真剣で私に恋しなさい! ~Junk Student~ 作:りせっと
「あー………」
何とも間の抜けた声を出しながら灯は悩んでいた。それはもう悩んでいた。悩みの種は今灯の目の前にある物。
正直ガラクタにしか見えない……いや、一般人が見たらガラクタだと宣言出来る。
その塵の正体を探ってみよう。
まず大まかに分けて4つに固まっている。だがそのうちの3つは大きく亀裂が入っていたり、所々かけていたりと、本来の性能は全く出せないであろう。
と言う訳で、何とか無事の1つ見てみよう。そこそこ大きな金属の塊。見るだけで重量感たっぷり、鍛えていない人間じゃなければ持ち上げる事すら出来なさそう。
ただこれがただの鉄の塊であるなら灯はこんなにも眉間に皺を寄せて唸ってもいない。
この正体は灯が祖父から受け継いだ武器だ。決して粗大塵に出すいらないものなんかじゃない。
一応原型を留めている1つだけでも、使えて戦う事は出来そう。だがそれでは最大のパフォーマンスを引き出す事なんて出来ないし、見栄えも悪い。
なお、今は夜中の1時。釈迦堂との修行を終え、梅屋で飯を食べた後なのでこのくらいの時間になってしまった。良い子とワン子は既に爆睡している。
一応元師範代との鍛錬は一息つき、戦う感覚は取り戻すことに成功。それに加えて武器を直すことで正真正銘全力全開で戦えるようにしておきたいと灯は考えていた。
だが普通の灯からフルパワー灯になるためにはこの武器の修復が壁となり立ちふさがる。そして持ち主はこの残念な状態を元の状態に直す事は出来ない。
武の総本山、川神院の総代である鉄心ですら修復する事が出来ないと言っていた。ならば灯に直せる訳が無い。
―――どうやって元通りにすっかな?
それが灯の目下解消すべき問題。今この時の灯はどうやったら美人とお近づきになれるか、それを考えるよりも頭を使ってるかも。
だが頭を回転させても直す手段は浮かんでこない。もう諦めて寝るかー……と諦めかけたその時に閃く。頭の上に電球が3つほど光り始めた。
「義経ちゃんがいるじゃん! さすが美人!」
美人は関係ない? いや、大いに関係ある! と灯は常日頃思っている。
義経 ”が” 直すのは不可能だろう。だが彼女の愛刀は薄緑、それだけの名刀を手入れしない訳が無い。人材の宝庫である九鬼の誰かが丁寧にメンテナンスしているはず。
ならばその人を義経から紹介してもらって直してもらえるかどうかを交渉すればいい。そうさっき思いついたのだ。
そうと決まれば話は早い……さっさと行動に移すべく灯はベットに入った。まずすべき事は夜が明けることを待つ事だ。
灯は爆睡することが出来た。起きた時刻が午前11時だったことからそれは誰が聞いても納得するだろう。戦うことは体に大きな負担をかけてしまい結果、疲れる。それこそ鍛錬でもだ。
それでも灯の目的にさして影響はない。昼休みに放課後、義経と合う機会はたくさんあるし焦る必要なんかない。
灯は重役登校をした後、自分のクラスではなくSクラスに足を運ぶ。
「おや灯くん。私に会いにきてくれたのですか?」
「テメーが墓の下に入ったら会いにいってやる」
「つれないですねぇ……一度くらい付き合ってくれてもいいのでは?」
「……」
「冗談です。無言で机を振り上げないでください」
ようは死ぬまで会いたくないと遠回しに、オブラートに包んで葵に言い返す。
Sクラスに入って出迎えてくれたのは葵。葵のストライクゾーンに灯は奇麗に入っている。ならば口説くのは当然、それが男でもだ。
そんな彼を灯は自分の身を守るために、真剣に駆逐したいと思っている。この男は間違いなく、ある意味灯最大の敵だ。葵が冗談だ、と言葉にしなかったら今頃無慈悲にも机は彼の脳天に降り注いでいただろう。
そして灯に絡んでくるのは1人だけではなかった。
「なんじゃ? Fクラスの山猿が高貴なるSクラスに何の用じゃ?」
自称優雅にお昼ご飯を食べていた心も会話に混じってくる。相も変わらず人を見下した態度が特徴。だから友達いないんだよと言わないでください。
そんな彼女を灯は片手で軽々と持ち上げた机を雑に置いて後に顔を見る。そして視線をゆっくりと下に動かして、そしてある部位に視線を固定させた。
