魔法少女リリカルなのは 夢現の物語   作:とげむし

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第二十二話

 

闇の書の精密検査が始まった。

 

帰ってきたプレシアさん、リリナさんの下、はやてちゃんとヴォルケンリッター、闇の書本体の調査を行う。

 

グレアム小父さんも地球に来ているようだし、これから一層闇の書関連で慌ただしくなってくるな……。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

精査の翌日、自分を含め海鳴の魔導師とはやてちゃんの友人であるアリサちゃん、すずかちゃんを交えた仲良し組一同で時空管理局の艦船アースラへと招待された。

 

事前の話通り、本日ここでグレアムさんとはやてちゃんの面談が行われるのである。

 

「皆さん、お久しぶりです」

 

招待された自分達にまず挨拶をしてきたのがジュエルシードの件でもお世話になったこの艦船アースラ艦長であるリンディさん。今回もやはり関わってくるという事らしい。

 

その隣では息子のクロノ、エイミィさんも一緒に頭を下げる。自分達も軽く会釈をすると早速リンディさんは自分達を艦内を案内する。

 

リンディさんに先導されて向かった先は、アースラ艦内に設けられている大食堂。

 

どうやらここで、一先ず待機のようである。

 

「はやてさんは一緒に来てくれるかしら。グレアム提督の所まで私が案内します」

 

「ホンマですか、お願いします」

 

リンディさんの言葉にはやてちゃんは嬉しそうに頷くと、そのまま車椅子を押されてリンディさんと共に食堂を出て行った。

 

何やらヴォルケンリッターが不安そうな表情をしていたが、はやてちゃんに関しては安心できるだろうと思う。リンディさんがはやてちゃんに対して何かするとは思えない。

 

「君達はここで時間を潰して欲しい。好きな飲物を言ってくれ、用意するから」

 

銘々に好きな所へと着席、子供組は子供組で一塊になって座るとクロノがそう促してくるので、みんなで好き勝手に注文する。そうして頼んだ注文を持ってきたのはエイミィさん。クロノは一人、ヴォルケンリッターの正面へと座りムッツリ顔で彼女達を隠す気もなく監視していた。

 

「…………失礼だが。我々に何か問題が」

 

正面に座ったクロノの態度が気になったのだろう、代表であるシグナムがとうとう口を開き戸惑いがちにクロノへと話しかけた。

 

対するクロノもクロノで、眉を若干傾け不機嫌そうな顔でシグナムの顔を見つめる。

 

「11年前、闇の書の暴走が発生した時の事を覚えているか?」

 

「11年前……。シャマル、どうだ」

 

「ごめんなさい、分からないわ。過去の事は相変わらず、霞がかったように朧気なの」

 

ヴォルケンリッター二人の言葉に、クロノは大きく溜息を吐いた。

 

「そうか。11年前にも闇の書の主が現れ、我々時空管理局が対処に当たった事件があった」

 

「その話はプレシアから聞いている。我々には何故か詳細な記憶が無いのだが、な……」

 

「闇の書の主を護送中に闇の書が覚醒し、時空管理局の艦船が一隻、犠牲になった。その船の艦長であった僕の父が最後に闇の書と共に小型艇で自爆し、その事件は終息した」

 

クロノの言った言葉にヴォルケンリッターが息を呑む。目の前の少年が、紛れもなく闇の書の被害者の一人だったのだ。

 

そしてクロノが被害者の子供であるという事は当然、母親であるリンディさんも被害者の妻という事になる。彼女達の気分としては、色々複雑だろう。

 

「僕は君達を責めるような事はしない。だが、償いは必要だし、君達を責める者も居る事は理解しておいて欲しい。闇の書の被害は、それほど大きなものなんだ」

 

「……そう、なのだろうな。済まない」

 

クロノの言葉にシグナムが頭を下げる。だが、彼女達には分かっていないだろう事が分かる。どこか、他所で起こった事件を語るようなその表情は、自分達が過去に行なっていた事に対する実感を感じる事が出来ていない現れだった。

 

それがクロノにも伝わったのだろう、彼はその不機嫌そうな表情を諦めにも似たものへと変えていた。

 

「まぁいい。今は闇の書の対策に集中するべきだ、その際には君達ヴォルケンリッターにも協力して貰う事になる」

 

「もとよりそのつもりだ」

 

シグナムの返答と共に食堂の入口の扉が開かれ、はやてちゃんと車椅子を押すリンディさん、その後ろに初老の男性と年若く見える女性二人が姿を表した。

 

