魔法少女リリカルなのは 夢現の物語   作:とげむし

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第八話

 

 

 

ジュエルシードと異世界からやってきた小動物、ユーノ・スクライアとの邂逅から翌日、再びジュエルシードを封印しに向かった自分は、なのはちゃんと謎の魔導師が戦闘している現場を目撃する。

 

卓越した技術と戦術に為す術無く墜落していくなのはちゃん。そこへ駆けつけた自分こと中田堅一は戦闘へと割り込み、謎の魔導師を撃退する。

 

気絶した魔導師を連れ帰った自分を待ち受けていたものは、高町家での説教地獄であった……。

 

あ、謎の魔導師もとい少女が目を覚ましました。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「んっ……」

 

「あっ、起きた?」

 

ソファーで横になっている少女が声をあげ、美由希さんが声をかける。少女は薄く目を開けながらも、未だ意識ははっきりとはしていないようだ。

 

「ここ、は……」

 

「ここは君が攻撃した女の子の家だよ」

 

美由希さんがざっくりと現在地の説明をする。いやしかし、攻撃した子の家って、正しいんだけどひどい言い方だなぁ。

 

「こう、げき……、っジュエルシード!」

 

意味が理解できたのか、急速に意識を覚醒させた彼女は一気に起き上がると周囲を一瞬で見回す。そして、何を思ったのか突然一番近くに居た美由希さんへ腕を伸ばした。

 

「ジュエルシードを返せっ!」

 

恐らくは殴りかかった後人質でも何でもしようと思ったのであろう。中々の気迫を見せて美由希さんへ掴みかかる少女だが、相手が悪すぎる。美由希さんは伸ばしてきた手をあっさりと掴み取ると無言で少女の腕を回す。あっさりと関節を極められた彼女は、後ろ手に床に倒されてしまった。

 

「全く、いきなり掴みかかってくるってどういう事よ」

 

綺麗に床に押し倒されてしまった彼女は何も言わずに背後の美由希さんを睨みつける。そして改めて周囲を見合すと、士郎さんが連れてきた雁字搦めの赤い犬を見つけて大きな声を挙げた。

 

「アルフッ! アルフに何をしたっ!」

 

「何も。襲いかかってきたから返り討ちにしただけだ。怪我は負わせていない」

 

少女の叫び声に、騒ぎを聞きつけた恭也さんが答える。答えた恭也さんを睨みつけた後、少女は打って変わって驚愕を表情に表していた。

 

「そんな……、アルフが負けるなんて」

 

「まぁ、しょうがないと思うよ。あんな戦闘は魔法使いであればありえない事だから」

 

未だにえらいもん見てしまったと全身で表しているユーノの言葉に少女は口を噤む。大人しくなったからか、また暴れだしても抑えこむ自信があるからなのか、美由希さんはあっさりと少女を開放した。

 

「えっ……」

 

「そろそろ我が家の家長から合図が下るからね。君にはもうちょっと付き合って貰うよ」

 

不思議そうに見上げる少女に、美由希さんは余裕の笑みで答える。言葉が終わるのと同時に、非常に良いタイミングで、家長である士郎さんから合図が下った。

 

「おーい、メシ出来たぞー。久々の男の野生料理、味わってくれ」

 

両手に掲げた皿の上には、大盛りのおかずがこれ見よがしに盛りつけられていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

和やかに、非常に和やかに高町家でご相伴に預かる。士郎さんの言った通り、今夜の料理は士郎さん特製の野性味溢れる品々だ。猪肉の炒め物に野草の天ぷら、川魚の唐揚げなど、焼く、揚げるといった素材の味を生かしまくった数々である。

 

猪肉は燻製されたものをじっくり焼き上げており柔らかく解れて旨い。なんでも最近山篭りに行った際に狩ったものを燻製にして持ち帰ってきたらしい。さすが士郎さん、サバイバル技術も伊達ではない。うちの父も全国漫遊して山篭りしてたらしいから出来るんだろうけど。

 

野草と川魚は今日近所の八百屋と魚屋で売っていたものを買ってきたと。採れたてらしく多少の塩で十分に食べられる逸品だ。

 

