VR 艦隊これくしょん   作:ちーまる

6 / 10
本当はダブルドラゴンの話になるはずだったんです。
欠片も無いんですけどね(震え)

気付いたら五航戦と加賀がメインになってた。流石正妻空母は半端ないですわ……
加賀さんの絶対領域を半日くらい見つめていたい。


6 介抱→始動

いつものように目が覚めるとそこは見慣れた自室……などではなく、未だに違和感が拭えない執務室だった。

 

壁の時計を見れば長針は四の文字ちょうどを指している。通りでまだ薄暗いわけだと男は、そうぼやきながら気怠げにカーテンを開けた。日が昇る前ということもあって動くものは何も見えない。見下ろした視線を持ち上げると、夜明け前の暗闇にかろうじて見えるのは飲みこまれそうなほど黒い海。都会のビルに囲まれた安いアパートの一室からは決して見ることが無かった景色だった。

 

あまりに違う景色、やはりここは奇妙な現実のままなのだと嫌でも理解せざるを得なかった。

寝起き特有の鬱と相まって更に沈んだ気持ちでこれ以上外を眺める気にもならず、乱暴にカーテンを戻すと男はよたよたとソファーに再び倒れ込んだ。照明の光を遮るように手のひらを掲げる。

 

ゲームが現実になる奇怪な現象に巻き込まれて一日。

立派な提督に見えるように振る舞うことをほんの数時間前に決めたはずの男だったが、早くも心が折れそうだった。今日からは本格的に提督業に取り掛かる必要がある。ゲームのように艦隊運営が順調にいくとは到底思えない。何せ男にとっては全てが初めての事ばかりなのだ。画面の向こうから指示を出していた時とは訳が違う。百人を超す部下の上に立つことも、女性しかいない環境で過ごすことも今まで生きてきた中で経験したことが無い。

 

海域解放のために効率的なレべリングの順番も決めなければいけないし、装備開発も残りの資材と相談しながら行わなければならないだろう。おまけにここが現実である以上、艦娘の分を含めて食料の確保の必要性が出てくる。

ゲームのように燃料や弾薬を与えるだけでは駄目なのは言うまでもない。彼女たちも今や意思を持って生きているのだ。休みや給与だって与えないといけないので、今まで通り遠征から帰ったら補給して即出発などということも出来ない。

 

そして何より、新米提督であるはずの今の自分が持っている戦力を誤魔化さなければならない。

着任したての提督が百を超える艦娘を所持している何て、馬鹿正直に報告できるはずが無い。まして、普通にプレイしてても手に入れることが困難である大和や武蔵といった大型建造のみで出会える艦娘までここにはいるのだ。海域の解放と合わせて怪しまれない程度に建造あるいはドロップ(この現象があるのかは不明だが)したと書類を作って辻褄を合わせる必要がある。

 

さらにさらに、それらと並行して艦娘たちとコミュニケーションをとり少しでも好感度を上げて、自分の命の危険を減らさないといけない。

 

 

するべきことは山積みだった。なのに自分が望んだものは何一つ手に入らない。

頭が痛むのは決して二日酔いのせいだけではないだろう。平和とは、命の危険が無い変わり映えしない日々が如何に尊いものであったかを、軒並みではあるが男は失って初めて実感することになった。

 

考えれば考えるほど暗くなる思考を振り払うように立ち上がる。昨日は酔いつぶれてしまった翔鶴たちを送り届けたのは良いものの、そのまま部屋に帰ったところで寝てしまったので風呂に入っていない。時間を確認すれば早いもので、起床してからもう三十分が経過していた。

 

執務室の扉に向かって左手に風呂に繋がっている扉があるのは昨日のうちに確認済みだった。

その反対側にある作戦司令室に繋がる扉の隣には、小さくはあるもののキッチンまで備え付けられている。男自身そんなものを作った覚えも記憶もないが、執務室から出なくても生活出来るだろう施設が知らないうちにいくつか存在していた。まるで誰かがここで暮らしていたかのように――

 

嫌な予感を吹き飛ばすように勢いよく蛇口をひねった。

 

「っつめた……」

 

シャワーから出る水が段々と温かくなりお湯になると、今度は心地よさが全身に染み渡る。汗で体がべたついていたので余計に気持ちが良い。熱めのお湯を浴びて意識が覚醒したからか、先程までの沈みきっていた気持ちも少しはマシになってきた。

 

取り敢えず食料の件に関しては妖精さんに相談してみるか、男はそう決意した。

 

 

◇◇◇

 

「ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした……」

「本っ当に、ごめんなさい!」

 

時刻は午前七時三十分。朝食を食べる気にもなれず、執務の開始時間までゆっくりすることを決めていた男の優雅な朝はそんな翔鶴と瑞鶴の謝罪によって無くなった。

 

男にとって貴重な、心穏やかに過ごせるはずの朝がぶち壊しになった原因ははっきりとしている。

 

昨日二人が酔いつぶれ、あまつさえ上司にその後始末をさせてしまったことだ。部屋に帰った記憶が無いだろうと、一応榛名と二人で書置きを残していったのが災いしたらしい。物凄い勢いで執務室に飛び込んできたと思ったら、突然の事に困惑を隠せない男を余所に半泣きで謝罪しだした。深々と地面に頭をこすり付ける勢いで謝る翔鶴と瑞鶴の姿に男の顔が青ざめたのは言うまでもない。傍から見れば部下に謝罪を強要する上司、あるいは何らかの原因で女性を泣かせた最低男という図の出来上がりである。

 

