モンハン飯   作:しばりんぐ

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面の皮の千枚張り。





鳥の皮の一枚張り

 

 

 木々の隙間を縫うように、そいつは飛んだ。

 

 青い甲殻にふさふさとした羽毛。

 体長よりも長いその翼を広げ、慌てるように飛んでいる。

 シルエットは太く、どこかずんぐりとした体が特徴的だ。細く鋭い嘴からは、羽ばたく度に甲高い音を漏らしている。

 

「こいつが……こいつっ、なんだっけ!」

「ホロロホルル! 古代林に生息する鳥竜種よ!」

「そうだ! それだ! なんか幹の隙間に隠れてやがんなって思ったら、こいつだったんだな!」

「古龍の気配を感じ取っているのね……。あの慌てよう、やっぱり普通じゃないわ!」

「にゃあ、ハンターに怖がってる……って訳でもなさそうにゃ」

「だな。ヒリエッタの言う通り、古龍のせいだろ。やっぱり、あの銀色の奴がここにいる……」

 

 天彗龍、バルファルク。

 そう名付けられたあの古龍が、今この古代林にいる。

 イズモは、仲間を逃がすために自ら囮になり、今もこの古代林のどこかを彷徨っているのだろう。

 生きているか、死んでいるかは分からないが――あいつはきっと生きている。

 

「この森は広いな! 奥を見渡せば火山まであるし、すげぇ環境だ!」

「これを、たった四人で探索するってなると厳しいわね」

「あぁ。――だから、おびき寄せるぞ」

「にゃっ、ルーシャさん! 今にゃ!」

「任せてっ!」

 

 頭上を飛び回る、ホロロホルルとかいうこのモンスター。

 木の幹に気配を感じ、その虚を覗き込んだ時に目が合った。

 突然現れたハンターに驚いたのか、古龍のせいでピリピリしているのか、目が合うや否や牙を剥いたのだ。いや、俺が奴のシェルターを暴いてしまったからそれも当然かもしれないが。それとも、古龍に怯えるあまり混乱している可能性も否めない。

 が、どっちにしろ、こうなってしまった手前放っておくわけにはいかないのである。それに、こうなってしまったのなら、利用できるだけ利用してやろう。

 

 大地を走る俺と、イルルと、ヒリエッタ。

 その真上を飛ぶ、ホロロホルル。

 それよりもさらに高い木の上で、棍を構えて待ち伏せる少女。

 

 淡い金髪を揺らしながら、氷牙竜の白銀の鎧を棚引かせ、真っ逆さまにダイブした。

 振り回される刃先。勢いを増す斬撃。

 ルーシャは、真上からその青い翼の付け根に刃を突き立てる。

 

「獲った!」

 

 ホロロホルルは、甲高い声を上げた。

 突然、真上から肩に穴を空けられたのだ。その衝撃で飛ぶこともままならず、荒々しく墜落する。

 そこに襲い掛かる、二つの大きな刃。

 

「たぁっ!!」

 

 火竜の翼を思わせる刃が火を噴いた。

 ヒリエッタの掲げる大剣が、溜めに溜めたその刀身を解放する。

 それにもう片方の翼に傷を入れ、奴の自由をさらに奪う。

 

「そらぁッ!」

 

 俺もそれに合わせて斧を叩き付けるが、奴は身を翻すようにして躱した。翼を傷めたというのに、それでも奴は舞い上がる。

 

「……すげぇ、旨そうな鳥だな」

「は?」

「こいつ、どんな味がするんだろうなぁ……!!」

 

 俺の頭より上に浮かぶそいつに向けて、俺は重いこの斧を振り上げた。

 当たらない。

 躱される。

 これほど活きが良いのなら、きっと味も格別であるに違いない。

 

「イルル! ここだ!」

「うにゃ!」

 

 イルルが繰り出す多丁巨大ブーメランが木々の隙間から瞬いた。それがこの鳥の羽毛を荒く削り取る。

 

