魔法少女リリカルなのは 夢現の物語   作:とげむし

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第六話

 

 

夜分遅く、というか日付も既に変わったであろう深夜に、高町家では家族会議が開催されようとしている。出席者は高町家全メンバー+中田家からは自分の父である中田正元。自分が家を飛び出してから高町さんちへ連絡し、その後高町家にて待機していたとの事だ。

 

ちなみに翔子さん夫婦はいない。雅俊さん明日仕事だし寝ている綾子ちゃんを置いてくるとか連れてくるとかする訳にもいかないしね。

 

そして高町家リビングの円卓、というには長方形すぎる席の一番上座へ座る家長、高町士郎さんから号令がかかった。

 

「さて、必要な面々は揃っているので、大人しく今日の出来事を話すようにしなさい」

 

上座からの声に自分となのはちゃんは椅子に座りつつ「はい」と返事する。今日お持ち帰りしてきた小動物(フェレット)――ユーノ・スクライアと言うらしい――は、ナチュアルに桃子さんに抱かれた状態だ。ていうかおい、なんでアイツこっち側にいないんだよ……。

 

本日の事情に関しては、本当の詳細を語るにはアイツは必要不可欠なのである。自分はまず挙手をして椅子から立った。

 

「まず、今日の事の起こりに関して掻い摘んで説明をすると、なのはちゃんが公園で声を聞く、その声に従い周囲を散策、そこの小動物を発見。夜間、再び声が聞こえ、動物病院へ行くと化物と遭遇、小動物によりなのはちゃん魔術師となり自分も魔術師となり化物を撃退、といった感じです」

 

「……こう、色々とおかしい単語があるのだが、もう少し詳細を聞かせてくれないだろうか」

 

横で話を聞いていた恭也さんが、ものすごく不思議そうな、そして多分に困惑を含んだ声色で問い返す。

 

普通、こんだけの簡単な状況説明で納得するのが難しいのは当たり前だ。当然想定通りであったその問い掛けに、再び話しだす。

 

「状況の説明だけであればこの程度にしかなりません。ですが事態の詳細に関しては、自分達よりそこの小動物がより詳しく理解しているはずです。

 ――小動物。いつまでもダンマリを決め込んでいると、“絞める”ぞ?」

 

鍋にするとどんな味がするんだろうなこの小動物は、といった視線を向けると桃子さんに抱かれていた小動物はビクリと反応し、慌ててその胸元から降り、自分の足元へ寄ってくる。

 

「あらっ、もうけんちゃん。そんな事言ったら可哀想でしょう?」

 

手元から可愛いのが居なくなったからか、残念そうな声色で自分に言う桃子さん。いやいや、可哀想とかそういうのないですから。その言葉に流石に可愛い物好きな美由希さんも若干引き気味だ。空気読めよって顔してる。

 

「桃子さん……。先ほど言った通り、コイツは普通の小動物ではありません。“魔法”といった概念の力を行使する生き物です」

 

「け、けんちゃん。そんな言い方しなくても……」

 

自分の言葉に思わず声を上げるなのはちゃんだが、正直これだけ言っても足りないと思う訳で。なにせコイツは今回なのはちゃんを事件へ巻き込んだ主犯なのです。優しくしてやる謂れはない。

 

自分のそんな意識、意図を理解したのか、小動物は若干しょぼくれながら、口を開いた。

 

「堅一さんの言う事は間違っていません。……このような格好で失礼します、自分はユーノ・スクライア。この次元世界とは別の世界からやって来ました」

 

喋る小動物に一瞬場がシーンと静まったが、次の瞬間には動揺の声が広がる。

 

「しゃ、喋った、だと……」

 

「きょ、恭ちゃん、腹話術とかじゃないよこれ」

 

「だから、普通の小動物ではないと言ったでしょう……」

 

慌てる高町家長男長女に若干の呆れた視線を乗せて告げる。だがこれで、自分の言葉が真実である事がある程度は理解されたと思う。

 

「今回の事件に関して、全てお話いたします……」

 

色々と諦めが入ったのか、ユーノは文字通り小さくなりながら、事の発端と今回の件に関して、静かに話し始めた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

話した内容は、本来であれば荒唐無稽な物語。

 

この世界には数多の『次元世界』と呼ばれる世界があり、その一つの世界で遺跡を発掘していたユーノは、事件の原因『ロストロギア』と呼ばれる古代文明の遺産の一つ『ジュエルシード』を輸送中に原因不明の事故に見舞われ、ジュエルシードは海鳴市近辺へと落下。回収を目的としてユーノはここへ降り立ったという訳だ。