「さて、必要な人員は集まったようだ。これから闇の書の対策会議を始めよう」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

食堂に集められた一同は、まず現状の説明を受ける事となった。昨日精査したばかりの闇の書に関する詳細な内容を、プレシアさん、リリナさんの二人から説明して貰う。

 

「まずは昨日の検査結果から報告するわ。こちら、現在の闇の書のデータ構造になっているわ」

 

プレシアさんがそう言って提示した画像は、何だか分からない文字が幾何学的な文様を浮き出しているようにしか見えない。

 

「先生、これじゃ分かりません」

 

どこから取り出したのか指し棒を振るいながら喋るプレシアさんに、すずかちゃんが手を上げて言う。

 

すずかちゃんの言葉にプレシアさんは一つ頷くと、違う画像へと切り替えた。

 

「今のデータ構造をビジュアル的に見たものがこちら」

 

なら先にこっち出せよと突っ込みたいが突っ込んだら負けなのだろうと思う。

 

二枚目の画像では、真っ黒い空間に存在する白銀の髪を持つ女性と、蠢く無数の蛇が女性を守るかのようにドームを構成しているのが見えた。

 

「まずはこの女性、恐らくは闇の書の管制人格ね。解析をかけようとした所この蛇が邪魔をしてこのように対応されてしまったわ。恐らくこれが、防御プログラム」

 

「ただこのプログラムは多くのバグを内包しているようで、管制人格の命令を受け付けずに調査機材に対して攻性データを大量に送ってきたわ。まぁそこは何とか凌いだんだけど」

 

「つまり、闇の書に関する問題の大元はこの防衛プログラムという事よ」

 

あっさりと言ったプレシアさんの言葉に、一瞬食堂がざわつく。ざわつきの元はヴォルケンリッターと管理局側。我々仲良し組としてはふーんとしか言えない。

 

「先生、それじゃあこのプログラムを消去すればいいんじゃないですか?」

 

「はいアリサさんいい着眼点よ。確かにその通りなんだけど事はそう単純じゃないの」

 

まるで本当の先生のように笑顔で宣うプレシアさんに突っ込みたい衝動に駆られるがやはり負けたくないので何も言わない。そして何故か嬉しそうなアリサちゃんにも突っ込みたい。

 

「次はこの防御プログラムの解析データ。凡そにだけれど機能が割れたわ」

 

「はい。この防御プログラム『ナハトヴァール』には、無限再生機能が備わっている事が確認されています。またマスター認証機能の破損、過去に行われたプログラムの改変により完全起動後に暴走するよう施されている事も確認されています」

 

「今回の調査では八神はやてさんの魔力を仲介して中を覗いた訳だけれど、それが無ければ調査中に主を取り込んで暴走されていたかもしれないわね。あぁそれと、はやてさんの脚の原因もこの防御プログラムの維持に必要な魔力を捻出する為にリンカーコアを侵食しているからだと思われるわ」

 

プレシアさんとリリナさんの軽快なトークに誰も口を挟めない。というか結果を述べているだけなのだろうが、色々とヘビーな内容が多すぎるのだ。

 

「という事で、まず何とかするには管理者権限を持ってアクセスする必要があり、それをするには闇の書を完成させなければならない訳だけど。管制人格に関しては脅威は無いと思って良いわ。それとヴォルケンリッターも」

 

「ヴォルケンリッターに関してはプログラムの保有権を管制人格が所有しているみたいです。ただ防御プログラムが少なからず影響しており、過去の出来事に関するデータの消去、若しくは改竄が毎回行われているようです。そのデータすら魔力へと変換し防御プログラムの増強へと使用されている痕跡があります」

 

「という事は、我々が今一度闇の書内へと戻った際には」

 

「またまっ更な状態で始まる訳ね。闇の書に関する必要なデータだけを保有した状態で」

 

プレシアさん達の言葉に、シグナムとシャマルが愕然とした表情で答える。他の二人も沈痛な面持ちで二人の説明を聞いていた。自分達に気付かない欠陥があった事が名言された事でショックを受けたのだろう。致し方のない事ではある。

 

二人の説明が一段落した所で、クロノが手を挙げて質問した。

 

「つまり、我々の対応としては一先ず魔力の蒐集を行わなければいけない、という事か?」

 

「簡潔に言えばね。闇の書の完成後、暴走までに若干のタイムラグが予想されるのでその間にはやてさんが管制人格のマスター認証を受け、防御プログラムを切り離す。防御プログラムを破壊後に我々でバグの修復を行うというのが私達の提案できる唯一の解決策ね」

 

