真剣で私に恋しなさい! ~Junk Student~ 作:りせっと
この日川神学園全てのクラスでホームルームは中止となった。なぜならば皆教室の窓から校庭を見ているからだ、それは生徒の限らず教師も。
そこまで大きなイベントとは何か。それは川神百代が戦っているからだ。
川神百代のファンは多い。本人の見た目と強さが相まって女子生徒に絶大な人気がある。男子生徒にも人気はあるが、百代に告白しようなんて猛者はいない。まぁ百代本人の性格と強さが原因なのだが。
だが彼女が戦うと言う理由だけでは全てのクラスのホームルームが中止になることはないだろう。武神の異名を取り、無敵と言われている彼女と戦っている人が百代といい勝負をしているということが問題でホームルームが中止になる理由だ。一体百代と戦っているのは誰なんだ? 皆が校庭を見ている理由はこれに尽きる。
「はは、やるなぁ燕! もっとだ、もっと来い!!」
「お言葉に甘えまして、行かせてもらうよ!!」
百代と戦っている人、彼女の名前は松永燕。本日川神学園に転入してきた編入生だ。
彼女は西では有名な武家の一族で西では大きく名前が知られている。その大きく知られている理由は百代とやりあえる武力。それとは別にもう1つあるが、戦闘とは全く関係ないものだ。
「おいおいあの人、姉さんとやりあってるぞ」
「まさかこの世にモモ先輩と戦える人がいるとはなぁ」
大和も風間も今戦っている松永燕が百代といい勝負をしていることに驚きを隠せないようだ。目を見開いて戦いを見ている。同じ風間ファミリーであるワン子、クリス、京もその戦いを瞬きせず見ている。
「そんなことよりだ! 誰だよあの人! 俺はあんな可愛い人知らねぇぞ!」
「気になるのそこかよ!!」
ただ灯は燕が百代と戦えてることよりも、その容姿のほうが気になっている。灯にとってあの川神百代と戦えている彼女は誰なんだ? よりもあのスタイルが良くて美人な彼女は誰なんだ? と言う認識で名前を知りたがっている。川神学園の美女、美少女の顔は全て網羅するためになんとしても正体を調べなければならない。
「彼女は松永燕。今日転入してきたばかりだ」
灯の魂の叫びを聞いて答えてくれたのか、小島先生が名前を教えてくれる。
「彼女は西の武士娘だ。しかし彼女の戦いは本当に見入ってしまうな」
小島先生は川神では有名な武士の一族だ。彼女も百代と戦えてる燕に興味深々らしい、燕の戦いをジッ見ていた。
小島先生が見とれるほどの戦い方、燕の戦い方は様々な武器を器用に使いこなすことにある。
一般的に武器を扱う武道家は扱う武器は1種類だけである。数多くの武器を扱おうとすると、鍛錬する時間などの効率の問題が出てくる。だが何より人によって向き不向きが必ずあるため全ての武器を使いこなすなんてことは無理なのだ。
だが松永燕は数多くの武器を使いこなしてあの百代とやりあってる。技のデパートと言われても不思議じゃないくらいだ。その時点で松永燕が並みの武道家ではないことが分かる。
「松永先輩凄いわねぇ」
「薙刀に弓、レイピアに斧、刀にヌンチャクに……槍まで使えてる」
「あそこまで使えてあの動き……本当の燕のようだ」
武道家であるワン子、京、クリスは様々な武器を使いこなせることに驚きを隠せないでいる。それと同時に、ここまで来ると次はどんな武器で攻めるのかと楽しみになってくる。
「うーん、ほんっとに可愛いな」
「お前ほんっと勝負見てないな」
灯も百代とやりあえる武道家の1人の癖に、今だ燕の戦闘に関して何も言ってない。ただひたすら岳人とヨンパチと共にマジ可愛くね? とかパンツ見えねぇかな? とか言っている。灯のその様子を見ると、とても強い武道家には見えない。
「くそ、あれだけ動きまわってるのにパンツ見えねぇとかっ!!」
「灯! もっと頑張れ! お前が1番目が良くて動体視力も良いんだからよ!!」
「灯! お前が! 俺たちの希望なんだ!!」
「任せろ!!」
「……しょーもない」
