魔法少女リリカルなのは 夢現の物語   作:とげむし

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第十三話

これまで出会った中で、尤も恐ろしい敵。

 

一時攻撃不能にされた自分だが、ユーノ達のフォローで何とか退治した、ジュエルシードの発現体。

 

変態の魂を内包した化物は、自分にアリサちゃんとすずかちゃんからの責め苦という恐ろしい置き土産を残していった。

 

すいません、ほんの少ししか見てませんから許してください。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

今日は日曜日。天気は快晴、いい運動日和である。

 

若干訛ってしまった身体を朝のランニングや稽古で解してベストコンディションへと引き上げ、自分は今、街の運動場へとやって来ている。

 

「みんな張り切っとるなぁ」

 

「久々の試合らしいからね」

 

運動場でウォームアップしている選手を見ながら感心しているはやてちゃんの膝には、翔子さんの用意した今日の為のお弁当が載っている。

 

今日は翠屋JFCという、士郎さんがコーチ兼監督を行なっているサッカークラブの試合の日。

 

以前より試合観戦に誘われていた事もあり、はやてちゃんを連れて、自分は観戦に来たという訳だ。

 

「ケン! こっちよ!」

 

「おはようけん君、はやてちゃん」

 

「おはよー二人ともっ」

 

「おはようさん、三人とも」

 

「おはよ」

 

先に観戦場所を取っていたなのはちゃん、アリサちゃん、すずかちゃんの三人と合流し、自分ははやてちゃんを車椅子から抱えてレジャーシートの上へと降ろす。

 

「おおきにな、堅一君」

 

「いえいえ」

 

足の動かないはやてちゃんは地面か椅子に座るしかない訳だが、丁度ここは芝生が敷かれているのでシートを広げて観戦となった訳だ。

 

早速はやてちゃんは膝のお弁当をみんなの前へと広げてくれる。

 

「うわぁ、サンドイッチや」

 

「翔子さんのサンドイッチ、おいしそー」

 

「なのはちゃんの好きなチョコピーナッツもあるってさ」

 

「ホント? やったー!」

 

きゃっきゃと楽しそうななのはちゃんを横目にしつつ、自分もシートの上へと座り、脇に抱えていたポットと紙コップを配る。

 

「はい、中身は麦茶で申し訳ないけどね」

 

「いいわよ別に、お茶会でもあるまいし」

 

「ふふっ、でもある意味お茶会みたいだよね。こうして休日に集まってると」

 

すずかちゃんの言葉に確かにそうだな、と思う。

 

数日に一度、アリサちゃんかすずかちゃんの家にお呼ばれしてお茶会をする事があるが、会場が変わっただけでやってる事は変わらない気がする。

 

今日も色々話をしながら、ゆっくりお茶を飲む事になるのだ。

 

「なんやそれ、ブルジョワな話やな」

 

「今度はやてちゃんも誘うから、良かったら来てね。ノエルかファリンを迎えに行かせるから」

 

「アタシの家にも誘うから、都合つけておいてよね」

 

「ホンマ? 是非ご一緒させてもらうわ」

 

アリサちゃんとすずかちゃんの言葉に嬉しそうに頷くはやてちゃん。うん、最近知り合った訳だが仲良くなってくれているようで何よりだ。

 

微笑ましいやり取りに笑顔になりながら、自分はこれから試合へと臨む選手達を見た。みんなやる気十分、気合が入っている。

 

「けんちゃん、サッカーやりたいの?」

 

「え、なんで?」

 

突然のなのはちゃんの言葉に思わず問い返す。

 

「だって、手。ギュッてしてる」

 

言われて自分の手を見ると、確かに拳を握っていた。

 

イカンイカン、選手達の気合が伝播してしまったかな。思わず手を開きブラブラと振る。

 

「選手達を見てたらね。思わず自分も気合が入っちゃったかな」

 

「あー、分かる分かる。力入っちゃう事あるわよね」

 

自分の言葉にアリサちゃんが同意して、すずかちゃんやはやてちゃんもウンウンと頷く。

 

サッカーもそうだが野球だったり、自分の場合他人の組手を見ている時など、力を入れて観戦してしまう時がみんなにもあるようだ。

 

「けんちゃんお父さんに一度サッカーやらないかって言われたけど断ったよね。なんで?」

 

唐突ななのはちゃんの質問に、うーむとちょっと考えてから答える。

 

「自分の場合、家の道場の稽古があるからね。それに、なんだかズルをしているみたいで」

 

「ズル?」

 