その品々を食べている高町家の面々は、桃子さんが笑顔で士郎さんの料理を褒め、また士郎さんも桃子さんの普段の料理を褒めストロベリったやり取りをしている。向かいの席では恭也さんと美由希さんが猪肉の取り合い。いつも通り恭也さんが美由希さんを煽って争いに発展している。

 

なのはちゃんの横に自分が座り、テーブルの上でユーノが皿に盛られた猪肉を必死に齧っている。どうもお気に召したらしい。

 

そして、自然と自分の隣に腰掛ける少女は、非常に戸惑った、不思議そうな顔して状況を眺めていた。

 

「あれ、食べないの?」

 

「……えっと、うん。い、いただきます」

 

「お父さんの料理おいしいから、一杯食べて行ってね!」

 

彼女が何も手をつけていない事に気付いたなのはちゃんが笑顔で問いかけ、少女は用意されたフォークを使っておずおずと料理を口に入れる。小声で「おいし」と呟いたのを自分は聞き逃さなかった。

 

「あ、私なのは。高町なのは。私立聖祥大付属小学校の三年生!」

 

「中田堅一。なのはちゃんの同級生だ」

 

「ユーノ、ユーノ・スクライア。多分君と同じ、魔法技術のある次元世界から来た」

 

「あの、その……」

 

なのはちゃんを筆頭に唐突に次々と自己紹介をすると、少女はわたわたと慌てた様子で周囲をきょろきょろする。うむ、何分あんな経緯があった訳だし、名前を言うべきなのかどうか、判断に困ってるのだろう。

 

まぁなのはちゃんは天然で自己紹介したんだろうけど、自分は多少は少女の名前を聞く意図があってしている。名前も分からんのでは何も話ができんからな。

 

暫く少女がわたわたしたのを見ていたら、リビングのほうで急にバタバタと床を叩く音が聞こえた。

 

「あれ、なんだこの音」

 

「あっ、目が覚めたのかな」

 

士郎さんは何かに気づくと一旦台所へ行き、比較的大きな猪肉の燻製を焼いたものを持ってくる。それをそのままリビングへ持っていくと、横になって暴れている犬の前にそれを差し出す。あぁ、あの音は犬の暴れた音か。

 

「いいか、暴れないなら口を開放してこの肉を食べさせてあげよう。暴れないと誓えるなら首を二回、縦に触りなさい」

 

士郎さんは目の前に香ばしい肉の香りをチラつかせ、それを惹きつけられたかのように見つめる犬。士郎さんの指示にあっさり首を二回縦に振ると、士郎さんに鋼糸で縛られた口を解いてもらっていた。そのまま士郎さんが皿を床に置くと、勢い良く肉にかぶりつき出した。

 

「ガブッ、ガッ、んおっ、おいしー!」

 

「はっはっはっ、うまいかー。俺の料理も大したもんだなぁ」

 

「こんな肉初めて食ったよ! うまいねぇー!ガブガブ」

 

「ア、アルフ……」

 

出された肉に思いっきり賛辞を送りつつ猛烈な勢いで食べまくる飼い犬――アフルの姿を、青ざめた顔で見つめる少女。あんなにあっさり懐かれてしまっては、正直トップブリーダーも真っ青だろう。ていうか飼い主が真っ青だ。

 

少女の呟きが聞こえたのだろう、アルフと呼ばれた犬がこちらへ顔をあげ、声をかけてきた。

 

「あっ、フェイトー! この肉すっごいうまい……よ……」

 

目の前の肉に夢中になっていたアルフだが、そのフェイトと呼んだ少女の青ざめた顔を見て気付いたのだろう。口は止まり「やってもーた」といった驚愕の表情を貼りつけている。

 

いくら知能が高かろうと、犬は犬。目の前にぶら下げられた餌に本能は抗えなかったか……。

 

「よろしく、フェイト」

 

「フェイトちゃんて言うんだ! よろしくね!」

 

「あぁ……、はい……」

 

状況へ追い打ちをかけるように自分が名前を呼ぶと、天然なのだろう、なのはちゃんも続けて嬉しそうに名前を呼ぶ。これが意図的だったら怖い。

 

