魔法少女リリカルなのは 夢現の物語   作:とげむし

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第二十一話

 

深夜にすずかちゃんに呼び出され、何事かと思えば突然の襲撃。

 

見た事の無い赤毛の少女と無骨な男の強襲に、堪忍袋が一本切れて反撃してしまった。

 

しかし、闇の書関係でいきなり戦闘になるとは、先が思いやられる……。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

朝、どこで寝ようといつも通りの時間に目が覚める。

 

自分の横ではすずかちゃんとはやてちゃんが気持ちよさそうに寝息を立てているのを確認し、二人を起こさないようベッドを降りる。

 

しかし、本当に三人で寝れてしまったなぁ。大きいベッドである。

 

部屋の扉を静かに閉めて、月村邸の居間へと向かうと、ノエルさんとファリンさんが既に色々と動いていた。

 

「あら、堅一様。おはようございます」

 

「おはようございます。すずかちゃん達は未だ寝ていますから」

 

「お帰りになるんですか?」

 

「えぇ。どうせ昼には会う事になると思うので」

 

そう、今日の昼には翠屋ではやてちゃんの誕生パーティーなのである。会わない訳が無い。

 

「それに、いつもこの時間は日課の鍛錬をしていますから。ランニングで家まで帰りますよ」

 

「そうですか。この度はありがとうございました」

 

言いながら深々と頭を下げるノエルさんに両手を振り応える。

 

「いやいや、魔法関連で迷惑かけてるのはむしろ自分達ですから」

 

「それでも、助かったのは確かですわ」

 

「まぁ、そういう事なら。それじゃあ自分はこれで」

 

「はい、またお越し下さい」

 

再び頭を下げて見送ってくれるノエルさんに軽く返事を返してから、玄関を出て外へと飛び出す。

 

さて、ここから自宅まで走って一時間かかるかどうか。いっちょ鍛錬といきましょうかね。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

誕生会より少し前、今日は一日貸切になっている翠屋に集まった主賓以外の面々で桃子さんの作るケーキの香ばしい匂いを嗅ぎながら店内を飾り付け、ケーキが焼けた頃に丁度店内の飾り付けも完了となった。

 

ケーキ以外にも軽食のオードブルが用意され、テーブルの上には花と共にジュースと皿が用意されている。うん、見た目は完全に小綺麗なレストランである。

 

「よし、これで準備はOKかな」

 

「もうそろそろすずかちゃん達も来るって!」

 

携帯のメールを確認しながら嬉しそうに言うなのはちゃん。今日の誕生日ケーキでも桃子さんのデコレーションを少し手伝ったりと、中々気合を入れているのである。

 

「それで、一緒に夜中に出てきたっていう人達も来るんでしょ。大丈夫なの?」

 

店内の飾り付けを完了させたアリサちゃんが言う。確かにそこが不安の種と言うか、面倒な部分の一つではある。まぁいざとなれば。

 

「ここには俺も堅一君も居る。早々何も起こらんさ」

 

「ま、そういう事だね」

 

コーヒーやジュースの用意をしていた士郎さんの言葉に同意する。自分でもある程度の対応が可能だったのである、自分等より手練な士郎さんが一緒に居る限り、ここの安全は保証されたようなものだ。

 

士郎さんであれば、魔法を撃たせる前に事は終わらせられるだろう。

 

その言葉にホッとしたのか、アリサちゃんは一足先に休憩に入っている翔子さん、綾子ちゃん母子の所へと向かい一緒にジュースを飲み始めた。

 

今日の誕生会は今翠屋に居る自分達と、すずかちゃんノエルさんファリンさんで全員である。はやてちゃんは普段からお世話になってるのにと大変恐縮していたが、こういう事は大勢でやるのがベストなのである。

 

翔子さんもはやてちゃんが泊りに来た時は綾子ちゃんが遊び相手としてお世話になっているので時間を空けて二人揃って参加してくれる事になった。

 

こうして賑やかな面子で誕生会の準備を終え、いよいよ出迎える段となった訳である。

 

「けんちゃん、車駐車場に停めたって。もうすぐ来るよ!」

 

「そっか。じゃあ皆さん準備お願いします」

 

