海鳴の危機とは縁のない、平穏な日常がやって来た。
増えた友達と楽しく遊ぶなのはちゃんを見て、自分も頑張った甲斐があったものだと思いを馳せる。
フェイト・アリシアの誕生日会が終わり、はやてちゃんの誕生日が、もうすぐだ。
◇◇◇◇◇
「ごめん、はやて。こんな寸前に行く事になって」
春から夏へと切り替わる梅雨入り前のある日。はやてちゃんと一緒に自分達は海鳴臨海公園でフェイトからこんな言葉を告げられていた。
フェイトの傍にはアリシアがおり、表情を少し暗く沈めてしまっている。そして、フェイトとアリシアの手には、小さな箱。
実はフェイト達プレシア一家は、次元震の影響が消えた今日から、時空管理局の本局という場所まで引越しの手続きに行かなければいけないのだ。
手続きが終わるまで帰って来ることが難しく、短くて一週間程度は掛かってしまうらしい。その間、フェイト達は本局へと滞在する事となり、はやてちゃんの誕生日会には出席できない。
本当に、非常に申し訳無さそうな二人の姿は、二三日前に自分達の誕生日をお祝いしてもらったのにという気持ちが多分に含まれている。
そんな二人の姿にはやてちゃんは苦笑を浮かべながら、差し出されたプレゼントを受け取る。
「ありがとう、フェイトちゃん、アリシアちゃん。ええんよ、それよりフェイトちゃん達が早う海鳴に住めるようになる方が、私は嬉しいで」
「うん、なるべく早く終わらせるって、母さんも言ってたから」
「お母さんが頑張ってくれるから、本当にすぐ帰って来るからねっ!!」
「約束やで。そしたらまた一緒に遊ぼうな」
わーっとはやてちゃんの両手を握りながら約束をするフェイトとアリシアの二人。仲良きことは美しきかな、か。
「二人とも、特にアリシアは気をつけて行きなさいよ。あんたまだ足腰弱いんだから」
「二人とも気をつけてね。二人の分もはやてちゃんのお祝いしておくから」
アリサちゃんの的確な忠告にぶーっと膨れるアリシアだが、それでも嬉しそうな表情で分かってると応えていた。
すずかちゃんには、フェイトが車椅子係といういつの間にかついていた役職を代役してもらっている光景が見えた。本当にいつの間に付いていたんだそんな役職。
「アリシアちゃん、フェイトちゃん。早く帰って来るの待ってるからね」
「何かデバイスとか買えたらお土産によろしく」
「あ、あるかなぁそんなお土産」
二人の手を握りぶんぶん振りながら言うなのはちゃんに嬉しそうに、自分のお土産の言葉に苦笑いしながら応える二人は、一通り自分達に挨拶をしてから、海側へと向かっていった。
「それじゃあ、行ってきます」
「なるべく早く帰って来るからねぇ~!」
フェイトの転送魔法で消えていく二人の姿にみんなで手を振り、彼女達を最後まで見送った後、アリサちゃんがパンッと一つ手を打った。
「よしっ、じゃあ次ははやての誕生日の準備よ! はやては今夜すずかの家にお泊り! いいわね!」
「その予定やしなぁ。みんなこの後はどないすんの?」
「みんなですずかちゃん家でお茶する予定だよ。お家に帰る頃まではみんな一緒」
「ま、そういう訳だから。とりあえずすずかちゃんの家まで向かおうか」
今は男である自分がはやてちゃんの車椅子を押す役である。これはフェイトがいた時もそうだったし、今後も自分が居る時は自分がはやてちゃんの車椅子を押すようにしようと思っている。フェイトだけの役目ではないのだよ。
「それじゃあ、出発しんこぉ~!」
「おーっ!」
一声かけてから車椅子を押すとはやてちゃんから声が挙がり、それにつられてみんなが楽しそうに、腕を振って声を挙げた。
