ジュエルシードの封印に際し、時空管理局という組織に見つかった。
やっと来たとユーノが言っていたが、今後は彼らと協力してジュエルシードの対処に当たる事に。
そして、はやてちゃんと管理局、グレアム小父さんが繋がった時、事態はどのように変化してしまうのか。
◇◇◇◇◇
アースラという管理局の所有する艦船に搭載された探査装置でジュエルシードの反応を探索し始めて数日。既に相当数のジュエルシードの回収が
出来ており、残るは6つ程度となった。
それにしても、この回収スピードは今まで自分達が行なってきた速度より何倍も早い。事が起こる前に封印できているので有難い事である。何事も起こらないのが一番なのだ、うん。
だがしかし、ここまで来て回収が一気に止まった。理由は、現在ジュエルシードの存在すると思われる場所にある。
「潜って回収を行うのはリスクが高い上、誰が行けるのか」
「設備の問題もありますし、どうしましょう」
リンディさんと、通信士で執務官補佐という女性エイミィさんがうーんと頭を悩ませながら画面を見る。そこには、一面の青が表示されていた。
青いのも当然、画面に映っているのは海なのである。
そう、ジュエルシードは厄介な事に残り6つ全てが海鳴付近の海域に落下しているという予測が立っていたのである。
これは流石に自分達にはどうしようもない事なので、なのはちゃんが持ち込んだ桃子さん特製のケーキやクッキーを食べつつ、検討会を鑑賞している。
あーでもないこーでもないとリンディさんとエイミィさんが討論を重ね、漸く一つの答えに辿り着いた。
「ダイビングスーツを購入して海中を探索。回収するにはそれしかありません」
「武装隊の人なら訓練もされているし大丈夫だと思う、うん」
やっと終わったか、なんて思いつつ眺めていた自分達だが、さてこれから準備をと思い椅子から立ち上がった所で、管制から通信が来た。
『艦長! 海中からロストロギア反応が! 6つのジュエルシードが全て覚醒しています!』
「……今までの討論は一体」
「監視を続けて! 武装隊は速やかに所定の位置へ! なのはさん、フェイトさん、アルフさん、堅一君。お願いできるわね」
「はいっ」
疲れたエイミィさんを置いておいて速やかに指示を出すリンディさんの号令の下、自分達は最後のジュエルシード回収へと向かった。
◇◇◇◇◇
アースラの転送装置から向かった先は、嵐吹き荒れる海鳴港よりかなり離れた海上。もう少し港に近かったら街が危なかった可能性があったという事で、自分達はその知らせにホッと胸を撫で下ろした。
街に被害が出ない事が第一であるので、後は被害が出ないよう、さっさとジュエルシードを封印するのが一番である。
そう思いながらジュエルシードが発動した場所を眺めると、6つの龍巻を従えた、巨大な影が目に映る。
「……あれ。自分の目、何かおかしくなっちゃったのかな」
「け、けんちゃん。なのはも多分、おかしいの」
二人でその光景が現実なのか疑いつつ、一生懸命目を擦るが映る光景は何ら変化が起こらない。
「なのは、堅一。現実だよ、ちゃんとした現実だよ」
「まぁそうやって疑いたくなるのも分かるけどね。流石にあれは目を疑うわ」
「だよね。そう思うよね」
フェイトとアルフの言葉に、漸く自分の目に映るものが現実であると認める覚悟が出来た。今までジュエルシードのお陰で奇怪な現象に遭遇はし
たが、ここまで突飛なものは流石に考えもつかなかった。
だって海上に、巨大な龍が居るなんて。
「白い鬣と、蛇みたいな下半身……」
「翼のような両腕に、周囲を嵐が取り巻く龍……」
「アマツマガツチじゃね、あれ……」
そう、自分達が旅行の時やプレシアさんの具合を治していた時などにプレイしていたゲームの、まさにラスボス的な存在が、現実に顕現していたのである。
「キュォオオオオオオオッ!!」
「うわぁっ! 耳が!!」
「す、凄い叫び声!!」
超高音で爆音な叫び声に、思わずその場で耳を塞ぎ蹲る。な、なるほど。あのゲームで動きが止まるのはこういう訳があったのか。
ゲームの仕様に納得いった所で、嵐龍がこちらへ向けて龍巻を飛ばしてきた。
「さ、散開!」
「とにかくもう、攻撃するしかない!!」
「けんちゃん! いつも通りに隙を突いてタル爆弾お願い!」
「そんなの無いよ!!」
ゲームと現実を混同しないように!