 

「ですが、ジュエルシードの力は強大でした……。魔力を持つなのはさん達がいなければ、今回の回収も出来なかったと思います」

 

しょんぼりしながら告げるユーノにうむむと悩んでしまう。あの化物、自分が魔導師として魔法を行使できるようになった後は、至極簡単に対応可能な存在だった。正直、そこまで困るような相手では無かったような気がするのだ……。

 

「今回回収出来たジュエルシードは三つ。残りのジュエルシードも回収しなければいけませんが、現在僕は傷を負っていますので……。

 わがままを言って申し訳ありませんが、傷が癒えるまでの間、この姿で滞在させていただけませんでしょうか? お願いします!」

 

事情をある程度説明したユーノは、そのフェレット姿のまま土下座のような状態で頭を下げる。その姿に高町家の家長は悩む。だがその悩みの方向は恐らくユーノの扱いという部分ではないだろう。自分も今の話を聞いて、正直頭の痛い所である。

 

「なぁ、ユーノ君。そのジュエルシードという物質は、残りいくつ程あるんだい?」

 

「それは……。残りは18個、全部で21個になります」

 

自分と同じ部分に疑問を覚えたであろう士郎さんの問い掛けに、ユーノが答える。残り18個、それだけ、今日対峙したような化物が生まれる可能性があるという事で。海鳴全域に一度に現れたら海鳴市は壊滅しかねないぞ……。

 

それを一人で回収するのは現実的に無理だろう。手が足りないし、今日の化物にも敗退したユーノに、その数の化物を何とかできるとは思えん。

 

「そのジュエルシードというのは我々には対応できないのかな?」

 

「いえ、発動前に見つければ問題はありません。ですが一度発動してしまうと魔法が使えなければどうする事も。それに、ジュエルシードの位置は発動前は曖昧にしか分からないので……」

 

「ならば、発動前のジュエルシードを人海戦術で見つける、というのがベストな対応な気がするな」

 

士郎さんの言葉は至極真っ当である。状況として説明したが、家屋の外壁を容易く破壊できるような化物を生み出す物質があと18個もある。それが発動する前の場所は曖昧にしか分からないので、人海戦術で街中を探索したほうが効率が良いのは当たり前だ。

 

だがそれには当然人手がいる訳で。そして士郎さんのほうからそれを言うという事は、当然そういうつもりなのであろう。

 

「街を破壊されるのは困るからな、我々も手を貸そう」

 

「そんな! これは僕のせいで起こってしまった事ですから……」

 

「いやいや、誰のせいとか関係ないから。街がどうにかなりそうだったら早めに何とかしないといけないだろうが」

 

士郎さんの言葉にユーノは悲鳴のように声を上げるが、自分が言った言葉で沈黙する。そりゃ申し訳ないと思う気持ちは分かるが、ヤバイのは自分達の住んでいる街なのだ。発動前ならなんとかなるのであればそれは手伝うべきだろう。

 

「ともかくそういう事だ。君の居住も問題ない。我々はなるべく信頼の置ける人間へ話してその危険物を回収するようにしよう。勿論発動してしまったものに関しては、なのは、堅一君、ユーノ君の三人で対応して貰う事になってしまうが、大丈夫か?」

 

あっさりと事の判断を行った士郎さんに、ユーノは「あの」とか「それでは」とか戸惑った声をかけるが士郎さんは思いっきり無視。自然と発動後の対応に関しては実の娘と自分のような子供へお願いする辺り、なんとも色んな意味で強い人である。

 

「自分は問題ありません。なのはちゃんも、今日現れた程度の化物であれば、落ち着いて対応すれば怪我する事はないでしょう」

 

「わたしの魔法だったら、練習すれば三つ一片に封印する事が可能なの! けんちゃんは近づいてぶったり蹴ったりするけど、わたしは遠くから魔法で攻撃する係みたいだから」

 

「そういう事なんで、なのはちゃんの安全はある程度保証できますよ」

 

「でも! もしジュエルシードをこの星の原生生物が取り込んだら、今日よりも強力な生物が生まれてしまう可能性が高いんだ! 危険すぎるよ!」

 

「なら尚更、発動前に見つけないとな。その為にはみんなの協力が必要だ」

 

なるほど、生物をそのまま取り込むともっと大変な事になるのか、なるべく心して事態にかかるようにしないとな。

 

自分達の考えを何とか変えさせようと言った言葉のようだが、正直無駄である。ぐうの音も出なくなってしまったユーノは、今度こそ諦めたのか、「申し訳ありません……」と、疲弊した声で返答した。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

