魔法少女リリカルなのは 夢現の物語   作:とげむし

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第五話

数日前から続く胸のざわめき、奇妙な夢を見た昨夜、夕方聞こえた姿無き声の元を辿って着いた先にいた幼馴染達と負傷した小動物。その日の夜間に再度同様の声に、焦燥感を掻き立てながら幼馴染の家へ行くと、姿が無い事を告げられる。心当たりへ向かう途中、街中から人が消え、幼馴染は喋る小動物を抱え、化物から逃走していた。

 

どこで何を間違ってしまったのかわからないが、自分の日常はあっという間に崩壊し、現在眼の前には非日常の象徴と言っても間違いではない、化物が存在していた。

 

体中を黒い霧のようなもので覆っているその化物は、自らの身体を撒き散らし物理的に衝撃を与える事が可能な物体であると理解している。

 

幼馴染に抱かれていた小動物は明らかにこの化物の関係者。現在は小動物との会話を幼馴染に任せ、自分はこの化物の目を引きつけ、「何を、どうすれば良いのか」を小動物から幼馴染が聞き取る時間を稼ぐ使命を帯びている。

 

自宅の山田流道場にて日々鍛錬を行ってはいるが、誰かに対して実践を行った事はなく、ましてやこのような化物との対峙など山田流の想定外も良い所である。

 

まずは様子を見つつ回避を行い、打開策が思いついたら反撃に転じる。本来であれば対峙すらせずに遁走するのが賢いのであろうが、時間を稼ぐという最優先目標を達成する為には、これしかない!

 

「グルゥオオオオォォォッッ!」

 

咆哮と同時に、化物が動く。霧のようなその身体で覆われた中にありながら、しっかりと確認できる三つの頭の内一つが、こちらを目掛けて突っ込んでくる。速度はかなり早い、だが、この距離からの突進など!

 

「テレフォンパンチもいいとこだな!」

 

来ると判っているものだと、避けるのは容易い。だが何があるか分からない以上、油断せず、大きく距離を取り回避する。

 

自分の横をその頭が通過したのを確認しようとし、その頭が外壁へと突っ込むのを目視し、そして、その外壁が大きな音を立てて、大穴を開けるのを目撃した。

 

……予想してはいたが、さすがに洒落にならん。一つでも当たればアウトだ。

 

「グガァッ!」

 

頭をすぐに胴体へと戻した化物は、続けて身体から槍のように先を尖らせたものをいくつも伸ばし、突き込んでくる。逃走経路を潰そうと横に広げたその槍の数は五つ。

 

「数が増えればいいってものでも!」

 

一つ、二つと横へ回避し三つ目の下を潜る、そのまま未だ外壁に突き刺さったままの二本目の槍へと蹴りを放つ!

 

外壁が物理的に破損するという事は、逆に言えば自分でも触れる事が可能であると仮定し、確認の意味を含めた攻勢だ。結果はまぁ予想通り、外壁を突き破る強度を持つソレが、人一人の蹴りでへし折れる訳が無い。

 

「っ、かってぇー!」

 

予想していたとは言えやはりそれは悔しい。思わず毒づきながら方向転換し自分を貫こうと突進してきた四本目、五本目を回避する。全く、やはり手も足も出ないもんだな。

 

「しょうがないか、こんな化物相手じゃ……」

 

自分の採用するべき手段はもう一つだけ。回避しつつ、相手の視線をこちらへ向けたままにする為挑発を繰り返すしかない。幸い避けられない速度ではなさそうなので、これは問題ないだろう。

 

「ググゥゥ……」

 

見れば化物も、自身の攻撃が当たらないのが不満そうに唸り、心なしか頭についている目のようなパーツが睨んでいるように見える。

 

これは自分にとっては望み通りの方向。このまま続けていれば時間は稼げるだろうと思い、改めて化物へと構えた直後、突然、桃色に輝く光の柱が現れた。

 

その柱に気付いたように化物も視線を移す。なんとなく、何となくだが、あの光の柱はなのはちゃんなのだろうと理解する。

 

「自分の時間稼ぎは終わりかな。思ったより早くなんとかなり――」

 

そうかな、と言おうとした所で。

 