それぞれに音だけ鳴るクラッカーを手渡して、出入り口付近に集まるように招集をかける。この事は既にすずかちゃん達には連絡済みで、店内にははやてちゃんが一番先に入れるよう調整して貰っているのである。

 

具体的にははやてちゃんが扉を開けて、はやてちゃんの車椅子をすずかちゃんが押すという役割分担。昨日からすずかちゃんは完全にはやてちゃんのエスコート役なのである。

 

全員にクラッカーが行き渡ったのと同時に、店の入口に飾ってあるベルがカランカランと小気味いい音を立て、来客を告げる。

 

そこには確かに、はやてちゃんとすずかちゃんが居た。

 

『ハッピーバースデー! はやてちゃん!』

 

パーンという炸裂音と共に出迎えられたはやてちゃんはポカンとし、背後のすずかちゃんは楽しそうにクスクスと笑っていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

クラッカーの音から始まり、はやてちゃんが定番のロウソクの火を吹き消した後、それぞれが持ち寄ったプレゼントを渡していた。

 

なのはちゃんは可愛らしく小さな花のついたヘヤピン、アリサちゃんは小さな鍵のついたシステム手帳、すずかちゃんは自分が気に入ったいくつかの本を、自ら作ったという押し花の栞と一緒に。自分は脚が治った後を考えて父さんが良いと言っていた筋力トレーニングの本を。

 

しかし、自分のプレゼントはみんなから大不評だった。

 

「ケン。アンタ、女の子にそのプレゼントはどうなのよ」

 

「私も他のにしたほうが良いよって言ったんだけどねぇ」

 

アリサちゃんの言葉に翔子さんが苦笑いを浮かべながら応える。ちなみに翔子さん、綾子ちゃんからのプレゼントは綾子ちゃんお手製の『おてつだい券』だった。これにははやてちゃんも喜んでいたのだが。自分のプレゼントの何が悪かったのか。

 

「今後の事を考えたら絶対に必要だと思うから、さ」

 

「そうだとは思うけど、誕生日のプレゼントじゃなくてもいいと思うよ……」

 

自分の言葉になのはちゃんが一定の同意を見せるが、やはり基本的には反対派のようだ。言われてみれば確かにと思ってしまった自分の状態を、後の祭りと言うのだろう。

 

「あはは、まぁ堅一君の言う通り今後必要やからな」

 

「ごめん、何か改めて考えておくよ」

 

「期待せんで待っとるわ」

 

あははと笑いながら言うはやてちゃんの言葉に思わず唸る。ぐぬぬ、次こそは皆からも同意を得られるプレゼントを用意しなければ……。

 

パーティーの参加者は勿論自分達だけでは無く、昨夜出現したヴォルケンリッターの四人も居る。ただ、一番小さなヴィータ以外はどこか所在無さげに席に着いており、何とも言い難い。

 

ヴィータはヴィータでオードブルを自分の皿に盛っては席に戻り「ギガうまっ」とか言いながら黙々と食事を取っている訳で。四人一緒に現れたにも関わらず、どこかバラバラだ。

 

まぁそんなもんかなと思いながら、自分は小学生組で談笑していた席を外し、ヴォルケンリッター四人の居る席へと向かう。

 

「どうも。調子はどうだ」

 

「あぁ、これは。……いや何とも、我々がこの場に居て良い物なのかと思ってな。主からすれば我々は突然現れた存在である訳だ。それは昨夜の内に思い知らされた」

 

はぁ、と溜息を付くのはヴォルケンリッターのリーダー、烈火の将シグナム。戸惑いやら何やらで、現状に混乱しているようである。

 

さもありなん。自分が知っている闇の書の事情は極僅かではあるが、彼らの存在は歴代の闇の書の主からすれば謂わば奴隷である。それがこうして主と同じ場に居て良いのかと考えているのだろう。

 

まぁ唯一名、黙々とフォークで肉やら野菜を食っているちびっ子は己の意志のままに食事を貪っている訳だが。

 

「はやてちゃんとの関係に関しては自分達でどうにかしてくれ。自分は唯、あの子達に害が無ければ何とも思わんよ」

 

「そう、であろうな。我らの事を何とも思っていない訳だろう、貴殿は。今の様子でもそれは理解できる」

 