その後、ジュエルシードの現物を見せる為になのはちゃんがレイジングハートという魔導師の杖、『デバイス』と呼ばれるものから現物を取り出し、みんながそれを携帯で撮影して保存。ついでになのはちゃんの魔法少女ルック撮影会が始まっていた。

 

「いいわぁ、いいわよなのは! 可愛いわよぉ!」

 

「いやぁ凄いねぇこれ。うんうん、可愛いよなのは」

 

「ふにゃぁぁ! やめて、携帯で撮らないでよお姉ちゃん!」

 

変身したなのはちゃんに頬ずりしながら思いっきり抱き締める桃子さんと、その姿を携帯でパシャパシャ撮影する美由希さん。顔を真っ赤にしながらわたわたと桃子さんの両腕から逃げ出そうとする魔法少女ルックのなのはちゃんがそこには居た。

 

「ふえぇ~ん、助けてよレイジングハート!」

 

《No problem. Master》

 

あのデバイスも良い性格してんな、あいつがバリアジャケット解除してやれば終わりだろうに……。若干引くぐらいテンション上がってしまっている二人を呆れた目で見ていた自分に、士郎さんが話しかけてきた。

 

「なのはも大変だな。しかし堅一君も、あんな感じの杖を持っているんだろう?」

 

「いえ、自分のは杖の形ではないんですが。あぁ、こいつに関しても色々と聞かないといけない事があったのを思い出しました」

 

《相棒の戦闘技術は自身の身体能力を駆使したものであり、杖のような形状は相棒には合わないでしょう。棒のような形のものであれば問題はないのでしょうが》

 

士郎さんの質問に答えるような形で、左腕のブレスレットについた相棒・スティールが唐突に話す。その声に士郎さんは一瞬驚き、父が声に気づいてこちらへ近づいてきた。

 

「おっ、そいつ話すようになったのか」

 

「話すようになったのかって……。あんた知ってたのか」

 

《彼はこの世界へ到達した地点の住人でした。今まで相棒の守護をしていただいたようで、感謝いたします》

 

なるほど、こいつを初めて渡した時の意味深な言葉と笑顔はそういう事だったのか。これはゆっくりと話しを聞かなければいけなさそうだなぁ。

 

「とりあえず、自分の事とか、自分に魔法が使える事とか、分かるんだったら教えて欲しいんだが」

 

「ま、そうだわな。俺もお前預かってたけど、こいつが喋ったのは最初の一言だけだったから」

 

自分と父の言葉に、スティールは一瞬その宝石を思わせる身体を輝かせ、やがて答えた。

 

《分かりました。まずは相棒の生い立ちと、私の存在。それから相棒の魔法技術に関して、私の中に存在するデータから知る限りの事を全てお話いたします》

 

そうして、ゆっくりと語りだしたスティールの話は、現在海鳴に起こっている事象よりも、更に荒唐無稽な物語だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

昔々、とは言っても自分の生まれよりも前の事。

 

その世界は住まう星の存在を科学的に確定させた人物の名から「ハズラッド」と呼ばれる星に、強大な文明が存在した。

 

現在の地球では及びもつかない叡智を兼ね備えた技術研究者の存在する世界では、科学技術と共に魔法技術の融合した発展がなされ、正に理想郷のような生活が営まれていた。

 

だがそれは、戦争の上に成り立っていた理想郷であり、その理想郷から一歩外れれば人同士が殺し合い、また人が造り出した化物、魔獣が闊歩する世界であった。

 

そんな世界で生まれた一つの命があり、生まれながらにして兵器として運用される予定であった彼は、正しく「人造生物兵器」として、日々戦争へと駆り出されていた。

 

本来であれば彼はその国に何千年も続く国王の血族、だが死産となった赤子を解析し、その古代の血に潜む化物の遺伝子を抽出し活性化させた兵器となった彼は、命じられるままに、命を刈り取るよう兵器として成長させられる。

 

彼は人を殺し、国を破壊し、また命じられるままに人を殺す……。

 

だが彼にも心はあり、その安息を与えてくれる存在が居た。幼くありながら類稀な科学技術と魔法知識を保有していた少女が、彼の傍にはいたのである。

 

自身の生みの親とも言うべき少女の元へ、彼は戦争へ駆りだされていない間は訪れる。戦場へ一度入れば理性を無くし、周囲の生命を無差別に殺し尽くす彼は、自身の理性がある短い時間を、その少女に捧げていた。

 

彼を造り上げた事を後悔していた少女は、それでも自身へ時間を捧げてくれる彼に、いつの間にか恋をしていた。

 