自分の身体の中に、強大な荒波が生まれた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「大丈夫ですか! 何があったんです!?」

 

人間の言葉を喋る小動物が目の前に現れる。あぁ、今ちょっと意識がトんでいたなぁと脳の一部で冷静な判断をしつつ、自身の身体を両腕で抱き締めたままにする。口からは返事を返そうと声を出すが、生憎それは言葉にならず、「グヴゥゥ」という変な呻き声に変換されてしまった。

 

「こ、この子も凄い魔力だ……、で、でも何があってこんな」

 

思い返してみると、多分なのはちゃんの放ったのであろう光の柱が立った途端、自分の中で“ナニカ”が狂った、としか言いようのない奔流が生まれたのだ。対峙していた化物が光の柱目掛けすっ飛んでいくのを眺めながら、自分は自身の身体を抱きしめ、全身がバラバラになりそうな大波を耐えていた。

 

指向性を持たず無作為に訪れる波は頭と言わず手足と言わず、全身に大きな衝撃を与え、立っても居られず這い蹲り耐えるしかない。

 

「いいですか、落ち着いて下さい。今あなたの中でリンカーコアから魔力が多大に生成されています。無尽蔵に発生したそれが今あなたの身体へ負荷をかけている状態なんです。まずは落ち着いて、深く深呼吸してください」

 

いやいやむりむりむり。小動物がよくわからん事を言っているが、この状況で深く深呼吸なんぞできる訳がない。深く息を吸った途端、身体が爆散してしまいそうだ。

 

唸りつつ否定の意を示すと分かったようで、小動物は一人「これは抑えこむしか」とか「でも僕にこの魔力量を」とかなんだか不安になりそうな事を呟いている。

 

もうなんでもいいからどうにかなるなら早く何とかしてくれないかな!

 

「よし! 今からあなたに魔法をかけます。あなたの今抱えている魔力を一部僕のほうへ流し、外へ放出させる事ができれば状態はある程度落ち着くはずです」

 

説明もいいんで、早くしてくれませんか、マジで。

 

「それではいきま――」

 

ようやっと終わったのか、小動物は手から緑色に光る魔方陣を出現させ、自分へ魔法をかけようとした所で、自分はその背後から急接近する黒い物体を目撃する。

 

アレは例の化物に間違いない。なのはちゃんがその背後から桃色の光を発しつつ“飛んで”こちらへ向かっているのも一緒に見える。

 

うわー、なのはちゃん空飛んでるわぁとか一瞬現実逃避を行ってみたが、背後の黒い物体はこちらへと迫ってきており、なのはちゃんは黒い物体がこちらへ到達するまでには間に合いそうにない。

 

ここにいるのは負傷した小動物と、なんだかわからんが全身が爆発しそうな自分だけ。さて、どうしようかと一応悩んだふりをして、全身に力を入れる。

 

激痛が身体と言わず脳にすら走るが、そんな事は言っていられない。何せ、化物はもう目の前なのだ!

 

「オオオォォォォォッ!!」

 

「グルォオオオオオオオオ!」

 

自分と化物、お互いに獣のような咆哮をあげ、激突する。

 

ドカン、と。

 

大きな衝撃音と共に土煙を撒き散らす。

 

「そんな! まだ動いたら……」

 

両手を前に突き出し、化物の突進を止めた格好で立つ自分を見て小動物は声をあげ、その語尾を萎ませる。

 

全身の激痛を抑えつつ両手を前に突き出す自分と化物の間には、鈍色の光を放つ壁が存在していた。

 

「まさか、デバイスも無しにプロテクションを発生させるなんて……」

 

「オオオォォォォォォ!」

 

小動物が何か言ってるがそんな余裕はない。両腕に力を込め、壁に接触した化物を、思いっきり弾き飛ばす!

 

再びドカン、と音を立てまた民家の外壁へと突撃した化物を見てから、追撃をかけようとした所で、自身の身体の異常に気付いた。

 

今度は全身が、燃えるように熱くなっている。

 

「ヴォアアアアッ!」

 

熱い、熱い、熱い、熱い!!

