なのはちゃん達のリベンジも成功し、魔導師みんなで蒐集活動。
魔法生物を痛めつけてリンカーコアを抜く事になる訳だけど、流石になのはちゃんは抵抗があるみたい。
それでも頑張ってやってくれるのは、はやてちゃんの為だから、かな。
◇◇◇◇◇
今日も今日とて蒐集活動。なのはちゃん、フェイトの二人は少しお休みで、今日のヴォルケンはザフィーラとシャマルの二人。
「……前線メンバーじゃないけど大丈夫なのか?」
「ま、そこはやり方があるのよ。ザフィーラ、お願い」
「承知」
シャマルの一声にザフィーラが両手を前に構え魔力を溜める。
「オオオオオオッ!!」
掛け声と共に魔法が発動し、砂漠地帯の一部に氷の山が隆起する。なるほど、土の中の生物を炙りだした訳か。そして串刺しになった生物が数匹拘束されている。
この状況に思わずクロノと二人、感心してしまう。
「……あれ、便利じゃね」
「あぁ。効率が良いようにも思えるが」
「これ程の魔力行使、回数を熟せるものではない。後はシャマル、頼んだ」
「えぇ。クラールヴィント」
シャマルの言葉にデバイスがペンダル状になり、ヒモ部分で輪を作る。そこにシャマルが手を突っ込むと、何とびっくりその手にはリンカーコアが。
「――はい、終了。どう、私達もそれなりにできるでしょ?」
「余り回数は熟せないがな。我とシャマルは補助が基本だからな。後は結局、我とお前たちで魔法生物を狩るしか無い」
「いや、なんていうか。それよりシャマルの今の行動にビックリなんだけど」
「リンカーコアを抜き出すとは。恐ろしい事をする……」
クロノと二人、戦慄する。綺麗な顔してやる事エグいなぁこのお姉さん……。
「も、もうっ! そんな怖がらなくてもいいじゃないですか! 皆さんにはやったりしませんよ!!」
「はい、すいませんでした」
プリプリ怒るシャマルに思わず謝罪。この人怒らせたら何されるか分かったもんじゃねぇ。怒らせないようにしないと。
クロノとザフィーラ、三人で静かに頷き合う。ていうかザフィーラ、お前もこっち側でいいのか。
「……将などより怒らせると一番厄介なのがシャマルだ。生活一般を基本的に仕切っているからな」
「あぁ、兵糧攻めか」
「お前も苦労してんだな……」
渋い声で言うザフィーラの肩を叩いて慰める。まぁそんな光景が目の前で繰り広げられたら、面白く無い人も居るわけで。
「ザフィーラ! 私そんな事したりしてないでしょ!」
「物の例えだ。そして事実でもある」
「もう! 今夜のザフィーラのご飯抜きね! 謝っても許しませんからねーだ!」
完全に兵糧攻めだ。プリプリ怒ってる。ザフィーラが落ち込んだ。なんだこれ。
「……とにかく! 今は蒐集を続けよう。みんな、いいな?」
気を取り直すように叫ぶクロノの言葉に、りょうかーいとみんなで頷く。
こんなんで本当に大丈夫なんだろうか、不安だ……。
◇◇◇◇◇
7月。終業式。そして夏休み。
これから始まる長期休みに胸を期待で膨らませる子達が多い中、自分の周辺では二人、必死こいて勉強している人間が居た。
「ここは文章から作者の心情を読み取るという問題なんだけど、この文章の中に感情を表す言葉があるから、それを掴むんだ」
「な、なるほど……」
「フェイトちゃん、そこはこっちのを代入して計算するの」
「う、うん、分かった……」
自分となのはちゃん、アリサちゃんやすずかちゃん、はやてちゃんも交え、みんなでフェイトとアリシアに勉強を教えている。
終業式に近い日程で、フェイトとアリシアの聖祥大学付属小学校への編入試験があるので、その為の勉強が本格化しているのである。
フェイトの場合嘱託試験もあるのだがそれはミッドチルダ語なので問題が無いと判断して置いておき、今は必死になって日本独特のテスト構造に慣れる為みんなを巻き込んで勉強していた。
