異世界への反抗者   作:南野智

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巧vs和 決着です。


灰谷 和 2

「【旋空…弧月】!!」

 

「っと!あぶねっ!」

 

 再び繰り出した斬撃が両手の大剣を使って受け流される。

 少なくはない傷は負わしたものの、やはりというべきかガードが固く決定打を与えることが出来ない。

 トリオン残量も余裕が有るわけではなく、少しずつ焦りがジワジワと滲み出てくる。

 

(落ち着け、ここで焦ったら一気に持っていかれる)

 

 単純な接近戦ならこちらに分があるだろう。今日の調子なら中距離戦にも十分に対応できる筈だった。

 しかし、こちらの僅かな隙を突く藍川さんの戦法に想像以上に追い詰められていた。

 

「どうした?得意の接近戦で攻めて来ないのか?」

 

「そんなに急かさなくても、すぐに行きますよ!」

 

 そう返しながらも、どのように攻めるべきか思案する。

 距離を取って【旋空】や弾丸返しで攻めるには、効率も悪く決定打にも欠ける。

 かといって下手に接近戦に持ち込めば【鉛弾(レッドバレット)】の餌食だ。

 

(なら勝負を決める決定的な隙を作る!)

 

 成功率は半々といったところだが長引くことによって隙を突かれるリスクを考えれば、背に腹は変えられない。

 腹を括って弧月のオプショントリガーを起動させる。

 

「【旋空弧月】」

 

 拡張された二本の刃を見て藍川さんが口の端を吊り上げる。

 

「急いだかっ!【スラスター】ON」

 

 左の【スラスター】の推進力により上空へ飛翔して自分に命中する方の斬撃を避けつつ、右の盾で自分の移動先を通る斬撃の軌道を止める。

 

「残念、焦ったな!」

 

 ニヤリとした笑みと共に弧月を伝う鈍い感触と藍川さんの姿が消える。

 大技の空振りという決定的な隙を突いた奇襲攻撃。ひとつの隙から致命傷を与えていく藍川さんにとっては、自分の十八番ともいえる状況。―だからこそ乗ってくると思った。

 振り抜いたままの状態から左の弧月で無理矢理後ろを斬り上げる。

 

「ッしくった!!」

 

 驚愕の声と共に確かな手応えを感じる。吹き飛んだ左手首と短刀が宙を舞うなかで狙い通りの位置に移動した藍川さんに更なる追撃を与える。

 胴体を両断しようとした一撃は避けられたものの右の腹部と左肩、そして、左手首の断面からけして少なくはないトリオンが漏れ出ている。

 

「っの!!」

 

 後退して体勢を立て直そうと【スラスター】によって一気に距離をとるが、千載一遇ともいうべき好機を逃す手はない。

 弧を描きながら空中を飛翔する藍川さんに決着をつけるべく【グラスホッパー】による足場を出現させて空中を駆ける。そして、そのまま上をとって重力に乗せて二本の弧月を叩きつける。

 

「俺の勝ちだよ藍川さん!!」

 

「っ!!!…【シールド】!」

 

 大盾に更なる補強を施して弧月を受け止めるが、ピシリ、ピシリ、とガラスが割れるように少しずつ盾が砕けていく。

 

「うおおおおぉぉぉ!!」

 

「あああああぁぁぁ!!」

 

 上空でぶつかりあった剣と盾はそのまま地面へと向かい、やがて、轟音と共に衝突した。

 

 

 

 

 

 街灯の光の下、土埃がもうもうと舞うなかで素早く上体を起こす。

 試合終了のコールは鳴っていないということは、まだ,、藍川さんは生きている。あれほどの傷であったなら【瞬間移動(テレポーター)】も不可能な筈だ。

 レーダーで位置を確認しつつ立ち上がろうとしたが右足が動かない。

 まるで、何か重りをつけられたような感覚に、ハッと気付いて足を見ると足首の上に二本の錘が突き刺さっていた。

 

「くそっ」

 

 右手の弧月で膝から下を一気に切断する。断面から血液のように激しくトリオンが噴出して、土埃のなかで位置を知らしめる。

 

(マズイ!来るまでに体勢を…―!!)

 

「残念、惜しかったな」

 

 その言葉と共に俺の体に刃が落とされた。

 

 

 

 

 

 確かな手応えと共に二本の弧月とナゴミの腕と足が宙を舞う。

 二人の体から漏出したトリオンの無機質な光が煙のように広がる。

 不覚にも釣りに掛かったときは、焦ったが最後の最後にとっておいたカードは見事に刺さってくれた。

 空中で割られたように見せかけて【シールド】を消し、【レイガスト】で受け止めながら無防備な足に残りのトリオンで作った【鉛弾(レッドバレット)】を当てることに成功した。

 そして、土壇場で状況をひっくり返すことに成功したと思った。

 

(けれども、あいつはそれを乗り越えたってことか)

 

 悔しさが心のうちから込み上げて来る。

 しかし、顔には出さない。ようやく弟子が師匠から勝利をもぎ取ったんだ。キャラではないが、最後まで堂々としてやられるのが筋だろう。

 

「……来いよ!ナゴミ!!」

 

 上空から新たに生み出した三本目の弧月を振り下ろさんとする弟子の方へと顔を向ける。

 俺の言葉に僅かに口許に笑みを浮かべる。

 そして、四つの剣閃と共に俺の身体はひび割れて宙へと飛んだ。

 

『勝者 ―灰谷 和』

 

 勝者を伝える音声がフロアにこだました。

 


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