だがその恋は、決して叶う事の無い悲恋であると分かりきっていた。

 

ある日少女の元へ、国の軍隊より一つの報告がなされる。彼が戦場にて、自身の魔力に耐えられず自壊したという報告。

 

連日連夜の戦闘行為に身体を酷使し、それでも命令される限り全力で稼働するように調整されていた彼は、とうとう自身の力に耐え切れず崩壊してしまったのだ。

 

その未来は既に理解していた事。少女は涙を一滴零しながら、一言礼を言って国を去った。

 

国を去った少女は辺境の地にて草木に囲まれた生活を営んでいたが、住まう家屋の地下に巨大な研究施設を作り上げていた。

 

時を経て大人となった彼女は、兵器としての生涯を過ごす事となった彼の存在した証を生み出す事に全力を注いでいた。

 

彼の残した遺品、少女への贈り物の中にあった彼の存在した証、遺髪となったものから遺伝子情報を取り出し、胚細胞へと付着させ培養する。

 

遺伝子操作技術により少しずつ彼のように自壊しないよう化物の遺伝子を薄め、人としての遺伝子を強くする。

 

そうして生まれた子供の為に、存在を補助する機能を持った、魔法装具が用意された。その装具は子供が自身の戦闘能力に気付いた時の為に武装となる役割も与えていたが。

 

思考型装具として用意したそれには研究室の管理を任せていた魔法装具のデータをコピーして利用する。長年使用していたその装具のデータは、思考性を育てる必要がない為、始めから膨大なデータの取り扱いを可能としていたからだ。

 

全ての準備が整った時、彼が存在した証は、産声をあげた。

 

彼にそっくりな深い青の瞳と、深い青の髪色。その存在は、間違いなく母に祝福され、この世へと生み出された。

 

だがそんな幸せを彼女が甘受したのもたった一日だけ。

 

どうやって突き止めたのか、彼女は元居た国より捜索されており、ついにその日見つかってしまったのだ。

 

彼女が考えたのはたった一つ、彼の存在した証である赤子を逃がす事。このまま自分と共に国へと戻れば、彼と同じように生物兵器としての一生が待っているだろう。

 

一緒に逃げる事も考えたが、見つかってしまった彼女には監視が常に付き纏い、逃げる事等出来はしない。だが、赤子一人であれば何とかなる。

 

彼女は苦渋の選択をして、赤子と用意した魔法装具を、共に次元跳躍魔法にて送り出す。

 

「どうかこの子には、心穏やかな日々が訪れますように――――」

 

思考を持たされたその魔法装具が最後に見た光景は、光の槍で胸を貫かれながらも、笑顔を見せる彼女の姿だった……。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

《そうして、私と相棒は次元跳躍によりこの世界へ降り立ち、そこの中田氏へと保護されたという事です》

 

何とも、開いた口が塞がらないとはこういう事を言うのだろう。

 

余りにも衝撃的な自身の生い立ちに、正直現実感が無いというか、いやまぁ自分の元となった男性と女性のデータと映像を見つつ説明されれば事実なんだろうとは思うが、しかしそんな壮絶な話の下に自分が生まれたなんてのは、中々に現実離れしすぎているというか……。

 

「うっ……グスッ……」

 

「うぅっ……可哀想だよ、けんちゃんのお母さん……」

 

いつの間にか周りに居た高町家の面々、特に女性陣は涙ぐみながらその話を聞いており、途中から泣き出している。しかも静かに泣くもので、どうしていいのか分かりゃしない。

 

「なんていうか、うん。大変だったんだな……」

 

「いや自分は大変じゃないから。ていうか何とも言えないから、突っ込む余裕とかあんまないから」

 

ポン、と優しく肩を叩く父に突っ込む。ていうかほんと、無茶な話すぎて驚き通り越して頭が回りませんよ、まじで。

 

《ちなみに本日の魔力の暴走。アレあのまま放っておいてたら彼のように自壊していたかと思います。海鳴市全域を巻き込んで》

 

「ちょっとそういう事言うのやめろよ! マジでへこむから! 自分が怖いわ!!」

 

《私がいれば大丈夫ですよ。もっとも暴走時の魔力の生成量が今の倍くらいになってしまったらお手上げですが》

 

「ちなみに倍くらいになりそうなのって、今からどれぐらい?」

 

《そうですね。相棒の遺伝子とか実力とかを加味すると後十年も無いのではないでしょうか。五年後ぐらいにはある程度完成された魔導師になれるかと思いますよ》

 

「全然大丈夫じゃねぇじゃねぇか! 五年て意外とすぐだぞ! そうなったらどうすんだ!」

 