ちなみにここまでの成績だけで言うと、アリシアの方が上である。見た目的にはフェイトの方が年上なだけに、フェイトが物凄く凹んでいた。
フェイトは自分達が嘱託試験の勉強をしている時には丁寧に教えてくれるので頭が悪い訳ではないのだろうが、何となく取っ掛かりで引っかかっている事が多いのである。所謂考えすぎ。
そしてアリシアは要領が良い。問題から必要な部分だけを抽出し精査する事が頭の中で出来ている。アリサちゃんとタメを張るだろう回転の良さである。
何となくプレシアさんの魔導師としての才能がフェイトに、科学者としての才能がアリシアに受け継がれている印象だ。
そんな事をこの間ついポロッとプレシアさんの居る前で言ってしまったら大層お喜びになって一日中ニヤニヤしていた。そして晩御飯をご馳走になったのだが無駄に豪華だった。食後のデザートまでついてた。
まぁそんな感じで最近は結構頻繁にテスタロッサ家にお邪魔している訳なのだが、何ともプレシアさんは心配性な部分がある。
編入試験が近づくにつれソワソワしだして桃子さんや翔子さんにどんな問題が出るのかとかウチの子大丈夫かしらとか翠屋で相談して親馬鹿っぷりを発揮。
自分達が勉強を見ている事である程度の安全マージンはあると考えている訳だが、面接とかがとっても心配だと言っている。
そんなプレシアさんは今は翠屋にてリリナさんとリニスを連れてアフタヌーンティである。
今この空間には子供しかおらず、みっちりと勉強する事が出来ている。
「―――ぷぁあっ! おわったーっ!!」
「はいおつかれアリシア。うん、解答に問題は無いから安心していいぞ」
「ほんと、やったー! もー作者の心情とか『―――』の部分にあるであろう心情を綴るとか意味わかんないよー!」
「まぁ確かに、感性に関する問題が多いからな、国語は……」
「答えがキッチリ出る算数のほうが好き! 割り切れなくても四捨五入できるほうがイイ!」
気持ちは分かるがバタバタ足を動かすんじゃありません。中が見えるでしょうが。
「うん、大丈夫。フェイトちゃんもおつかれさまーっ!」
「ありがとう、なのは……。あ、そうだ。冷蔵庫にみんなが来た時用のケーキがあるんだ」
「ホント! じゃあ私手伝うよ。取りに行こう!」
「あっ、じゃあ私も一緒に行くね」
フェイトの言葉になのはちゃんとすずかちゃんが立ち上がり、フェイトと三人一緒にリビングからキッチンへと移動する。
そんな中自分はと言えば、嘱託試験のテキストを流し読みしながらアリシアとアリサさんの相手をしていた。
「ねぇケン、そのテキストミッドチルダ語ってやつよね。凄く英語みたいなんだけど」
「多少の違いはあるけど英語と変わらないよ。ベルカ語はドイツ語だね」
「ふーん……。それにしても一般問題と言うよりは常識問題かしらね、これ。法を犯さないという常識をテストする為のものか」
アリサちゃんの言葉に静かに頷く。そう、このテキストで記載されている筆記試験対策は一般問題というより常識問題、即ち管理局に所属して問題無いかの人格テストが主なのである。しかも配点の少ない。
この筆記をクリア出来なくても後の実技試験各種をクリアできれば大丈夫という点で、管理局という組織に若干の不安を覚える。
自分達の知る管理局員はクロノやリンディさん、エイミィといった一般的な人格を持つ人物しか居ない訳だが、もしかしたらそういう組織に所属するには問題のある者も実力を買われて所属しているのかもしれない。非人格者の統治する実力主義の治安維持組織、その危険性は言わずもがなである。
