recollect   作:Lounge


原作:咲-Saki-
タグ:咲-Saki-
咲-Saki- カケマックス~咲にじ秋の大文化祭~ コンビ名:CDポロロッカ(ラウンジ&乙留)

カケマックス企画サイト: http://jyushisirinoxygen.wix.com/saki-kakemax

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recollect

「では三尋木プロ、大会全体に対する総評をお願いします」

「そうだねぃ、今年は例年以上にハイレベルな戦いだったんじゃねーかな。毎年一人二人出てくる程度の化けモンみたいに強い奴が今年は十何人と出てきたし…将来が楽しみなのばっかりだわ」

「団体戦では白糸台が惜しくも三連覇はなりませんでしたが…」

「あー、あれはドラマだったね。亦野さん主役の青春ドラマ。不調のエース、親友の大失点、準決勝で失敗した主人公は奮闘するけど、あと一歩で希望を繋げなかったって王道シナリオだ。でも、少しでも失点が少なかったら清澄の優勝はなかったかもしれない。阿知賀がやらかさなかったら、姫松が先鋒で喰われたら、白糸台の優勢は揺るがなかっただろうし。そういう意味では学ぶべきところがたくさんある試合だったんじゃね?知らんけど」

「個人戦は宮永照が三連覇を果たしましたね」

「ま、下馬評通り、予想通りだったねぃ。ぶっちゃけ決勝に小走やえが来るとは思わなかったけど」

「さて、そろそろお別れの時間のようです。全国高校生麻雀大会、解説は三尋木プロ、実況は私、針生えりでお送りしました。三尋木プロありがとうございました」

「ありがとうございました〜」

「それでは皆さん、またの機会にお会いしましょう。さようなら」

 

 

 

 

 

「はぁいオッケーでーす。おつかれさまでしたー」

 

 スタッフの声が飛んで、三尋木咏はふうっとため息をつく。ちらと左を見れば、インハイ実況の相棒、針生えりは何かメモ書きをしていた。

 

「えりちゃんお疲れ〜。何してんの?」

 と咏が声をかけると、えりはメモに顔を向けたまま、

「今日の実況の概要などを書き留めてるんです。選手の動向をどう実況したのか、どういう流れで話をしたのか、それに咏さんがどれだけ暴れたか」

「暴れてねーよ」

「冗談ですよ」

「…わっかんねー」

 

 真顔で冗談を言われても。えりはこちらを向いて、

 

「でも、解説で『わかんねー』とか『知らんけど』って言っちゃうのは本当にやめてくださいね。みんなが『わかんねー』ことをわかるように話すのが解説の仕事なんですから」

 

 おっしゃる通り。けれど、本当にオカルトじみた選手の闘牌なんぞ、いくらプロといえどもわからんのである。

 

「いやあ…だってわかんねーもんはわかんねーんだよぅ」

「解説四年目なのに?」

「四年目なのに」

「そういうものなんですか」

 

 おや、特に追求されなかったな。咏は少し意外に思った。

 

「そーいうもん。しっかし、丸くなったねえりちゃん」

「え、そうですか?」

「丸くなったよ。だって初めて会ったとき、えりちゃん『プロなんだから知らないはずない』って小鍛治さんの打ち方説明させようとしたでしょ」

「あ、あれは…私もまだ素人のペーペーだったので…」

 

 えりの顔が赤くなる。咏はおもしろくなってもう一歩突っ込んで話を続けた。

 

「初めて会って挨拶したとき、えりちゃんガチガチに緊張してたよねぃ。噛み噛みだったし」

 

 初対面の場で、えりは『ははははじめましてっ!実況アナウンサーやりますっ!は、針生えりですっ!あの、えっと…よ、よろしくお願いしますっ!』と両手をわたわたしながら挨拶してきた。あれが今やこんなに落ち着いたアナウンサーになるとは、経験というものは偉大である。

 

「はっきり言ってこの人にアナウンサー務まんのかねって思ったもんな」

「失礼な。そりゃあ緊張しますよ、だって私あれがプロ雀士と初めてしゃべったときなんですから。わあプロだ、すごい人だってので頭いっぱいだったんです」

 

 そう言うとえりは軽く咏をにらみ、

 

「でも咏さんも自己紹介ひどかったでしょう!?普通初対面の人間に『付き合ってる人いねーの?』とか聞きませんよ…」

「え〜?そんなこと言ったっけ?」

「言いました!このプロと一緒に仕事やっていけるか不安になったの覚えてますもん」

 

 ひでえ言い草だ。でも言った気がする。確かえりに自己紹介したときは、『三尋木咏、二十歳で〜す。高卒プロ三年目〜。地味に古い家の生まれなんで許婚がいたりしま〜す。そっちは?付き合ってる人とかいねーの?』などとしゃべったのではなかったか。

 

「…よく覚えてんね」

 

 言動に心当たりがあったので適当にごまかすと、えりはメモをひらひらと振って、

 

「書いてありますから」

 

 マジかよ。

 

「マジ?」

「大マジですよ。咏さんの言動とか、二人のやらかした失敗とかいろいろ書いてあります」

「あー。初めて二人で実況やったときけっこう失敗したもんねぃ」

「選手の名前を間違えたり、役を間違えたり、散々でした」

「選手の能力から弱点から全部しゃべっちゃたもんなー。控え室で対戦相手が見てんのに。ホント千里山と藤白さんには申し訳ないと思ってる」

 

 あの年の千里山敗退の一因を作ったのは間違いなく私だもんな。咏はまだ当時の後悔を引きずっている。ちなみに藤白は能力を捨て、打ち方も性格も豹変し現在は六甲大学で活躍しているそうだ。選手生命を絶たれなくて本当に良かったと思う。

 

「それで仕事帰りに反省会だって飲みに行ったんでしたね」

「そーそー」

「飲みすぎてお金足りなくなって、結局私が払ったんでしたよね」

「…」

 

 すっかり忘れていた。思えば似たようなことが何度かあったような気がするぞ。

 

「そうだ咏さん、今から飲みに行きませんか?打ち上げをしましょう」

 

 えりはにこにこしている。とてもにこにこしている。

 

「…お代は?」

「え?」

「…ワカリマシタ」

 

 笑顔のえりは一番怖い。向こう一月の節約生活が確定した咏は、飲み会で好きに飲むのは控えようと心に誓った。

 



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