「そこっ! イリス!」

 

 同時にルーシャは印弾を撃ち抜いて、そのポイントに彼女の猟虫イリスが迫った。

 そんな、二人の猛攻撃にホロロホルルは――――。

 

「あの黄色の粉……っ、イルルちゃん危ない!」

「はにゃ!?」

 

 ヒリエッタが何かに気づいたように叫んだが、もう遅かった。

 突如急降下する奴の動きに合わせて、黄色のような橙色のような特異な鱗粉がばら撒かれる。

 着地地点にほど近くいたイルルは、それをモロに受けては大きく咳き込んだ。

 

「うにゃっ、けふっけふっ!! 何にゃこれ……はうあっ!? ふあああぁぁ!?」

「イルル!? 待ってろ……ッ」

 

 咳き込む彼女は突然狼狽えて、千鳥足を刻み始める。

 前も後ろも分からなくなったかのように、ふらふらと明後日の方向へ歩き出した。

 

 一方のホロロホルルは、その力強い脚で大地を踏み抜いた。

 俺の斧が届く距離で、その脚を引き抜こうとその翼を再び大きく広げる。

 

「飛ばせないわよ!」

「イルルちゃんに何すんのこの鳥!」

 

 その羽に向けて、ヒリエッタは抜刀した大剣を叩き付けた。

 ルーシャが、乱回転するイリスと共に飛燕斬りを仕掛けた。

 その二人の斬撃によって、為す術もなく飛翔を阻まれたホロロホルル。

 眼前に迫る斧を見ては、その目を大きく見開かせる青い肉厚の鳥。

 

「ごめんな――お前の命、いただきますッ!」

 

 斧から聳える金と黒の山脈が、牙を剥いた。

 その頭に、俺は太く重い斧を振り下ろす。

 命の手応えと共に、鮮やかな血飛沫がこの深緑の世界を彩った。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「ふんふふ~ん」

「シガレット……それ、何?」

「ん? ホロロホルルの鳥コンフィだ」

「んにゃ……? ホロホロ鳥の……?」

「イルルちゃんごちゃ混ぜになってるよ」

「鱗粉の影響が残ってるのか。おーい、イルル?」

「うにゃ~空から木が生えてるにゃ~」

「……大丈夫なの?」

「トリップしてるみたいだけど……そんなに持続性のある毒じゃないらしいわ」

「マタタビ酔いみたいなもんだろ。数分で収まると思う……っと、よし、こんな感じかな。良い薪だこれ」

「……ところで、いつ言おうか迷ってたけど、なんで当たり前のように料理始めてるの?」

 

 鬱蒼とした木々の合間を、白い煙が抜けていく。

 古代林の樹海部分。鳥の鳴き声一つも聞こえないこの空間で、俺は薪を立てては調理を始めていた。

 手頃な太い枝を、剣斧を用いて薪割りの要領で割った。

 四等分にしたそれを、あえて隙間を作りながら縦に並べる。丁度、元の枝に十字状の隙間が空くようにして、その隙を埋めるように細かい枝や樹皮、布のほつれから生えた糸屑を入れていく。そこに火をつければ、あとは自然と薪に火が移って長時間持続する簡易コンロの出来上がりというわけだ。

 あぁ、それにしても――――。

 

「腹が減った」

「腹が減ったのね……」

「あと、バルファルクはたぶん近くにいるぞ」

「え?」

 

 きょとんと、ルーシャが首を傾げる。

 

「こんなに広い島なら、とにかく古龍から離れればいいだろ。火山の奥なりなんなり、逃げれるところにさっさと逃げるのが道理だ。飛べるならなおさらな」

「……でも、あのホロロホルル、木の幹に隠れてたわよね?」

「あぁ。逃げ遅れたか、それとも長距離飛行に適さない種類なんじゃねぇかな」

「……もしかして、逃げると見つかるから、それくらいなら隠れとこうって感じ?」

「だと思う。逃げるにはリスクが大きすぎるくらい、奴は近くにいるんだろう」

「じゃあこんなとこで料理なんかしてたら、見つかるくない?」

 