「あかりっちほど残念なイケメンって言葉が似合う人いないわよねー」
あまりに目に当てられない様子にたまらず京が呆れて、小笠原千花も頭を抱えている。教室の後ろにいた小島先生もため息を付いている。3人共目が血走っているので呆れられるのも無理はない。灯は普段はもっと落ち着いているのだが、あまりの美人の登場に少し我を失っている。
その後も百代と燕の戦いは続いていく。
百夜が正拳突きを繰り出してくれば、燕はそれを手で流してすかさずカウンターを打ち込む。今度はこっちの番だと言わんばかりに、燕がヌンチャクを使い手数を増やして攻撃を仕掛けてくると、百代はそれを力任せの回し蹴りで燕を吹き飛ばしヌンチャクでの攻撃を中断させる。やるなぁと、百代は笑いながら追撃をかけてくる。それを燕は弓で矢を数多く放つことで牽制するがそれを百代は気を体外に放出することで全て吹き飛ばす。
2人が戦っている場所だけまるで台風が来たかのようだ。百代の拳、燕の武器が激しくぶつかり合うことで大きな風を生み出している。
しかしその人為的な台風は燕が一息ついて持っている刀を下ろすことで止むことになった。
「? 何してんだ燕? ほら早く構えろ」
「流石にもう疲れたよ、それに時間も時間だしね」
その瞬間チャイムが川神学園に響き渡る。朝のホームルーム終了の合図、1時間目の授業開始まででこの2人決着がつくことはないだろう。
「何!? もうそんなに時間が過ぎていたのか?」
「今日はここまでだねん、いやーそれにしてもパワフルすぎ」
「……なぁ燕、これからも時々手合わせ願えないか?」
「うん、それはこちらからお願いしようと思ってたことだよん」
燕が手を百代にだす、手を出したい意味をすぐに理解出来た百代はその手をガッチリと握る。
この2人の握手を見て先ほどまでギャラリーだった全生徒たちが一気に歓声を上げる。燕を認めたのは百代だけではない、この校内にいる全ての人が燕を認めただろう。そして歓迎した、ようこそ川神学園へと。
その後は授業が始まるためにガラスに張り付いていた生徒たちは自らの席へと戻る。だが1度湧き上がった興奮は急に冷めることはない。席についてからも今の話題は松永燕に関してだ。
「ホラこれ、京都じゃそこらかしこに貼ってあるらしいね」
「うわーこのポスターは卑怯だな!」
「こんな可愛い子が宣伝したらそりゃ納豆買ってしまうよな」
諸岡のスマートフォンに皆が集まっている。スマートフォンに映し出されているのは松永燕、納豆を両手に持ちポーズをバッチシ決めている。
燕は百代との稽古が終わったあと、全生徒に向かって自己紹介して自家ブランドである納豆のコマーシャルを行ったのだ。それを聞いて諸岡は燕が西では有名な納豆小町であることを思い出した。これが西で知られているもう1つの理由である。
「う~ん……」
「灯? 何唸ってるんだよ?」
大和が灯の様子がおかしいことに気づく。灯は渋い顔で腕組みしつつジッと諸岡のスマートフォン、納豆小町のポスターを見ている。
「いや、こんな可愛い子が売ってる物が納豆とは気に入らない」
「そういや灯は納豆嫌いなんだっけか?」
「好き嫌いはダメですよ灯ちゃん」
風間が指摘したとおり、灯は納豆が嫌いなのだ。曰く、ネバネバしているのがどうにもダメらしい。委員長である甘粕真与にも中止されてしまうが、そんなことはお構いなしにずっと唸り続けている。
「彼女のために納豆を克服するか? いやだけどそれは難題だな……」
「相手が美女だからって理由で食べ物克服しようとしている奴初めて見たぞ」
大和の突っ込みなんか聞こえる訳もなく、結局灯は眉間に皺を寄せたまま1時間目の授業を受けるのであった。
◆
時は昼休み、灯は食堂で昼飯を食べた後寝るために屋上へと来ていた。
屋上はお昼ご飯を食べるスポットとして有名だが、昼寝スポットとしても一部の生徒たちに人気だ。例えば給水タンクの影にあるベンチ、ここは日陰で心地よい風がよく吹くため今日みたいな暑い日にはもってこいの場所なのだ。