自分の言葉にアリサちゃんが疑問を浮かべる。

 

「まぁ言い方は悪いけどね。正直自分は、あの選手の子達に、足の速さや足捌き、状況判断の正確さでは負ける事は無いと思ってる」

 

「んー、確かにそう、かも」

 

すずかちゃんが一応の同意をしてくれた事で、言葉を続ける。

 

「でもそれって、自分が生まれてずっと修練してきたからで。正直みんなより身体を鍛え始めたスタートが早いんだ。だから、100メートル走なのに50メートルから始めてるみたいで、ね」

 

「ふーん、色々考えとるんやなぁ」

 

「まぁ、最初に言った稽古っていうのが一番でかいけどね。稽古した後でサッカーの練習では、正直しんどい」

 

「それが本音かい!」

 

最後の最後で言った本音にはやてちゃんが華麗なツッコミを決めてくれた。

 

ペチッと可愛らしい音を立てて手の甲を自分の胸に当てたはやてちゃんは、とってすっきりした顔をしている。

 

一人で物凄い達成感を感じているようだ。

 

「あっ、そろそろ試合始まるみたい」

 

「そうだね、サンドイッチ食べながら観戦としようか」

 

準備万端、お茶とサンドイッチを食べながら見るサッカーの試合に、自分はどこかワクワクしていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

前半戦終了で0-0。

 

途中相手チームの苛烈な攻めを凌いでカウンターを打った翠屋JFCだが、相手キーパーにボールを弾かれて惜しい思いをしていた。

 

だが試合ペースは翠屋JCFが握っている状態だったので、後半も維持できればきっとチャンスは来るだろうと思う。

 

「惜しかったわねぇさっきのゴール前」

 

「うん、凄くドキドキしちゃった」

 

応援に声を張り上げていたアリサちゃんとすずかちゃんは、頬を上気させて麦茶を飲む。

 

なのはちゃんは、先程からゆっくり味わうようにチョコピーナッツサンドを食べていた。

 

「むぐむぐ、でもお父さんも凄く張り切ってる。久々だから楽しそう」

 

「せやなぁ。喫茶店のマスターやのに、今はドラマに出てくる熱血教師に見えるわ」

 

なのはちゃんとはやてちゃんの言うように、今日の士郎さんも凄く気合が入っていて、指示を大声で叫んだりと頑張っていた。

 

今はハーフタイムの選手達に指示を出し、気合を入れているようだ。

 

確かに熱血教師みたいだなぁと眺めていると、運動場の入り口から給水ポットを両肩に提げた、赤髪の女性が真っ直ぐ士郎さんへ歩いていくのが見えた。

 

「あれ、アルフさん?」

 

「うん、アルフだねあれ」

 

なんでいきなりアルフが? と思っていたが、その背後に車椅子に乗る金髪の少女と、それを押すやはり金髪の少女が見えた。

 

「あれ、フェイトとアリシアもいる」

 

「あ、ホントだ。どうしたんだろ?」

 

「なに、知り合い?」

 

自分となのはちゃんで言葉を交わしているとアリサちゃんが入ってきて、説明を促してくる。

 

さてどう話そうかな、と思っていたら、アリシアが自分達を発見したようで、こちらを指さしながらフェイトへ何やら告げ、二人でこちらへと向かってくる。

 

というかアリシアは、思いっきりこちらへ向けて手を振ってきた。

 

控えめに手を振り返し、アリサちゃん達へと視線を向ける。

 

「ちょっと知り合いが来たんだ。混ぜてもいいかな?」

 

「あたしは構わないわよ。ちゃんと紹介しなさいよね」

 

「そうだよ、けん君」

 

アリサちゃんとすずかちゃんの言葉に、分かってると同意しながら、自分は二人を迎えるべく腰をあげて二人を招いた。

 

なんでも息抜きがてら外の空気を吸いたいと言い出したアリシアに、毎日リハビリ頑張っているご褒美としてプレシアさん達全員で高町家の庭に転移したらしい。

 

そこを桃子さんにとっ捕まって、本来美由希さんが行く予定だった給水ポットの補給にアルフが駆り出され、ついでに散歩としてアリシアとフェイトが着いて来たらしい。なのはちゃんが居る事を聞いたのだそうだ。

 

今翠屋では桃子さんを中心に、リニスとプレシアさん、翔子さんで翠屋JFCのみんなの為に料理を作っているのだとか。

 

「お、お母さん……。なんかごめんね、フェイトちゃん、アリシアちゃん」

 