 

自分の身体がそのまま燃えるんじゃないかと思うくらいの熱量に、思わず叫び声をあげる。

 

「けんちゃん! どうしたの、けんちゃん!?」

 

「落ち着いて! 無理な魔法行使をしたから出口を求めて君の魔力が暴れているんだ!」

 

自分に近づき慌てているなのはちゃんと、状況を説明してくれる小動物。なんとなくその状況は理解できるが、熱いものは熱いんだ!

 

どうにもならん熱さにそろそろ死ぬんじゃねぇかなぁとか思っていたら、再び獣の咆哮、そして衝撃音。

 

見ると、苦しそうな顔をしたなのはちゃんの前に桃色の壁が立ち上り、またしても突っ込んできた化物を阻んでいた。

 

その様子に、身体の熱が悪化する。

 

野郎、女の子に、なのはちゃんに何してんだおい。くそったれが。なんで自分の身体は動かないんだ。動けよコンチクショウ!

 

「オオオオオオォォォォォ!!」

 

今までで最大の熱量を身体が感知する。

 

あぁこりゃ死ぬかなぁ、と思った時、唐突に声が聞こえた。

 

 

 

《魔製結晶の暴走および生成魔力の放出経路への異常を確認、放出経路の許容力理論限界値突破を確認した為、緊急避難措置として緊急経路を作成、魔力放出措置を行います》

 

 

 

声のした次の瞬間、全身からドン、と鈍色の光が発生した。

 

光が発生した影響なのかわからないが、自分の身体は宙に浮き、周辺の家屋よりも上空を浮遊する。

 

周囲には鈍色の光が走り、その内周を何やら呪文めいた文字が記載された帯がクルクルと回っていた。

 

「……なんっじゃこりゃ」

 

《落ち着きましたか、『buddy(相棒)』》

 

先程から唐突に発生する、意味不明な状況の連続に声をあげ驚いていると、またもや声をかけられる。

 

そちらの方向を見ると、光り輝く四角形の小さな宝石が正面に浮かんでいた。あれ、ていうかこれって。

 

「ブレスレットの宝石?」

 

《その通りです。現在相棒の体内にて無尽蔵に生成を行っていた魔結晶の制御および、魔力放出経路の緊急修復を行っております。正常な運用が行えるまで15秒程お待ちください》

 

自分の質問にあっさりと答える宝石。言葉を喋る小動物と謎の化物の次は、言葉を喋る宝石と来たもんだ。

 

「いや、そんなあっさりと言われても……。で、この状況は一体なんなんでしょうか」

 

《簡潔に回答しますと、あなたの体内中で生成された魔力が暴走を行っていた為、現在正常な運用が行えるよう調整中です。――只今終了しました。身体に異常はありませんか?》

 

「ん? ……あぁ、何も問題なくなってる」

 

言われてみると、先程まで自分に発生していた全身の痛みと燃えるような熱さがすっかり収まっている。すげぇなぁ。

 

「助かった、ありがとう」

 

《当然です、私は相棒の補助を目的として作成された『思考型魔力行使戦闘用兵装・補助装具』なのですから》

 

……なんだかもの凄く物騒な名前の道具である事は理解できた。戦闘用兵装ってなんだよ。

 

《詳細は後ほどご説明いたします。現時点での最優先項目として、私の使用者正規登録および武装・戦闘服(バトルジャケット)の選択、装着が急務だと提案します》

 

「そうか……。それを終わらせれば、あの化物へ対抗できるか?」

 

今現在眼下にてなのはちゃんと対峙している化物を指さし問いかける。なのはちゃんは自分が気になるのか上空を見つつプロテクションと呼ばれた魔法を展開したままである。そして化物もなのはちゃんへ突っ込みながら、三頭の内一つはこちらへ視線を向けている。

 

《問題ありません。あの程度の存在であれば、あなたの技術、魔力を持ってすれば圧倒し、完膚無きまでに殲滅するなど容易い事でしょう》

 

「そ、そうか……。じゃあ、よろしく頼む」

 

何だか物騒な奴だなぁとちょっと引きつつそれが出来るなら願っても無いことなのでお願いする。

 