シグナムが自分の心情を理解して呟く。その通り、自分としては彼女達ヴォルケンリッターがはやてちゃんやその周囲に危害さえ加えなければ『どうでもいい』と思っている。自分にとって居ても居なくても変わらん存在である事は確かである。

 

自分は博愛主義者で無ければ硬直的性蔑視信者、所謂フェミニストでも無い。助けたいのははやてちゃんであり、こいつらでは無いのだ。

 

昨夜の襲撃に関してもどうでも良い。結果的に自分は怪我を負わず、誰も犠牲にならずこうして日々を過ごせているのだから。一々恨みを抱いている価値すら彼女達には見出していない。

 

なのはちゃんやはやてちゃんが聞けば怒りそうな事ではあるが、結局そういう事である。

 

今こうして彼女達に話しかけたのも、彼女達から何か引き出せないかと思っての事。はやてちゃんの体調に関する何かを。

 

だが結果は徒労に終わりそうである。

 

「残念ながら、我らは何も分からん。今までに主のような状態にあった者が居たのか、それすらも分からぬ。我らとしても、主があのような状態にあるのは本意ではない」

 

「そうか。まぁ分からないものはしょうがないな」

 

自分が聞くより早くシグナムのほうからはやてちゃんの状態に対する回答があり、少なからず落胆する。

 

彼女達ヴォルケンリッター、闇の書との付き合いが一番長いのであろう存在からの回答が不明である事が、状況の悪さを物語っている気がするのだ。

 

自分達が一番理解している等と嘯かれるのも問題だが、理解できていないという回答も問題がある。即ち、闇の書に関する問題が致命的なレベルで発生しているのでは無いかという事。

 

プレシアさんやリリナさんですら解決出来ない問題であった場合、はやてちゃんはどうなってしまうのか。そこが一番心配である。

 

現在までにプレシアさん達が調べた所では条件が揃うまでは内部の精査が出来ないと言う事。条件とはヴォルケンリッターの出現や、本を縛っていた鎖、所謂物理結界の解除が当て嵌る。

 

その二つはクリアされたので精査が可能となったのだろうが、精査しても結局分かりませんでした、暴走しますではどうしようもない。

 

何とかそれだけは避けねばならない事態である事は理解しておくべきである。

 

「なんや堅一君、こっちにおったんか」

 

横からの声に気付けば、はやてちゃんが一人で車椅子を動かして自分の横へちょこんと存在していた。

 

「あぁ、はやてちゃん。どうしたの?」

 

「堅一君がおるのが見えたからな。それに、私もその子達と話をしとかんといかんし」

 

そう言うと、はやてちゃんは前に座るヴォルケンリッターの面々へと向き直った。

 

「まぁ、なんや。初めは色々あったけど、これからは一緒に暮らしてくんやから、お互い協力していこうや」

 

「主……」

 

「はやてでえぇよ。主なんてガラちゃうし、なんや私ら家族みたいなもんになるんやからな」

 

やっぱりはやてちゃんは、自分何かとは違う。どこまでも優しく暖かで、人懐っこい心を持った少女である。

 

その心が何処かなのはちゃんに似たものが見えたから、自分は彼女と友人になったのかもしれない。雰囲気や考え方は全然違うのに、その心はなのはちゃんと同じくどこまでも真っ直ぐな少女。自分の持っていない心を持つ彼女だからこそ、助けたい。

 

はやてちゃんとヴォルケンリッターのやり取りを見ながら、改めて彼女を救うという決意を、この日心の中で固めた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

フェイト達は、はやてちゃんの誕生会から十日程経ってから帰ってきた。

 

帰ってきてすぐさま翠屋にやってきた彼女達から話を聞けば、どうやらアリシアとフェイト、二人の存在が何とも難しい扱いになっていたそうだ。

 

アリシアは過去の動力炉事故の被害者である事がミッドチルダという当時テスタロッサ一家が住んでいた世界の病院の記録から確認できたそうなのだが、治療が行われた記録も無く、かといって死亡届等が提出された記録も無い。

 

完全に宙ぶらりんな状態だったのだが、この度快復した事で、改めて彼女の戸籍に関する諸々を手続きを行った訳だが、現在の小学1年生相当の外見年齢と戸籍上の年齢では大きく剥離しており、それをそのまま申請する訳にもいかないという事だった。