「いいのいいの、どうせ散歩するつもりだったんだし。ね、フェイト」

 

「うん、アリシアの言う通り気にしないで、なのは」

 

自分達と同じように、シートの上に座ったフェイトとアリシアに、なのはちゃんが苦笑いで返す。

 

それにしても、料理に二人追加で駆り出されるって、どうかしたんだろうか。

 

「んにゃ、ただ分担が減るから駆り出されただけだって。あたしはあの肉がまた食えるらしいからね」

 

「お前はいつでも食欲優先だな」

 

ガリガリとビーフジャーキーを噛むアルフに冷めた視線を向けながら呟いた自分は正しいと思う。

 

「それにしても、フェイトだっけ。あんた達も魔法の関係者な訳ね」

 

「知らない間に、色々ややこしい話になってるんだね、なのはちゃん達」

 

「まぁね。自分の場合、死んだはずの生みの親まで出てきた訳だし」

 

アリサちゃん達の言葉につられ自分の生みの親の事を話すと、三人揃って「ウソ!」なんて叫び声をあげた。

 

「え、あんたの親って、翔子さんじゃないの?」

 

「死んだはずのって、そんな話聞いてないよ!」

 

「いきなりヘビーな話すなや堅一君!」

 

「ごめんごめん、なんか最近色々あって、感覚マヒしてるんだよね……」

 

三人には未だ、自分が生物兵器である事などは話していない。この話を聞いたら、正直ドン引きどころじゃないだろうから。

 

別に三人の事を信じていない訳じゃないのだが、話すには未だ早いかな、となんとなく思っているだけだ。

 

自分の事よりも、今はフェイト達の事だ。

 

「まぁそういう訳で。フェイト達も直に海鳴に越して来るから、良かったら仲良くしてね」

 

「よ、よろしく」

 

「よろしくね、私アリシアだから!」

 

サッカー観戦をしながら互いの自己紹介。

 

共通の友人として自分となのはちゃんが居るので、場はギクシャクする事も無く、フェイト達もスムーズに溶け込む事ができたようだった。

 

うんうん、良かった良かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

試合は2-0で翠屋JFCの勝利となった。後半にセンタリングからのヘッドで先制し、追い討ちに終了10分前といった所でフリーキックからのダイレクトシュートが決まり、そこで相手チームの心が折れたまま終了。

 

二点共恐らく高学年だろう子が決めており、どうやらチームのエースストライカーらしい。「さすが」とか「やっぱり」なんて言われていた。

 

そしてその子は今現在甘酸っぱい青春が始まったばかりのようである。

 

試合が終わった後の食事会が祝勝会に切り替わり、チーム員全員で翠屋で食事をし、自分達もそこへ混ぜてもらっている。

 

そして件のエースストライカー君は、マネージャーと思しき女の子と仲良さそうに会話をし、甲斐甲斐しく世話をされている。

 

「……なんか、見てて和むなぁ」

 

「あんたはお兄ちゃんか」

 

アリサちゃんからの痛烈な言葉だが、奇しくも自称なのはちゃんのお兄ちゃん(二人目)を自認している自分には正しいのかもしれない。

 

あの年頃の子のあぁいう所を見ると、どうしても和んでしまう。若いっていいねぇ、うんうん。

 

「け、堅一君が公園のおじいちゃんみたいな目をしとる」

 

「誰が年寄りか、失礼な」

 

言うに事欠いて年寄りとは何事かとはやてちゃんのおでこをペチッと叩くとてへっと可愛らしく舌を出す。

 

こういうボケツッコミははやてちゃん相手だと凄くやりやすいのが困りモノだ。関西弁だからか。

 

この光景を見て、すずかちゃん達が笑ってくれるので更にやりやすくなってしまう。

 

この子が将来間違って芸人目指したりしたら嫌だなぁとか思いながらなのはちゃんへと視線を向けると、なのはちゃんは、チラチラとあのストライカー君へと視線を向けていた。

 

いや、なのはちゃんだけではない。何かが気になるのか、フェイトも一緒になって彼へと視線を向けている。

 

『なのはちゃん、フェイト。どうかしたのか?』

 

『う、ううん。多分気のせいだから……』

 

『やっぱり、気のせいなのかな』

 

何やらよく分からんが、何かが気になっているようだ。なのはちゃんは困ったような笑顔を浮かべ、フェイトもそれに釣られるように苦笑している。

 

一体何だと思っていたら、突然横からグイ、と腕を引かれた。

 

「なんや、何か内緒話か?」

 

「ん、まぁね。それより良く分かったね」

 

