魔法少女リリカルなのは 夢現の物語   作:とげむし

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第二十五話

 

嘱託試験は恙無く終了した。

 

模擬戦にも勝利できたし、まぁ問題ないだろうと思う。

 

さて、訓練校での日々が始まるのだが、どうなるのか……。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

AM5時に起床。近隣をひとっ走りしてシャワーを浴びた後で朝食を全員一緒に頂戴する。プレシアさんとリニス、ファリンさんの共同で作る毎食

 

はとても美味しいものである。

 

AM7:30にはみんなに見送られながらモノレール駅へ。そこから30分程で、自分達が現在所属する武装隊第四陸士訓練校へと到着。

 

特別待遇、と言うと聞こえは良いが「魔力と技術を下手に持った扱いにくいガキを纏めて面倒見る」為の部屋に三人揃って入り、鞄を置いて一息

 

つく。

 

「今日のプログラムなんだっけ?」

 

「えと、午前は座学を二時間、後は体力トレーニングと、魔法の訓練だね」

 

何気なく言った言葉にフェイトが反応しプログラム表を読み上げてくれる。このプログラムは週に二回あるプログラム。5日の内3日はトレーニン

 

グと魔法技術に関する訓練が主になる訳である。

 

自分達は短期プログラムというやはり特別待遇での所属になっており、内容もより実戦向けの通常よりも濃いもの、らしい。自分は余り実感が無

 

いのだが。

 

なのはちゃんは最初の頃「筋肉痛がぁぁ」とか呻いている事もあったが、最近は慣れたようで余り言わなくなっている。それでも翌朝痛む事があ

 

ったりするらしいが。

 

フェイトも自分も、現状の体力トレーニングはそれ程苦ではなく、というか自分に至っては物足りなさを感じている訳で。帰ってからも動く事が

 

頻繁である。

 

「堅一の体力は、凄いと思う」

 

「にゃはは……」

 

「実家の稽古のほうが何倍も辛いからなぁ。ともかくなのはちゃんは、基礎体力をもっとつけていかないとね」

 

「うぅ、が、頑張ってるんだけど、ね……」

 

自分の言葉に乾いた笑みを浮かべるなのはちゃん。まぁ現状でもほんの少し前よりは体力がついてるから良いか。

 

「あ、そろそろ先生来るよ」

 

「そうだねフェイトちゃん。座学の教科書出しておこう」

 

チラリと時計を見て言うフェイトに倣いいそいそと教科書とノートを準備する。それが丁度終わると同時に、部屋の扉がガラリと開かれた。

 

「はい、皆さんおはようございます」

 

『おはようございます』

 

管理局地上本部の制服を着た、中年のおばさんが部屋に入ると同時に挨拶をしてくる。何を隠そうこの人こそ訓練校のトップであるファーン・コ

 

ラードさんなのである。

 

トップ自ら教鞭を振るうという事実が、如何に自分達がこの訓練校にとって異質であるのかを物語っている。そもそも短期プログラムなんていう

 

のも通常有り得ないのだから。

 

「それじゃあ今日は、管理局法の153ページからやりましょう。座学の時間は短かったけれど、最後まで手を抜かないように」

 

「はーい」

 

先生の言葉に気持ちよく返事を返す。

 

そう、自分達がこの訓練校に在籍する時間は、本日で終了となっていたのである。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

座学を終えた後は魔法の授業。

 

通常であればまずは魔法の発現から行使までをじっくりと教わる訳だが、自分達の場合は特別プログラム。既に実践で行使している魔法を高めて

 

いく授業となる。

 

つまり、実技ベース。身体に教え込むとも言う。

 

ファーン先生は流石と言うか、教導官であった実績もあり教えるのが巧く、また教導隊の教え『分かるまで何度でも身体に叩き込む』を実践して

 

くれるものだから、それぞれ実技の伸びが、特になのはちゃんの伸びが目覚ましい。

 

今は特別プログラムの最終段階「一本取ろう」を実施中である。誰から? 自分から。

 

「ハァッ!」

 

「っと、残念」

 

迫り来るザンバーの持ち手を掴みクルッと転がす。勢い良く突っ込んできたのと同様、勢い良く転がったフェイトが「うきゅぅっ!」と面白い声

 

を出す。

 

「バスターッ!!」

 

「自分の動きは止まってないよ」

 

「っ、立ち直りが早すぎるの!!」

 

フェイトを転がした一瞬の隙を突いて撃たれたエクセリオンバスターを掻い潜りなのはちゃんへと迫る。自分の言葉に文句を言いながらもシュー

 