灯はそのベンチに腰をかけ、座りながらも寝る体勢へと移る。数分してウトウトし始めた時に不意にある声がかかった。
「やや、こんなところで何してるのかな?」
灯は意識がハッキリとしないまま声がした方向へと首を向ける。丁度真上からその声は聞こえた。その声は非常に聞き取りやすく可愛らしいもの。そこには
「…………お!」
今朝一躍川神学園で有名になった納豆小町こと松永燕がいた。給水タンクが設置されているコンクリートの上からニコニコ顔で灯を見下ろしている。
「あなたは松永先輩じゃないですかー」
「おぉ! 私のことをご存知?」
「むしろ知らない人はいないと思う」
今日学園に来ていた生徒なら誰もが松永燕の名は知っているだろう。それほど今朝の出来事はインパクトがあるものだった。その有名人であり、可愛らしい先輩を見て灯の意識は覚醒、今の灯に眠るという選択肢はない。
「先輩こそそこで何してんの?」
「私? 私はサボリスポットを探していたんだよん。ここ、風が気持ちいいよね」
先輩は吹いている風で髪が乱れないように髪を抑えている。いくら風が気持ちいいといっても女子として、髪が乱れるのは防いでおきたいのだろう。その姿は西で有名な納豆小町のポスターに負けず劣らず絵になるものだった。
ただ灯は燕がそこで何をしているかよりも気になることが今ある。
(この角度…………見えそうで見えないっ!?)
今の燕の姿は非常に可憐だ。それは灯も分かっている。だが先ほどから吹いている風の影響でで燕のスカートがヒラヒラと揺れていることが今1番気になるものだ。
灯は顔には出していないが必死になって見ようと頑張っている、目線や首の角度をほんの少しづつ動かしているが見えない。一般人では気づかないほど小さな動きだが
「そんなに期待してもパンツは見えないと思うよん」
燕にはバレていた。ホンの少し動いただけなのに彼女はそれを看破する。だがパンツを覗こうとしたのがバレたぐらいじゃ灯は諦めない、己の欲望を叶えるために。
「ならその期待に答えてください」
「武士娘として慎みがない事は出来ないかな」
「減るもんじゃないしいいじゃん」
「ここまで引き下がらないとは……」
燕は手を口のあたりに持ってきて、驚き半分呆れ半分といった顔をしている。しかしこれだけ迫られても今日、たった今出会ったばかりの相手にパンツを見せる女子はいないだろう。燕もその例には漏れない。だがそれと同時にこのパンツパンツと連呼している少年に不思議と興味も抱いた。
「でも君面白いね。名前は?」
「2年F組の国吉灯。よろしく先輩」
「ふふ、よろしくね。灯くん」
燕は自己紹介を終えてすぐ、に水上タンクの上から灯が座っているベンチ目掛けてフワッとジャンプし、丁度灯の目の前に背中を向けて着地した。その姿は非常に身軽なものであった。
この瞬間はパンツを見るための絶好のチャンスだったが灯は見ることは出来なかった。淑女としてなのか武士娘としてなのか、スカートの中が鉄壁に守られている。
あまりの鉄壁さに灯は諦めかけたがふと、ここである作戦が思い浮かぶ。
「ほぉ…………白」
「…………え?」
燕は先ほどまでの余裕な笑顔が一瞬で驚いた顔になった。どうやら今日の燕の下着は白らしい。灯は今の燕の態度を見て確信した。
「おぉ! 当たった! 言ってみるもんだな」
パチンッ! 灯は指を鳴らして、してやったりっと小さい子が悪戯に成功した時のような表情をしている。ただ単に当てずっぽうで言っただけだったがその発言が理想の成果を上げたようだ。
これは後で岳人とヨンパチに知らせてやろう、と思ったが態々教える義理はないので自らの心に秘めておくことを決めた。
それに対して燕は面白くなさそうな顔になる。灯に騙されたとすぐに気づいたようだ。
「むー……」
「そんな顔しないで下さいよ、美人が台無しだ」
「なら納豆5パック買ってくれる?」
「それはいらないですはい」
ただでは転ばないのが彼女らしい、どこまでも商魂逞しい人なのだ。納豆を常備しているあたり、納豆小町の名は伊達ではない。