「その対応策の成功率は?」

 

「はやてさん次第、とは言わないけれど頑張ってもらう必要はあるわ。高い訳では無いけれど、決して低くはない数字よ」

 

「自分の事やし、任せといて下さい」

 

ドン、と自分の胸を叩いて言うはやてちゃん。何とも肝っ玉の座ったお嬢さんだ事。

 

「これで闇の書に関する説明は以上よ。対策に関しては管理局にお任せするわ」

 

プレシアさんは言う事は言ったと言いたげな顔で説明を終え、リリナさんと一緒に席へと戻る。ちょっとすっきりした表情は、きっと研究者らしい仕事を久々にした所為だろう。

 

全く何やってるんだかと思っていたら、食堂に設けられた壇上に、先程見かけた初老の男性が登った姿が視界に入った。

 

「さて、それでは対策会議を続けよう。とは言っても先程プレシア女史が説明した通り、対策としてはまずは闇の書を完成させなければいけないらしい。なので、ここで取り急ぎ希望者を募り、魔力の提供をお願いしたい。勿論私は魔力を提供しようと思うし、業務に支障の無い範囲で武装隊にも提供して貰うつもりだ」

 

初老の男性――恐らくアレがグレアム小父さん――が言うと、クロノとリンディさんが同意する。まぁ最短距離で目的を果たすのであれば魔力のある人間が提供するのが一番手っ取り早いのは確かだろう。

 

ならば自分も、と思った所でスティールから声が上がった。

 

《相棒は止めておいた方が良いでしょう。不確定要素が多すぎます》

 

「不確定要素? なんでだ」

 

唐突な言葉に思わず問いかける。

 

《相棒の場合、他の方と違って魔製結晶と肉体との結びつきがより密接なのです。下手をすれば最悪の事態も予想されます》

 

「私も、ケン君の提供には反対かな。危険な可能性が高いから」

 

スティールの言葉にリリナさんが同意する言葉を述べる。ふむ、最悪の事態ね……。

 

「下手をすれば死ぬかもしれないって事?」

 

《場合によっては、ですね》

 

ふむ、確かにそれは勘弁だな。

 

「大丈夫だよけんちゃん。私が代わりに提供するから」

 

「私も」

 

自分達の会話を聞いていたのだろう、なのはちゃんとフェイトが自分に声をかけてくる。

 

何とも歯がゆい気持ちではあるが、致し方ない。

 

「申し訳ないけど、お願いね二人共」

 

「まかせて!」

 

何故か自信満々に応えたなのはちゃんの姿に、思わず笑顔を浮かべてしまった。

 

「それではヴォルケンリッターの諸君、まずはこの場にいる人員から蒐集を頼む」

 

グレアムさんの指示に従いヴォルケンリッター、シャマルが闇の書を手に取り各々の席へと回る。

 

「なるべく痛くないようにしますから」

 

そう言いながら蒐集を開始してはいるが、どうにも蒐集を受けている人の表情は辛そうである。

 

「……なのはちゃん、やっぱり辞めたほうが」

 

「だ、大丈夫、大丈夫だよ。なのは注射とか平気だもん」

 

周囲の状況を見て若干不安そうな表情を浮かべたなのはちゃんに声をかけたが、気丈な答えが返ってくる。表情は相変わらず不安そうではあるが。

 

どうしたものかと考えながら、今さっき蒐集が終わったプレシアさんへと声をかける。

 

「プレシアさん、どんな感じなんですか……」

 

「……何というか、無理矢理魔力を引きずり出される感じね。回復魔法を後でかけてくれるからラクになるけれど」

 

「うわぁ」

 

想像するだけで嫌な感じだった。

 

そしてとうとう順番的に最後、フェイトとなのはちゃんの番が回ってきた。

 

「ごめんなさいね、少しだけ痛むかもしれないけれど」

 

「だ、大丈夫、です」

 

優しく言うシャマルの言葉にまたもや気丈な返事を返すなのはちゃん。フェイトも同様に静かに頷き、二人とも苦痛の表情を浮かべながら、魔力の蒐集を完了させた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

息が荒くなる二人に心配そうにアリサちゃん達が声をかけるが、どうも返事をする余裕が無いのか、黙って頷くだけだった。

 

ふと、正面を見るとシャマルが自分の前へと立っている。

 

「貴方も、大丈夫かしら?」

 

「えっと……ごめんなさい。自分は少し事情で、蒐集は辞めたほうがいいとドクターストップが」

 

「え、そうなの?」

 

きょとんとした表情のシャマルに横からリリナさんが声をかける。

 