◇◇◇◇◇
深夜。中田家の人間も寝静まった、いやもしかしたら翔子さん雅俊さん夫妻は起きているかもしれない時間に、自分の携帯が突然鳴り出した。
目覚ましでもなんでもない通常の着信音に何事かと布団の傍に置いてある携帯を確認し、液晶を見ると着信相手はすずかちゃん。
本当にこれは何事なんだと思いつつ、携帯の受信を押して耳に当てた。
「もしもし。どうしたのこんな夜中に」
『もしもしけん君? ごめんね、こんな夜中に』
「いや、いいんだけど。それよりどうかしたの?」
『うん、それなんだけどね。ちょっとはや――えぇ加減にせぇよアホンダラァガァ!!――ちょっ、はやてちゃん抑えて抑えて!! ご、ごめんけん君』
電話口からの突然の怒声に思わずビクッと身体が動く。すずかちゃんでは無いのは自明なので、これははやてちゃんか。それにしても何であんな怒声を張り上げているんだ。
「いや、いいけど。はやてちゃん関連? で、自分に用って事は魔法関連、かな」
『う、うん。そうなんだけど、ちょっと今はやてちゃんが冷静じゃなくて。申し訳ないんだけど、今から来れない、かな?』
「分かった、すぐ行くから」
『ご、ごめんね。お願いね』
通話を切ってふぅ、と一つ溜息。はやてちゃん関連で魔法と言うと、闇の書に関する何かだろうな。
電話の様子からすぐに危害が加えられる何かがあるとは思えないけど、早めに行くべきだろうと思い、寝間着のまま玄関へと向かい靴を履く。
「どうしたんだ、こんな時間にそんな格好で」
背後からの声に振り返ると、そこには雅俊さんが寝間着で立っていた。あぁ、起こしてしまったかなと思いつつ奥を見るとリビングの電気が点いているので起きていたらしい。
自分は靴を履き終えて立ち上がりながら必要な事だけ連絡する。
「ちょっと魔法関連で月村さんに呼び出されて。なるべく早めに戻るけど、家の鍵は閉めておいて」
「分かった。師匠には言っておくかい?」
「そんな危ない事は無いと思うから、大丈夫」
そう言って、玄関から見送られたまま外に出る。
「相棒、装着」
《了解、装着。戦闘服があって良かったですね、相棒》
「へいへい、感謝してますよ」
相棒の言った通り、学校の制服と道着を合わせたような白の戦闘服に全身包んでから、空へと飛翔する。
「今の速度だと、どれぐらいで到着できる?」
《大体5分から10分程でしょうか。夜間ですが、なるべく都市部を迂回して行くべきでしょう。目撃されたら厄介です》
「それもそうだな。んじゃ迂回ルートで行きますか」
相棒の言葉に頷いてバビューンと一路すずかちゃんの家へと向かう。
空を飛び始めて数分、海鳴の程近い郊外付近まで来ることが出来ており、既に遠目にすずかちゃんの家である庭の大きな豪邸が見える。洋風の造りをした森のある豪邸は周囲も静かで普段は非常に過ごし良さそうである。
そんな無駄な事を考えながら家へと近づき、いくつか見える窓の明かりが点いている事で家の人が起きている事を確認して、一応正門へと着地して呼び鈴を鳴らす。
すると、すぐにインターホンの向こうから声が聞こえてきた。
『堅一様、お待ちしておりました。どうぞ中へ』
恐らくファリンさんであろう声と共に門がモーター音をあげて開き、奥へと通じる通路を少し早めに歩きながら玄関へと向かう。
と突然、ガチャンと盛大な音が鳴り、右側の窓から何かが飛び出してきた。
またしても何事かと飛び出してきたものを夜目の中確認すると、それは後ろへと思い切りハンマーを振りかぶった、赤髪の子供ぉ!?