ま、そこまで考える必要は無い。自分達には目の前に試験があるだけなので、やるべき事をやるだけである。管理局がどうとか、考えても仕方が無い。
「ね、そういえば夏休みに管理世界のミッドチルダって所行くんでしょ? あたし達も行けないかな」
唐突にそんな事を言うアリサちゃん。
彼女の言う通り、自分達は試験の為管理局本局という何処かの宇宙に存在する宇宙ステーションのような場所に行った後、そのまま管理局の訓練校があるというミッドチルダという本星に行き三週間程滞在し特別メニューの研修を受ける予定となっている。
いきなりどうしたのかと思うと、答えは単純だった。
「だって違う世界よ? そりゃ興味あるに決まってるじゃない!」
「うーん、多分お母さんに相談すれば何とかなると思うよ。訓練校になのは達が滞在する間、私達も一緒にミッドに行って宿泊場所提供するからねぇ」
アリサちゃんの言葉にアリシアが気前の良い返事を返す。
そう、訓練校へ行くに当りリンディさんがまず提案したのが訓練校の施設に宿泊する事だったのだが、それにプレシアさんが反対しプレシアさん達も同じ時期にミッドチルダへと渡り、自分の所有する家を提供し宿泊する事となったのだ。
これには大人の考えというか、訓練校には自分達より年上の人間が基本所属している事もあり、才能ある若者を妬む者が少なからずいるだろうという事に対するプレシアさんの気遣いである。
自分達としてもこの提案は有りがたかったの飛びついたのである。
「ホント! じゃあ私と、そうね鮫島。あとすずかとファリンさん、はやてぐらい行けるように相談できたらいいんだけど」
「うん、お母さんが帰ってきたら相談すると良いよ。私じゃわかんないしー」
アリシアがそう言うと、アリサちゃんはもうミッドチルダに行ける気になって色々と聞いている。気候がどうとか美味しいものは何があるとか。
そんな光景を見ると、本当に女子っていうのは話題に事欠かない生き物だなぁと感心する。
男の自分には分からんベクトルで世界が回っているんだろう、きっと。
◇◇◇◇◇
そして、とうとう夏休み。
フェイトとアリシアの試験も終わり、自分達も学校が長期休みに入った。
入って早々、異世界への旅行である。いや、自分となのはちゃん、フェイトの三人は嘱託試験なんだけどね。
地球からの面子は自分達となのはちゃんの保護者として美由希さん。すずかちゃんにファリンさん、アリサちゃんに鮫島さん、そしてはやてちゃんである。
はやてちゃんに関しては本人は渋ったのだが、雲の騎士四人が声を揃えて行け行けと促したので参加になった。騎士達としては主が居ない間に四人総動員で蒐集でき、かつ安全性の確認されている場所へ連れて行ってくれるという事で諸手を上げて自分達の旅行に賛成してくれたのだった。
この面子で一路アースラへ転移魔法で向かい、そこからすぐに転移装置で本局と呼ばれる宇宙ステーションへ。ここで一旦自分達嘱託試験組はみんなと別れて早速テストである。
「筆記試験は30分です。それでは、始め!」
バッと裏返された解答用紙をひっくり返した名前を書き、問題を解き進めていく。それにしても試験官がリンディさんというのは良いのだろうか。
まぁいいならいいんだけどねと思いながら長くて短い30分を終え、次は面接。
「面接官のレティ・ロウランです。初めまして」
「中田堅一です。初めまして」
眼鏡を掛けたキリリとした女性、レティさんが手を伸ばすので握手。柔らかく握った後、自分の後ろに備え付けられている椅子へと腰掛けた。
それにしても、この面接にもリンディさんか。
「あの。なんでリンディさんも一緒に居るんですか?」
「え? 何故って私も面接官。私提督だし、これでも地位は高いのよ?」