「お前は眼中にねぇ。後バストサイズを2つぐらい大きくして出直してこいや」
これも直訳すると、胸が大きくないと好みではないので出直してきてくださいってこと。ドンマイバスト78。灯は巨乳が好みだのだ。
だがさすがの灯も胸だけで好きか嫌いかを判断していない。現にワン子やクリスとも仲良くやっているし、2人共灯のお気に入りだったりする。
心は態度こそ上から目線だが顔は可愛い方。が、性格が彼の好みではなかった。普段から好き勝手やっている彼が言えることではないのかもしれないが、それでも好みでないもんは仕方ない話なのだ。
「な! なななななな……」
心が声になっていない声を上げ始める。ここまでドストレートに貧乳だって馬鹿にされたことで何を言っていいか分からないのだろう。あと言葉のボキャブラリーが少ない事も関係している。打たれ弱い心には辛いお言葉であった。
「なんだよ灯、胸が大きいほうが良いとか趣味悪すぎじゃね?」
このセリフだけ聞くとまだ ”あぁ、こいつは貧乳のほうが好みなんだな” と思うだけで終わる。
だがこの一言を放った人物がロリコンだったら? それはもう意味合いが大きく違ってくる。それこそ殺意が芽生えてしまうほどに。
「おいロリコン。貴様土に帰るか?」
「帰してくれるならロリコニアの土に帰してくれ……ッ!」
なぜSクラスはこう残念な奴が多いんだろう? と思わず顔をしかめる。明らかに自分を棚に上げていることには気づいていない。灯も充分問題児で残念な奴だ。
と、ここで本来の目的を思い出す。そしてクラス全体を見渡してもお目当ての人物はいなかった。Fクラスに負けじと濃いSクラスでも更に目立っている3人組が見当たらない。
「義経ちゃんどこ?」
「義経ならいつもの2人連れて屋上に行ったよ」
昼休みだ。風が心地よい屋上で飯を食べに行ったのかも知れないと、灯は予測する。
「オーケーオーケー。じゃあなロリコン。最近週末に市民プールで海坊主が出るって噂になっているらしいから気をつけるんだな」
「イエス! ロリコン! ノォ! タッチ! を貫いてるから大丈夫だ。問題ない!」
360度どっから見ても問題しかない気がするがこれ以上構っていると時間がなくなってしまう。灯はもはや病気としか言えない準に見送られながら屋上へと足を動かす。そのうち誰かが成敗してくれると信じて。
早くもなく遅くもなく、マイペースな速度で灯は屋上へと繋がる扉の前に到着。
ドアノブに手をかけていざ開けようとしたとき
「ぐああぁぁあああ!?」
断末魔が聞こえる。屋上から発せられた声だが恐らく校庭まで響き渡っている事だろう。
その声を聞いて一瞬開けるのを躊躇したものの、すぐに誰が発生したのかが予想がつく。こんな悲鳴をあげる奴なんて数少ない。正体を確かめるべく、そして義経に会うべく扉を開いた。
そこに広がっていた光景は…………驚いた顔をしている義経。思わず見ほれてしまうほど奇麗なパイルドライバーをかけている弁慶。それを見事に喰らってしまい口から泡を出して気絶している与一。予想していた事だしいつも通りだ。
「お、灯じゃん」
弁慶がゆっくりと技を解除しているときに灯を見つける。見つけた瞬間与一をまるで空き缶をその辺に捨てるように投げ飛ばす。非常に雑な扱い。
投げ飛ばされた与一はそのまま力なく倒れる。さらば中二病イケメン。
「あ、灯くん! だけど与一が……!」
弁慶が灯を見つけた事で連鎖的に義経の瞳の中に彼の姿が映る。だけど与一がHPゼロで倒れている状態を彼女は放っておけない。視線を灯からすぐに死体になりかけている男へと戻す。
「や! 源氏美人のお二人さん」
ヒラヒラっと手を振りながらゆっくりとした足取りで義経の近くへと足を運ぶ。そして横たわっている与一を一目見る。
「何度目になるか分からんが……さらば中二病。スルーしていいか?」
「あぁ、気にしないでいい」
いつものことである……だいたい義経に迷惑をかけたからだとかそんな理由。言葉通り、気にしている様子は一切見られない弁慶は、既に川神水を飲もうとしていた。
