ガンダム……それは男の浪漫。
ガンダム……それは白い悪魔。
ガンダム……それはガンダールヴと名前が似てる。
と、いうわけで。
ルイズ・フランソワーズはガンダムを視聴したのだ。
すでに日本の創作物には相応の理解を示し、SFというジャンルも知っており、巨大ロボットなんてものも要するにジョゼフ王が使ったヨルムンガンドみたいなもんだとメイジらしい解釈をしている。なのでガンダムを楽しむことはすんなりできた。
なんの問題もなく楽しめたと言っていい。
SFのことなんかよく分かってない日本中のちびっこを夢中にさせたのがガンダムなのだ。
異世界人だって夢中にさせちゃうさ。
だから、ルイズはガンダムを楽しんだのだ。
純粋に。
「あんなの飾りです。エロい人にはそれが分からんのですよ」
「……は?」
いつもなんだかんだで失敗し続け、今日こそは今日こそはと挑んだはずなのに。
花びらが落ちるように服を脱ぎ捨て、可憐な下着姿をさらしたルイズの第一声がそれだった。
才人が胸を見てきたから、小さくてゴメンネとか、これがあんたの好きな胸なんでしょとか、いつも何がしかのリアクションを取っていたのだけれど……今日この日、ルイズの反応はおかしかった。
ベッドの上で女の子座りをして、腕を組むようにして胸元をチラ見せしている姿は妖精のように可愛いのに。
朱に染まった頬と潤んだ瞳が雄の本能を刺激してくるのに。
「む、胸の大きさの違いが戦力の決定的差ではないということを、教えてやるわ!」
「……はぁ?」
才人の反応がおかしかったので、慌てて胸の小ささを誤魔化すセリフを続けて口にしたのだが、やはり恋人の反応はかんばしくない。
ますます首を傾げ、奇異の視線を飛ばしてくる。
どうしたのかしら。さっきまでロマンチックな雰囲気だったのに、今日こそ初めて大人の階段を二人三脚できると確信していたのに。
「こ、ここ、これで勃たなければ、あなたは無能よ!」
「……無能な犬でゴメン……」
すっかりやる気を萎えさせられた才人は、一足先に布団に潜り込んで不貞寝を始めてしまった。
呆然としたルイズは、少しして自分の言葉遣いがおかしかったことに気づく。
「そんな! ガンダムみたいな口の利き方……おやめられない!?」
ガンダムなのだ。
ガンダムに出てくる特徴的な言い回しと発音、通称『富野節』で喋っているのだ。
しかも作中登場人物の名台詞を真似しちゃったりしながら。
そりゃあ。
こんな口調で話す女とロマンチックになれる男性なんて、重度のガンダムオタクくらいだろう。
才人は日本男児の一般教養としてガンダムは知っている。アムロとシャアだって知っている。なんとブライトまでも知っている。お台場に建った実物大ガンダムだって写真で見たことがある。それほどまでにガンダムを知っているのだ。
だが、重度のガンダムオタクではなかった。
いちいち名台詞を覚えたりはしていないし、ゴッグとズゴックとアッガイとゾックを並べられたらどれがどれだかなんて分からない。ネットで「足なんて飾りです。偉い人にはそれが分からんのですよ」という名台詞を見てもなんの疑いも抱かず、ただ漠然とガンダムのセリフだなと思うだけだった。
そんな才人だから、ルイズの放った言葉がガンダムっぽいことは察せられはした。
だからどうした。萎えるもんは萎える。
というか、ルイズが"汚名挽回"のため放った一言で折れた。才人は今夜に限りまさに無能となった。
今の自分が非常にイタいことを自覚したルイズは、下着姿のまま窓際に立ち、夜空を見上げながら呟く。
「認めたくないものね、自分自身の若さゆえの過ちというものを……」
デデーン デデデデーン シャオッ!