「まぁまぁ仲良くやりましょーよ」
「そうだねー、今度は負けないよん」
「何の勝負だよ」
燕は悪い顔をしつつも笑っている。その笑顔に灯は少々の恐怖も覚えたが、可愛い先輩と仲良くなれたので良い気分だ。美女と知り合えることは灯にとって非常に価値あるものなのだ。
「そろそろ午後の授業始まるし、戻ろっかな。またね、灯くん」
燕は別れの挨拶をつげ、颯爽に屋上を後にする。その動きは先ほど飛び降りた時と同じように身軽なものである。
その笑顔に見とれつつも次の授業はなんだったかな、と思い出す。思い出した結果、次の授業は綾小路麻呂が担当の歴史だった。そして燕と話していて寝れなかった分、今寝ようと決意する。要するにサボリである。
◆
「今日は義経たちのためにこのようなパーティを開いてくれてありがとう!」
「川神水とそれに合いそうなつまみが沢山あるなぁ」
「…………一応、感謝しておこう」
本日の主役である源氏3人がそれぞれ1つのマイク回しつつ、順番に挨拶する。最も、しっかりとした挨拶をしているのは義経だけだが。与一は中二病が邪魔してか、少々上から目線の挨拶となってしまったし、弁慶に至っては既に食べ物と川神水にしか目に行っていない。
英雄の挨拶から始まった本日のイベント、義経たちの歓迎会だ。
その歓迎会の会場の飾り付け、出されている料理、どれもがとても学生が企画したものとは思えないほど立派なものだ。特に料理、これは川神市内から集めた特産品で調理されたものばかりで、しかもそれを調理した者も腕に自慢のある人たちなのでこれでマズイ訳が無い。
挨拶が終わった所で、出されている料理を食べつつ、多くの生徒はせわしなく動いている。義経たちと仲良くなろうとする生徒や、仲の良い友達を探している生徒で溢れているからだ。その他にも思い思いの過ごし方をしている生徒もいるがその皆が笑顔だった。
「これ美味しいな」
灯も笑顔で一杯の1人だ。彼は夕飯を食べなくてもいいようにと、この歓迎会で食い溜めする気である。手に持っている皿には山盛りの料理が乗っており、彼の横あるテーブルにも同じような盛りつけの皿が後2つある。その全てを食べる気らしい。
「お前……これ全部食べるのか?」
「ちょっと食べ過ぎじゃないかしら?」
隣にいた大和とワン子がその盛ってある量に驚いている。いや、驚いているのはこの2人だけではない。灯の周りにいる生徒たちがその盛ってある皿をチラチラと見ている。本当に全て食べられるのかが気になっているようだ。
大和とワン子の言葉に灯は箸を持っている右手で親指を立てた。どうやら余裕らしい。
「まぁ腹壊さないようにな」
「ねぇ! あれまゆっちじゃない?」
「お、本当だ。おーいまゆっちー」
大和が灯に気を取られている時にワン子がある女子生徒を発見していた。その女子生徒は大和も知っているらしい。まゆっちと呼ばれた生徒は大和の声に気づいたのか、チョコチョコと小動物が歩いているように近づいてきた。
「大和さん、それに一子さん」
「まゆっち料理手伝ったんだよね? お疲れさま」
「さすがまゆっちねー」
「いえいえ、役に立てたのなら何よりです」
仲良さそうに会話を始める3人に食に夢中だった灯が興味を示した。いや、興味を持ったのは大和とワン子と話している1人の女子生徒。興味を示した理由は単純、まゆっちと呼ばれたこの女子生徒が何度か見たことある生徒で何よりも美人でスタイル抜群であるからだ。
「おい、大和にワン子ちゃん。このスタイル抜群の美人な彼女は?」
「びびびびびびび、美人何てそんな!!」
「落ち着けまゆっち!」
いきなりテンパり出した彼女に灯は驚き大和は彼女を落ち着かせる。その甲斐あってか彼女は落ち着きそして深呼吸し始めた。
「灯くんまゆっち見たことあるわよね?」
「あぁ何回かお前たちと登校してるのを見たな」
「彼女は黛由紀江、俺と同じ島津寮に住んでいる1年生だ」
「は、初めまして、ま、黛由紀江と申します」
「よろしくな由紀江ちゃん。俺は国吉灯と言うんだ」
