真剣で私に恋しなさい! ~Junk Student~   作:りせっと

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29話 ~国吉灯、思考フェイズ with 3人娘~

 国吉灯は考えていた。朝にヒュームに啖呵を切ってからずーっと。机に足を乗っけて、腕を頭の後ろで組み、固くて座り心地が良いとはとても言えない木の椅子に体全体を預けながら、真顔で思考フェイズに入っていた。

 

 

 

(参加したはいいが……)

 

 

 

 思いだすは闘神トーナメントへの参加表明。

 参加が断れる空気でもなかったし、断る理由は無かったものの頭を少し冷やして考えてみるとある問題が出てきたことに気づく。

 

 

 

 立ちふさがる問題とは……

 

 

 

 

 

 

(優勝するには乗り越える壁がでかいな……)

 

 

 

 大会に参加するならば目指すは当然優勝。1位以外灯は見ていない。何せ1位を逃してしまえば今世代の最強の称号を逃すことになる。

 逃してしまえば見えかけていた祖父の背中が遠のいてしまう。闇雲に追い続けていても祖父との差は縮まらない。差を縮める為に灯は参加表明したのだ。

 

 

 

 ただ1位を取るには今大会の規模がでかすぎる。若手で今一番強い奴を決める大会だ。強さの壁を越える者、壁の上に立つ者は当然のように出てくるだろう。

 壁を超えている灯の敵は少ない。しかし、その少ない敵を打倒するのに骨が折れそうなのが現時点で思いつく限り3人いる。

 

 

 

 その確たる人物が……

 

 

 

 

 

 

 ――――川神百代

 

 

 

 間違いなく今大会の優勝候補。実質優勝は決まったもんだろうと思っている人も少なくない。そんぐらい桁外れに強い人。武神の異名は伊達ではないのだ。あのバトルジャンキーがこの大会に参加してこないなんてことがあったらきっと夏に氷が振る。200%大会に参加してくる。

 予選か本戦で別の強者と当たって潰れる……なんてことがあるかもしれないが、確率は紙のように薄い。間違いなく決勝ブロックまでのし上がってくるだろう。

 

 

 

 2人目が公式戦無敗の女。

 

 

 

 

 

 

 ――――松永燕

 

 

 

 

 したたかに、虎視眈眈と勝利を狙ってくる。灯は直接彼女の戦闘を見たのは転入初日の百代との軽い戦闘だけ。実力は未知数。

 しかし灯は知っている。百代を、自分を観察するかのように遠くから見ていたことを。きっと癖か何かを探していたのだろう。頭脳派、効率よく勝ちを拾ってくる。力と力のぶつかり合いを避けて横からド突いてくるタイプ。よっぽどな想定外な出来事が起きない限りは決勝ブロックに上がってくるはず。

 

 

 

 そして3人目。つい最近戦ったばかり。

 

 

 

 

 

 

 ――――葉桜清楚

 

 

 

 いや、覇王項羽と言ったほうがいいだろう。圧倒的なパワーを武器に全てをなぎ払う。一騎当千が実現できるほどの実力者。目覚めたばかりであの実力。虎は何故強いと思う? もともと強いからよ! を体現している。

 決着こそ付かなかったがその力は目の当たりに、じかに受けているからこそ彼女も勝ちあがってくることは安易に予想出来る。

 

 

 

 この3人の誰かと……いや、もしかしたら全員と戦うかも知れない。全員を蹴散らさなきゃ1位は取れない。

 だから考える。力を、体力を温存しながら勝ちあがれる方法を。

 

 

 

 灯の戦闘においての最大の武器はパワーだ。極端に言えば、腹パン一発決まればどんな屈強な男でもK.O出来る、そのぐらい力に頼っている。

 ただ、壁を越えた者には腹パンK.Oが確実に出来るかと言ったら首をかしげざる得ない。

 

 

 

 ただドロー1を使えば、筋肉のリミッターを外して殴り飛ばせば……ただ何度も使える技ではないことは灯本人がよーく知っている。ある程度温存しなければならない。温存したまま勝ち上がるためには――――

 

 

 

(……武器は必要不可欠。パチンコのおっさんに頑張ってもらうしかないが……)

 

 

 

 久信は燕の父親だ。父親が娘のバックアップをするのは当然のこと。灯の依頼は決して最重要ではない。そこが懸念している。間違いなく武器は完成する。九鬼に勤めるぐらいなのだから優秀なのも間違いない。

 しかし大会前に完成させる……これは厳しい……というか娘の敵を強力にさせる必要はないのだ。

 

 

 

(……ちッ……そこはどうしようもないか)

 

 

 

 天井を思わず見上げる。なんてことはない。見なれた天井。1日の約半分を過ごしている空間の天井なんか見飽きているぐらいだ。

 

 

 

(……ぼちぼち考えながら準備を進めっか)

 

 

 

 焦ってはいけない。焦って勝ちを取りこぼしてはいけない。トップを取らねば祖父に追いつけぬ。追いつくにはトップを取るしかない。至極単純なこと。

 しかし道は険しく走破することは困難。だからこそ焦らない。道は1つではないのだ。

 

 

 

「……ハァ、なぁ国吉。おじさんの授業に久々に出てかつ寝てないと思ったら、まるで聞いてない格好……なんとかならないか?」

 

 

「どうぞ、お気づかいなく進めてくれ」

 

 

 

 宇佐美は大きくため息をついた。問題児クラスの1番の問題児はやはり手ごわい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ!! 世界中の強者と戦えるなんて夢のようだ……ッ!」

 

