GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~ 作:フォレス・ノースウッド
もういっそ龍騎劇場版公開当時よろしく先行公開しちゃえと書いてます(;^ω^)
〝天を仰ぐ塔〟―――〝カディンギル〟。
フィーネ――櫻井了子が特機二課をも欺き建造していた巨塔が、二課本部と言う偽りの姿を脱ぎ捨て、真の姿を現すと同時にリディアンを完膚なきまで破壊するより、ほんの少し以前こと。
リディアン音楽院でも、万が一近辺にでも特異災害が起きないとは限らない為、校内に設置されたシェルターには、生徒たちと近隣住民たちが、特機一課と陸自の自衛官たちの誘導の下、避難を行っていた。
「落ち着いて! 二列ずつに並んで避難して下さい!」
校舎の方では生徒の内の幾分か、自ら誘導役を買って出る者がいたのだが、その内の一人に、未来がいた。
「落ち着いてね……焦らず、前の人を押さないで」
どうして自衛隊と一課の人たちに混じって、私も率先して避難誘導をしているのかと言えば、自分の意志でこの役に志願したのだ。
〝なら私は、リディアンのシェルターへの避難を手伝ってくるね〟
〝未来……〟
〝私も、私ができることを頑張る、響に翼さん、そして朱音がみんなのことを守るなら、私は響たちも居る〝日常(いばしょ)〟を、私なりに守りたいから〟
これは、響が空母型のノイズが飛び回る東京スカイタワーへ向かう直前、響へ伝えた私の言葉。
実は……響と仲直りできたあの日に朱音から、なぜ二課の本部が私立学校のリディアン地下にあるのか、理由を私は聞いていた(司令さんたちから了承は貰った上で)。
それは、シンフォギアを含めた聖遺物を起動するのに必要なエネルギー――フォニックゲインを生み出せる歌声の主――《適合者》を探す為。
翼さんがリディアンに在籍しているのも、そのネームバリューを使って候補者となり得る人材を、全国から集める広告塔としての役割もあって。私達生徒が授業や部活などで歌っている裏で、二課の人たちは聖遺物以上に虎の子な適合者を必死に探していたのだ。
人によっては、二課の行為を快く思わないがいるかもしれないし、被験者扱いも同然だと、同じリディアン生徒含めて憤る人だっているかもしれない。
でも、奏さんが専用の薬で身体に鞭打って無理やり適合者になったことと、奏さんが亡くなってから、響と朱音が装者になる日まで、ずっと翼さんが〝一人〟でノイズを相手に戦い続けてきたこと。
翼さんの叔父でもある風鳴弦十郎司令含めた、二課の人たちが、どんな想いで……命をかけて〝人助け〟するシンフォギア装者たちを司令室のモニター越しに見守ってきたかと思うと、とても責められない。
ただ……私も私で、もし装者としての人助けを選んだ響とすれ違ってた時に、このことを知ってたら。
〝どうして………どうして響ばっかり! 苦しまなきゃいけないの!? 辛い目に遭わなきゃいけないの!? 辛い想いを背負わなきゃならないの!? 響が一体何をしたって言うの!?〟
朱音に迷惑かけちゃったあの時ぐらい、また―――。
〝他にも聖遺物があるんでしょ? それをシンフォギアにできる技術があるんでしょ? なら私にも使わせて! 私に戦わせてよッ!〟
〝前にも言った筈だ………誰にでも扱える〝力〟ではないと〟
悔しさと、やるせなさ、悲しさ、仮にもリディアンに入学できたと言うことは、適合者の〝候補〟だった筈なのに装者として響を助けられない無力さに、自分があの日のライブに誘わなければと自分を攻める罪悪感でグチャグチャになって、子どもみたいに喚いて泣き崩れていたかもしれない。
だけど今は、もう悔やんでばっかりではいられない、無力さに暮れてもいられないし……ずっとそうやって沈んでいたくはない。
だって、朱音が、そして響が教えてくれたのだ。
人は誰だって、時に誰かを助けて、誰かに助けられて、互いに助け合って………一生懸命生きているんだって。
その方法(やりかた)は、決して一つだけじゃない、幾つも――たくさん、あるものなんだって。