ターをいくつも出しながら後方へと下がりつつこちらへと放つ。むぅ、シューターの生成速度が以前の比じゃないな。

 

お陰で懐に潜り込み難くなってしまった。

 

「このっ、余裕そうな顔して避けてるぅ~!!」

 

「いやいや、これでも結構頑張ってるんだよ」

 

プンスカと擬音がつきそうな感じで怒りを表しているなのはちゃんだが、そんな姿も可愛らしくて微笑ましい。

 

だが飛んでくるシューターは鋭い機動を描きつつ自分に迫る訳で。4つのシューターが飛んできているのを確認し、先行した2つを避け、残る2つ

 

は勢いと機動を読み、魔力を両腕に込め、円を描くようにして受け止める。

 

バシンッ、と高いを音を立てつつ自分は両手でシューターを受け止めた。

 

「まっ、またそれぇ~!!」

 

「なのはちゃんのお陰で段々慣れてきたんだよね。もうそろそろ他人の魔力弾を―――」

 

「セェェッ!!」

 

背後からやはり迫ってきていたフェイトの斬撃を飛び上がる事で避け、先程掴んだ魔力弾を投げつける。

 

「ちょっ! それズルイ!!」

 

「―――攻撃に転用できちゃったね」

 

既の所を避けたフェイトからも似たような文句を言われるとは。自分としては不本意な訳ですよ。

 

「このっ、いいから、早く、当たれぇっ!!」

 

「そうそう当たる訳にはいかないでしょうが」

 

「フェイトちゃん頑張って!!」

 

フェイトの斬撃となのはちゃんのシューターを避けつつさてどうするかと考える。二人共ここ最近の実践で良い感じに鍛えられており、目立つ隙

 

が非常に少なくなっている。

 

このまま行けば魔法ありなら御神流の剣士にも引けをとらない戦いができるのでは無いかと思えるものがある。まぁそれだけ訓練校での実践が有

 

益なものだったのだろう。

 

だが自分としては、まだ負けてやるつもりは無いのである。

 

今のフェイトの斬撃と、シューターの機動。恐らく誘い込まれている訳だが、ここは誘いに乗ってやる。予測した地点へ回避運動を行うと、両腕

 

両足に、桃色と金色の輪っかが取り付き身体の自由を奪ってきた。

 

「設置型バインドか。器用だなぁ」

 

「ふふん、一杯練習したんだから! フェイトちゃん、今日こそやっちゃえぇー!!」

 

「堅一、覚悟ぉっ!!」

 

まるで本気で自分を殺そうとするかのような裂帛の声に軽く冷や汗をかく。おいおい覚悟って、本気で殺す気か。

 

思いっきりザンバーを振りかぶって迫るフェイトだが、そうは問屋が降ろさないのである。

 

「はぁぁっ!!」

 

「ムゥンッ!!」

 

大振りの斬撃が迫る中、足から膝、腰、肩から腕へと勁と魔力を伝いまずは両腕のバインドを破壊する。

 

「うそっ!」

 

「セイッ」

 

続いて足のバインドを破壊してからザンバーを左手で受け流し、そのまま当て身投げでござる。狙いは勿論、なのはちゃん。

 

「ずっ、ずるいぃぃいいっ!!」

 

「は、はわっ! えぇ、受け止め、え、でもそうするとあれ、詰んだっ!!」

 

「その通り!!」

 

飛ぶフェイト、慌てるなのはちゃん、フェイトを追うように駆ける自分。なのはちゃんが避けようと受け止めようと、自分が迫っている以上もう

 

ほぼ詰んでいるのである。

 

この詰みを打開する方法は一つ。しかしなのはちゃんが……。

 

「えぇいもう!! フェイトちゃんごめん! バスターッ!!」

 

「なのはっ! はぴゅぅ―――」

 

「そこまでするかーっ!!」

 

やったよこの子! 飛んできたフェイトをショートバスターで撃ち落としたよこの子!