 困ったようにそう指摘するルーシャに対し、ヒリエッタは「なるほど」と小さく声を上げた。

 

「そうか、だから"おびき寄せる"なのね。他の生き物が逃げる、もしくは隠れてる中でこうやって私たちが派手なことをしてたら――」

「そっか、きっと気づくよね……。羽(むし)り取られたお肉まであるし」

「でもこれ、名案かも。こんな深い森を探索するのは非効率だし、分散して探すのも危険だわ。未知の古龍なんでしょ?」

「確かに。一人で出くわすのはごめんだもん」

 

 ヒリエッタの言葉に、ルーシャも同調する。

 そんな二人を見ながら、俺もうんうんと頷いた。奴の習性を考えたら、この方法は最も効率的だとしみじみ思う。

 

「それにあいつは、俺の飯を二度も奪いやがった。きっと、今回も来るぞ」

「……一体どんな戦い繰り広げてるのよ」

 

 呆れたように頭を抱えるヒリエッタを横目に、ホロロホルルの肉を掴む。

 脚の部分を切り取ったそれは、小柄ながらもたくましい筋繊維をしていた。張りがあり、しかしみずみずしく、そして思った以上に生臭くもない。

 それに塩やらハーブやらを練り込んで、油を敷いたダッチオーブンの中に入れ込んでいく。

 ダッチオーブン。最近買ったこの料理器具は素晴らしい。狩猟飯との相性はさることながら、この(ふた)が特に素晴らしいのだ。

 

「一、二……っと。足は二本しかないし、焼き上がってから切り分けるってことで、いいよな?」

「馬鹿なの?」

「あたしはいい……」

「…………」

 

 ホロロホルルの足は二本だけなので、周りを気遣ってそう提案したというのに。

 ヒリエッタとルーシャは、それぞれ冷やかな目とおぞましいものでも見るような目を俺に向けてくる。

 

「じゃあいいや。俺とイルルで分けような」

「にゃ、にゃあ……」

 

 ふらつきが覚めてきたのか、あたりをキョロキョロしているイルルにそう言うと、彼女はどこか困ったように鳴いた。

 薪の左右に、Y字に先が分かれた太い枝を二本突き刺し、その叉にポールとなる枝をかける。ビンに入れてきた水を少しかけて、湿らせて。それに潜らせるようにして、ダッチオーブンを吊り下げた。

 揚げ物のような高温ではなく、百度未満の低温でじっくり熱を通すのだ。油の中に、さらにハーブを投じるのを忘れない。これをすると香りが全然違う。

 

「特産ゼンマイ……どんな味がするんだろうな」

「なんか、薬膳っぽい雰囲気するのにゃ」

「いいなそれ。体に染み渡る優しい味か。最高だ」

 

 中の油が高温になりすぎないように、ポールの高さを調節した。

 薪の炎を調節するのは難しいため、火から距離を離してじっくりと火を通す。時間にすると、三十分くらいはこのまま熱するのが望ましい。

 

「さてと……それじゃあ、しばらく鍋はそのままにして、と」

「結構かかるのにゃ?」

「そうだな。長期戦だ」

「お腹空いてるって言ってたのに、そんな時間かかる料理するなんて珍しいにゃ」

「おっと。俺が律儀にただ待ってると思うか?」

 

 そう言いながら、俺は蓋をがっちりと閉めたダッチオーブンの上に火元の一部、そして新たな薪を加えた。蓋の上でも収まり切る、短いながらも太い薪を。

 足元からも燃やされ、さらに蓋の上からも燃やされる。その様子に、イルルは興味深そうに感嘆の声を上げた。

 