「誰か! 誰かまだ残っている人はいませんか!?」
この想いを胸に、避難誘導を進めている内に、さっきまで大勢の生徒の避難で騒がしかった校舎の中は、すっかり人気がほとんど無くなって静かになり、校内中走って息が荒れてる私の呼び声が、中央棟の舎内によく響き渡るようになっていた。
すると向こうから、緒川さんと同じ黒いスーツを着た人が駆けよって来る。
「例の二課民間協力者ですね?」
特機一課の人だった。
「はい、小日向未来です」
「いつノイズがこちらにも襲ってくるか分かりません、後は我々に任せて、君も避難して下さい」
「分かりました」
一課のお人のお言葉に甘えて、私は二課本部に繋がるエレベーターに向かう。
本当はシェルターに行くべきなんだけど、スカイタワーで戦っている響たちも様子も気になって、本部の方へ行くのを選んだ。
エレベーターの横に添えられたスキャナーの前に、二課から支給された専用のスマートウォッチを読み取らせてロックを解除、扉が開くと同時に。
「ヒナ!」
廊下の向こうから私をあだ名で呼ぶ声と、駆け足の足音が、三人分近づいてきた。
私を〝ヒナ〟と呼ぶ友達は一人しかいないので、案の定、その三人は安藤さんと寺島さんと板場さんだった。
「三人とも……どうして?」
「それはこっちの台詞よ」
「シェルターに行ったら、ヒナもビッキーも見当たらなかったから」
「問題行動なのは承知で、お二人を探しに戻ったんです」
あ……そう言えば、もし今日に特異災害が起きなかったら、午後は五人で期末テスト対策の勉強会をやる予定なんだった。
だから今日リディアンにいる筈の私たちが見当たらなかったら、心配になって探しにも……来ちゃうよね。
朱音が今日の勉強会に加わっていないのは、表向き音楽教室のお手伝い、実際は二課の仕事の手伝い。
その朱音から、お手伝いの件は響にも秘密にしてほしいと念を押された、私も課題に集中してほしかったので、了承した。
一時は〝秘密〟そのものに過敏(ナーバス)になってたけど、ほとんど人知れず特異災害と戦ってきた奏さんも含めた装者と二課の人たちの活動を見て、秘密も使い方次第と、そう今は思えるようになった―――なんてことは置いておいて。
「ところでビッキーは、てっきり一緒にいると」
「それに、何で未来が〝開かずのエレベーター〟をすんなり開けてんのよ」
実はこの二課本部直通のエレベーター、事情を知らない生徒たちからは〝開かずのエレベーター〟として、半ばリディアンの都市伝説と化していた。
「っ………」
私はほんの一瞬ながら躊躇ったけど。
「とりあえず乗って、説明はするから、早く!」
「あっ……うん」
安藤さんたちにエレベーターに乗る様促し、三人と一緒に乗り込み。
「高速エレベーターだから、これにしっかり掴まって」
「分かったわ……」
英語で『手を離すな』と書かれた手すりに掴むよう三人に伝えて程なく。
「「あぁぁぁぁぁーーーーー!」」
安藤さんと板場さんの悲鳴が盛大に響く中、世界最高クラスらしい高速エレベーターは降りていく。
「どこかの遺跡みたいな模様ですね」
一方で寺島さんは涼しい顔で、了子さんの趣味らしい派手な色合いの壁画を見る余裕を見せていた。
凄いね……寺島さん、特異災害が起きている最中な上に、明らかに〝非日常的〟な状況なのに、入学時初めて会った時の第一印象からの想像以上に、ここまで冷静さ胆力があるなんて最初会った時は思いもしなかったと、こんな非常時なのに感心してしまう。
「まるでアニメに出てくる秘密基地みたいじゃないッ!」
板場さんも、ある意味でいつものように、自分がこよなく愛するアニメでの比喩表現を使っていた。
うん、ここ数年そんなにアニメを見てない方の自分でも、言われてみれば確かに、実際に目にするまでこう言う〝基地〟はフィクションの中のものと、無意識ながら思っていたなと、まだエレベーターが高速で降りる中、ふと頭を過った。
ようやく詩織を除く級友たちを絶叫させた高速エレベーターが止まって扉が開き、未来は司令室方面の回廊へ創世達を案内しながら。