《了解しました。それでは私の装具としての名前の登録の後に、相棒の名前の登録を行います。私の名前を告げて下さい》

 

「名前、か……。そうだな、スティールなんてどうだ?」

 

唐突に名前を付けろと言われ、周辺をきょろきょろしながら名前を決める。周囲に存在する鈍色、鋼鉄の如き光、現状を表す単語だが、うん。結構良い名前ではないかと思う。

 

目の前の宝石は一瞬輝くと、再び言葉を発する。

 

《良い、大変良い名前であると判断いたします。『装具名:スティール』と登録いたしました。続けて、相棒の名前を告げて下さい》

 

なんだか嬉しそうに聞こえる声で返答するスティール。ちょっとこそばゆい。

 

「中田堅一だ、よろしくなスティール」

 

《了解いたしました。『装具使用者名:中田堅一』と登録いたしました。これより正規使用者中田堅一の名の下に、武装・装具・相棒として私は存在いたします。以後よろしくお願いします》

 

大仰な事を言っているが、まぁコンゴトモヨロシクという事だろう。自分も軽く返して合意する。

 

《それでは続いて武装・バトルジャケットの登録を行います。あなたの戦闘技術に一番見合うであろうものを最適化し自動登録しますが、よろしいでしょうか?》

 

「あぁ、それで構わないよ」

 

《了解いたしました。それではこれより、武装・バトルジャケットの装着を行います。装着が終了し次第、地上へ降り戦闘を開始して下さい》

 

「ああっ!」

 

言うと共に、全身が輝く。

 

スティールの周囲に鈍色をした四角の板が現れ、それにスティールが嵌ると、自分の胸元へと装着される。

 

そこから全身に鈍色の光が伸び、白、小学校の制服と道場で使用する道着の間の子のような色合いと形状の服が現れ、両の手足には、鈍色の手甲、足甲が嵌められた。

 

どうやら徒手空拳での戦闘が最適であると判断されたようで、これならば山田流での鍛錬が無駄にならないと考える。スティールが、使用者の補助を最大限に考えた相棒なのは間違いないな。

 

ゆっくりと地面へと降下し、なのはちゃんとその背後で待機していた小動物の間に到着する。

 

「お待たせ、なのはちゃん」

 

「け、けんちゃん……」

 

「君は、魔導師だったのか?」

 

戸惑いを多分に含んだなのはちゃんと、小動物の声。まぁいきなりこんな事になれば戸惑うのも間違いは無い。というか魔導師っているのか?

 

化物は空気を読んだのか状況に戸惑っているのか、体当たりを敢行していたのを辞め、自分を睨みながら待機している。

 

「今からその魔導師みたいだ。んで、今からちょっとそいつ、倒すから」

 

「えっ」

 

言うや否や、化物へと接近し、回し蹴り。化物は叫び声もあげぬまま、横っ飛びに吹き飛ぶ。

 

身体が羽のように軽いのに、一つ一つのインパクトに重みを感じる。手足には得体の知れない力が漲り、本来では対抗できないはずの化物を吹き飛ばす程の力を与えてくれた。

 

「これが、魔力って奴か」

 

《その通りです。今は攻撃部位への付与程度に収まっていますが、あなたの魔法資質に合わせ、修練を重ねれば射撃などにも利用可能となります》

 

「そっか、なるほど。これならあいつにも対抗できるって訳だな」

 

拳を握りしめ確信する。確かにこれなら、あの程度の化物は完膚無きまでに磨り潰せてしまいそうだ。

 

「す、凄い……。初めての魔法戦闘でこんなに圧倒するなんて」

 

「けんちゃん、凄いの!」

 

なんだか驚いてるのか感心してるのか分からないリアクションで喋る小動物と、きゃいきゃいと喜ぶなのはちゃん。お兄さん、久しぶりになのはちゃんの笑顔を見た気分ですよ。

 

自分が蹴り飛ばした化物のほうを見ると、地面を何度か転がって停止したような跡があり、今起き上がってこちらを見たようだ。

 

《さて、追撃をしましょう》

 

「わかってる。……しかし淡々と物騒な奴だな」

 

《そのように製作されていますから》

 

冷静な発言に同意しつつ、つい思ったことを言ってしまうが、スティールはしれっとした声で返事を返す。こいつ、中々にいい性格してるな。

 

言われた通りに追撃する為、再び化物へと接近する。

 

向こうはやっと身体を起き上がらせたばかり。防御しようときっと攻撃は通るだろう。このままぶち抜いてやる!