灯は手で軽く十字を切って与一を見送る。そして哀れな男から視線を外す。
「義経ちゃん。君に聞きたいことがある」
「義経に聞きたい事? 出来る限り答えたいと思う」
意識が無い与一を起こそうとしていた義経は自分に用件があると聞いて彼を復活させる動作を一時中断する。
義経は毎回やられている与一を心配しているが、彼は弁慶に何度もやられている。それを見続けた結果、やはりいつものこととだと慣れてしまったところがある。慣れって恐ろしい。倒れている与一から自分の横に立っている灯へと視線をシフトさせた。
「義経ちゃんのいつも持っているその刀は誰が手入れしてる?」
「薄緑? これなら義経が自分で手入れしているんだ」
「毎日丁寧に磨いているよねー」
「義経ちゃん自分でやってるのか……」
灯は驚くと同時に少しがっかりしてしまう。てっきり九鬼の従者部隊の誰かが手入れしてるもんだと予想していた灯は完全にアテが外れてしまった。
「どうしたの灯? 珍しく落ち込んだ顔しちゃってさ」
弁慶の言う通り、灯が少しでも落胆してるような表情を浮かべるのは珍しい。常に自信満々で人を喰ったような態度をとっているためか、彼のこういった顔は目立つ。
「義経ちゃんに鍛冶屋かそれに近い誰かを紹介してもらおうと思ってさ」
「鍛冶屋?」
「直したいもんがある」
だが直すという夢は吐かなくも散ってしまいそう。
何にせよ、灯はまた一から家にあるガラクタをどうすればいいかを考えなければならない。
だがこの後の弁慶の一言で状況が変わる。
「鍛冶屋じゃないけど……九鬼に最近腕の良い技術屋が来たって誰かが言ってた気がするなぁ」
「その話詳しく」
九鬼が雇うぐらいだ。それはもう技術屋としては最高峰の人材なはず。世界中からありとあらゆるスペシャリストが集まっているのだ、灯が期待するのは当然だろう。
しかし―――
「詳しく……と言われても、酔っぱらってる時に聞いたから……ねぇ?」
既に川神水をそこそこ飲んでいて且つ、聞いた時も酔っぱらっていた彼女からこれ以上聞き出すのは無理そうだ。というかその情報自体が正しい物なのかすら若干怪しくなってきた。酔っ払いの話ほど当てにならないものはない。あることないこと適当に喋るからだ。
「それ幻聴だったんじゃないか? 信憑性ないぞ」
「かもね」
フフッと顔を少し赤くしながら笑う弁慶はとても奇麗、酔いどれ美人だ。これほど川神水が似合う女性もそういない。
灯はそんな楽しそうな彼女を見て、今日はもうこのまま弁慶と飲もうかなーっと、考える。基本目の前に転がっている欲望に流されやすい男なのだ。
「技術屋が来たって話は義経も聞いたことがある。家に戻ったら聞いてみようか?」
だがそんな邪念に待ったをかける存在がこの場にはいる。もし義経がいなければ、灯は既に技術屋のことを記憶の片隅に放り投げて川神水を口にしていたはず。
どうやら弁慶の情報は正しいものらしい。生真面目な彼女が言うのだからきっと九鬼は雇っているはず。
「そりゃーありがたい。義経ちゃん連絡待ってるぜ! やっぱ出来る女は違うな」
「話はまとまったね。さー灯、お酌して。与一もとっとと起きてつまみ出せ」
技術屋の話に一区切り付いたと判断した弁慶は川神水の瓶を灯に渡し、足では未だ寝転がっている与一を蹴飛ばす事で強引に起こす。
先ほどから与一があまりにも理不尽な扱いを受けているがこれが日常なのだから仕方ない。彼は諦める以外選択肢はない。弱者は強者に従う、これはどこの時代にいっても変わらない仕組みだ。
「……!? いってぇ!! 気絶させておいてなんて扱いすんだよ姐御!!」
「つまみもあるんじゃ付き合わない道理はないな。義経ちゃん、俺も昼一緒していいか?」
「あぁ! 一緒に食べよう」
人懐っこく、灯と仲が良い義経が断るはずも無く、灯はそのまま源氏3人組とお昼を取る事に。
弁慶にお酌しお酌され、義経の弁当を分けてもらったり、与一が太陽の輝きだどうだこうだとほざく。これが源氏組のお昼休みだ。
ちなみに昼休み終了後、クラスに戻った灯がクリスからお叱りの言葉を受け、それを奇麗に流しつつ彼女が更に怒るところもいつも通り。
◆