なのはちゃんの言葉にツッコミを入れつつ、自分達はバラバラとなり各々が攻撃に移る。
「ディバインシューター、シューット!」
「フォトンランサー、ファイア!」
「オラオラオラオラッ!!」
撃ち出された魔力弾が炸裂し、嵐龍へと殺到する。
こうして魔力弾を雨あられとぶち当ててる訳だが、嵐龍に当たっているはずなのに、どうにも攻撃が通っているような実感が無い。
嵐龍はまるで自分達の攻撃が無いかのように、頭を向けて一直線に突っ込んできた。
「逃げろぉっ!」
「わわわっ!」
「きゃぁああっ!!」
慌ててその場から離れて嵐龍の通り過ぎた後を見ると、嵐龍はその大きな腕を下から上へと薙いでいた。
こういう動作はゲームの仕様そのままか!
「このっ、ディバインバスター!」
「サンダースマッシャー!」
「圧縮砲!」
砲撃魔法をぶち当て、また突っ込んでくる嵐龍を見て散開。
「もしかして、これずっと繰り返すの!?」
「いや、そうでも無いみたいだ」
なのはちゃんの言葉に自分は離れた嵐龍を見て呟く。
今目の前の嵐龍は、自身の身体をまるでとぐろを巻くように丸め、少しずつ巨大な龍巻を発生させる。
そうあれは、巷では「ダイソン」等と呼ばれている攻撃!
「うわっ、引っ張られる!!」
「外側に逃げろぉ~!!」
「うわっ、わぁぁあっ!!」
「フェイトォ~ッ!!」
気付いた時点で動けたなのはちゃんの腕を引っ張りつつ、凄い勢いで吸い込んでくる龍巻に逆らう。
だがフェイトが距離的に間に合わず、フェイトを救出しに行ったアルフ共々、フェイトは中心地で発生した巨大な龍巻に巻き込まれてしまった。
「フェイトちゃぁ~んっ!!」
自分の手を握りながらフェイトの名前を呼ぶなのはちゃんだが、流石にアレをどうにかできるとは思えない。
遠くから聞こえる「いやぁあっ!」「ぐえぇっ!」という二人の叫び声にまだ無事であると意識しつつ、自分達は嵐が収まるのを待った。
やがて巨大な嵐は、龍と共に遥か上空へと飛翔し、やっとそこで自分達を吸い込む風が収まった。
「けんちゃん! フェイトちゃんは!?」
「飛んできた!」
慌てるなのはちゃんだが、今の嵐の仕様的に錐揉みしながらふっ飛ばされてくると思い待ち構えていると、案の定フェイトとアルフが思い切りふっ飛ばされてきた。
そこをなのはちゃんがフェイトを、自分がアルフをしっかりキャッチして確保する。
「フェイトちゃん、しっかりしてぇ~!」
「だ、大丈夫……ちょっと目が回るけど……」
「世界が回る……」
まぁあれだけの回転の中に居たのだから、そりゃ気持ち悪くもなる。だが、ここまでである程度の攻撃法則は予測がつくようになった。
つまりは、ゲームの仕様と同じって事だ。
「なのはちゃん、フェイト。相手は頭のガードが甘いから、攻撃を避けつつ頭を狙ってバスター撃って」
「けんちゃんは、どうするの?」
「近づいてぶん殴る! 怯んだら一気に大技お願いね!」
自分はそう言うと、余裕綽々といった風体の嵐龍の懐へと突っ込む。嵐龍付近は思ったより風の勢いも弱く、これならちゃんと足場を生成してぶん殴れる。
「オラァッ!」
近距離から拳と足の連撃を放ち、嵐龍が攻撃モーションに入った所で引く。所謂ヒットアンドアウェイの戦法を取りつつ、なのはちゃんとフェイトが着実に遠距離からの砲撃でダメージを与えていく。
なんか本当に、ゲームっぽい戦い方だ。
「堅一! どいて! フォトンランサー・ファランクスシフト。打ち砕け、ファイア!」