何言ってるのと言わんばかりのリンディさんの言葉に思わず眩暈を覚える。大丈夫なのか管理局。一個人の裁量が大きすぎやしないか。
「それで、中田堅一君。君は先に面接したなのはちゃん達とは違って魔法は不得手だそうだけれど」
「え、えぇ。まぁ不得手というか。自分の場合魔法を使って攻撃するより近付いて殴った方が早いですから」
「んー。まぁ言わんとする事は分かるわ。魔法技術より、自身の技量を信頼したスタイルなのね」
レティさんは面接官らしくカリカリとペンを走らせメモを取っている。対するリンディさんはニコニコ。ほんと何で居るんだこの人。
「レティ、堅一君は山田流というご実家の武術を習得しているわ。並の道場であれば皆伝となる腕前だそうよ」
「ちょっと待って。山田流はいいですけど皆伝がどうとか誰が言ったんですか」
いきなり喋り出したリンディさんの言葉に待ったをかける。いきなり何を言い出すんだこの人は。
「え、誰ってあなたのお父様が言ってたって、翔子さんが」
「……いやいやいや。初耳すぎてビックリなんですけど」
全く初耳な言葉に本当に驚く。翔子さんが言ってたって事はまぁ、本当なんだろう。それにしても、自分はそこまで強くなっている気がしない。何せ毎日雅俊さんや父さんに叩きのめされているんだから。外に出れば恭也さんに士郎さんにも、だ。まぁ美由希さんには勝てる訳だが。
「あら、そうなの? 言わなかったほうが良かったかしら」
「いいえ、リンディ。それは良い情報よ。ありがとう」
不思議そうな顔をするリンディさんにレティさんは鋭い視線を向け礼を述べる。何だか二人がどういう関係なのかを垣間見た感じである。
そんな面接を終えた後は、訓練室へと足を運んで儀式魔法四種の実践。これはなのはちゃん、フェイト、アルフも一緒に行う訳だが特に問題も無く終了。
何せこの試験、いくら時間が掛かってもいいから出来る事が重要なのだという試験である。時間をゆっくりかけて四人で一つの魔法を創りあげて終了である。作る魔法も攻撃性のあるようなものではなく結界魔法の一種なのだ、何の危険もありはしない。
まぁ自分となのはちゃんはこの時ただの魔力タンクであり、本当の意味で儀式魔法を行ったのはフェイトとアルフであった。
何だかズルした気分だが、受かってしまえば良いのだ、うん。
そして最終試験、魔導師とその使い魔、つまり四人で模擬戦である。もちろん相手は管理局で用意された人間なのだが。
「まさかこんな形で君と杖を交える事になるとは、な」
自分達の向かい側に立つクロノが苦々しい表情で呻く。
そう、試験官は忙しい業務の合間を縫って付き添ってきてくれたクロノなのである。そして彼の脇には例のグレアム提督の使い魔が二人。
「クロスケ、なぁにそんな苦い顔してんのよ」
「知り合いだからって手を抜いたら駄目よ」
短い髪、リーゼロッテがからかうように言うと、長い髪、リーゼアリアが諌めるように忠告する。
そんな二人の言葉を受けても、クロノの表情は変わらず苦い表情だった。
「うぅん、クロノ君にロッテさんとアリアさんか……」
「中距離はクロノが抑えてくると思う。遠距離はアリア、近距離でロッテだろうね」
「とりあえずいつも通り、自分が先手を打つから」
「あたしが堅一のカバーに入ればいいんだね」
なのはちゃん、フェイト、アルフと四人で立ち回りに関する会議を行い、結局『いつも通り』という事で落ち着いた。
作戦会議は終わると向こうも話が終わったのか、苦々しい表情が晴れないクロノを尻目に猫姉妹二人は意気揚々とポジションに就く。
予想通り、クロノを間に挟むような陣形である。
『それでは、そろそろ始めます』
訓練室の内部が見える観覧席に居るレティさんからマイクで声がかかる。その声に自分は手を挙げて質問。