「え? ここ特機二課の本部なの!?」
「うん」
「驚きました……」
「本当に政府お抱えの秘密基地だったなんて……ますます〝アニメ〟染みてるじゃない……」
この地下施設が、特異災害対策機動部二課の本部施設であること等の説明をする。
当然自分の通う学校に国民には公表されていない機密施設がある事実に、級友三人は三者三様の驚愕を見せ、アニメマニアの弓美など案の定、未来に言われる前から半ば空想の体でこの地下施設が〝政府の秘密基地〟だと勘ぐっていた。
「でも小日向さん、なぜ私立のリディアンの真下にこんな施設が?」
「それにそもそも、どうして未来(ヒナ)が基地(ここ)のこと知ってて、勝手知ったる顔で入れたわけ?」
(あ………しまった)
級友の安全をいち早く確保しようと少し焦っていたのも否めなかったのもあり、未来は当人たちから質問されて初めて、一介の市民でもおかしいと考える〝重要機密の筈な政府機関の一般国民には秘匿されている非公開施設の存在を知っている〟事実に気がついた。
「もしかして未来、実は特機所属のエージェントだったり……とか?」
「違うよ!」
弓美からの一つ目の質問には、慌てて否定したが。
「そもそも前から気になってたのよね、一課はともかく、二課が何をしてるのかさっぱりだったし………自衛隊にケチ付ける気無いけど……いくら放っておけば消えるからって、ここ最近の除くと………ニュースで聞く通常兵器が利かない筈のノイズの被害、ちょっと最小限に抑えられ過ぎてない?――とも思ってたのよ」
「あ、それは……」
己が腕を組んだ状態で続いて繰り出した二つ目の弓美の質問は、核心を突いたものにして、二年前のあの惨劇で生死の境を彷徨った響(しんゆう)を通じて、ノイズが引き起こす厄災の凄まじさを知った未来も、直に遭遇したところを朱音に助けられたあの日の直前までは、特異災害の報道聞く等で時折何度も過っていた〝疑問〟そのものだった。
未来は、朱音と響が、シンフォギアを纏って自分をノイズから助けてくれた時を思い返す。
二人とも、そして風鳴司令ら二課の人々も、非常時とあらば〝機密〟より〝人命〟を救う方を選べる人達だ。
それにどの道、本部に連れてきた時点で、話す以外に選択肢はなかったも同然……未来は司令から相応の叱責を受けるのを承知の上、自身へと頷き。
「実は、ノイズに対抗できる兵器は、結構昔から完成してて………二課の方はそれを使ってノイズと直接戦う組織なの、私もそれを見ちゃったから……〝民間協力者〟って形で一応、二課のメンバーなんだ、だからさっきの板場さんの質問も何割か当たってた」
この事実を前に、今度ばかりは詩織も含めて三人の級友は次なる上にさらなる衝撃を受けた。
「それは――シンフォギアって言って、まあいわゆるパワードスーツみたいなものなんだけど……」
「シンフォ……ギア」
「シンフォって、symphonicのシンフォですか?」
「うん」
FG式回天特機装束――SYMPHOGEAR(シンフォギア)。
未来は、今この瞬間にも、友たちが東京スカイタワー周辺に出現したノイズの群れと戦う為纏っている………人類が特異災害に対抗できる、最大にして唯一の切り札のことを、自分が聞かされ、知り得る範囲で三人に説明をした。
さすがに………朱音たちがその担い手たる〝装者〟であることまでは、言葉にできなかったが。
「パワードスーツと言うか………もうバトルものの変身アイテムじゃないそれ、秘密機関と言いよいよ完全にアニメな上に前代未聞よ、古代の遺物を使うどころか、本当に〝挿入歌〟を歌いながら戦うなんて」
秘密にしていた……朱音、そして響が抱いていた筈であろう心境を、説明しながら未来が体感していた中での、弓美のこの発言。
確かに、〝歌で戦う〟ことも含めて、幼い頃自分もよく見ていたアニメの数々の劇中に出てくる突飛な〝設定〟以外の何ものでもないよねと、そんな場合じゃないのに考えてしまった―――ことはさて置き。