背後からのフェイトの声に後ろを確認して引くと、フェイトが雨霰の如くフォトンランサーを撃ち出し始めた。
「キョオオオオッ!!」
この猛攻には流石の嵐龍も怯んだようで、身体が大きく唸りを上げる。
「スパーク・エンドッ!」
ダメ押しにフェイトが巨大な雷の槍を作り出し、嵐龍へと撃ち出す。
正面から食らった嵐龍は、大きな叫び声を上げながらのた打ち回っていた。
「ハァ、ハァ……」
「フェイト、ナイス。それでなのはちゃんは?」
「ハァ……ハァ……あ、あっち……」
フェイトが指し示す方を見ると、そこには自身の身の丈より巨大な魔力球の前に佇むなのはちゃんが。
というか、いつの間にあんなものを用意していたんだ……。
「いくよっ! ディバインバスターのバリエーション!」
なのはちゃんはそう言うと、嵐龍へと向けて杖を振りかぶる。もしかしてアレ、砲撃?
「全力全開! スターライト……ブレイカーッ!!」
ガコンッ、となのはちゃんが杖を振り下ろすと、魔力球が一つの砲撃となり、巨大な尾を引いて嵐龍へと襲いかかる。
「ギュオアアアアアッ!!」
桃色の閃光の直撃を受け、嵐龍が大きく叫び狂う。流石にアレは、どうしようも無いのではないか。アレを耐えきられたら、多分もう積む。
「あわわわ、す、凄い魔力」
「お、恐ろしい子だねぇ……」
一緒に眺めていたフェイトとアルフが冷や汗を流しながらその光景に怯える。確かにアレが自分に向けられたらと思うと、恐ろしい……。
やがて桃色の閃光が収まった場所には、ピクピクと動く嵐龍の姿が。
「……完全にこれで、終わっただろ」
「うん、そうだと思う」
状況を眺めていた二人でウンウンと頷き合う。そこへなのはちゃんが嬉しそうにやって来た。
「けんちゃん! やった、終わったよね!」
「うん、多分。というかアレで終わらなかったら、もう対処のしようが無いよ」
現段階で純粋な火力として一番高いのがさっきのなのはちゃんの攻撃だと思うので。アレ以上の攻撃を与えるのはもう難しいだろうと思う。
まぁ向こうも動けないみたいだし終わりだろう。と思っていたら、何やら嵐龍の体毛や鬣の色が変化してきて、きな臭くなってきた。
《相棒。アレのエネルギー反応、増大しています》
「……どういう事だ?」
『みんなそこから退避! あの龍の内部にあるジュエルシードのエネルギーが暴走を始めたわ!』
唐突に現れたモニター越しのリンディさんが、凄い剣幕で自分達へ退避を勧告する。情報的には非常にヤバイものだ。だがしかし。
「退避ったって、海鳴はどうなるんですか?」
『それは……恐らくは次元震が発生して……』
「そんなっ! なんとかならないんですか!?」
『抑えるのはもう無理よ。一刻も早くあの嵐龍から退避するぐらいしか』
《リンディ艦長、私に一つ提案があります》
悲痛な表情で状況を告げるリンディさんの言葉に、スティールが割って入る。
《あの嵐龍をこの座標の高次空間へ転送します。アースラ各員は衝撃に備えてください》
『この座標って……プレシアさんの時の庭園じゃない!?』
《正確にはその一区画、パージ可能な格納庫部です。プレシア・テスタロッサ。問題はありませんね》
相棒が既に決定事項のように言うと、もう一つモニターが表示され、そこにはプレシアさんの姿があった。
『問題無いわ。パージの作業はこちらに任せて。フェイト、アルフ。転送魔法が使えない二人の代わりに頑張って転送させなさい』