 

「喰らえぇっ!」

 

地面を踏みしめ、思いっきり拳を突き込む。当たる! と思った直前、化物は三体へと分裂し、小さくなって背後へ飛び自分の拳を回避した。

 

「チッ、その程度の知性は持ち合わせてるか」

 

《現在のあなたの魔法技術では三体を一度に屠る魔法の行使は困難です。面倒な奴ですね》

 

「全くだ」

 

さてどうしたものかなぁ、と思いつつも全く脅威を感じない奴らへの対抗手段を考える。まぁ一体一体潰していくのが確実だろう。

 

その方向で考えを纏めた所で、化物三体がなんとなーく、ジリジリと後退しているのに気付いた。

 

「えっ……?」

 

まさか……、と気付いた時にはもう遅かった。

 

三体の化物は、自分に思いっきり背を向け、前に向かって全力前進した。

 

つまり、全力での遁走だ。

 

「なん……だと……」

 

「わっ、逃げちゃった!」

 

思わぬ事態に呆けた自分と、驚くなのはちゃんの声。なんだよ、やる気出したらこれかよ……。

 

「二人とも、そんな事言っている場合じゃない! 追いかけないと街に被害が出るよ!」

 

小動物の言葉にハッとし逃走した化物を見る。奴らは既に小さくなって家屋の上をピョンピョンと飛び移っている。確かにこのままじゃヤバイ!

 

「けんちゃん、追いかけよう! 二人で行けば三匹でも大丈夫でしょ!」

 

「わかった! すぐに行こう!」

 

「うん!」

 

なのはちゃんの言葉に同意すると、なのはちゃんはすぐに空へと浮かび、ギュイーンと化物の行った方向へと飛んでいく。

 

そうか、魔法だったら飛べるのかと思い自分も飛ぶ為にスティールへと話しかける。

 

「スティール、自分も飛べるか?」

 

《問題ありません。飛ぼうと思うだけで飛翔魔法が行使されます》

 

「よし、行くぞ!」

 

掛け声と共に空へジャンプする。すると、その飛翔魔法が行使されたのだろう、鈍色の光が一瞬煌き、自分は空を勢い良く飛んでいた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

結構速度出るんだなぁと思いつつ空を飛び、化物達を追跡する。屋根を飛び移っている奴らをすぐに目視圏内に捉える事が出来た。

 

《あと10秒程で接触が可能です。またあの少女により魔法による遠距離射撃が敢行されるようですので、我々はそのサポートに回りましょう》

 

「遠距離射撃って、マジですか」

 

スティールの言葉に驚きつつなのはちゃんが降り立ったビルの上空を通過する。上から簡単になのはちゃんの様子を確認すると、持っていた杖の形状が変化しており、なのはちゃんは両手で杖を構え、右手はトリガーのようなものに添えられている。周囲には桃色に光り輝く魔方陣。

 

《彼女は遠距離魔導師としての適性が高いようですね。相棒の適性は中・近距離となるでしょう》

 

「そうか、近距離戦闘だったら問題ないな」

 

なるほど、なのはちゃんは射撃の適性があるのか。今度ガンアクションゲームでも買ってみようかな。

 

《砲撃魔法が発射されます。発射予測カウント、3…2…1…》

 

スティールが言い終わる前に、自分の背後から桃色の光が勢い良く走る。これがなのはちゃんの魔法かぁと感心しながら眺め、その光が三体の化物に伸びるのを確認する。

 

一体目、二体目共にその魔法はぶち当たったのを確認したが、三体目は器用にも、飛び上がって背後からの魔法を避けやがった。

 

「一体避けられたか」

 

《我々の出番です》

 

「だな」

 

避けた最後の一体、宙に高く飛んでいる一体を捉えるため加速し、その正面に回りこむ。

 

「グオォ!」

 

「食らえ!」

 