「テートリヒ・シュラァークッ!!」
「んだぁっ!?」
ブオンと威勢良く振り下ろされたハンマーを叫びながらも受け流し、そのままハンマーの持ち手を掴み腰を入れて背後へと投げる。咄嗟の時に習慣が出るとは言うが、別に当て身投げをする必要はないような。
突っ込んできた勢いがかなり強かった為、投げた時の勢いも盛大で背中から地面へと打ち付けられた子供は「ぐへっ」と息の詰まった声を挙げた。
「ご、ごめん。でもいきなり攻撃を仕掛けてくるなんて――」
言い訳のようなそうでないような、とりあえず突然の事だったので謝ろうと思った直後、背後からもう一つ迫る気配を感じた為勢い良く振り返ると、そこには子供と同じように拳を振りかぶり空中を滑空する白髮の男が居た。
「オオオオオッ!!」
「ちょっ、いきなりなんなんだよっ!!」
迫る右拳を左腕で受け流し、90度に折り畳んだ右腕をそのまま、右足の踏み込みと共に手のひらは掌打にし、男の顎をかち上げる。
「グオッ――」
「なんでいきなり襲ってくるのか、ちゃんと説明を」
して下さい。と言葉を続けようとしたが、顎をかち上げられた男の目をカッと意志を持った強さを宿し、重心を左に倒した事で何か仕掛けようとしている事を認識する。
「――オオオオッ」
「くぅっ!!」
叫び声を挙げ左脚からの回し蹴りが迫るのを確認しながら前に出て右腕で受け止める。かなりの重さを感じるがここで引いては相手の思う壺だ、更に一歩踏み込んで左掌打を相手の胸へと当て重心を崩す。重心が揺らいだ事を確認してから、足払いから短勁を打ち込んでやろうかと考えた所で、背中に走った悪寒に従い空へと勢い良く飛び上がった。
飛び上がってすぐ足元を赤色と魔力弾が通り過ぎ、それに追従するように先程の子供がハンマーを振り上げて再び襲いかかってきていた。
「おりゃあっ!!」
「ったく、なんなんだよお前等は!?」
子供のハンマーを避けつつ、追尾してくる魔力弾を撃ち落とす。どうやら魔力弾は4つ生成されていたようで、全てを叩き落とすまで自分は子供へと反撃を行う事が出来なかった。
一旦二人と距離を離して間合いを取る。
「……ザフィーラ、アイツやるぞ」
「あぁ、分かっている。かなりの手練だ」
こちらを用心しながら、隙のない立ち姿で自分を見る二人に、そろそろ我慢の限界が来そうである。
友達の家に来たはずなのにいきなり襲い掛かられた挙句手練だ何だと評価を付けやがる。はっきり言ってイライラしっぱなしなのだ。
家の中に居るであろうすずかちゃんやはやてちゃん、月村家の家族は無事なのだろうか、そういう心配もあるというのに、目の前の二人は一体なんなんだと言いたくなる。
「次こそツブす。ザフィーラ、合わせろよ」
「あぁ。そちらこそな」
何やら仲良さげに、自信満々に言っている二人の姿に、自分の腹の底で糸が一本プチンと逝った感触を受ける。
これはもうしょうがない。良く分からんが振りかかる火の粉は全力で払うべきが山田流の教えだ。加減などする必要すら覚えん。
全身を弛緩させた状態から、一気に踏み込み男の目の前へ。
「なっ! そん――」
「フォッ!!」
左足の踏み込みから重心を預けた右足の捻り、右腕を水平に突き込む形意拳で言う崩拳を男の胸へとぶち当てる。
何やら言おうとしていたような男だが、そんなもの知らない。ぼけっとこちらを見ていた子供へと半身で近づき左手を顔の前へと横から振り当てる。
「っ!! て、てめぇ!!」
左手の攻撃を避けた子供はそこから右回転しながら右腕に握ったハンマーを下から上へ斬り上げるように振るうが、こちらも逆回転で回り軽くハンマーを触るようにして受け流す。
振り上げたままの格好となっている子供の驚愕した視線を受けたまま、左肘を子供の脇の下へと打ち込み、身体が軽く浮き上がった所で一歩前へと踏み込み右足から連環脚を腹へと叩き込む。
再び子供が苦痛の声を挙げるがやはり関係無い。完全に浮き上がった身体目掛け絶招歩法での突きをお見舞いしてやろうとした所、今度は横から近づく気配に気付き踏み込みをそのままに向きを変え、近づく腕を左腕で捉えて右肘を差し込む。
「ハァッ!!」
「ぐぅぅっ!」