随分おどおどとした自己紹介だったが、またそこが可愛らしい。女子にしては身長が高めでありながらも小動物感だ出ているのが魅力的だ。
そしてそんな魅力的な彼女をどうやって口説くか、それが彼にとっては大事なのだ。
「俺と由紀江ちゃん、出会いの証として胸か尻のどちらかを選んで触らして欲しい」
「お前大概だな」
灯の口説いてるとは思えないこのセリフ、とても初対面で言うようなものではない。それを言った時の灯の無駄なイケメンさ、非常に憎たらしいものがある。目は真剣そのもの、爽やかな笑みを浮かべながらのセクハラ発言。堂々としたものだった。
そして黛はこのようなセクハラ発言には慣れていない、それどころか人と満足に会話できないほどの人見知りであるのだ。当然驚くを通りこして絶叫してしまう。
「え、いや、その、でも、えぇええええええ!!!!」
『そこのBOY、セクハラ発言はNGだぜ』
黛が悲鳴を上げている中、もう1つ別の声が聞こえた。その声は黛の悲鳴とは別にしっかりと喋ってはいた……が、その声は悲鳴を上げている黛から聞こえるものだった。
思わず灯は首をひねる。この子が出した声なのかと。
悲鳴をあげ僅かの硬直から回復した黛が、灯の様子を見てあることを思い出す。そして自らのポケットから馬のストラップを取り出した。
「い、今の声は松風のです。松風、ご挨拶を」
『おっすオレ松風、これからよろしくなセクハラBOY』
「……えっ!?」
今度は灯が驚く番だった。思わず目が点になってしまい黛を見て、黛が手にしているストラップ、松風を見て、もう1度黛を見る。
その様子を見て、思わず大和とワン子はクスッと笑ってしまう。灯が慌てているのが珍しくも面白かったのだろう。その後、このストラップ、松風についてのフォローが入る。
「これはまゆっちの癖みたいなものだから気にしないで」
「……島津寮でもこんな感じなのか?」
「あぁ、大体こんな感じだ」
「……お前ら面白い子と友達なんだな」
ここまで変わっている、もとい個性的だと逆にもっと仲良くなってみたくなる、灯は何とも言えない気持ちになった。一先ずこの子はストラップを使って腹話術する子なんだと自分の心の中で一区切りを付ける。
それよりも灯は胸、そして尻に思わず目がいってしまう。どちらとも発育良好素晴らしい物を持っている。そんな後輩とは是非共仲良くしていきたい。この男の思考はとてもシンプルなのだ。
「いきなり驚いてすまなかったな由紀江ちゃん、是非これから深い関係を築いていきたい」
「え、深い関係って…えぇっ!!」
『この男さっきからずっとまゆっちのこと口説いてるぜー!!』
大和は黛が顔を真っ赤にしているのを見て、黛を灯に紹介するのは間違ったかもしれないと思った。
◆
1時間たっても、なお義経たちの歓迎会は続いている。始まった時よりも生徒たちの声が騒がしいのを見ると当分歓迎会は続くであろう。
灯は黛と話した後、自ら盛った料理の山は食べ尽くし、今はデザートを物色している。あのとんでもない量を食べて満足したのか締めに入るらしい。
デザートを選んでいるとふとある人物が灯の目に入った。その人物は川神学園の制服を着ていない、特徴的な扇子を手に持ち頭に鉢巻らしきものを巻いている。九鬼紋白だ。
紋白は先ほどからこのパーティに参加している生徒の中から優秀な生徒を見繕い、九鬼財閥へ来ないかと勧誘活動を続けていたのだ。そして1時間たった今なお勧誘活動は続いている。それほど川神学園は生徒数が多く優秀な生徒も多いのだ。キョロキョロと周りを見渡しながら次は誰に声をかけようか、と選んでいると灯と目があった。
「国吉灯か」
「よう、ちびっ子。楽しんでるか?」
灯が紋白に近づいていく。すると強烈な威圧感が灯を襲った。戦う相手の気力を根こそぎ削ぐような、自らの強さを見せつけるような気配。こんな威圧感を放つことが出来る人物は1人しかいない。
「おい、紋様と呼べ」