 川神百代はかつてないほどの気力に満ち溢れていた。

 今まで川神院の師範代かつ、自分の祖父である川神鉄心に自ら強者に会いに行くことを禁止され、待ちの体制をとるしかない状態になった。

 

 今年度に入って武士道プラン、納豆小町、項羽覚醒と様々な強者が川神に入ってきたが機会に恵まれなかった。その機会が遂にやってきた。

 

 

 

「そして……灯!」

 

 

 

 何よりも入学した時からずっと目を付けていた国吉灯と戦えるかもしれない。勿論途中で敗退するかもしれない。その可能性だってある。

 しかし百代はその可能性を考えなかった。あの男は確実に勝ちあがってくる。参加するかしないか? という前段階は百代に向けた機会を待て、その言葉を信じるならば間違いなく今がその機会だ。最高の環境。

 

 出来れば決勝ブロックで……という思いはある。だがこの際戦えれば予選だろうがどこでもいい。百代にとっては真剣に戦うことが重要なのだ。

 

 

 

「お前が言うように、本当に近々に来たな!!」

 

 

 

 意気揚々として百代は備える。自分の欲を満たしてくれるであろう最高のイベントに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(闘神トーナメント……松永の名を広めるには絶好の大会!!)

 

 

 

 松永燕は考えていた。持ち前の頭脳を余すことなく活かして、左脳をフル回転させて考えていた。

 

 

 

(だけど……)

 

 

 

 名を広げることを、そしてある依頼を達成するために、この大会は……

 

 

 

 

 ――――強者が多すぎる

 

 

 

 

 名を広げる為には勝たなければならない。

 いくら目立っても武道大会なので強者であることを示す必要がある。最低でも決勝ブロックまでは。だがその間に立ちふさがってくるであろう強者……

 

 

 

(義経に……弁慶……武士道プラン組は来るだろうなぁ……)

 

 

 

 九鬼が大きく絡んでいる大会だ。クローン軍団をアピールするために義経、弁慶、与一はほぼ100%参加してくるだろう。

 

 

 

(川神院の若手修行僧に……九鬼従者部隊……)

 

 

 

 30歳未満が参加条件。立場が全く制限されていないのもこの大会の特徴だ。上へ実力をアピールするために川神院の修行僧と九鬼従者部隊の中に参加を表明する奴だっているはず。

 

 

 

(そして項羽……)

 

 

 

 歴史上最強武人のクローン、その実力はつい最近みたばっかり。あの圧倒的力によるラッシュ攻撃。巻き込まれたら項羽がやめない限り暴風が起こり続ける。

 正直巻き込まれたら終わりだと思っている。如何にペースを渡さずダメージを与え続けるか……。

 

 

 

(……灯くんもいるのか)

 

 

 

 項羽のことを考えていたら同じパワー繋がりで灯のことも思い出す。力だけなら項羽を上回る。もしかしたら百代も上回るかもしれない。この男も注意筆頭である。

 戦闘スタイルは力を前面に押し出したもの。しかし燕は知っている、あの男は頭も回ることを。レールの上だけを走るなら燕にとっては楽である。ただ灯は想定経路を走らないので対策が練りきることが出来ないのが最大のネックである。

 

 

 

(あとはモモちゃん……)

 

 

 

 語る必要はないだろう。武神川神百代。自分の全てを出し切らなければ押し切られて無様に負けてしまう相手。そしてそれは許されない。

 

 

 

(先は長いなぁ……)

 

 

 

 顔色1つ変えずに思考をめぐらす。全ては松永のため。お家のために全力を尽くす。

 

 彼女もまた優勝を狙える実力者である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「世界を統べるこの俺に相応しい催物ではないか!」

 

 

 

 例にもれず項羽も興奮していた。

 世界で一番強い若人を決める。優勝すれば自分が覇王になって世界征服出来るという何とも簡単、単純な方程式が項羽の脳内で生まれていた。

 

 実際そんな上手くいくはずがないのだが、項羽の残念な頭脳はそう導きだしたようだ。後々葉桜清楚がその考えを改めるべく自分自身正真正銘、内部で戦いが起こるのだがそれは別のお話。

 

 

 

「そして何より……国吉灯! あの無礼者と決着をつけるいい機会だ」

 

 

 

 先のあの決闘。結果は邪魔された……鉄心が川神学園を守るためには仕方がないと下した判断であったが項羽にとってはしったこっちゃないので邪魔された、勝てるものを強引に引き分けにされたとしか思っていない。迷惑この上ない思考である。さすが四面楚歌のモデル。

 

 

 

 

 

 しかし自分の勝利を確信している考え方は武人としては正しい。誰が自分が負ける気持ちで勝負に挑むのだろうか。

 

 今すぐにでも大会へのエントリー申請をしに行きたいが、ここで出て行ってしまうと九鬼からまためんどくさい事を言われてしまう。それにもう一人の僕……および葉桜清楚がそれを許さない。心の中で訴えかけてくるのだ。

 なんともめんどくさいことではあるが、葉桜清楚も自分なのである。無碍にするわけにはいかないのだ。だからここは我慢。暴れる場所は、自分が最強だと示す舞台は用意されている。

 

 

 

「ふっは! 心が躍るなぁ!」

 

 

 

 項羽は上機嫌で自分が所属している3-Sへと足を運ぶ。昼休みまで我慢だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3-F所属、川神百代

 同じく3-F所属 松永燕

 3-S所属 覇王項羽

 

 3人は大会発表当日の昼休みに、3人が出会うことはなかったが川神学園自慢の武士娘たちがエントリーした。

 




A-5に影響されてなんとか書ききれました。
短いのはリハビリが必要なんだとひしひしと思いました。

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