少女――フェイトは諦めたようにため息混じりに答えると、再び猪肉を一枚、口の中に運び出す。

 

状況は中々に、カオスな状態となっているのだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

和やかな夕食も終わり、リビングでTVを見つつゆっくりとお茶を飲む。うむ、この食後のまったり感に飲むお茶がたまらんのですよね。

 

「さて、そろそろ話をしようか」

 

湯のみをテーブルに置きそういった士郎さんの言葉に思わずハッとする。いかん、今完全に抜けていた。

 

横を見ると一緒にお茶を飲んでいたフェイトと呼ばれる少女もハッとし、急にそわそわしだす。うん、分かる。今まで和やかに食事してまったり満腹を味わっていたのに急に気持ちを切り替えるなんて難しいのだ。

 

ちなみにユーノはリビングのソファーのほうで完全に寛いでいる。美由希さんの膝の上で丸くなっている所を見ると眠っているようだ。どうも背中の撫でられている間に気持ちよくなってしまったらしい。おのれ、若干羨ましい。

 

気持ちの整理がついていないフェイトの状態を知ってか知らずか、士郎さんは言葉を続ける。

 

「まぁいきなり君の事情を説明しろとは言わない。先に我々の事情を聞いて貰ってもいいかな」

 

「あの、えと……、はい」

 

「ありがとう。我々はそこの、ユーノ君が追跡しているジュエルシードというものを回収している。君も知っているだろうが、ジュエルシードは放っておけば危険な物だ、最悪この街がメチャクチャになってしまう可能性もあるという事で、今手分けして回収を行っている。まぁ、そこの私の娘であるなのはとその友人の堅一君が騒動に巻き込まれて魔法使いになったという事もあるがな」

 

いきなり話を振られたなのはちゃんはちょっと困ったような視線を自分に投げた後、てへへと小さくテレ笑い。確かに、なのはちゃんが巻き込まれなければ高町家総出での捜索なんて事にはなっていなかったとは思う。これが良い事なのかどうかは置いておいて。

 

「我々の目的として最優先なのは、街中に散らばったジュエルシートの全回収なんだ。その後の、回収したジュエルシードの取り扱いに関しては、正直言ってどうでも良いと思っている。通常であればユーノ君へ返却するという事になるけれど、ね。……なので、君の事情によっては、回収したジュエルシードを君に渡すのも吝かではないと考えている」

 

中々に黒い事を言う士郎さん。確かに最優先の目的は危険物の回収にあり、その後の取り扱いについては問題ではないと思う。正直自分達には、ユーノに返さなければいけない事情というのは全く無いのだ。まぁ協力すると言った手前、返すのが一応の筋ではあるけれどね。それでも、それが絶対ではない。

 

余程士郎さんの言葉が意外だったのか、フェイトは目を思い切り見開いて士郎さんを見る。

 

「何か困っているのか、大事な事情があるのか。よければ話してくれないか? 君の悪いようにはしない事は約束する」

 

さて、士郎さんが畳み掛けて言った言葉に、フェイトは非常に悩んでいるようなのだが。突然なのはちゃんに襲いかかるほど必死になって集めているものを提供するといった甘い誘惑に、小学生程度の子供が抗えるものであろうか。それが重要なものであれば尚更、困難なのは明らかである。

 

予想通り、フェイトは一頻り悩んだ後、自分を納得させるように頷くと士郎さんへ向けて口を開いた。

 

「私の……。私の大切な人が、それが必要だから、集めて欲しいって」

 

「大切な人……」

 

フェイトの言葉を吟味する。大切な人というフレーズ、陳腐な恋愛小説などに出てくるような恋人とかを指す意味で多く使われるが、この場合当て嵌まるのだろうか。小学生程度の女の子がそこまで必死になる対象として恋人が居るっていうのは中々に想像しずらい。

 

「母親だよ。フェイトの母親、プレシアからの命令さ」

 

「アルフッ!!」

 

「諦めなよフェイト、あたし達じゃこの人達を言いくるめるなんてのは無理だよ。それに、事情を話せば手伝ってくれるんだろ?」

 

「その事情にもよるけれどね」

 