「その子はちょっと特殊なので。申し訳ないけれど、もしもの時だけにして貰えるかしら」

 

「そう、ですか。……この子程の魔力があれば、大分ページも埋まるんですけれど」

 

「ごめんなさいね」

 

残念そうな表情ながら、納得してくれたシャマルに心の底から申し訳無く思う。何だか自分だけ提供していない事でかなり罪悪感がある訳だが、しょうがないと割り切るしかないか。

 

そして、蒐集のダメージからある程度回復したらしいグレアムさんが、プレシアさんへと声をかけた。

 

「ドクター、蒐集のダメージはどの程度で回復できる?」

 

「そうね……万全を期すのであれば、一週間ほどは魔法を使わずに居れば大丈夫だと思うわ」

 

「なるほど。ではこの後アースラに乗っている武装隊の人員から希望者を募り蒐集を行なってもらい、一週間程経ってから、無人世界の魔導生物から蒐集する為の行動を取るとしよう。みんな、それでいいな」

 

グレアムさんの言葉に全員が頷く。

 

いよいよ、本格的な闇の書修復計画が始まろうとしていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

一週間後という事は少なくとも一週間は暇な時間がある訳だが、自分達には新たな仕事が待っていた。

 

「嘱託魔導師?」

 

「そう。簡単に言えば管理局の仕事を正式に手伝える資格を取って欲しいのよ」

 

とあるマンションの一室。何とアースラの人員が地球に降りて闇の書対策に関する拠点としているファミリータイプのマンションがあり、そこに自分となのはちゃんは呼び出されリンディさんに説明を受けていた。

 

嘱託魔導師、業務を嘱託できる人員という事なのは理解できるが、突然なぜこのような話が出てきたのだろう。

 

そう質問を素直にぶつけると、リンディさんは申し訳無さそうな表情で事情を説明してくれた。

 

「現在ただの人員としては足りているんだけれどね。ほら今回無人世界へ行って蒐集しなければならないじゃない」

 

「えぇ、確かその予定ですよね」

 

「その場合、ヴォルケンリッター達も駆り出す訳だけれど。何かあった時にヴォルケンリッターを御する人員がクロノかグレアム提督の使い魔しか居ないのよ。でもクロノも彼女達も、武装隊の指揮とかをしなければいけないからヴォルケンリッターと常時行動する事が出来ないの。だから」

 

「可能性として御する事の出来そうな自分達にそれを嘱託したい、という事ですか」

 

「そういう事よ。こちらの都合で申し訳ないのだけれどね」

 

心底申し訳なさそうに言うリンディさんに、それも仕方ないかと思う。クロノは現場指揮やら武装隊への指揮、それと未だ姿を現さないユーノとの連絡などに忙しいのを見ているし、あのグレアムさんの使い魔二匹も何やら忙しいようである。

 

人手不足な印象は否めない。

 

「どうする、なのはちゃん。自分は良いんじゃないかと思うんだけれど」

 

「うん、私は問題ないよ。そういえばフェイトちゃんは?」

 

「フェイトさんには既に打診してあって、プレシアの許可も貰ってるから今嘱託試験の勉強中なの」

 

「試験があるんですか?」

 

「えぇ。簡単な筆記試験と実技、儀式魔法4種と戦闘技術の適性試験ね」

 

試験か。何とも大変そうな。

 

自分と同じ事を考えたのか、なのはちゃんも若干嫌そうな顔をした。やっぱり試験というのが気になる。

 

「それで、お願い! もうあなた達しか頼れる子が居ないのよ!」

 

目の前でパンと掌を合わせてお願いするリンディさんに、もうしょうがないなと思いつつ分かりましたと承諾する。

 

すると、リンディさんは嬉しそうな表情で脇に置いてあった紙袋を二つ、机の上にドンと置いた。

 

「これ、嘱託試験の参考書と、ミッドチルダ語の教本。覚えておいてね」

 

「こんなにあるんですか……」

 

紙袋の中にズラリと並べられた参考書に思わずうわぁと声をあげるなのはちゃん。その気持ちはよく分かる。

 

「じゃあ二人共、よろしくね」

 

笑顔でそう宣うリンディさんに、思わず辞めとけば良かったと思ってしまった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

蒐集が行われてから一週間。小さくなったリンカーコアも回復し、いよいよ無人世界で魔法生物に対する蒐集活動を開始する手筈が整った。

 

この活動には当然地球側の現地協力者として自分となのはちゃん、フェイトの三人が協力する事になるのだが、そこへ待ったをかけた人物が現れた。

 