「にゃあ~。周りから焼くのにゃ? 蒸し焼きにゃ?」

「そうだな。こうやってしっかり蓋を閉めれば、中に圧が掛かるんだ」

「にゃあーっ。すごいにゃ、すごいにゃ!」

「すごい? いや、まだ早いぞイルル。このダッチオーブンのすごいところは、これだ!」

 

 燃え盛る火に当てられるダッチオーブン。

 その上で、小さな火が懸命に燃え上がっている。それに向けて、俺は新たなフライパンを繰り出した。

 食パンが入り切る程度の大きさのそのフライパンには、作業の片手間に切り分けたホロロホルルの皮が入っている。一口サイズに切り分けた、夜鳥の鳥皮だ。

 

「にゃ! 二段焼き? 前代未聞の二段焼きにゃ!」

「そうだろそうだろ! こうやって同時に料理ができるのがこのダッチオーブンの凄いところだ!」

「にゃー! これ最高にゃ!」

「……この二人はなんでこんなにテンション上がってるの?」

「さぁ……」

 

 作るのは、夜鳥の鳥皮せんべいだ。

 燃える炎に当て続ければ、この小振りなフライパンは容易く熱を通す。ほら、言ってる傍から火が通って脂がたくさん染み出してきた。カリカリに焼けるのも、時間の問題だろう。

 

「……これで本当に、例の古龍は来るわけ?」

「さぁね……」

「絶対来るよ。あいつ、マジで食い意地張ってるからな。さ、この間に武器でも研いでおこう」

 

 フライパンを一時イルルに任せ、俺は太い幹に立て掛けておいた剣斧を手に取った。

 

「それ、新しい剣斧?」

「にゃあ……筋繊維がすごいにゃ」

「恐暴竜よね、それ」

「うん。なんて名前だっけ。そうだ、"業彗斧グラバリダ"だ」

 

 ドス黒い血肉が脈動している。

 イビルジョーの筋肉の一部をもぎ取って、そこに牙や爪などを埋め込んで鎖で繋いだような代物。

 俺が長い間淆瘴啖と戦い続けたなかで手に入れた細かな部位や、例の尻尾の一部を使って作られた剣斧だ。とはいえそれだけでは武器を作るには足りなかったので、師匠からもらったバルファルクの素材も一部投じている。そのため、黒い刀身の一部には銀色の装飾が施されていた。

 

「まぁ、願掛けだな。ここでバルファルクを仕留めて、淆瘴啖を美味しく食べれるようにするために」

「……まさか、この斧も後で食うの?」

「いやいや俺のことを何だと思ってんだよ。防腐処理施されたものは流石に喰わない……けど、その発想はなかったな。狩りの後に食べられる武器……悪くないな」

「ちょっと真に受けないで! 実行させたくて言ったわけじゃないもん!」

 

 淆瘴啖由来の金色の牙と、天彗龍由来の黒い爪を丁寧に研ぐ。

 これが実際にどれだけの力を発揮するかは分からないが、今までのどの剣斧よりも重く、逞しい。そして何より、龍属性を内包した初めての武器だ。

 斬撃に伴って噴き出るこのドス黒い血は、きっと古龍の命にも届くだろう。今度こそ、今度こそあいつを仕留めてやりたいものだ。

 なんて思いながら、武器に陽の光を映した時だった。

 かすかに、地面が揺れる。

 

「……ん?」

「うにゃ、地震……?」

 

 大きな揺れではなかった。

 歩いていたら気づかないくらい、ほんの少しの揺れ。ただ、釣られたポールが震え、ダッチオーブンがカタカタと音を出すから気づいた。

 

「モンスターの足踏みとかじゃないの?」

「でも、地の底からくるような感じがしたわ」

「どっちにしろ、バルファルクは震動を起こすような重いモンスターじゃない。……となると、他に何かいるのかな」

「……もう一匹いるって噂されてた、古龍にゃ?」

「大長老も言ってたな。以前、この古代林の底に古龍がいたって」

「……キナ臭いわね」

「不気味な話だよな。双頭の龍だって。そんなの本当にいるのかねぇ」

「龍歴院のハンターの話じゃ、まるで動く骨の塊のようだったらしいわ」

「そんなのもはや怪談の部類にゃ……ぶるぶる」

「まぁ不気味な話ではあるけど……でも、今のあたしたちには関係なくない?」

「そうだ、関係ないな。関係あるのはこの鳥皮せんべいだけだ」

「……そうね。例のバルファルクを、早くどうにかしないとね」

 