ヒューム・ヘルシングだ。彼は紋白に付き添い勧誘活動のサポートをしていたのだ。勧誘活動の間は彼にしては非常に大人しくしていたのだが、自分の主である紋白がちびっ子と呼ばれたことでその存在感を現し始めた。
灯を見る目つきは鋭いもので反論は許さないと目で語っていた。
だが灯はその威圧感に屈せず飄々として、手をポケット突っ込んだまま不敵な笑みを浮かべてヒュームを見る。
「そー言われてもな、ちびっ子は俺にとってはただの後輩だ。後輩に様付は出来ねぇよ」
多くの生徒は紋白のことを紋様と呼ぶ、1年生は勿論、多くの2、3年生もその高い能力に敬意して……もといヒュームに脅されて紋様と呼んでいる。ヒュームのこの威圧感に押されてはそう呼ばざるえないからだ。
ただ灯にはその強制的な威圧感に屈せず堂々としている。
「でももしちびっ子が素晴らしいボディに成長したら様付けで呼んでやるよ」
この灯の巫山戯た態度にヒュームが動く。
一般人には見えない蹴りを灯のボディ目掛けて放つ。直撃したら何十メートルも吹き飛ぶことになるであろう威力だ。鍛えてない人物目掛けて放てば入院確定だろう。
その殺人キックを灯は右手で受け止めた。手の甲を盾にして腹への直撃を防ぎ、ヒュームを睨みつける。
「落ち着けよヒュームさん」
「ほぉ……」
ヒュームは自分の蹴りを止めたことに対して思わず感嘆の声が出た。即座に出した蹴りが綺麗な形で防がれると思ってなかったらしい。
ヒュームの足を灯の右手の甲で受け止めて数秒立つ、その数秒間で周りが騒ぎ始めた。先程から騒ぎっぱなしだったのだが声の質がまるで違う。楽しむというより困惑の声だ。何がったんだ? 何をしてるんだ? そのような声が聞こえる。
「ヒューム、良い」
紋白がヒュームを止める。この歓迎会を荒らしてはいけないと感じたのだろう、このままだと皆に楽しんでもらえない、それだけは避けなければならない。
「…………分かりました」
ヒュームが足を下げる。足が完全に床についたことを確認した後、灯は右手をブンブンッと振る。右手が痺れている、やはりあの蹴りを受け止めることは容易ではなかったらしい。渋い顔をして振っている右手を見つめてる。
痺れが取れたのか視線を自らの右手から紋白へと移す。
「おーちびっ子、ナイス」
「今は皆に楽しんで貰う事が最優先だからな。ここで騒ぎを起こしてはならぬ」
その民、ここでは生徒だがそれを考えての行動を取れる辺りは流石九鬼の次女といったところだろう。視野が広い。
「そのちびっ子という呼び方も、いずれ変えてみせるぞ!」
「期待して待ってる」
それでもちびっ子という呼び方は気に入らないらしい。紋白はこの学園で成果を上げることでその呼び方を辞めさせることを心に誓った。そんなことでは灯の呼び方が変わらないことは知らずに。
「おい」
ヒュームから再度声をかけられる。どうやら少し落ち着いたらしい、威圧感は先ほどよりも抑えられている。それでも一般人からすれば腰が引けてしまうほどだが。
「何だよ」
「後で話がある」
「ここじゃダメか?」
「今は紋様が忙しいからな」
紋白はこの後も勧誘活動を続ける。その時間を割いてはいけないのだ。どこまでも主思いの執事だが、もう少し周りの人も見て欲しいところである。
「では行きましょう、紋様」
「うむ! ではまたな国吉灯!」
そう言うと颯爽と2人揃って灯の視界からいなくなる。紋白の勧誘活動は締めの挨拶が始まるまで続いた。あんな小さい体なのに随分バイタリティ溢れているなと、灯は思った。
2人が去った後、本来の目的を思い出す。デザートを取りに来たのだったと。メインディッシュがあれだけ美味しかったんだ、デザートも美味しいに違いない。心躍らせて灯はデザート物色を再開した。
どうもMIYAKOから改名いたしました、りせっとと申します。
今回の話、ほぼ原作沿いで少々長くなってしまいました。それでも読んで面白いと思ってくだされば嬉しい限りです。
作者としては、感想、評価、誤字脱字報告、もっとこのようにしたほうが良いなどの意見等をいただければ嬉しく思います。