「それを開発したのが、ほら、今向かいから来てる白衣を着た科学者の人、名前は櫻井了子さっ…………」
絵に描いた〝噂をすればなんとやら〟で、未来たちからは約五〇メートル以上ほど先の向かいから、かの櫻井了子博士がこちらへと歩いてきたの目にし、咄嗟に博士を呼び掛けようとした未来は………よくこらして見た相手の姿を前に、言葉が失われる。
(な、なに……)
脳と心の内にでも、未来は上手い表現(ことば)が思い浮かばない。
ただ一つ………〝異常な状況〟が、自分たちに忍び寄っている感覚だけが、どうにかはっきりと未来は読み取ることはできていた。
未来に代わって………櫻井博士の状態を説明するならば、遠間から見ている分には――。
フリルの付いたピンクのワンピースの上に白衣。
ふくよかな生足が履くハイヒールサンダル。
茶髪を頭頂で団子風に纏めたポニーテール。
上部だけ縁の無い、赤縁眼鏡に、やや濃いめながらも知的さを引き立てる化粧。
――風体自体は、いつもの櫻井博士以外の何者でもない。
ワンピースの脇腹部を大きく染める、素人目に見ても重傷だと判断できる鮮血。
それと―――まるで獲物を見つけて舌なめずりする大蛇の如く、見られた人間を睨まれた蛙の如く凝固させ、妖艶にして鋭く、邪悪で、何より突き刺す様に突きつけてくる〝殺気〟に満ちた眼差しを………未来たちに向けていた。
未来らは、近づいてくる人の姿をした〝不条理〟に、逃げる思考を浮かぶ余力すら失われ……立ち尽くす以外にできずにいる。
そんな彼女らに対し、櫻井了子は………大きく広げた右手を空色に発光させた――――直後。
四人とも、両肩がほぼ同時にこむらがえりを起こすほどに驚愕するほどの騒音が鳴った、しかしそれが荒療治となって結果的に理性を少しばかり取り戻し、一泊遅れて音の正体が、自分たちと櫻井了子の間を塞ぐ形で、隔壁が締められたものだと知り。
「未来さん!」
同時に聞き覚えのあるソプラノボイスが聞こえ、振り返れば隔壁を締めるボタンを押した緒川が立っており。
「緒川さん……」
「説明は後でします、今の内にお友達を司令室へ、そこからシェルターに行けます、ルートのデータも端末に送りましたから急いでッ! 三六計逃げるにしかずです!」
「は、はい! みんな走って!」
「うん……」
いつもの声に違わぬ温和で柔和な物腰と一転して、ソプラノボイスを切羽詰まった調子と声量で放つ緒川に完全に平静さを取り戻した未来は、言われた通り創世たちを連れて、別ルートから司令室へ駆け足で急いだ。
「ふぅ……」
腕の二課端末で、未来たちが無事かつ着実に司令室へ向かっていることを確認し、一時ほっと一息吐いた緒川は――隔壁をぶち破ろうとする轟音――を耳にした瞬間即座に気を引き締め直し、懐から現陸自の制式拳銃たる《SIG SAUER P320》を取り出し、紫色をした特殊弾丸が入ったマガジンを装填、続けてもう片手に357マグナム弾を放てる黒塗りのS&WP686の携行性に優れた2インチ型も持ち、P320の銃口を壁の向こうにいる〝敵〟へ向け構える。
程なくして、隔壁は戦車の砲弾の直撃でも受けた様な、粗雑な風穴を開け、濃い白煙がこちらへと忍び寄ると同時に………躊躇わず緒川はP320の銃口から全弾を連続発砲した。
耳を劈かせようとするけたたましい銃声と着弾音が回廊内で反響したとともに、煙のベールの濃度がさらに上がって黒味混じりとなる。緒川がP320から発射した特殊弾丸は、鉛の粉末も混合された煙幕弾だった。
常人では一寸先も見えぬ視界不良な世界に、P320を懐に収め、代わりに〝クナイ〟を取り出し逆手で握った緒川は、躊躇なくまだ濃度の高い煙の渦中へと飛び込んだ。
鈍く黒いベールの中で、P320よりも重く低く響く357マグナム弾の銃声と、人の血肉が生々しく弾が貫き、切り裂かれ、血が飛び散る音の数々が鳴った。
やがて時間を経るごとに薄まっていくベールが霧散し、そこには――。
「うぐっ……がぁぁ!」
「いかな戦国の世から紡がれた〝忍(しのび)〟の一族の逸材たる緒川(おまえ)でも、完全聖遺物を纏う今の私には敵わぬと知れ」
