ルイズちゃん奮闘記   作:水泡人形イムス

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今回はルイズの出番全然ありません。モブから見た才人です。


外伝――俺の友達が邪気眼ってレベルじゃない(モブ視点)

 一年以上も行方不明になっていた友達、平賀才人がこないだフラリと帰ってきた。

 行方不明ってだけでもセンセーショナルな事件なのに、まさかの帰還によってますます騒動は大きくなって、面白半分に絡んでくる連中も多い。

 俺もいったいどこでなにをしていたのか興味津々で根掘り葉掘り訊ねたい気持ちはあるが、高校に上がってから一緒に馬鹿やってきた友達として、今まで通り接してやらねばという気持ちがある。

 一年も学校に来なかったせいで留年してしまった才人のフォローも、色々がんばってやったんだぜ? 俺ももう高校三年生で、受験を控えた身ではあるが、復習ついでに才人の勉強を見てやったり、年下のクラスメイトとうまくやっているか気を遣ってやったり、左手に巻いた包帯で邪気眼を患っちゃってるのをスルーしてやったり……。

 いや、スルーしたいのは邪気眼ではないのかもしれない。

 包帯の下、手の甲に焼印らしきものがあるのを俺は知っている。偶然見る機会があったのだ。

 曰く、たまたまこんな形の熱した金属にたまたま手の甲を押しつける事故にあってたまたまこんな火傷が残ってしまったそうだ。信じ難いが、他にどんなシチュエーションでこんな焼印押されるのかという疑問もある。本当、行方不明の間、なにがあったんだ才人は。

 まあ、それくらいならいいさ。

 行方不明になった友達が、妙な焼印つきとはいえ五体満足で帰ってきたんだ。

 

 だが才人は――邪気眼なんて眼じゃないほど恐るべき秘密を抱えて帰ってきた。

 

 あの野郎……失踪前は出会い系サイトに登録して彼女作るぜとか言って悪い女に引っかかるフラグ立ててやがったのに、童貞同士エロ本を酌み交わした俺との友情を裏切りやがったんだ!

 ここまで言えば分かるだろう? 才人は、あの裏切り者は……。

 

 行方不明になってる間に、超可愛い彼女を作ってやがったんだよぉー!!

 

 あれは忘れもしない、行きつけのゲームセンターで受験勉強のストレス発散を兼ねてクレーンゲームをやっていた時だ。

 俺はクレーンゲームが結構得意で、五百円玉を投入すればぬいぐるみを一個くらい高確率で取れる。これをクラスメイトの女子にプレゼントしてフラグを立てようとがんばっていた時期もあったっけなぁ……。

 そんな俺の苦労をあざ笑うかのように、才人は現れやがったんだ。超可愛い彼女を連れて。

 

「あったわサイト、あれがクレーンゲームね!」

「……言っとくけど、どんだけ金つぎ込んでも取れない時は取れないからな。千円で取れなかったらあきらめろよ」

 

 なんて言いながら、俺の隣のクレーンゲームをプレイしようとして、目が合った。

 才人はまずいものを見られたって風に驚いて、その隣のピンクブロンドの超可愛い女の子は不思議そうに才人と腕を組んでやがった。胸はだいぶ平坦だったが、あれ、触れてた。腕に触れてたよ胸が。

「……よう、才人。デートか?」

「あ、ああ……」

 こっちから探りを入れるように訊ねたら、肯定しやがったよ。行方不明になって留年して奇異の目を向けられたり補習地獄なんかで苦労してる才人への同情が、一気にすっ飛んだね。

「知り合い? サイトの友達?」

 鈴のように高い声は、甘く俺の脳髄を駆け抜けたよ。

 桜色の唇がとても綺麗で、あそこから漏れた声ならば納得の美しさだよ。

 反応に困っていると、その娘は「あっ」と声を上げた。

 俺の操作していたクレーンが、無事にぬいぐるみを運び終えたところだったのさ。取り出し口に落ちたそれに、彼女の視線は釘づけだった。もしかしなくてもこれが欲しいんだなって分かったさ。分かっちゃったさ。女の子に飢えていた俺がそんなシチュエーションに陥ったら、例えそれがすでに誰かの彼女であっても、あらがえるはずがなかった。

 気がついたら渡していたよ。

 彼女はとても喜び、才人は「悪いな」なんて謝りながら、彼女――ルイズという外国人の彼女の存在をみんなには内緒にしてくれって頼んできた。行方不明になっていた時期に知り合って、とても説明できない複雑な経緯があったそうな。

 

 説明しろよ! 行方不明、焼印、邪気眼、そんな些細な事はどうでもいいんだよ!

