暑い。日本の夏は特に暑い。
その原因は湿気である。ジメジメとした蒸し暑さが不快なのだ。まるでサウナ風呂に一日中入っているかのような気分。
いっそ里帰りしようかなんてルイズ・フランソワーズは悩んでいた。
ホント、暑いんです。トリステインの気候が懐かしいです。実家のヴァリエール家でもいいし、才人が拝領したド・オルニエールでもいい。日本よりはマシだ。
いっそ雨でも降ってくれないか。湿度は上がるが気温は下がるのですごしやすくはなる。
こういう時、伝説の虚無よりも風か水のメイジなら涼しくすごせて楽なのに。
雪風のタバサと親しいキュルケなどは涼しい夏をすごしてそうだ。
一方こちらは、才人が子供の頃から使っている扇風機。涼しいことは涼しいのだけれど正直心もとない。
ルイズの脳裏に閃くアイスクリーム……生憎と在庫切れ。
外に買いに行く? この暑さの中? ありえない!
猛暑のため怠惰の化身へと変貌したルイズにとって、外出のハードルは途方もなく高い。
ああ、こんな時、才人がアイスを買ってきてくれたら……!!
痛烈切実なる願いが天に届いたのか、玄関からドアの開く音。
「ただいまー」
学校帰りの恋人、平賀才人。
まさにアイス買ってきてくれないかと願ったところで帰ってきたのだ、きっとアイスを買ってきたに違いない。
暑さで頭の茹ったルイズの理不尽な思考回路はショート寸前であった。
部屋を飛び出し、バタバタと階段を下りて、制服姿の恋人に抱きつく。
「サイト、おかえり!」
「おわっ!?」
ハルケギニアでの冒険の日々で鍛えられた才人は、ガッチリとルイズを抱きとめて赤面する。
だって今のルイズ、シャツとショートパンツっていう、すっごい軽装なんだもの。
シャツなんか汗ばんでるせいで肌にピッチリだもの。
ルイズの匂いが鼻腔いっぱいに広がって、才人君、ドサリと荷物を落としてしまう。
その物音に反応し、ルイズは視線を落とした。
コンビニのビニール袋であった。
まさか、まさか。
かすかに漏れる、ひんやりとした空気。
むしろオーラ。ひんやりオーラ!
確認しなくても分かる! アイスだ!
「サイト、大好き!」
感極まったルイズは、未だ赤面して狼狽している恋人に熱烈なキスをすると、パッと身を離してビニール袋を開く。
やはりあった、アイスだ。
しかも二人分!
あまりにも完璧すぎる展開に満面の笑みを浮かべながら、アイスを取り出し――緑色が。
「サイト……これ、ナニ?」
「ナニって、メロンバーだけど」
プッツン。
「どぉーしてスイカバーじゃないのよぉぉぉ!!」
レモンちゃんはメロンちゃんにコンプレックスを持っているのだ。
そして以前食べたスイカバーがお気に入りなのだ。
くちゅっ……ちゅぱっ……れろ……。
可憐な唇でついばむようなキスを繰り返し、小振りな舌で健気に舐める。
甘い蜜を堪能し、すっかり蕩け切ったはしたない表情を浮かべたルイズは、妙な色気をかもし出していた。
ちょっとポジションを整えて正座になった才人は、呆れながらメロンバーをかじる。
「スイカバーじゃなきゃイヤなんじゃなかったのかよ」
「それはそれ、これはこれよ」
フフンと笑ってルイズはメロンバーを舐めていた。
うん美味しい。冷たくて幸せ。
ホワイトチョコで作られた種まで美味しく食べられるってホント幸せ。
「日本の夏っていいわね……」
そう、心から呟くルイズちゃんであった。
◆
ホテルのビーチでパラソルをさして冷たいトロピカルジュースを飲んでいるキュルケ・ツェルプストー。
その隣でやはりパラソルの下で水着姿のタバサは、ノートパソコンで今日もウィキペディアを読み漁っている。
インドアなのかアウトドアなのかよく分からないスタイルだが、これもまた親友らしいとほほ笑む。
爽やかな風が吹き、燃えるような赤毛がさらさらと流れる。
空の青さとのコントラストによっていっそう美しく輝いて、こことは違う世界から舞い降りた美の女神に違いなかった。
とても心地いい気候を楽しみながら、キュルケは自然と今の気持ちを吐露する。
「日本の夏っていいわね……」
二泊三日の旅行から戻ってきたキュルケから土産話を聞かされたルイズは、己の幸福の安上がりっぷりに酷く落胆したとか。