、かよちんはもちろん凛を守ってくれるよね?」

 

「り、凛ちゃん。…えっと、その………。」 

 

「小泉さん!」

 

「かよちんっ!」

 

「ええええっ、」

 

「ほら、小泉さんが困ってるじゃない! 星空さん、たった一発でいいのよ。ちょっとその、頭を貸してくれればいいんだから。」

 

「困らせてるのは西木野さんだから! ぜったいぜーーったいっ、凛は嫌だにゃ〜。」

 

 

 私と星空さんに挟まれ交互に忙しなく私達を見る小泉さん。急に、そんな彼女が俯いた。  

 

 何事かと思って拳を下ろして小泉さんを様子を伺おうとした時、何故だか小泉さんが吹き出した。 

 いきなり吹き出し必死に笑いに耐えようと頑張っている彼女に、私も星空さんも顔がを見合わせてきょとん顔。

 

 だけど、耐えようとしてるのに全然耐えられてない彼女の表情が面白過ぎて私も吹き出した。そうすれば、後を追うようにして、星空さんも笑い出した。

 

 

「ちょ、ちょっと、星空さん、その顔やめて。笑わせないでよ。…ぷっ」

 

「西木野さんこそ、変な顔だにゃ……ぷっ」

 

「り、凛ちゃんの顔、やばいよ。……ぷっ」

 

「「かよちんもね(小泉さんもね)」」

 

「「「ぷっ………あははっ。」」」

 

「凛たち、何やってんだろ。」

 

「ほんとよね。」

 

「こんなに笑ったの、久々だよー。」

 

 

 

 ―――とても、居心地が良かった。

 

 

 

 これが、アイツが言っていた大切な友達ってやつなのかもしれない。

 そう、決めるのにはちょっと早すぎるかもしれないけど……。

 

 

 何でだろう。それでも、この子達なら大丈夫、って確信出来る気がするのよね。

 

 

 

 

 

 

 

「――まーきちゃん。」

 

 

 そんな空気を変えるように、扉から顔を見せた人物がいた。

 

 

「……奏多?」

 

 

 そう、私の幼馴染。あの葉山奏多。

 私はまた会いに来たんだと思った。昨日の今日とスパンは短かったけれど、一瞬嬉しくなった。

 

 そう、それはほんの一瞬だけ。

 

 

「……ってなんで、貴方がここにいんのよ!!?」

 

「来ちゃった。」

 

 ピースサインを出して、にへらと悪戯が決まった子供のように笑って近付いてきた奏多。 

 

「来ちゃった、じゃなくて! 貴方ここが一体何処か分かってんの!?」

 

「音ノ木坂、でしょ。」

 

「そうよ。……って、何で貴方がここの制服着てるのよっ。UTXだったじゃないっ。」

 

「あれ? 言わなかったけ? 音ノ木坂に転入する事になったんだって。」

 

 

 一切何も聞いてないし、取り敢えずは何かしないと腹の虫が収まらないので何食わぬ顔で突っ立っている奏多の腹を一発殴った。

 

 

「ぐはっ……」

 

「一発だけで良かったわね。事の次第によっちゃ、追加するけど。……んで、何しに来たの?」

 

「そんなに、怒らないでくれよ。」

 

「はぁ……。」

 

 

 ゴホンゴホンと態とらしく咳払いをする幼馴染に、正直嫌な予感しかしない。

 

 

「―――聞いて驚けー! 俺、葉山奏多は此処音ノ木坂学院でアイドルプロデューサーをすることになった!!」

 

 

 

 

 

「えええええっ」

「アイドル!!?」

「……プロデューサー。」

 

 

 

 

 

 

 

 了

 


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