放課後、灯はお決まりの場所に足を運ぼうとする。彼のお決まりといえば賭場である。まさしくホームグラウンド。
特に今日は週末にでかいレースがあるため是が非でも軍資金を作っておきたいと灯は思っている。
ギャンブルに使う金をギャンブルで稼ぐという破産するような行動だが、彼は常に勝つ気でいるため無一文になったらどうしようとか全く考えてない。
過去何回か財布の中身がゼロになったことがあるが、それは脳内のゴミ箱へ投げ捨てている。負ける可能性? そんなもん考えた奴が負けるんだ、という状況が状況ならかっこいい意識を持っている。
必勝の心持ちで賭場がある教室の階へと到着。するとそこにはある人物がいた。川神学園を象徴する学生といっても過言ではない。
「よっ灯。お前また賭場に行くのか?」
「モモ先輩だって……その顔だと負けたな?」
「今月厳しいのが更に厳しくなってしまった……」
「まーた工事現場で鉄骨を持つ作業が始まるのか。将来工事会社に就職したらどうだ?」
川神百代、彼女も賭場に良く顔を出す生徒の1人だ。だが今回の結果は著しくなかったらしい。いつも豪快でご機嫌な彼女が今は珍しくテンションが低い。そういう時は大体金が減った時である。賭博で負けた後の喪失感は途方もないのである。
「そういえば聞いたぞ灯。お前清楚ちゃんと一緒にノーヘルで市内暴走していたらしいな。私の清楚ちゃんに何かあったらどうしてくれるんだー」
昨日の出来事、ちなみに朝のニュースにもなっていた。
”ひったくり犯市内を暴走! 捕まえたのはノーヘルの男と美女?”
テレビで流れた映像には幸い2人の顔ははっきりと写っていなかったが、それでも灯と親しい人ならば ”あぁこれ灯か……” と、予測がつく。百代もその1人。
今日の昼休みにもニュースで少しの時間映って、それを見た何人かの教師がため息をついたという。
「間違ってるぞモモ先輩。俺の葉桜先輩だから」
「いやそれも……というか私と灯じゃこの論議に決着はつかなさそうだからやめよう」
どっちも間違っていると突っ込む奴がいない残念な空間が広がり始めたのを察してか、百代は ”清楚の所有権はどちらにあるか" という当人の意見を2人共ガン無視している話し合いに一度幕を引く。
「しっかし相変わらず面白いことしてるじゃないか」
「あの後別の意味で大変だったがな、美女は怒らせるもんじゃねぇ……」
清楚の説教を思い出したのか、思わず灯は苦い顔を浮かべる。コンクリートに正座は痛かったし、美人の怒っている顔は怖いしで散々な目にあったのだ。
ちなみに少し余談。灯は自分がやってきた行動は非常識な物が多い、だらしなくて最低だとということは自覚している。だが辞めようという気がないし自重する気もないだけである。はっきり言ってダメ人間過ぎる。
「あぁ、私も面白くて楽しいことがしたいなー」
この発言を聞いて ”またか” という呆れたような顔を灯は浮かべた。
毎度のことである。百代が灯に向けて戦ってくれませんかー? と誘いをかける。つい先日「私は待っているぞ!」とカッコつけて宣言したばっかりなのだが、やはり彼女の戦闘衝動はそう簡単に抑えられるものではないらしい。
いつもの灯だったら ”いやだねー、美少女と乳繰り合うのは良いけどド付き合うのは勘弁” とかいって流しにかかる。
だが今の彼は少し心境が変わっている。
「モモ先輩が言う楽しいこと、近々やってくるかもなァ」
強くなるためにはただ単に鍛えているだけではダメ。実際に強い奴と戦うことが祖父を超える為には必要だと結論を出したのだ。
そんな考えを抱き始めたのは鍋島との戦闘が切っ掛け。そして釈迦堂との修行を経験してそれは確固たる物へと変動した。
「え……それは本当か!?」
百代もいつも通り軽く交わされて終わるのだろうと予測していただけに、今回の灯に返事はあまりにも嬉しい想定外の答えだった。その解答を聞いた瞬間、彼女の赤い目が輝きだす。
「興奮しすぎて大事なとこ濡らすなよ」
「ハハハ!! これは楽しみだなぁ!!」
先ほど賭場で負けたことを忘れてしまう程、百代はハイテンションになった。
最近百代は義経の対戦者を選別するという名義で様々な相手と戦っているが、最近それもどこか物足りないと感じてきたのだ。