アルフの言葉にやんわりと場合によっては協力できない旨を含ませて答える。それでもアルフは不満そうな顔をせずに一つ頷いた。それにしても母親、か。フェイトの態度から見ると慕ってはいるんだろうけれど、どこか怯えているような節がある。それにあのアルフの態度、フェイトの母親、プレシアの名を告げた時の表情と言い、良い母親であるとは思っていないのだろう……。

 

例えば、児童虐待の被害者である被虐待児は、そのほとんどが母親が摘発されそうになった際、必死になって母親を庇うという。虐待をされるのは自分が悪いから、と信じていたり、記憶の中にある優しい母親の思い出から、相手を憎みきれない事から自己否定へと走ると言われている。

 

自分はそういった被虐待児を間近で見たことが無いので判断はできかねるが、あのアルフの印象と聞き齧った知識でフェイトを見ると、どうにもフェイトの境遇に不安を覚えてしまう。例え相手が問答無用でなのはちゃんを襲った奴だとしても、小学生の子供がそういった状態にある可能性が僅かでもあるのはよろしくないと考える。

 

そして士郎さん達の表情はと言うと、どうにも渋い顔をしている。どうも、状況判断だけで見ると宜しくないみたいだ。

 

「……それでは、そのお母さんにお会いしてお話を伺うというのは難しいのかな?」

 

「それは、……ごめんなさい」

 

「そうか……、困ったな」

 

心底申し訳無さそうに謝るフェイトに、士郎さんは本当に困った顔をして顎に手を当てる。今後の動きに関して色々考えているのだろう。

 

そんな悩める士郎さんの横で、桃子さんが手を打つ。

 

「あなた、仕方がないわよ。フェイトちゃん、無理して悩まなくていいのよ。困ってるならちゃんと、ジュエルシードは渡してあげるから」

 

「ホントッ! ……あ、その、ありがとう、ございます」

 

「ユーノ君へは、俺から説明するしか、ないか……」

 

喜ぶフェイトの笑顔に仕方ないといった表情で言う士郎さん。流石に性急に話を進めようとした反省もあるのだろう、若干ホッとした顔で答えていた。

 

重苦しい話が一段落すると、すぐになのはちゃんがフェイトちゃんを連れてリビングへと向かう。どうも今やっている動物番組を一緒に見るつもりらしい。多少困惑した顔で腕を引かれるまま、フェイトはなのはちゃんと一緒へリビングへと向かっていった。

 

あぁいう時は、有無を言わさぬ頑固さと積極性を発揮するよなぁなのはちゃん……。

 

「さて、どうするかな……」

 

小声でぼそっと呟いた士郎さんの言葉に顔を向ける。そこにはやはり、渋い顔をした士郎さんと、心配そうな桃子さんの姿があった。

 

「あなた……」

 

「可能性としては、無い訳ではないと思うんだ」

 

「やっぱり、そうなんですかね」

 

自分の言葉に無言で同意を示す。士郎さんは町内会でのボーイスカウトやサッカークラブの監督もやっていたりするので、子供と接する機会は多い。そして、そういうクラブ通いをしている児童の中にも、偶に被虐待児が混ざっている事もあるそうだ。

 

「町内会であれば、近所の親同士が連携して子供を守る、なんて事も可能なんだが、さすがに別世界となるとな……」

 

「さすがにそれは無理がありますよね」

 

「行く事だけなら可能だよ」

 

士郎さんの言葉に苦笑して自分が答えると、横から声がかかる。先ほどフェイトの母親、プレシアさんの事で良く思っていなさそうだったアルフが、こちらを見ていた。

 

「あたしがプレシアの居所、フェイトの家の場所を教える。ユーノっていう奴だったら転移魔法が使えるだろうから、そいつに頼んで行けばいいさ」

 

「それは有難いけど、けどフェイトは」

 

「フェイトは、苦しんでるんだ。あんな鬼婆に、いつか優しくしてもらえるって、叱られるのはいつも自分が悪いからだって思い込んで……」

 

自分の否定の言葉を遮り、アルフは言葉を続ける。状況はやはり、余りよろしくないようだ。

 