 

またフェイトという存在が、これはもう完全に0から1が発生した訳で、元々戸籍等も存在しない彼女に対する申請も必要であり、もうどうしたもんかと考えたらしい。

 

そこで諸々の問題を解決する一手を、プレシアさんが取った。つまり、『大人の対応(オカネの力)』というものである。

 

何でも相当な金額を政府やら管理局に寄付したらしく、リリナさんの手続きもついでに紛れ込ませて力技で一気に解決してしまった訳だ。

 

だがそれをするにしても時間は必要になる訳で、結局今までかかってしまったという事らしい。

 

「まぁ元々資財はロストロギアを個人所有可能なよう買い取っても有り余る程持っていた訳だし、今回の出費も特別痛いという訳でも無かったわ」

 

久しぶりの翠屋のコーヒーをゆっくり味わいながら言ったプレシアさんの表情は、微かに悪い顔でした。

 

それにしても帰ってきて真っ先にシュークリームとコーヒーを頼む辺り、かなり海鳴の色に染まってしまっているなぁと思う。

 

そしてその娘達も当然と言うか何というか。相変わらず嬉しそうになのはちゃん達と一緒にシュークリームをハグハグと食べている。

 

ちなみにアルフにはペット用ビーフジャーキーだ。お前狼だろ、それ犬用だぞいいのかと突っ込みたい。

 

「ま、何にせよこれで諸々の手続きは終了。後は家を契約すれば全部終わりよ」

 

「そういうと思って、この物件押さえてあるわ」

 

一緒にテーブルに着いていた桃子さんがスッと取り出したものは物件の間取り図。場所を見てみればなるほど、高町家と翠屋の間にあるマンションのようで、少々値は張るがファミリータイプの好物件のようである。

 

階層も上の方のようで、ベランダ辺りからなら高町家も見えるだろう。

 

「ありがと、早速明日にでも契約してくるわ。今日はもう時の庭園でゆっくり寝たい気分よ」

 

首をコキコキ鳴らしながら言うプレシアさんは、本当に疲れているようである。長旅というのも気分的に疲れただろうし、各種手続きも頑張ったみたいだし、しょうがない事である。

 

「プレシア、そろそろあの話を」

 

「あぁそうね。忘れてたわ、ありがとうリニス」

 

横から何かをせっつくリニスの言葉に礼を述べてから、プレシアさんが自分へと向き直る。

 

「はやてさんの事なのだけれど。明後日にはやてさんの言う小父さん、ギル・グレアムが来るわ。会談のセッティングをして頂戴」

 

「あぁ、その話ですか。だから自分だけこの席なんですね」

 

そう、自分だけプレシアさん、桃子さん、リニスという所謂大人組の席に座らされている。その理由が、今言ったグレアム小父さんに関する話なのだろう。

 

「そういう事。彼は強かな人間でね、当然だけど善意ではやてさんを支援していた訳では無いの。ま、潔さも持ち合わせているみたいだけどね。リンディ達が詰めた所であっさりはやてさんの件を白状したわ」

 

「その人の思惑はどうでもいいですけれど。会談というのは小父さんと管理局のリンディさん達、はやてちゃんとヴォルケンリッターって事ですか?」

 

「いえ、ウチのフェイト達も、貴方も同席して貰うわ。闇の書の対策に関する会議も一緒にしてしまうから」

 

サラリと言われた言葉に思わず目を見開く。何とも大掛かりな話になりそうな気配である。

 

「管理局のほうで対策チームを作ってね。今回私が地球に戻ってくるのと一緒にチームを組んでこちらに来ているの。今は色々準備しているらしくて忙しいみたいだけど、明後日には身体が空くらしいのよ。だから明後日」

 

「それはまた。随分気合入っているんですね」

 

「そりゃ当然よ、管理局も闇の書とは因縁があるからね。ギル・グレアムを旗印に全面的に私達をバックアップしてくれるそうよ」

 

私達って。まるでメインがこちらになりそうな話だ。

 

「まるで、じゃなくてメインで動くのは私達よ。解析は私とリリナ、リニスでやるから。あなた達ははやてさんのケアとか場合によって現地協力者として戦闘行為もして貰う事になると思うから」

