取りあえずメインの方が中心になりますが、こっちも進めていきます!
『それじゃあ、二人とも準備は良い?』
「俺は大丈夫だ」
「こちらも」
スピーカーを通したシンの声に俺、それに対峙するナゴミが返事を返す。
二人の間隔こそ前回の闘いとは同じであるが、他は大きく違っている。二人が向き合うのは実戦を想定した戦闘空間ではなく、四方八方遮るものの無い訓練室であり、俺の両手に持つものも二本の大剣でも
『訓練開始まで5、4、3、2、1』
ピーッ!というけたましいブザーの音と共に二丁の銃口が火を吹く。
猛烈な速度で体に襲い来る弾丸を見据えながらナゴミは二本の愛刀を目にも止まらぬ速度で振るい、確実に自分を貫くであろう弾丸のみを見極めて打ち返す。
一瞬の判断や動作の迷いや狂いも許されない、コレが為せるのもナゴミ自身の並外れた動体視力や判断力が為せるがゆえであろう。
『OK、それじゃあキューブに変えてみて』
「了解」
両手の拳銃を収納して、手慣れた二つの立方体を展開する。それを細かく分解して自分の周囲に展開する。やはり、こちらの方がしっくり来る。
俺の周囲に展開された大量の小キューブを見て小さく息を呑むナゴミに笑みを浮かべながら問いかける。
「随分と固くなったけど、手加減した方が良いか?」
俺の言葉に一瞬だけハッとしたような表情を浮かべたがすぐさま不敵な笑みを浮かべる。
「冗談を。弾き返してやりますよ」
二本の刀を構え直して迎撃の体勢を取る。
『ったく、二人とも何処の脳筋だよ。それじゃあ、いくから、5、4、3、2、1』
先程よりも若干の呆れがこもった声がカウントを読み上げる。
そして、再びのブザー音と共に弾丸の雨を放った。
「さて、それで訓練の結果が出たんだけど」
「……早くないか?」
「時は金なり…だよセンパイ。しゃっきり立って早く来なよ」
「ったく、お前ら見たいにピチピチに若くないんだよ」
「やだなぁ、ピチピチって古臭い表現が出る時点でセンパイの内側は風化しているのは良く知っているよ」
軽い気持ちで放ったジャブを十倍にして返され心のなかで吐血する。自分の心のうちで人知れず血の涙を流したあと大きく伸びをして立ち上がる。見事な訓練が終わり、長椅子に腰掛けて幾ばくもないうちにパソコンの所へ呼び出されたこともあり身体にまだ疲労が残っている。
シンがパソコンの画面を操作すると画面にグラフが現れる。訓練終了後に自動販売機で買ったスポーツドリンクを飲みながら俺とナゴミは横から画面を除き覗きこむ。
「へぇ、銃器型は殆ど対応出来るようになったんじゃないか?」
「ありがとうございます。まぁ、【
俺の言葉にナゴミが少し照れぎみに頬を擦る。話の内容も含めて、一昨日に米屋達と一緒に居たときとは別人のようである。
「まぁ、確かに和の精度は上がっていると思うし、【
だけど、と呟くとシンは素早くキーボードを叩く。一瞬にして画面が別のものへと切り替わる。
そこに表示されている別のグラフを見て、シンの言わんとしていることを理解する。
「どうやら、センパイは気付いたみたいだね」
「まぁな」
一昨日の個人戦でも薄々感じていたことだ。しかし、当の本人は解らないのか俺達二人と画面を交互に見比べる。
「二人とも何か解ったって……何が?」
「じゃあ、和にヒントをひとつ。この記録は何を表していると思う?」
「えっと、これって二回目の着弾点の記録だよな? 」
「正解、確かに記録だけ見れば拳銃を相手にしたときと何ら遜色はない、いや、むしろ此方の方が良いぐらいかな」
「……確かに…、けどそれが何か問題あるのか?」
頭上にクエスチョンマークを浮かべる様子から思い当たることがまったく無いのだろう。まぁ、普段はあまりにも当たり前に行っていることだからこそ気が付かないのだろう。
「だって、おかしいとは思わない?片や二種類の弾丸しか設定できずに尚且つ銃口からの起動予測が可能な
「……あぁ!」
シンの言葉にようやく、ナゴミが釈然とした顔を浮かべる。ようやく自分自身の問題点を理解したようだ。
「気付いた?」
「ああ、経験則で対応してたってことか」
「Exactly。一応、うちのリーダーだけにセンパイに対応できたら有象無象レベルはものの数には入らないと思うけども…―」
シニカルな笑みを浮かべながら再びキーボードに手を走らせて別の画面を出す。予想はしていたものの表示された画面を見ると割り切った事とは言え改めて苦い気持ちが沸き上がる。
シンが一瞬だけこちらに目を向ける、が目の前の事実を真っ直ぐに見つめると話を続ける。
「A級の弾バカ先輩や加古さん、それにB級でも那須先輩や二宮さんとかセンパイ並か上の実力の射手も少なくはない。それにそれらの人達はみんなオンリーワンの戦法を持っている」
果たしてこのままで通用するのかな?、というシンの言葉にナゴミは渋い表情を浮かべる。
ここまで気づいたのならばその答えを最も知っているのは、他ならぬ彼自身だろう。
「……まぁ、今すぐにどうこう出来る問題じゃあないから深く考えすぎても仕方がないけど、一応は今後の課題として頭に置いといてよ。ボクも改善策を考えとくしさ」
「……あぁ、助かる」
「心配するなって、何たってボクが考えるんだからさ」
暗そうなナゴミの返事に気取ること無く、だがハッキリとシンが付け加える。
彼なりの最大限の励ましに何か感じたのだろう。
ナゴミは、ハッとシンの方を見ると今度は力強く頷いた。
「それにしても、お前も成長したなぁ」
「……突然なんなのさ?」
突然に親戚のおじさんのような科白を吐き出したセンパイにジロリと眼を向ける。
「最後の『心配するなって』ってナゴミを気遣ってたじゃん」
格好良かったぜ、とクシャリと髪を撫でられる。
いつまでも子供扱いする不満、そして、その何倍もの喜びを感じている自分を自覚して顔が熱くなる。
「ほ、ホントの事を言っただけさ、って言うか!時間なんだから、さっさと準備しなよ!!」
「わかった、わかったから押すな!」
無理矢理センパイの背中を押して強引に訓練室へと追いやる。
本当に幾つになっても大人になったつもりでも一瞬にして彼の手は胸の底の柔らかい部分を暖める。
「ったく、ホントにズルいよ」
一人になった部屋で小さく笑みを浮かべて呟く。
普段は弄られ役の癖に突然に『ニイ』の顔になるんだから。
ノックの音が最初の客の来訪を告げる。
「さてと、それじゃあボクはボクの仕事をするとしますか」
チームの為に皆の為に。
まさか、自分が嫌いだったこの言葉を実践する日が来ようとは何が起きるかわからないものだ。
(取りあえず、ナゴミが困らないようにじっくりと観察しようか)
心のなかでひとりごちると、どうぞ、と入室を促した。