「フェイトも、昔はあの子みたいに明るい子だったんだよ。けど教育係のリニスが居なくなっちまって、プレシアが魔法訓練をするようになってからいつも叱られるようになって、いつの間にか、あんな風に寂しく笑うようになっちまった……。あたしはフェイトの使い魔だ、心は繋がってる。だから、どれだけフェイトが苦しんでるのかも、隠しているけど分かっちまうんだよ」

 

リニスというのが誰かは分からないが、きっとフェイトに優しくしてくれた人物なのだろう。その人物が居なくなり、毎日実の母親から叱られるようになる。多感な子供であれば、確かに自虐的に、自己否定を行ってしまうのも仕方がないのかもしれない。

 

「あの子は気づいてないけど、あんたらと一緒に御飯食べてる時は、本当に楽しそうだった。それに、憧れてた。いつか自分の母親も、あんたみたいに自分に料理作って、優しく笑ってくれるようにって。けど、今のままじゃ無理だよ。アイツが、プレシアがそんな風になる訳ないんだ。あんたらみたいに赤の他人なのにフェイトの心配をしてくれる人がいるっていうのに、アイツはそんな事もしてくれやしないさ」

 

吐き捨てるように言うアルフの言葉に、思わず顔を顰める。傍目から見て酷く映る親子関係というのは、はたしてどれ程のものなのだろうかと考えてしまう。

 

「フェイトには怒られるかもしれないけれど、あたしはフェイトの使い魔だ。フェイトが一番大事だから、あんた達に頼みたいんだ。フェイトを心配してくれるあんた達なら、きっとフェイトを助けてくれる。いきなり襲っておいてこんな事を言うのもおかしいけれど、頼むよ。フェイトを助けてやってくれないか? フェイトの為なら、あたしが何でもするからさ」

 

まるで伏せをするように、大きな赤い犬が目の前で頭を垂れる。堪え切れない涙を浮かべるアルフの姿は、確かに主人の事を真摯に思っての言葉であると如実に物語っていた。

 

だがしかし、アルフにこうしてお願いをされても、自分達に何が出来るのか、という事が全く思いつかない。地球の人であればそういった機関に問い合わせれば何とかなりそうなものだが、さすがに世界が違うとどうすればいいのか分からなくなってしまう。

 

「しかし、どうすれば良いのか」

 

「私がフェイトちゃんのお母さんと話をします」

 

「桃子さん……」

 

思わず士郎さんの言った言葉に、桃子さんが答える。自分と士郎さん、二人で驚いて桃子さんを見ると、そこには既に決意を固めている母親の姿があった。

 

「話して分かってくれるとは思わないけれど、それでも、きっと同じ母親だからこそ、分かる事があると思うの」

 

「いや、しかしだな……」

 

「お願いあなた。きっと、危ない事にはならないから……」

 

既に決意を固めた桃子さんの言葉に、士郎さんは何とか行かせない理由を考えているようだが、思いつかない。「うう……」とか「むむむ」なんて言葉をずっと繰り返すだけだ。

 

やがて、士郎さんから降参の声が上がる。

 

「絶対に、危ないことはしないでくれ」

 

「約束するわ、ありがとうあなた」

 

「じゃあ、自分も行きます。もし何かあった時も、自分とユーノの二人がいれば何とかなると思います。なのはちゃんは余り心配かけたくないので連れて行かないほうがいいと思いますけど」

 

「あたしも一緒にいるようにするから、何があってもあんた達は守ってみせるよ」

 

自分とアルフの言葉に「絶対に頼むぞ」と念を押して士郎さんが言う。そして一緒に行くと言い出した士郎さんに、一緒だと相手が警戒するからと桃子さんが今度は士郎さんを説得する場面もあったが、結局士郎さんは家で待機する事となった。

 

それからずっと、フェイトがなのはちゃんにあれやこれやと世話を焼かれている間に自分達はどういう形で訪問するのが良いか、打ち合わせを行っていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

明けて翌日。

 

昨夜はなのはちゃんに世話を焼かれている内に夜遅くになった事に気付いたフェイトが帰宅しようとした所を桃子さんとなのはちゃん二人がかりで引き止め、ついでに自分も引き止められて一緒にお泊りする事となった。