『何かしら、堅一君?』
「”手は抜いた方がいいですか?”」
『……これは試験です。実力を全て出しなさい』
自分の質問に外野のレティさんは重い声で、目の前の猫姉妹は表情を怒らせ、クロノは更に苦味を増やして自分を見つめている。
さて、言質は取った。それじゃあ、やるとしよう。
背後に居るなのはちゃん、フェイト、アルフと黙って頷き合い、開始の合図を待つ。
『それでは……開始!』
合図と同時、トップスピードで最前に居るリーゼロッテの前へ飛び出す。
「へっ?」
急加速から急停止。発生した勁を足から腰に、右腕へ。踏み込みと同時、リーゼロッテの顔面へ思い切り叩き込んだ。
「ロッテ! くそっ、だからあれほど言ったんだ! スティンガーレイ!」
「あっまいよ!」
吹き飛んだロッテを見ながら自分に向けて射撃魔法を発射するが、既にカバーに入ったアルフによって弾かれる。その後ろから更にフェイトがハーケンセイバーでクロノへと斬りつける。
「ちっ! アリア!」
「っ! このぉっ!」
フェイトの斬撃を避けたクロノの指示でアリアが射撃魔法を打ち出してくるが、フェイトのプロテクションで弾かれる。フェイトはそのまま、後ろへと上昇してその場から退避した。
それに合わせて自分達も一旦下がる。
「っ! マズ! アリア防壁をてんか――――」
何が来るのか分かったのだろう、クロノが指示を出すがもう遅い。クロノとアリア。二人纏めて、桃色のぶっとい閃光が貫いた。
「ぅきゃぁぁっ!!」
「ぐ、おおお! また火力上がってるんじゃないのか!」
「最近は早いのも打てるの!」
二人を貫くなのはちゃんのディバインバスターに対してクロノが全くその通りな文句を述べる。そしてクロノの感想に恐ろしい注釈をつけるなのはちゃん。二人が恐ろしい砲撃を耐えているのを眺めていると、横から突き刺さる殺気を感じたので思わず身体が反応する。
「このクソガキ! よくもやっ――――」
それがロッテだと気づく前に、向けられた拳を受け流して懐に入り掌打で顎をかち上げる。あっ、ロッテだと気付いたと同時に左足で足を払い身体を背後へと泳がせる。背中から地面へと落ちる前、まだ高さがある状態で、胴へと拳槌打ちを叩き込む。
再び床へと沈んだロッテを確認してからクロノとアリアの方へ視線を向けると、フェイトがアリアと、アルフがクロノと交戦していた。
素早い動きで翻弄しながら的確にアリアの隙を突き距離を取らせないソニックフォームのフェイトに、バインドやバリアブレイクを駆使しながら中距離主体のクロノ相手に負けじと食らいつくアルフ。アルフの方は少々押され気味であるが、問題無さそうだ。
とうとうアリアがフェイトの速度に対応出来なくなり決定的な隙を生んでしまった。綺麗に足をハーケンセイバーで狩られてバインドで拘束される。
これが接近戦主体のロッテだったら巧く行かなかったかもしれないが、ロッテは今自分が拘束している。具体的に言うと脇固めで。
自分の下からバンバンと床を叩く音と「いたたたたっ! やめっ、やめてぇ!」という悲鳴が聞こえるが、まだ模擬戦は終わっていないので無視している。
「うにゃぁっ! クロスケッ! 早く降参しちゃいなさい!!」
「クロノ……」
「もう二度と、君達とは模擬戦をやらないぞ」
両手を挙げて降参したクロノの顔は、とても苦り切ったものだった。
◇◇◇◇◇
結局あの模擬戦は初手から相手の調子を崩した自分達の勝利、という話になったらしい。なのはちゃん、フェイトは兎も角魔法を戦闘服ぐらいしか使っていない自分は良かったのだろうかと思ったが、レティさんは少々苦い顔でこう言った。