 

「管理局はどうするんですか?」

 

「一応武装隊も来てるけど、戦力としてはあなたとなのはさん、フェイトの三人より下よ。場合によってはあなた一人で潰せる程度の戦力」

 

「えっと、弱いって事?」

 

「じゃなくて、あなた達が強いのよ。自慢じゃないけどウチのフェイトは魔導師として優秀、もちろんなのはさんとあなたもね。実戦経験もあるし、魔力量も十分。はっきり言えばあなた達ぐらいの魔導師は、管理局には一握り程度しか存在しないのよ」

 

驚くべき管理局の実情。自分の知っている魔導師は、管理局で言えばほんの一握りに入る実力者であるという事実は結構衝撃的だ。ぶっちゃけて言えば、大丈夫なのかと。

 

「組織立って動く分には何の問題も無いわ。今回の闇の書に関して言えば、主にバックアップを務めて貰う事になるから。実は今回の作戦は、管理局側で動くのはギル・グレアムとアースラの人員だけなのよ」

 

「それはまたなんで」

 

「過去の事件もあって、管理局側では余り関わるべきではないという意見が多いの。放っておけば管理外世界が一つ消滅するだけだから。犠牲を出す可能性を加味して闇の書を確保出来たとしても、それに替わるメリットが少ないという判断よ」

 

「何とも現金な話で」

 

「それが組織というものよ」

 

涼しい顔で言うプレシアさんの言葉に、癪ではあるが納得してしまう。組織として見た場合、管理外世界に存在する闇の書を確保できた時のメリットが少なすぎるという事か。

 

管理外世界、つまり管理局の管轄外にある世界がどうなろうと、管理局ではどうでも良い話ではある。

 

そして闇の書を確保出来た時のメリット、それが見当たらない。良くて過去の被害者の心を慰められる程度なのだろう。人員を割くには余りにも危険が多すぎる、と。

 

「我々も結局個人の事情で動いている訳だから、そこら辺はしょうがないわよ」

 

「ですね。まぁ別に関係ない人達には何も期待してませんから。自分としてはどうでも良い話です。プレシアさんとリリナさんが解析してくれれば、何とかなるでしょう」

 

「そういう事」

 

結局そういう事なのだ。プレシアさんとリリナさん、二人さえいれば恐らく何とかなってしまう。だから別に、組織のバックアップなども必要とは思わない。

 

「ま、早速明日辺りから解析を始めたいと思うわ。はやてさんの都合つけておいてね」

 

「了解してます」

 

プレシアさんの言葉に即答した。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

明けて翌日。昨日の内にはやてちゃん達に都合をつけてもらい、早速久しぶりの時の庭園へとやってきた自分達。はやてちゃんが一通り喜んだ後は、早速はやてちゃんとヴォルケンリッター達、闇の書の解析作業が始まった。

 

「リリナ、準備は出来てる?」

 

「OKですよ。仕入れた機材も繋げられてますし、いつでもいけます」

 

なんとこの二人、管理局の本局と呼ばれる所で暇に任せて研究用の機材等も新たに調達してきたらしい。元々あるプレシアさんの機材に、ハズラットの叡智を誇っていたらしいリリナさんが時の庭園に組み込んでいた機材、そして今回新たに調達した機材と、ここだけで次元世界一の研究施設となるだろうとは、呆れ顔で語ったリニスの言である。

 

「主、本当に大丈夫ですか……」

 

「大丈夫やて心配せんでも。フェイトちゃん達のお母さんなんやから、信用しとき」

 

心配そうなシグナムの言葉にも動じず、はやてちゃんは笑顔で言う。

 

こういう時の肝の座り方はなるほど、はやてちゃんだなぁと妙に納得してしまう。いざという時の心構えがこの年でしっかりとしている。

 

「はやてさん、闇の書を。ヴォルケンリッター達はそこのベッドに全員横になって。はやてさんもね」

 

「了解です。闇の書、ちょっと調べるから大人しくしとってな」

 

はやてちゃんがそう言うと、闇の書ははやてちゃんの顔辺りまで浮き上がり、まるでペットがご主人様にするように頬に表紙を擦り付ける。アレ、あんな風に自律行動も出来たのか。