呻き声をあげる化物にお構いなしに下から上へ突き上げるような蹴りを放ち、更に空中高く放り上げる。

 

《強力な一撃をイメージして下さい。攻撃部位へと魔力を集中し、相手へと叩きつけるのです》

 

「わかってる!」

 

《あなたの技術は足場を力場とする事で本来の効果を発揮します。魔法があれば、空中であろうと足場は生成可能です》

 

スティールの言葉に今いる場所から高く跳ぶようにイメージし、足に力を入れる。足元はまるで地面があるかのように反動を捉え、その足場を元に、跳び上がった。

 

《そうです。そしてその足場は任意の場所に生成できる》

 

「ありがとうよ!」

 

ジャンプの勢いで高く舞い上げた化物を追い越し、空中で宙返りし、逆さまになり再び足を踏ん張る。イメージとして天井を蹴る感じだ。

 

数瞬の待機の間、両腕に自身の胸から湧き出る熱い塊、魔力を両腕に集め、一気に天井を蹴る!

 

 

 

「はあぁっ!」

 

 

 

ドン、という音と共に天井を蹴り、舞い上がった化物の土手っ腹に、両手で掌打をぶち当てる。全体重と落下の勢いを乗せた双掌打、威力は十分だろう!

 

「グオオォォ……」

 

双掌打を受けた化物は叫び声をあげた後、光の粒となり消えていった……。

 

後に残ったのは、淡く光り輝く六角形の水晶のようなもの。何にせよ、化物は目の前から消えた。

 

「あぁ、これで終わったのかな……」

 

《初の魔力行使戦闘としては、上々だったのではないでしょうか。お疲れ様です、相棒》

 

光り輝くその水晶を手に収め、遠くから近づいてくる桃色の光を眺めながら、胸元で喋る相棒に答える。

 

「あぁ、お疲れ様。相棒」

 

 

 

こうして、自分の魔法との邂逅は終了を告げた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「でもけんちゃん凄かった! あんな事できたんだね!」

 

「いや、なのはちゃんも最後の砲撃凄かったじゃん」

 

きゃいきゃいと喜んでいるなのはちゃん。いやいやあなたも十分凄いですから。

 

「いや、二人共凄かったよ……。僕なんかよりも魔導師として才能がある」

 

「ま、お前には色々聴かなきゃいけない事があるからな。そこらへんも含めて説明してもらおう」

 

なのはちゃんの胸元に抱えられた小動物から発せられた言葉に、しれっと返事を返す。こいつには色々聞かなければならない事があるのだ。もう既に巻き込まれているので、だんまりは許さない。

 

「さっきの化物の事といい、光る結晶の事とか、色々と教えてもらわないとな」

 

「うん、わかってる……。僕には君たちに教える義務があるから」

 

何だかシュンとしてしまった小動物にちょっときつく言ったかなと思いつつ、これから来るであろう問題に思いを馳せる。

 

色々と非現実的な状況が起こり、一般的に言えば子供であるはずの自分となのはちゃん、二人が共に危険極まりない戦闘行為へと参加し、しかも打ち勝ってしまった。

 

負ければ良かったのかとかそういう話ではなく、なぜ我々にこのような力が存在するのか、も含め理解しなければならない。そしてあの化物を生み出したとされる結晶体の話も。

 

「まぁその前に、自分達のほうが色々話をしておかなきゃいけない状況みたいだけどね」

 

「ふえ?」

 

元通り、人が存在するようになった世界を歩いている中、遠目に見える槇原動物病院の前で佇んでいる一人の男の影を確認し、自分は呟く。

 

立ち止まった自分につられなのはちゃんも立ち止まると、その影が自分達に近づいてくる。

 

距離がだんだんと近づくにつれ、なのはちゃんの顔が不思議そうな顔から驚きと困惑、そして怯える顔へと変化していった。

 

目の前の影の持ち主はもの凄く満面の笑顔を自分達に振りまいていた。但し目は笑っていない。

 

 

 

「さて、一体何が起こって、どういう事なのか。事情を説明して貰おうかな」

 

 

 

底冷えするような、冷徹な怒りを湛えた高町士郎さんが現れた!

 

 


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