「何となくな。私にも才能あるんやろ、そういうの」

 

フフン、と得意気に胸を張るが、その才能が本当にあって良い物なのかどうか、という所である。自分達のように厄介事に巻き込まれるのは普通の感覚であれば御免だろう。

 

「なに、また魔法の話?」

 

「なにかしてたの? はやてちゃん」

 

アリサちゃんとすずかちゃんが自慢気なはやてちゃんへと絡みだし、祝勝会がお開きになるまで、自分は内緒話の件を追求される事となった。

 

やがて一人二人と、サッカーチームの少年達が帰っていくのを見ながら、自分達はジュースを片手に会話を続ける。

 

女子というのは会話をしていないと死んでしまうのかと言う程延々と会話をしており、既に何週目なのか分からない最近のケータイ事情をフェイトとアリシアに説明するアリサちゃんとすずかちゃん。

 

はやてちゃんはなのはちゃんと、料理の手伝いでヘトヘトになっている美由希さんを交えて会話を楽しんでいる。

 

さっきはサッカー少年達が居たからまだ良かったが、今じゃ完全に自分は浮いてるなぁコレ、と思いながらジュースを飲んでいると、足元にチョロチョロと小動物がやって来た。

 

「お、ユーノ。お前どこ行ってたんだ?」

 

「ジュエルシード探しだよ! 僕がなんで居るのか忘れてるでしょキミ!」

 

「冗談だ。それより残り物で良かったら食うか、ほれ」

 

プンスコと腹立たしさを表して両腕を腰に当て怒ってるユーノに残り物のお菓子の皿を差し出して機嫌を取る。

 

「全く」とか言いながらもポリポリとスナック菓子を齧る小動物がそこに居た。

 

「うわぁ、めっちゃ喋っとる!」

 

「キャー! 見てすずか! ユーノが! ユーノが!」

 

「ファンタジーの世界だね!!」

 

あ、と思うがもう遅かった。口頭では喋る小動物の事を伝えてはいたが、実物を見せるのはこれが初めてだったのを忘れていた。

 

突如現れた小動物が喋り、尚且つテーブルの上でスナック菓子を齧るというファンタジー溢れる情景にアリサちゃんとすずかちゃん、はやてちゃんの三人が一気にテンションをあげ、ユーノを撫で回しだす。

 

「あっ、ちょ! ダメ、ダメだって!!」

 

「うりうり、気持ちいいのかー、こいつー」

 

「ちょっ、気持ちいいとかそうじゃ、た、助けてなのは!!」

 

ペットを撫で回す感覚と同じようにユーノの腹をクリクリ撫でるアリサちゃん。これはユーノが少々気の毒だと思うわ。

 

そろそろ止めないとユーノが気持ち良さで失神するかなと思いかけた所で、感覚を強烈に貫く何かが現れた。

 

「っ!!」

 

なのはちゃん達も一緒のようで、思わず椅子を立ち上がり周囲を見渡す。

 

ふと横を見ると、はやてちゃんも胸を押さえてこちらを見ていた。

 

「ジュエルシードだ。行こうなのはちゃん。ユーノを借りるよ」

 

「うん! ごめんねアリサちゃん達。またあとで!」

 

テーブルの上のユーノを引っ掴み、自分達は翠屋を駆け足で飛び出した。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

感覚に従い来てみれば、昼間の街中で発動するという最悪の状況。そして発動体は、巨大な樹となって、海鳴市をその太く長い根っこで縦横無尽に蹂躙していた。

 

「ユーノ! 結界頼む!」

 

「分かってる!」

 

自分の言葉と共に結界魔法を発動させ、通常の空間からジュエルシードの発動体と、自分達を隔離。

 

現在の状況では大木である事しか分からない為、一旦自分達はビルの屋上へと着陸し、状況を伺う事にした。

 

「さて、この木のどこかにジュエルシードがあると思うんだが」

 

《現在の所、相棒には探索魔法はまだ教えておりません。相棒は突っ込むしか無いでしょう》

 

「待って、私覚えたからやるよ!」

 

自分とスティールの言葉になのはちゃんが挙手をして一気に魔法を発動させる。

 

「リリカル、マジカル。探して! 災厄の根源を!」

 

《エリアサーチ》

 

なのはちゃんの声、レイジングハートの言葉と共に、無数の魔力スフィアが魔法陣から飛び出し、大木の元へと向かう。その隣では、フェイトも同じように魔力スフィアでの探索を行なっていた。

 

「見つけた」

 

「中心近く、右から2つ目の木の上」

 