「母さん……はい! スティール、座標をバルディッシュに転送して」
《既に終えています。頼みました、フェイト・テスタロッサ》
「うんっ!」
「あたしも頑張るよ、フェイト!」
座標を受け取ったらしいフェイトとアルフが、蹲っている嵐龍へと近づき、巨大な魔法陣を二人で形成する。
「あの……私達は」
《そこで無事成功するのを見守ってて下さい》
「はい……」
最後の最後、海鳴最大の危機にただ見ている事しか出来ないという状況になのはちゃんはソワソワし、自分は自分で拳を握り無事の成功を祈る。
『次元震発生予測まで、残り15秒!』
「転送、時の庭園!!」
残り時間の予告が来た途端、フェイトの声が重なり巨大な嵐龍の体躯は黄金色の光に包まれ消えた。
《プレシア、今です》
『分かってる。リリナさん!』
『転送確認! 格納庫、射出!!』
ガシャンッ、と何かが割れる音が聞こえた。
『次元震発生まで残り3.2.1……発生します』
通信先からエイミィさんの声が聞こえていたと思ったら、次の瞬間、ブッツリと通信が切れてしまった。
…………一体、どうなったんだ。
「けんちゃん、大丈夫かな……」
「分からない。とりあえず自分達は一旦、臨海公園で休憩にしよう」
よく見れば自分もなのはちゃんも、戦闘服がボロボロになっている。流石に激しい戦いだった訳だし、フェイトなんてもっと大変な事になっていそうである。
自分はなのはちゃん達に休憩を促し、臨海公園で待機する事とした。
◇◇◇◇◇
ヘトヘトになってベンチで座り込んでいた自分達に、再び通信が繋がったのは15分後の事だった。
『……る、聞こえる? 四人とも』
「あぁ、エイミィさん。聞こえてますよ」
『良かったぁ。次元震は中規模程度、世界崩壊の危機は免れたから安心して。時の庭園のほうも』
『こちらも無事よ。まぁアースラのほうは、本局方面への航行が一ヶ月ほど出来そうにないけどね。次元断層が発生してしまっているから』
『まぁそうですけどね。今艦長主導で高次空間内のジュエルシード探索を行なってますから、丁度いいと言えばいいんですけどね』
どうやらみんな無事らしい。ホッと一安心。
『ま、そういう訳で。フェイト、私達の地球への正式な転居は少し遅れそうよ。今の内に引越しの物件を探しておきましょう』
「あ、そう、だね……」
『あら、大丈夫? フェイト。今日は頑張ったものね』
「うん……ちょっと、眠い……」
うつらうつら、話をしながらも船を漕いでいるフェイトの頭が、とうとうカクンと落ちた。すかさず掌で受け止めて、自分の左肩へと預ける。
『あらあら……。今日は解決祝いに、翠屋ね』
「了解、なのはちゃん家で寝かせておきますよ。尤もその前に、二人を家まで運ばないといけないですけどね」
そう、何も疲れたのはフェイトだけではない。なのはちゃんも通信が来る前に既に疲れからぐっすり熟睡に入っており、自分の右肩に寄りかかった状態となっているのだ。
動くに動けない状況のまま、自分はこうして通信をしている訳である。
『桃子さんか美由希さんに連絡しておくわ。もう少しだけ、そのまま寝かせておいてあげなさい』
「わかってますよ、宜しくお願いします」
『えぇ。また後でね』
プツッと通信が切れ、周囲は元の静かな状態に戻る。
微かに聞こえるのは嵐も過ぎ穏やかになった海の音と、二人の少女の可愛らしい寝息だけ。
やっと、一時の平和がやって来たなぁ。
「お疲れ様、二人とも」
小さな寝息を立てる二人が、微かに微笑んだ気がした。