やはり壁を超えている者の相手は壁を越えた者にしか勤まらない。
「ここまで期待させておいて、やっぱなしとか言うなよ? 言ったら私、全力で暴れるから」
「駄々こねて川神市を壊滅させる気か?」
川神市の命運はたった今一人の男に託されたのかもしれない。
百代が暴れるとか言い出したらそれはもう天災レベル、自衛隊が出動するのも致し方がないと言ったものになってしまう。冗談のような本当の話である。
「しかし漸く私からの誘いに乗ってくれたな、乙女を待たせすぎだ」
「おと…め……? ハハッ何言ってんだよ。乙女は不良の顔面を壁に叩きつけたりなんかしないって、むしろ常に盛ってる訳だから痴女のほうがピッタリじゃー……」
瞬間、百代の拳が飛ぶ。本気ではないとは言えかなりのスピードだ。そりゃ自分のことを ”乙女? ハハッ何言ってんのお前?” とバカにされ痴女とか言われたら拳の1つや2つ放たれるのは当然のことなのかもしれない。
それを灯は楽々と手のひらで受け止める。一般人ならばもしこのように受け止めたとしてもそのまま吹き飛ばされているような威力、それを彼は微動だにせずに捕えた。
「この誰よりも美少女である私に向かって好き勝手いってくれたじゃないか」
「事実だろ事実。まぁ準備が整ったら今度は俺から痴女先輩にアプローチをかけるからお楽しみに」
いつもは百代が浮かべている挑発的な笑みを、今回は灯が浮かべる。
その表情を見て百代は満足そうに頷いた。彼の言う準備の内容は分からないが、きっとそれは自分を充たしてくれるための物だろう。ならば待つのみ。
灯の準備というのは言うまでもない、武器の修復。現在の灯は釈迦堂のおかげもあって100%に近い力を出すことが出来る。それにプラスして武器が使えれば120%の状態で武神と戦うことが可能だ。
今戦っても何とかなる……とは思っているが、ウェポンが有るか無いでは天と地の差。戦闘時の負担が全然違う。なので彼女と戦う時は何としてでも準備したい品物であるのだ。
もし直す当てが全くなかったのなら、早くて明日明後日には2人はぶつかり合っていただろう。だが修復出来る可能性が出てきたのなら……期はまだ熟していない。ここ数年で最大の決闘はまだ先のお話になりそうだ。
「私が積極的に誘いをかけた甲斐があったな」
「物理的な誘いじゃなくて、もっと色っぽい誘いだったら俺はすぐに乗ったんだがなー」
「私と付き合いたいのか?」
「モモ先輩なら俺はいつでもオッケーだぜ!」
「そんな良い笑顔で言われても……お前節操ないし」
「アンタに節操ないって言われたくねェよ」
灯も灯であるが、百代も様々な女性をナンパしている身だ。灯を節操なしという資格はあるかないかでいったら……ない。
「俺じゃモモ先輩のお眼鏡にかからないか?」
「顔は悪くない、筋肉の付き具合も私好みだ。一途になるなら考えなくもない」
「…………おっと、俺はそろそろ賭場に向かうとしよう」
「おい」
「冗談だ。まぁこれからもモモ先輩の気を引けるように頑張るとしよう」
本当に冗談なのか……と百代が疑問を抱いたのは至極当然のことであった。あなたに好かれるように頑張る、そんなセリフはニヤニヤしながら言っても説得力皆無だ。
話がついたからか灯は止めていた足を動かし始め賭場へと向かい出す。百代は賭場へと向かう灯の背中を見ながら体に力が入っていくのを感じた。
――――あいつが準備すると言っているんだ。私もそれに備えるとしよう。
これで修行が更に熱が入る。さっそく帰って鍛えるとしよう。彼女も学園を出て川神院に向かうために足を灯とは逆の方角へと向ける。
2人が激突する日は決して遠くはない。
「あ! 灯! あとナンパに行く時は是非誘ってくれ」
「男女で揃ってナンパするとか斬新過ぎるだろ」
話の展開をどのようにしたらいいのか分からなくなってきました……プロットしっかり立ててから書かないとだめですね……
作者としては感想、評価、誤字脱字報告、もっとこのようにしたほうが良いなどの意見等をいただければ幸いです。
また、マイペースな更新が続きますがよろしくお願いします。