なのはちゃんとフェイトが同時に見つけたらしく、揃って声をあげる。そして二人は、同時に悲しそうな表情をした。

 

「……どうした?」

 

「私、気付いてたんだ。でも気のせいだって思って」

 

「今日の、サッカーでゴールしてた子だ。ジュエルシード持ってたの」

 

「だから、あの時」

 

そうか、あの時サッカー少年をチラチラ見ていたのはそういう事だったのか。自分が全く気付かなかったジュエルシードの気配に、二人は勘付いていながらも、気のせいだと思い見過ごしてしまった。

 

その結果が、現状の海鳴市の被害。

 

二人の胸の内を思うと、思わず苦しくなってしまう。そして同時に、全く気付かず、現状の自分では対処ができない事に不甲斐なさを覚える。

 

「ここから封印。できるよね、レイジングハート」

 

「バルディッシュ、お願い」

 

《Sealing Form》

 

二人はビルの上で自身の持つデバイスの形状を変化させ、目標へと杖の先を向ける。

 

そして、その先へと魔力を集め、巨大なスフィアを形成させていく。

 

「ディバイーン……」

 

「サンダー……」

 

スフィアの周囲に魔法陣を形成し、魔力を一気に撃ち出す準備を整え、二人は揃って魔力を放出した。

 

「バスターッ!!」

 

「スマッシャーッ!!」

 

轟音、激しい発光と共に桃色と金色の魔力が一直線に走り、大木へと魔法が炸裂。その瞬間、封印は確かに為されたようで、周囲に広がっていた巨大な木々は、全て嘘のように消え失せた。

 

だが道路や建物のひび割れが、実際に被害が出た事を物語っていた。

 

やがてジュエルシードがまるで雪のように舞い降り、静かにレイジングハートの中へと収納された。

 

二人の為した事、そして海鳴市に大きな被害が出た事に、思わず奥歯を噛み締める。

 

「……ごめん。自分は何も出来なかった。探索する事も、封印も、全部二人に任せてしまった」

 

「なのはも気付いてたのに、気のせいだって。けんちゃんは悪くないよ」

 

「私だって。堅一も、なのはも悪くない」

 

一体何に対して謝っているのかと、言ってから自分自身に対して悔しさを覚える。

 

あぁそうだ、これは悔しいのだ。探索すら出来なかった自分に、封印すら出来なかった自分に。何も出来ず、なのはちゃんとフェイトに頼りきりだった自分自身が、とてつもなく悔しい。

 

「相棒、明日から今の倍のペースで魔法を教えてくれ」

 

「ユーノ君、私にも魔法、どんどん教えてね」

 

「私も、今よりもっと強くなる。だから」

 

『この悔しさは、ずっと忘れないでおこう』

 

きっと今三人、考えている事はそれぞれ違う事だと思う。

 

自身の不甲斐なさ、足りぬ知恵、自信の喪失、様々な思いが胸の内を駆け巡る。

 

それでも期せずして、三人で共に呟いた一言。互いの心の中の大事な場所に、静かに仕舞われた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

ビルの屋上から戻った自分達に、笑顔で「お疲れ様」と声をかけてくれたアリサちゃん達の存在は、とても暖かかった。

 

テレビでは既に謎の現象として道路やひび割れたビルの被害が映し出されている。

 

幸い死亡者は存在していないようだが、何人かの怪我人が出ているという言葉に、三人でギクリ、と身体を震わせる。

 

「……やっぱり、怪我人は出ていたか」

 

「しょ、しょうがないよ! 三人とも、そんな顔をしないで!」

 

ユーノの言葉に三人揃って苦笑を浮かべるしかない。

 

確かに仕方がないが、こればかりはしょうがない。気にするなというのが無理な話だ。

 

「ま、街の復旧だけなら何とでもなるわよ。既にウチのパパ達が動いてるわ」

 

「うん、お姉ちゃんも稼ぎ時だってさっき無事を確認する電話と一緒に言ってた」

 

「こら、人の不幸で富を得ようとしない」

 

恐らくは冗談だろう、すずかちゃんの言葉にツッコミを入れつつ心の中で感謝を述べる。

 

そうして、自分達を元気づけようと思ってくれるだけで、自分達にはとても有難い話だ。

 

「もうこんな事は、二度と起こさないよ」

 

「そうだね、なのは」

 

なのはちゃんの決意の言葉に、フェイトが同意する。

 

そう、もう二度と同じような事は起こさせない。自分も一人、拳を握りしめていた。

 


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