 

魔力ダメージで地面にドシャァッと墜落したフェイトに心の中で両手を合わせ、なのはちゃんに一気に踏み込む。

 

「わっわっ、とにかく防御!」

 

「それは、悪手だって!」

 

自分が踏み込むと同時、守る為にプロテクションを張ったなのはちゃん。だが、自分の拳はその障壁を抜けるのだ。

 

勁が障壁を通して抜け、なのはちゃん自身に衝撃として伝える。

 

バーンッ、という炸裂音と共に、プロテクションが割れ、なのはちゃんはがっくりと崩折れた。

 

「うぅ……けんちゃんはずるい……」

 

「なのはちゃんは意外と酷いよね。フェイトを撃ち落としたり」

 

自分の言葉に、なのはちゃんはガックリと地面に突っ伏した。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

とりあえず本日で短期研修プログラムは終わりという事で、帰ってからお疲れ様のパーティーである。

 

「いやー異世界を堪能したわねぇ」

 

「うぅ……結局ほとんど研修で終わっちゃった……」

 

お肌をツヤツヤさせたアリサちゃんの言葉に、なのはちゃんが悲しそうに呟く。

 

研修は当然休日が設けられており、本来であればその休日にみんなで観光でもしようと言っていたのだが、なのはちゃんが体力的にきつい部分が

 

あったので休日は専らなのはちゃんの休息日となっていたのである。

 

そんな訳で、なのはちゃんは観光が殆どできていない。まぁ代わりにアリサちゃんやすずかちゃん、はやてちゃんは思いっきり楽しんでいたよう

 

ではあるが。

 

研修自体は今後も定期的に講義を受けたりとかが発生するらしいので、その際にでもまた改めて観光を楽しもう。

 

今はとりあえず、はやてちゃんの件が無事終わるよう頑張るべきなのである。

 

早速明日には帰って久しぶりの休息を取り、その後日常に戻ってから再びはやてちゃんの蒐集を手伝う日々となる。

 

過密という訳では無いが、明らかに小学生がやるようなスケジュールでは無いというのが何とも言い難い。

 

少なくともなのはちゃんの分は自分の方で何とかカバーしなければ……。

 

「ほらケン! アンタも飲みなさいよ!」

 

「アリサちゃん、ジュースで酔ってるのかよ」

 

まるで絡み酒の酔っぱらいのような事を言うアリサちゃんに引き摺られるように、自分も皆の輪に入ってジュースで乾杯をしまくった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

ミッドチルダから戻って日常への帰還。

 

その間にも色々な出来事があったが大事件という事でも無く、極々普通の出来事が様々に起こった。

 

夏を巡って秋になり、気付けばもう冬。季節の移ろいは早いものだなぁと感じる。

 

そんな中、はやてちゃんを救おうと闇の書の蒐集を継続している自分達、とりわけヴォルケンリッターの四人には、何か焦りのようなものを感じ

 

始めていた。

 

少し前辺りから活動距離を伸ばし始め、怪我を厭わず魔導生物を討伐して蒐集を行う。周囲の意見をお構いなしに、彼女達は蒐集を行なっていた

 

 

「最近、少しずつ……麻痺が広がっているとプレシアさんや病院の石田先生に言われて。だからシグナム達も焦って」

 

何かあったのかと問いかけた所そう返してくれたのはシャマル。彼女以外はそこまで冷静ではいられないという訳か。

 

「だからって、焦って蒐集しようにも最近じゃ魔導生物に警戒されてしまっているし、彼女達の魔力で余計出てこなくなっちゃいますよ」

 

「それは分かっているんだけど……ごめんなさいね」

 

「シャマルさんに謝ってもらっても、ね」

 

焦る気持ちも理解できる分、謝罪されても困ってしまうのである。

 

このままのペースでは今年中には蒐集できないかなぁと考えつつ、もう一つの事も考える。今闇の書の蒐集を手伝っている人間の中で、自分だけ

 

が魔力を提供できていない。

 

安全のため、とリリナさんは言うがそれがどれだけの意味なのか。なので最近、リリナさん、スティールと魔力提供に関する相談を行なっている

 

のである。

 

自体は騎士たちの焦り様から、思った以上に切迫している可能性もある。その時のために、恐らく魔力量の多い自分が魔力を提供できれば、相当

 

の助けになれるのではないかと思っている。

 

リリナさん、スティールとは相談の上、はやてちゃんの人命と、自分の人命を優先に、本当に切迫した自体に陥った時のみ魔力を提供するならば

 

という事で一定の理解を得られている。

 

その際に何か起こった場合の事も考えて、現在リリナさんは何やら制作を行なっているらしいが、何を作っているのかは分からない。

 

この日から数日、自分達はとてもやきもきしながら蒐集を行なっているのだった。

 

そして12月。そろそろクリスマスが目前に迫ってきたある日に、とうとう一本の凶報が舞い込んできた。

 

はやてちゃんが、倒れた。

 


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