 ヒリエッタは冷やかなスルーを決め込むが、俺は構わず焼き上がった肉を摘まんだ。

 ちょっと焼き過ぎてしまったくらいがちょうど良い。

 皮の表面はカリカリに炙られ、眩しい肉汁を垂れ流している。薄底のフライパンだとはいえ、その表面を容易く覆ってしまうほどに溢れた脂は、この皮が新鮮で上質である証拠だ。

 そんな、魅力的な一枚を前に、俺はたまらずかぶりついた。

 

「……ん! こりゃ旨いぞ!」

 

 噛めばサクサク。味わえばふわふわ。

 一噛み目は、確かに程よい焦げ目がついた表面のぱりっとした感触が伝わってくる。同時に広がる、皮に含まれた大量の脂。味付けは塩胡椒とモガモガーリック、ナツメグあたりなのだが、それら調味料がこの皮の旨みを大きく引き上げている。

 物凄い脂肪分だ。鳥の中でも皮はかなりカロリーが高い部位だと聞くが、この皮を食べているとそれは本当なのだと実感させられる。噛めば噛むほど、脂が染み出してくる。

 そしてそれに合わせて、表面の焦げ目が剥がれ落ちて、鳥皮本来の弾力性が顔を出してくるのだ。このふわふわな食感がたまらない。塩胡椒の塩分に当てられ、脂の甘みが随分締まっている。ニンニクの香りに合わせて肉の旨みが数倍に高まっていく。

 おやつ感覚でポリポリと摘まめて、それでいてビールのお供にもぴったりだろう。何というスナック感。なんというおつまみ感。

 これが、これがホロロホルルか!

 

「ホロロホルル、ベルナ村でも食用にされてるとは聞いてたけど、こりゃ旨いや。ほら、食べてみなよ。あっちの方じゃ慣れ親しんだ食材ってだけあるって!」

「にゃあ~、いただきますにゃ」

「おう! たくさん食えよ!」

「……じゃ、私も」

「うぇ!? ヒリエッタ!?」

 

 肉の弾ける音に少しだけウキウキとしていたヒリエッタが、一つまみの肉を口にした。

 それを見るや、ルーシャは悲痛な表情で顔を歪ませる。まるで親友の裏切りに遭ったかのような、そんな顔だった。

 

「パリパリのサクフワにゃ! こってりとしてて、スタミナつきそうな味にゃあ」

「ほんとね。おやつみたいだと思ったけど、思ったよりくどいというか……でも、美味しいかも」

「……さぁ、ルーシャ……」

「うっ……ううぅぅ……」

 

 未だ俺の作る飯を一度も口にしていなかったルーシャに向けて、俺はフォークを差し出した。

 それを見るや、彼女は冷や汗を大量に溢し始める。

 

「おかしい、こんなの絶対におかしいよ……モンスターを直食いって、そんなの……」

「ベルナ村公式食材だぞ」

「それはっ、それは分かったけどさぁ! やっぱり雑貨屋に並ぶ肉と、目の前で解体された肉はなんか気持ち的に違うって言うか! うぅ……」

「ルーシャさん……これ、すっごくおいしいにゃ?」

「うっ、イルルちゃん……!」

「お腹が空いてたら戦える敵とも戦えないにゃ。これ食べて、狩りがんばろ……?」

「ううぅぅ~! イルルちゃんにそんなこと言われたらっ、あたし……!」

 