 

そして早朝、まだなのはちゃん達が寝静まっている内にリビングで丸くなっていたユーノを引っ掴み高町家の道場へ。そこで士郎さん、桃子さんとアルフと合流し、今後の予定とジュエルシードを引き渡す話をした。

 

ちなみに昨日の内に、自分達の持っているジュエルシードは数にして五つ。フェイト達が集めていたという二つを合わせても未だ七つという状況だ。街中には残り14個ものジュエルシードが残っている。

 

ジュエルシードの引渡しに関して、正直ユーノは乗り気ではない。あれが危険物であり、自分が事故によってばら蒔いてしまった不安の種だからだ。だがそこをなんとか説得し、そのフェイトの母親の目的を聞いてからなら、といった形で渋々承諾させた。

 

そんな話し合いが終わった後、フェイトが帰る段となった。

 

「それじゃあフェイトちゃん、また遊ぼうね!」

 

「あ、うん……」

 

未だに曖昧にどういった対応を取っていいのかわからないといった表情でフェイトはなのはちゃんへ返事を返す。まぁなんだ、うん、なのはちゃんも押しが強いからな。

 

なのはちゃんの言葉に続き、自分は懐から三角形の板、フェイトのデバイスを取り出しそれを手渡す。

 

「悪かったな」

 

「いえ……、多分、当然の事だから」

 

自分の言葉に若干シュンとして答える。なんだ、自分のやった事がどういう事なのか理解できてるじゃないか。……それでもいきなり襲撃しなければならないぐらい、母親からの指命が大事なのだろう。

 

全く、世の中ままならないもんだな。

 

「あんた達、ありがとうね。今預かってる分を渡したらすぐにまた会いに来るから」

 

「あぁ、待ってるよ」

 

フェイトの隣に立つ、赤髪の女性が自分達へ礼を述べる。……赤い犬だったアルフが、変身した姿である。この姿を見た時は思わず「どちらさんですか」と問いかけてしまった。フェイトより年上のお姉さんという格好のその女性は、確かに昨夜の喋る犬と同じ声で礼を述べた。

 

彼女達は、お母さんへのお土産にと桃子さんから手渡されたお菓子の箱を持って中庭へと立っている。

 

ここから直接、母親の居る場所まで転移魔法で移動する事となった。

 

「それじゃあ、ありがとうございました」

 

一言そう言い、自身のデバイスを杖にし、フェイトは魔法を発動させて去っていった。去り際に、アルフがアイコンタクトをしてきたのに頷き返す。……この後すぐ、自分達も向かうよう打ち合わせていたのである。

 

但し、この打ち合わせの時は話し合われなかった事態も発生している。

 

…………なのはちゃんに、バレてしまったのだ。

 

朝からそわそわしている士郎さんと、何だか真剣な眼差しでフェイトを見る桃子さん。いつもと違う雰囲気の二人に、多感なお年ごろの少女は、この後何かがある事に気づいてしまったのだ。

 

 

 

「何かあるんなら、わたしも手伝う! 自分だけ知らないで、誰かに任せるだけなんて嫌だから!」

 

 

 

目元に涙を浮かべ、そう自分に訴えてきたなのはちゃんを無下にする事は出来なかった。

 

こうして、当初の予定より若干名増えた四人で、自分達はこれよりフェイトの母親へ会いに行く。

 

自分達だけで向かうより、当然フェイトも共に居たほうが良いという結論から、このタイミングで会いに行くしか無いと考えた。

 

「じゃあユーノ君。転移魔法をお願いね」

 

「桃子さん、気をつけてくれ。堅一君、ユーノ君、桃子さんを頼む」

 

「任せて下さい。それじゃあ、いきます!」

 

「心配しないで待っててね」

 

ユーノの展開した魔方陣、緑色に光るその周辺に集まった自分達は、お互いの目を見てしっかりと頷く。きっと、自分達だったら何とかできる。

 

「いくよ、転移!」

 

 

 

何があっても桃子さんとなのはちゃんは守ろうと心に決めながら、自分は光の渦へと飲み込まれていった。

 


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