『魔法使ってないって……。ま、まぁあなたの戦闘技術は目を見張るものがありますし、バリアジャケットの展開も問題無いので構いません』
自分なんかで驚いていたら、恭也さんなんかもっと速いのにどうするんだと思ってしまう。恭也さんが魔法使えたら間違いなく最強だろう。フェイトだって純粋な速度で勝てないのだから。
そんな感じで、無事嘱託試験をパスした自分達は、いよいよミッドチルダへと向かう事となった。
「……僕はここまでだ。ミッドチルダには母さんが共に行くから」
「あぁ、ありがとうクロノ」
模擬戦の後からずっと自分達に着いてくれていたクロノに礼を言う。ちなみにリーゼ姉妹はロッテがノックダウン中なのでアリアが面倒を見ているそうだ。ふむ、ちょっとやりすぎてしまったか。あの脇固めは力入れすぎたかもしれないな。反省。
「ありがとう、クロノ君。お土産いる?」
「いや、ミッドチルダは僕の出身世界だから」
「そっか。じゃあお菓子とか何か買ってくるね」
聞いてないよこの子達。クロノも苦笑を浮かべて「じゃあ頼む」とか言うしか無いわそりゃ。
そうしてクロノに別れを告げ、自分達が試験の間本局を見学していたみんなと合流してから一路、転移装置でミッドチルダへ。
到着したのは建物内の一室。そこからリンディさんを先頭に廊下を歩き、表へと出る。
意外と普通の景色の町並みを眺めながら、それでも未来っぽいデザインのモノレールに乗って、ついた先は閑静な住宅街。
マンションや大きな家が立ち並ぶ通りを抜けて、一番高そうなマンションへと辿り着いた。
「さ、ここが家よ。入って」
何やらカードを通してドアを開けたプレシアさんに従い中へ入ると、外からの見た目通り、高級そうな室内へと案内された。但し、空気は淀んでいるが。
「……やっぱり、掃除が必要ね。何年も使ってなかったから」
持ち主であるプレシアさんが言う通り、所々埃が積もっていたり、鉢植えが倒れていたりしている。
何でもヒュウドラの事故の後、この家には帰っていないそうだ。
「それじゃあみんな、掃除しましょ!」
『はーい!』
アリシアの号令と共に、大掃除が始まった。何しろこの家に現在一番詳しいのはアリシアである。この家を離れた時には既に意識は無く、この家に住んでいたのはつい昨日の事のようなものなのだ。霞んだ記憶でしかないプレシアさんより余程詳しい。
「まさか、こうして帰ってこれるなんてね」
「プレシア……」
物思いに耽るプレシアさんと、その様子に笑みを浮かべるリニス。何とも良い話、なのかな?
兎も角大掃除を行い、部屋が綺麗になったのは、夜も更けてからだった。
「今日は材料も無いので出前です。それじゃあいただきましょう」
リニスの言葉の通り、自分達は買い出し等していないので当然食材も無く、今夜は店屋物。ピザ食べ放題であった。
「うわーい! ピザだ~ピザだ~い!」
「ちょっ、ちょっとアリシア……」
出前ピザにはしゃぐアリシアとそれを諌めるフェイト。周りのみんなも思い思いに食事を取り始めた。
「ね、けんちゃん。明日から訓練校だね」
「ん、そうだねぇ」
ピザを食べながら話しかけてくるなのはちゃんの言葉に、思わず考える。
魔法を知ってから僅か三ヶ月。そのたった三ヶ月で、自分の製造者が目の前でピザ食ってたり、異世界に来るような事になるなんて思いもしなかった。
「思えば遠くへ来たもんだ……」
「ほんと、そうだよねぇ……」
なのはちゃんと二人、黄昏れる。ちょっとここ最近の時間の流れに疲れてきている気がするのである。
もう少し、平穏が欲しいです。
「訓練校では、平穏が欲しいなぁ……」
「多分、無理だよぉ」
なのはちゃんの言葉に、ですよねー、としか返せない。
神様でも何でもいいですから、もう少し自分達に、平穏を下さい……。