《さぁ? ご自分で何とかするしかないでしょう。その為に私がいるんですから》

 

「いかん、コイツ投げっぱなしだ……、すげぇ将来が不安になってきた……」

 

余りにもあんまりな発言の連続で思わず崩折れる。なんだよ、マジで自分危険人物じゃねぇか……。海鳴を巻き込む自壊って、大規模な自爆じゃねぇか。

 

「まぁ、その……。が、頑張ってください! まだ時間はありますから!」

 

「うるせぇよ! 簡単に言うなよこのやろう!!」

 

慰めるように、軽く言いやがった小動物を両手で握り絞めつける。コンチクショウ、このままパーンと破裂させてやろうか! 「ギブ、ギブ」じゃねぇよ!

 

《相棒の現時点での魔力行使の実力でも、そう簡単には暴走しないでしょう。ですから現時点での脅威はありませんので安心して下さい》

 

「全然安心できないんですけど。とりあえず今は大丈夫って事で、納得するしかないか……」

 

全く、こんな壮絶な人生を歩む事になるなんて、一体何がどうなっちまったんだろうか……。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

自分の知らなかった壮絶な過去の暴露が行われた翌日。

 

早速自分となのはちゃんは昼休みに一緒にお弁当を食べるグループであるアリサちゃんとすずかちゃんに昨日の話を伝えた。

 

「――ていう訳で、これがジュエルシード。こいつをもし見つけたら絶対に近づかないで、自分達に連絡して欲しい」

 

「分かったわ……。しっかし、昨日のフェレットからそんな話になるなんてね」

 

「本当、不思議な事って世の中には一杯あるんだねぇ……」

 

なのはちゃんの出したジュエルシードを携帯で撮影しつつ、アリサちゃんとすずかちゃんが呆れた顔で話す。ユーノが実はフェレットじゃない事や危険物が海鳴市にある事、自分達がそれに対応できる力を得た事なんかは話しておいた。

 

二人共賢い子なので、余り深く聞いては来ないし、無闇矢鱈と言い触らす事などはないだろう。

 

「ねぇ。この話鮫島にしても大丈夫? 学校にいる間は自宅近辺を探させようかと思うんだけど」

 

「あ、ウチもお姉ちゃんやノエルとかに話して大丈夫かな? 近所にそんな危険物があったら怖いし……」

 

「ノエルさん達だったら大丈夫じゃないかな? ねぇけんちゃん」

 

「うん、問題ないと思うよ。ちゃんと危険物だって説明しておかないと逆に危ないかもしれないし」

 

なのはちゃんはこう言うが、正直自分は一人だけ言わないほうがいいんじゃないかと思う人がいる。すずかちゃんの姉の月村 忍(しのぶ)さんだ。

 

自分達の同級生であるすずかちゃんのお姉さんは、偶然にも高町家の恭也さんと同級生であり、最近交際関係を始めた人である。そして、彼女は機械いじり、という範疇では収まらない程科学技術を嗜んでいる。その上かなりマッドである。

 

そんな人物にジュエルシードの情報を渡し、もし見つけられでもしたらどうなるだろう。解析に解析を重ねて科学の力で制御しようとか考えるような気がしてならない。もしかしたら、無限エネルギーとかへ転用してしまうかも……。

 

そんな思考が見えてしまったのか、すずかちゃんが困ったように声をかける。

 

「だ、大丈夫だと。お姉ちゃんも、そんな無茶はしないと思うよ。多分……」

 

「た、多分か。出来れば絶対と言い切って欲しかったけど」

 

「それは……、ご、ごめんなさい。お姉ちゃん、そうなったら見境が無いから……」

 

ははは、余計に不安だ。妹からすら不安がられている姉だ、本当に大丈夫だろうか……。

 

「でも、恭也さんから忍さんへ話が行くかもしれないでしょ? どっち道諦めたほうがいいと思うわよ」

 

「あっ……そ、そうだねアリサちゃん」

 

「あぁ、そうだなぁ。危険物だもんなぁ、心配して恭也さん注意するだろうなぁ」

 

この将棋は、始めから詰みの状態が確定していたようだ。大人しく諦めるしかないな、こりゃ。

 

「ま、まぁまぁけんちゃん! 大丈夫だよ! 忍さんが見つける前にわたしやお兄ちゃん達が見つければいいんだよ!」

 

あぁなのはちゃん。ナチュラルに忍さんをジュエルシード争奪戦の対抗馬みたいにしているのは、自分も不安だからなんだね、よく分かるよ。

 

なんとなく、なんとなーく、この先が不安なってしまう昼休みだった……。

 


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