 ルーシャはそう唸って、何度も頭を抱えたり眉間に皺寄せたりと百面相していたが――とうとう、フォークを手に取った。

 そのまま、思い切ったように鳥皮を突き刺して口に運ぶ。

 もにゅもにゅと、どの独特の食感に両目を閉じて咀嚼し始め――――。

 

「ん……んん……んっ!? これっ、おいし……えっ、うま? 何これうまくない? えっやば」

「にゃー! そうにゃのにゃ!」

「だろ? 狩猟飯も、やってみたら案外悪くないだろ?」

 

 想像以上の味だったのか、彼女はさらに二、三きれを突き刺して口へ運ぶ。

 大量の脂に舌鼓を打って、満足そうに頷いた。

 

「……うまいっ! ホロロホルル、最高ー!」

「調子のいい奴ね……」

「食わず嫌いは良くないってな。ほれ、イルルももっと食べな」

「にゃ!」

 

 嬉しそうなルーシャの様子に、イルルも嬉しそうにひげを揺らす。

 そんな彼女に向けて、俺は肉を突き刺したフォークを向けるのだが――彼女はそれを口にする前に、小さな悲鳴のような声を上げた。

 

「……にゃうんっ」

 

 イルルが、ぎゅっと自らの耳を塞ぐ。

 一瞬の揺れもどこ吹く風で、ただ葉を風に揺らせていただけの木々。

 そんな、一見いつも通りのこの空間なのに、イルルは痛そうな表情で耳を塞ぎ続ける。

 

「イルル、どうした」

「イルルちゃん!? 大丈夫……?」

「……お、音が」

 

 俺とルーシャがそう声をかけると、イルルはおずおずとした様子で言葉を繋いだ。

 

「すごい、キーンってする音がするにゃ……」

「耳鳴り……?」

 

 ヒリエッタは、訝しむようにしながらイルルの視線に膝を合わせる。

 そうして、次の彼女の言葉を待った。

 

「うにゃ、どんどん近づいてくる……この音……旦那さん!!」

 

 はっと顔を上げるイルル。

 それにつられて、俺たちもそちらを慌てて向いた。

 

 青く鋭い瞳。

 噴き上がる緋色の炎。

 光を反射する銀色の体。

 

 奴が――バルファルクが、木々の上で翼を広げて滞留している。

 その鋭い瞳で、俺たちを見ている。

 

「……こいつっ!」

「シガレット! これが!?」

「出たな……バルファルク!」

 

 太陽の光を反射するそれは、まるで神話に出てくる神のようだ。

 それとも、下らない物語に出てくるからくり仕掛けのおもちゃか。

 

 いずれにせよ、奴は現れた。

 まるで肉の香りに引き寄せられたかのように、この場に現れたのだ。

 奴の甲高い、鳥のような鳴き声が、この古代林の山々に木霊した。

 

 

 

~本日のレシピ~

 

『夜鳥の鳥皮せんべい』

 

・夜鳥の皮(腿)  ……150g

・塩胡椒      ……適量

・モガモガーリック ……1/2片

・ベルナツメグ   ……適量

 






オールインワンのマキシマムは最強。


ホロロホルル飯その1。次回はいよいよ、ダッチオーブンの中身の実食回。バルファルク? おまけです。
ルーシャさんが初めてシガレットの狩猟飯に口をつけるっていうのは、なんだか感慨深い話ですね。ホロロホルルはホロロースとして流通してる食材なのが、ハードルを下げてくれた気がします。あ、ラージャン肉は後だしじゃんけんだったので例外です。朧隠の味はどうなんでしょうね。食べ比べしてみたいもんです。

それはそうと、皆様いつも閲覧有り難うございます。おかげさまで、モンハン飯のお気に入り件数が2,500件を突破しました!個人的な目標だったので、凄く嬉しいです!!いやほんと有り難うございます!!
次の目標は、完結する頃には総合評価が5,000ptを超えること……。評価どしどしもらえたら嬉しいな。感想もお待ちしております。
それではでは!!

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