 でもこんな可愛い彼女できたってどういう事だよクソッ!

 説明する義務があるだろうが畜生めっ!

 キスはしたのかこの野郎。それとももうヤりやがったか裏切り者め!

 

 興奮した俺は才人に突っかかったが、すぐにルイズちゃんが割って入ってきたので、白旗を揚げるしかなかった。

 可愛い女の子に睨まれて、逆らえるはずがないだろう?

 その後、才人がクレーンゲームに使う予定だった千円で、俺達三人は適当にゲームを楽しんでからお別れした。

 だってほら、デートじゃん? 俺、お邪魔虫じゃん?

 だから引き下がるしかなかったのよ。

 この怒りは今度、才人の勉強を見てやる時にたっぷりぶつけてやる。

 そして聞き出してやるからな。

 ルイズちゃんとどこまでやったかエロエロな話を!!

 

 

 

 ――と、あの時は思ったんだ。

 でもさ、その日、勉強する気になれなくてずーっと街をブラブラしてたんだわ。

 そんで夜になって、そろそろ帰ろうかって時に、不良に絡まれたんだわ。

 やっべーどうしようってマジ焦ってたらさ、これからどっかにしけこもうとしていた才人とルイズちゃんが通りかかったんだわ。

 そんで才人が不良をやっつけちゃったんだわ。

 いや、すごかった。

 不良がさ、バタフライナイフをシャキーンって出したんだわ。

 んで手がすべって落っことして、拾おうとして蹴っちゃって、才人の足元に転がってったんだわ。

 で、才人が拾った訳だ。

 

 俺はやめとけ逃げろって思ったよ。

 バタフライナイフを拾ったからって、人を斬ったり刺したりなんてできないだろ? 不良だってさ、やたら格好つけて取り出してたから、脅し用だったんだろうよ。でもそんなん握って立ち向かっちゃ、マジで刃傷沙汰に発展しかねないじゃん。

 不良は三人もいたしさ。才人の後ろにゃルイズちゃんもいるし、こっちが不利じゃん。

 才人はバタフライナイフ片手に、不良に突っ込んでったよ。

 

 十秒とかからなかったよ。

 

 人間離れした速度でバタフライナイフを振り回してさ、不良どものベルトとズボンのゴムだけを鮮やかに切り捨てたんだ。

 肌は薄皮一枚傷つけず。

 あまりのナイフさばきに不良達はすっかりビビって、パンツ丸出しで逃げ出しちゃったよ。

 才人はその場にナイフを捨ててさ、面倒になるから黙っててくれって言って、ルイズちゃんと逃げてった。

 俺も面倒はゴメンなので逃げたよ。怖かったしな。

 

 不良が、じゃない。

 才人が、だよ。

 

 素人の俺にも分かる、才人のあまりにも自然なナイフさばき。

 あいつはそんな真似ができる男じゃなかった。

 行方不明になっている間、なにがあった? 外国で軍人や暗殺者に弟子入りでもしてたのか?

 あの時、ナイフを振るった時の、才人の眼。

 ナイフより鋭くて、冷たくて。

 今まで体験したどんなものよりも、怖かった。

 

 

 

 そんな訳で、行方不明関連の事で才人をからかうのは一切やめた。

 関係あるらしいルイズちゃんの事も、当たり障りなく冷やかす程度に留めた。

 間違っても【ニャンニャン】したかなんて聞けない。マジ怖いもん。

 

 俺の友達が邪気眼ってレベルじゃないって事を、誰かに相談したい気持ちもある。

 でも、時々街でルイズちゃんと幸せそうにデートしているあいつを見ると、そっとしといてやろうって気持ちになるんだ。

 怖いからじゃなく、友達だからって気持ちで……さ。

 


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