――下ろされて広がった髪と瞳が淡い金に染まり、クリスのもと異なり、妖しく煌めく黄金色な蛇の鱗状の鎧――ネフシュタンを纏った櫻井了子………もとい一連の陰謀の首謀者そのものたる〝フィーネ〟が無傷の姿で、蛇腹の鞭にて緒川を羽交い締めにし、呻き声を上げさせ、浮かせていた。
先程、煙幕の内にいるフィーネ目がけ己の〝気配を殺して〟飛び込んだ緒川は、プロの軍人の中でも選りすぐりの猛者な兵士すら視界に捉えることのできぬ脚力を以て。
357マグナム弾。
クナイによる斬撃。
プッシュダガーナイフの投擲。
――と言った忍者の無音殺傷術(サイレントキリング)による攻撃を、全て鎧の隙間を縫って、人体には確実に致命打となる急所へと当てていた。
一時フィーネは、数時間前にアメリカの傭兵部隊の襲撃で負ったものよりも遥かに致命的で死に至らない方がおかしいくらいの重傷を多数刻まれ負わされていたが、ネフシュタンの鎧が持つ自己再生能力の恩恵で瞬く間に完治。
創作ではオミットされがちな、〝暗殺者〟としての〝忍〟の末裔の一人でもある緒川の確たる〝殺気〟の籠った刺突を敢えて受け、血を一時流したまま相手の神速の脚力を僅かな一時でも封じた刹那から、蛇腹の鞭で彼を捕縛したのだ。
このままでは自身の胴体が両断され殺されてしまうと、危険を感知した緒川の忍としての直感は咄嗟に、靴に仕込んであった長針の暗器(ナイフ)を伸ばし、フィーネの下顎へ遠慮の欠片も無しに瞬速で蹴りつけ、フィーネの顔の内部を脳髄ごと刺し貫いた。
捕縛力が薄れ、その隙を逃さずどうにか鞭の魔の手から逃れるも……。
「がはぁっ!」
直ぐにその傷さえも再生され意識を取り戻したフィーネのヒールが付いた足裏から繰り出される、ネフシュタンの力で身体強化された報復の打撃(キック)を腹部へ、ダイレクトにくらい受け後方に蹴り飛ばされ、回廊の床に叩き付けられてしまう。
受けた痛みが治まらず温厚で端整な顔立ちが歪められる中………それでも緒川は、その場から即座に立ち上がり。
「この先へは、デュランダルの下へは………一歩たりとも、行かせませんッ!」
二課本部最深部(アビス)に保管されているデュランダルが目的(ねらい)なフィーネへと、ソプラノボイスに毅然とした戦意を込めた決意を述べ。
「たとえこの命と引き換えにしてでもッ!」
手裏剣を投擲し、P686から再びマグナム弾を放つも、全て鞭に弾き飛ばされ、先端の刃が緒川へ向けられる。
このままでは……命と引き換えにしてもフィーネの進行を止めること敵わない………絶望的状況の中。
「待ちな、了子」
「ん?」
両者の間の天井部が突如、豪快かつ粉々に突き破られ。
「司令!」
今の声の主――弦十郎が、緒川の盾となる形で降り立ち。
「私を未だ……了子(そのな)で呼ぶか?」
フィーネ――了子は、一〇年を悠に越える長い付き合いな同僚にして友である彼へ、まさに蛇そのものと言い切れる邪悪な眼(まなこ)から殺意を剥き出しにした眼光を見せつけ、憎たらしくせせら笑った。
「あの〝置手紙〟の意味を、分からぬ貴様でもあるまい?」
「ああ………意味なら、言われずともとっくに分かっているさ」
フィーネのアジトに残された傭兵部隊の亡骸の一人に貼られていた……英語とローマ字混じりに血文字で描かれた、あのメッセージ。
〝I Love you, SAYONARA〟
あれが……弦十郎含めた特機二課そのものに対する〝決別〟を宣言する意味であったのだと。
「女に手を上げるのは気が引けるが……了子――」
他ならぬ弦十郎自身が重々に〝意味〟を理解し、承知の上で、彼は獅子身中の虫であった首謀者フィーネを……〝フィーネ〟ではなく、尚も朋友(とも)としての呼び名――〝了子〟――のまま、両手を握り拳にし、逞しく鍛え上げられた両腕で構えを取り。
「お前を、その胸中に渦巻く野望ごと――ぶっ倒してでも止めてやるッ!」
獅子の如き眼光をフィーネへ発し、戦って叩きのめしてまでも黒幕であった〝友〟のを止める意志を、表明するのであった。
つづく。