――きた。ついにきた。
才人のパソコンをこっそりいじって、こつこつ貯めた日本円を駆使して、ついにきた。
宅配されたダンボール箱を、ルイズは大急ぎで自室に運ぶ。
元々は物置代わりに使われていた部屋だが、才人と同棲するため空けてもらったのだ。同じ部屋でもよかったんだけど!
とはいえ、こういったヒミツの時間を送るには好都合。
うふ、うふふふ。不気味な笑みが自然とこぼれ、目はすっかり据わってしまっている。
さっそくカッターナイフでダンボールをこじ開けて、いざ、いざいざ、それを取り出そうとする。
コン、コン。
「うひゃい!? だだだっ、誰!」
ふいにドアをノックされ、ルイズはびっくり仰天。
「俺だけど」
耳に心地よい恋人の声。才人だ。
「なな、なに? なにか用?」
「なんか荷物届いたみたいだけど、なんだった?」
ギクリ。なんでこういう時だけ目敏いんだろうこの男は。
普段はドン臭いくせに。【にゃんにゃん】しようとする時はさらに鈍くてすれ違いまくってるくせに。
「な、なんでもないわ。たいしたものじゃないの」
「いや……荷物届いたんだろ? 誰宛て?」
「私よ! 文句ある!?」
「えっ? なんでルイズに荷物が届くんだよ。こっちに知り合いいねーだろ」
だからなんでこういう時だけ目敏いのかこの男は。
乙女の名誉にかけて、秘は貫かねばならない。
「そ、それはその……」
「……入るぞ?」
「わーっ! 待って待って!」
ガチャリ、と。
左手にルーンを刻まれた恋人、平賀才人がルイズの部屋に入ってきた。
日常的に出入りしているし、【にゃんにゃん】しようと企んだのも才人の部屋だったりルイズの部屋だったりラブホだったり公園だったりするので、まあ、いいんだけどさ。明らかに困ってるタイミングで無遠慮に入ってくるのは、恋人同士とはいえいかがなものだろうか。
よって、怒ればルイズの勝ちだ。
ヒステリーを起こし、鞭でも取り出してしばき倒せば才人は逃げていくだろう。
だが、ダンボールの中の"それ"を掴んでいる手が放れなかった。
ルイズの強烈な欲求がそれを拒んだのだ。
「ん……?」
やはりというか、こんな時だからこそ才人は目敏かった。
ダンボールの切れ端を拾い、貼られていた伝票を確認する。
平賀才人様と書かれていた。
仕方ないじゃない。才人のパソコンを使って注文したんだもの、名義は才人のものだもの。
「俺宛てじゃねーか!」
「ちち、違う! 私よ、これは私のなの!」
「こらっ、ナニ隠してんだ。見せろ!」
「やーっ!」
ああ、悲しきかな。ルイズはメイジ。非力なメイジ。才人は剣士。虚無の使い魔ガンダールヴ。
力でかなうはずないのである。
ダンボールの内側にしまわれていた"それ"は、才人の手によって赤裸々にされてしまった。
その正体を、才人はしっかり確かめた。
寄せて
上げる
ブラ
「……」
「……」
沈黙が、流れる。
二人の間に気まずく、そして凶兆を孕んだ空気が流れる。
ルイズは涙目になってうつむき、恋人によって高々と掲げられた 寄せて 上げる ブラ に背を向けて、ベッド脇のサイドテーブルへと向かった。わざわざ実家から持ってきた品で、そこには、もはやお約束と化した乗馬用の鞭が置いてあって。
「こ、の……」
乗馬用の鞭を握りしめて。
「バカ犬ゥ~~~~!!」
「うっぎゃあああぁぁぁっ!!」
寄せて上げるプレイどころか、いつもの鞭打ちプレイになってしまったとさ。
まあ、はたから見たら暴力女のヒステリーだけど、なんだかんだでルイズはドSだし、才人もドMだから、これで結構喜んでいたりする。そんでもって才人もドSで、ルイズもドMだから始末に終えない。受け責め逆転なんて日常茶飯事。深い愛によって結ばれているため、未だ【にゃんにゃん】していないにも関わらず、二人の変態度はまだまだレベルアップしているのだ。
そして。
スレンダータイプのルイズには、寄せて上げる贅肉が無かったので、寄せて 上げる ブラ は役に立たなかったとさ。
つまり。
本日も平常運転! 天下泰平、世はことも無し、胸も無し。