横から腕を差し込んできた主、桃色の髪を後ろで縛り上げた女性が苦痛の声を挙げて後退り地面へと膝を着く。
やれやれ、また新手のご登場かと思った所で、その女性が地面へと着けていない右腕を前に広げながら声をかけてきた。
「ま、待ってくれ! 我らは貴殿に対して敵対する意志は無い!」
「……いきなり攻撃してきた奴が、何を言ってるんだか。寝言は気絶してから言え」
本当に何を言っているんだか。突然攻撃してきた輩が敵対する意志が無いなどどうして言えるのか。早い所気絶なり何なりさせて月村家の安否を確認しなければ。
そう思い再び拳を握り構えた所で、横から声がかかった。
「けん君! 大丈夫っ!?」
「あぁ、すずかちゃん。無事だったか。すぐ終わらせるからちょっと待ってて」
「ちょちょちょちょい待ちって堅一君! 落ち着きぃ!!」
すずかちゃんと、そのすずかちゃんに車椅子に押された姿で現れたはやてちゃんの登場に心の中でホッとする。良かった、どうやら二人とも無事のようである。
その二人の背後には見覚えのない金髪の女性と、忍さん、ノエルさん、ファリンさんの姿が見えた。どうやら全員無事らしい。
全員の姿を認めた途端サッと感情の波が引き、目の前の女性の言った言葉を心の中で反芻する。
「とりあえず、これ以上の敵対の意志は無いんだな」
「あぁ、我らにその意志は無い」
攻撃のダメージから立ち直ったのか、女性は静かに述べてから両手を上へと翳した。要するに抵抗の意志が無い事の表れである。
その姿に身体の力を抜き、構えを解く。
「それじゃあ、どういう事なのか説明して貰おうか」
未だ緊張を保った硬い言葉で、目の前に立つ女性へと告げるに留める。
「とりあえず、お家に入ろう、ね? けん君」
「そ、そうや。こんな夜中に呼び出してごめんな、堅一君」
何か心配なのだろうか。自分の手を引く二人の言葉に、思わず深い、本当に深い溜息を零した。
◇◇◇◇◇
月村家のリビング、洋風に纏められた大きな居間でフカフカのソファーに座って紅茶を一口頂く。
仄かな甘味とシナモンの香りが芳しいシナモンティーが、爽やかに鼻孔を擽る。うん、とても美味しい。背後からトンカンと金槌の音が聞こえなければ更に爽やかな気分になっていただろうと思う。
自分の正面に座るのは先程の桃色の髪をした女性と、金髪の女性、赤髪の子供。男のほうが背後で金槌を打っている正体である。
自分の横にはすずかちゃんはやてちゃんが座っており、すずかちゃんの横に忍さんがいる。
「それにしてもけん君、恭也から聞いてはいたけど相当やるわね」
「恭也さんが? 何て言ってたんですか?」
「一刀では相手取れない、二刀を用い真剣でなければ、とか」
おいおい自分相手にガチでやり合うつもりですか恭也さん。大人気なさ過ぎますよ。
「恭也を叩きのめす事ができちゃう人の子だもんね。今日のを見て納得しちゃったわ」
「うん、けん君凄く強かった。本気だとあんなに凄いんだね」
「まぁ、ちっと怖かったけど。普段ニコニコしとるのに無表情やったし」
はやてちゃんの言葉にあぁ、やっぱりとか思ってしまう。あぁいう感情に任せて戦う時、どうしても顔が能面になってしまう。思考は冷静に、心は熱くを実践すると、表情に出なくなってしまうのだ。
怖がらせちゃったかぁとちょっと落ち込みつつ紅茶をもう一口頂いてから、カップをコースターの上に置いた。
「それで、状況的に考えると。闇の書関連でこの人達が出てきたって事でいいのかな?」
「うん、その通りや。まぁ出てきてすぐ色々トラブったんやけどな」
「出てきた時に叫んじゃって、それを聞いたノエルとファリンと喧嘩しそうになっちゃったんだよね」
あぁなるほど。それではやてちゃんがブチ切れたと。色々お世話になってる人に何しとんじゃこのアホンダラ、と。
「そ、そうやけど。そこまで言わんといてぇな」
「あの時のはやてちゃんも凄かったよねぇ」
クスクス笑うすずかちゃんの言葉に、顔を真っ赤にしてはやてちゃんが恥ずかしそうに腕をポカポカとすずかちゃんの肩に当てる。
「すずかちゃんがいじめっ子や! もうやめてぇ!」
「あはは、ごめんごめん。でもその後、急に『魔力反応が近づいてくる』とか騒ぎ出しちゃって」