「……我々も管理局の武装隊にも問題は無い。だが、この少女達を活動に参加させるのは」

 

そう苦言を呈するのは、ヴォルケンリッターの将、シグナム。

 

彼女達活動の中心となるヴォルケンリッターが、自分達三人の参加を拒んだのである。まぁ言いたい事も理解できる訳だが。

 

「つまり、自分は兎も角なのはちゃんとフェイトの実力が分からないから、参加させるのはどうなのかという事か」

 

「概ねは。だが堅一、私は貴様の魔法も見た事が無いのでな」

 

どうやら自分も含まれるらしい。さてどうしようかと思った所で、なのはちゃんがレイジングハートをセットアップ。

 

「じゃあ、模擬戦しましょう。それでいいですよね」

 

「ん、あぁ。相応の実力を見せて貰えれば問題無い」

 

「じゃあ私も」

 

シグナムの返事にフェイトもデバイスをセットアップし、二人共臨戦態勢に。だがしかし。

 

「やるなら訓練室にしてくれ」

 

事の成り行きを見守っていたクロノの頭を抱えながらの一言で、場所を訓練室へと移す事となった。

 

訓練室に移ってからなのはちゃんとフェイト、シグナムとヴィータという2対2の構図でお互い向き合う。

 

戦うヴィータの姿は見た事あるのだが、以前と違い赤を基調としたゴスロリ風の衣装に身を包み、シグナムも桃色の衣装に白の外套といった騎士風の装束となっている。

 

「おぉ、よぉできとるやん。さすが私!」

 

「アレ考えたのはやてちゃんなのか」

 

「そうやで。戦うには騎士甲冑が必要やとか言うからな」

 

自分と同じように見学していたはやてちゃんが嬉しそうに応える。なるほど、彼女達は何だかんだで仲良くなっているようだ。

 

はやてちゃんの後ろに控えるように立っているシャマルとザフィーラにも、きっと騎士甲冑とやらがあるのだろう。やはり魔法は便利である。

 

そうこうしていると、いよいよ模擬戦の開始となった。

 

フェイトが飛び出すとシグナムが迎え撃ち、援護しようとしたなのはちゃんをヴィータの誘導弾が遮る。何とも上手に1対1の構図へと持ち込んだものだ。

 

フェイトはフォトンランサーを打ち出しながら牽制し、隙あらば喰らいつくようにバルディッシュの魔力刃で斬りかかるが、こういった手合には慣れているのだろう、シグナムは危なげなく捌き、逆にフェイトへと斬りかかる。

 

なのはちゃんは近距離では不利だと理解しているのだろう、ディバインシューターで牽制しながら距離を離し適度に離れた所でバスターを狙うが、ヴィータも中々巧く立ち回り砲撃のチャージができないようだ。

 

一合二合と牽制と迎撃を交えた所で、何やらシグナムがデバイスを操作し、シグナムのデバイスがガションと動く。それと同時に、ヴィータのデバイスも部品がスライドし、同時にハンマーヘッドだったものが先端がドリル、背部がジェットエンジンの噴射口のような形状に変化する。

 

「なんだあれ」

 

「あれはカートリッジシステム、ベルカの騎士が用いる瞬間的な攻撃力を飛躍的に向上させてくれるベルカの秘儀よ」

 

自分の疑問にシャマルが丁寧に応えてくれ、システムの概要が理解できる。要は瞬間的なパワーアップという所か。そしてシグナムが納刀状態から一気に抜刀、炎を吹き出しながら刃をフェイトへと振り切る。そしてヴィータも同時に、変形したハンマーを回転させながらなのはちゃんへと衝突させる。

 

なのはちゃんとフェイト、二人共プロテクションで直撃を避けた訳だが。残念ながらプロテクションを砕かれ、二人共デバイスを破壊されてしまった。

 

『あぁーっ!!』

 

訓練室をモニターできるモニター室に、スピーカーから聞こえる二人の声が響く。まぁ自分の愛機が破壊されてしまったらそりゃあ、悲鳴も挙がるというものである。

 

レイジングハートは柄が砕かれ、バルデュッシュは真っ二つ。何とも見事な武器破壊である。それを行ったヴィータ、シグナム共に涼しい顔でデバイスを壊された二人の様子を見ている。

 

相手の武器を破壊すれば自動的に勝利となるのは当然。模擬戦が始まってから狙っていたとしたら、やはり場馴れしているのだろう。

 

こうして、なのはちゃんとフェイト、二人の模擬戦は終了となった。

 


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