 

一頻りじゃれ合いが終わると、はやてちゃんは大人しくなった闇の書をプレシアさんへと手渡す。

 

「お願いします。ちゃんと調べたって下さい」

 

「任せなさい」

 

受け取ったプレシアさんは自信ありげに頷き、闇の書をベッドの脇にあるポットへと入れる。蓋を閉めて解析準備を始めると、プレシアさんははやてちゃんを一旦抱えてからベッドへ横にして、機材のセッティングへと入った。

 

「……良し、リリナ。こちらは準備完了よ」

 

「了解です。それじゃあ皆さん、これから解析始めちゃいますので大人しくしてて下さいね」

 

リリナさんが言うと共に、みんなが横になっているベッドが緑の光を放ち始める。ヴォルケンリッターの一番ちびっ子が驚いたようにぎゃーわーと騒ぎ出したがシグナムが一喝すると静かになった。なんだ、本当に子供かアレは。

 

リリナさんとプレシアさん、リニスの三人はそんな事はお構いなしに空間ディスプレイに表示されたモニターを見ながら投写キーボードを華麗な指捌きで操り作業を進めていく。

 

「あっ、とりあえずはやてちゃん。これから眠くなると思うから、逆らわないでそのまま寝ちゃってね」

 

「はい、わかりましたー」

 

「堅一、寝顔を見たりしちゃ駄目よ」

 

「はいはい、わかってます」

 

つまりは出て行け、という事らしい。このまま無言で出て行くのも何なので、最後にはやてちゃんへと話しかける。

 

「はやてちゃん、また後でね」

 

「うん、ありがとう堅一君」

 

笑顔で応えてくれたはやてちゃんに笑顔を返しながら、自分は一路、今頃部屋で引越しの準備をしているアリシアとフェイトの下へと向かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

部屋の片付けが一通り終わっているらしいフェイト達の部屋には、桃子さんが調達していたのだろうダンボールがちょこちょこ積まれていた。

 

数にして4つ程、その数がモノがどれだけ少なかったかを物語っている。

 

「引越しもラクでいいな、この数」

 

「日常的に使うものだけだからね、必要なのは。時の庭園を引き払う訳でもないし、問題ないさ」

 

自分の言葉に同意を示したアルフの言葉に頷きながら、もう掃除モードから開放され部屋で好き勝手過ごしているアリシア達へと声をかける。

 

「二人ともお疲れ。とりあえずみんなで翠屋に行かないか」

 

『行く!』

 

二人揃って言った言葉に思わず苦笑する。ほんと、傍から見るとまるっきり双子である。

 

自分は転移魔法が使えないし、アリシアも同上。なので結局フェイトにお願いして三人と一匹、アルフ人間モードだから四人か。で、翠屋へとお邪魔する。

 

「あら、いらっしゃい。もういいの? けんちゃん」

 

ランチタイムを丁度過ぎた辺りでやってきた自分達を笑顔で出迎えてくれた桃子さんの言葉に頷きながら応える。

 

「今丁度精査に入った所です。ランチ三人分と肉を一人前。自分はハヤシライス、二人共ランチは何がいい?」

 

「ハンバーグ!」「私はスパゲッティカルボナーラで」

 

アリシアは元気良く、フェイトは落ち着いた感じでそれぞれ好きなものを注文する。こういう時は、何とも対照的な二人である。

 

「はい、ちょっと待っててね。先にジュース出すわね、何がいい?」

 

「自分はアイスコーヒーで」「オレンジジュース!」「アイスのレモンティー」「ミルク!」

 

流石にアルフはミルクですか、狼だもんなぁ。笑顔で注文を受けてくれた桃子さんを待ちつつ、四人でテーブル席に座る。

 

今日は平日で、また自分は学校を休んだ訳だが、まぁしょうがないという事で。人一人の命が掛かっている訳だから、誰も文句は言うまい。

 

「久しぶりの翠屋のランチ~」「もうアリシア、はしゃぎすぎだよ」

 

それに、久しぶりの友人とこうして昼食を共にするのも、偶には良いだろう。

 

今はとりあえず、この暖かな一時を楽しもう。


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