「あぁそうや。そんでまた暴れそうな四人を抑えようとノエルさん達が頑張っとったんやけど、ちっこいのが窓を割って飛び出してもーたんや」
「それで、いきなり自分に攻撃を仕掛けてきた訳か」
そう言いながら、目の前に座る赤髪の子供を見つめる。ブスーっとふくれっ面して横を向いている彼女は、横目でこちらを見てはまた視線をずらすを繰り返していた。
「おい、ヴィータ。貴様何とか言え」
「……スイマセンデシタ」
女性に言われた彼女は、ふくれっ面のまま片言で謝罪をしてきた。何ともはや、きかん坊ですか。
「失礼。私はヴォルケンリッター、烈火の将シグナム。こちらはシャマル、貴殿を攻撃したこいつはヴィータで、あちらの男はザフィーラと」
「どうも、突然攻撃された中田堅一です。それにしてもヴォルケンリッター、か。じゃあ闇の書は?」
「ここにあるよ」
自分の言葉に応えたはやてちゃんが、背中に差し込んでいたのであろう闇の書を前へと取り出す。
以前付いていたと思われる書を縛るようにしてあった鎖が解けており、完全に本の体裁を取っていた。
「ふむ……あぁ、今プレシアさんやリリナさんが居れば早かったのに。タイミング悪いなぁ」
「そうやねぇ、でもすぐ帰って来るんやろ?」
「なるべく早くとは言ってたから、それほど掛からないとは思うんだけどね」
本当にタイミングの悪い事に、彼女達は今は近くに居ない。時の庭園に居るなら良かったが、そこより離れた場所なのでどうにもならないのである。
「とりあえず二人が帰って来るまでは、彼女達の衣食住をどうにかしないとね」
「任しとき、私が頑張ったるから」
「無理しないでウチも頼りなさいよ、はやてちゃん。余っている服とかあるから、とりあえずそれはあげるわね」
「えろうすんません、忍さん」
いいのいいのと笑顔で言う忍さんは、本当によく出来た女性だと思う。基本的に自分に出来る範疇であれば人を助ける事に何も疑問を持たない、本当に良い人である。
ここまでの話の流れを、疑問を浮かべながら聞いていたシグナム達だが、はやてちゃんが一声かけて、状況を把握するするに至った。
「あんたらの生活は、私が預かったっちゅう事や」
「いえ、ですが主。我々は主の命により魔力の蒐集を」
「とりあえずはしなくてえぇ。今はちゃんと調べてくれる人が来るまで様子見や」
「ちゃんと調べる……ですか?」
金髪の女性、シャマルの疑問の言葉に何度も頷いてすずかちゃんが応える。
「私達の友達のお母さんが、魔法関係でとっても偉い科学者さんなの。だからその人に調べてもらうんじゃないかな? ね、けん君」
「うん、そうなるね。今は離れているけどすぐ帰って来るから、その時にまた今後の話とかできるようになるだろう」
「は、はぁ。分かりました、そういう事ならば」
将と名乗ったシグナムが納得した事で、他の面子も納得したようである。
とりあえずこの場は収まったかなと思った所で、ふわっと頭に眠気が走った。
「それにしても、その格好がけん君の魔法使う時の服なんだね。学校の制服に似てる」
「そうやねぇ。この中はどうなっとんの?」
「ん、そうだね。相棒、解除」
《了解》
パシュンと解除すると、タンクトップにジャージの下という寝間着姿。これが変身前の自分の姿だった訳です。
「えっと、ごめんなぁ。寝てる所……」
「いや、もういいよ」
「そうだ、じゃあけん君も今日はお泊りしたらどうかな? 折角来たんだし」
「えっ」
良い事思いついたと言わんばかりのすずかちゃんの言葉に、思わずえっと驚愕の表情を浮かべる。何を言っとるんだこの娘は。
と思ったのは自分だけのようで、はやてちゃんもパンと手を叩いて賛成した。
「そうやね! もう夜も遅いし、ほな、いこか?」
「えっちょ、本気ですか?」
「私達は別にいいよ。ベットは大きいから、三人くらい一緒に寝れるよ~。ほらいこ、ね?」
「モテる男は辛いわねぇけん君。すずか、あんまり遅くまで起きてちゃダメよ~」
「はぁ~い」
すずかちゃんに腕を引かれ、はやてちゃんに言われるがまま車椅子を押してすずかちゃんの部屋へ辿り着いた自分達は、結局三人川の字で寝る事となってしまったのであった。
二人からする爽やか甘い香りに包まれたベットは、非常によく眠れてしまいました。がく。