そこからの行動は早かった。二人を取り敢えずソファーに座らせ、開けっ放しになっていた扉を閉め、更にカーテンも外から見えないようきっちり閉めれば完璧。人から見られない状況になって、男はようやく二人を宥める作業へと取り掛かった。無論、男に残された時間は余りない。九時になれば執務が始まるし、その少し前には恐らく仕事を持った大淀がやってくる。

 

そして、そこから男が二人を何とか落ち着かせるまでに優に三十分以上費やすはめになった。どっと疲労が押し寄せたのを誤魔化すように温くなったお茶をすする。これでまだこちらに来てから一日しか経っていないとかあり得ないし信じられない。男の疲労度はすでに赤ゲージに突入どころかMaxだった。間宮アイスでもこの疲労度は回復されないのは確実である。

 

「それで、あのね提督さん昨日のお詫びといっては何なんだけど……」

 

もじもじと恥ずかしそうに対面に座る瑞鶴からはいこれっと抱えていた包みが差し出される。可愛らしいピンクの布の端には小さく白い鶴と黒い鶴が刺繍されているのが見えた。受けとるとずっしりとした重みが男の腕にのし掛かる。

 

「弁当か?」

「うん!一応瑞鶴の手作りよ!えへへ……」

 

促されるようにほどいた布の下から現れたのは、可愛らしさや女性らしさとは正反対の二段弁当だった。

 

この時点で嫌な予感をひしひしと感じながら、男は震える手で蓋を開けた。目に飛び込んでくるのは白米の真っ白な輝き。おそらくどんぶり二杯分は軽く詰まっていた。

二段目には色とりどりのおかずが並べられている。定番のから揚げ、たこさんウインナー、ハンバーグ。何というか全体的に茶色い。THE男の弁当とでもいうべきか、ボリュームのみを追及した取り合わせだった。

 

「提督、あの私からもよろしければ……」

 

隣の翔鶴からもおずおずと白い包みが渡される。瑞鶴の弁当に負けず劣らずの重みだった。自然と流れた冷や汗を拭い、恐る恐る蓋を開ける。

お揃いの弁当箱に詰められた白米とおかず。だし巻き玉子、オムレツ、ニラ玉とこれでもかというほどの卵料理が詰められていた。今度は黄色い。というより卵ネタは某食べりゅ軽空母だけかと思っていたのだが……あれか、栄養が詰まっているからか。

 

「お、美味しそうだな……」

 

男は何とか声を絞り出した。野菜は?と思わず聞かなかった自分を褒めてやりたい。

 

「でも提督さん、朝ごはんこの量で足りる?」

「一応多めに詰めたんですけど……大丈夫ですか?」

「……充分すぎるくらいだよ」

 

良かったー私たちはこれだと足りないからと笑う五航戦を尻目に男の冷や汗は一向に止まらなかった。空母ってこれ以上の量が標準なのか。まだ見ぬ鎮守府のエンゲル係数を考えるのが恐ろしい。

 

眼前に見える重厚な弁当にごくりと喉が鳴った。食欲を刺激されたということだけではない。時刻はまだ七時台、普通なら朝食の時間だ。だが、男の前にあるのは明らかに朝からは重すぎる内容と量である。美味しそうな匂いにつられ幾許か腹が減ってきたとはいえ、この量は確実に無理。しかしだからといって、男にこれを食べないという選択肢は存在しない。

ちらりと目を向ければ、期待を込めた表情が見える。こんな二人を前に断るなど男には出来るわけがなかった。まして、今自分が置かれている状況でどうして進んで嫌われにいくようなことをするだろうか。男は自らの胃を犠牲にすることに決めて箸を手に取った。

 

迷い箸という行為が不作法であることは十分承知していたが、いざ大量のおかずを目の前にすると何から食べようか迷う。取り敢えず瑞鶴の弁当から手を付けることして、端にあった小さめの肉団子を口に運んだ。見た目の割にあっさりとした甘酢のあんが肉の風味を引き立てる。薄味であるものの決して物足りないというわけではなく、むしろご飯が欲しくなる味だ。自然と白米に箸がのびた。

 

次は翔鶴のおかずに箸を動かす。程よく茶色い焦げ目のついた卵焼きは出汁ではなく砂糖の甘みを感じた。男の好きな味付けだ。

 

「うん、旨い。二人とも料理上手だな」

「提督さん、本当!?やったね、翔鶴姉!」

「そうね瑞鶴。でも良かったです、提督のお口に合って」

「……朝早くから大変だったと思うが、本当に嬉しいよ。ありがとう」

 

少し心配だったんですとほっと翔鶴が胸を撫でおろす。そんな様子を見て男は余計に申し訳なさをひしひしと感じていた。これだけの量を作るのに一体いつから作業していたのだろう、この後彼女たちは演習もあるだろうというのに。素直に向けられる純粋な好意を信じることの出来ない自分が情けない。

 

ちくちくと痛む良心を誤魔化すようにおかずを口に入れ、時計を確認した。執務開始時間まであと一時間と少しあるものの、二人にも予定があることだろう。とか何とか理由をつけるものの、ぶっちゃけ男は早く一人になりたかった。確かに申し訳なさも情けなさも感じてはいるが、それとこれは話が別である。人目を気にしないですむ男にとっては大変貴重な時間なのだ。早くお帰り願おうと心に決める。

 

「あ―、その何だ、わざわざ弁当を作ってくれてありがとう。二人とも午後からは演習も始まると思うから、そろそろ……朝ごはんでも食べてきなさい、うん」

 

 

 

◇◇◇

 

「目は口ほどに物を言う」という故事がある。

何も話さなくてもその目つきから感情が伝わるという意味だが、この言葉ほど今の加賀を表すものはないと本日五杯目になるおかわりをしながら赤城はそう思った。

 

本人に言えばそんなことはないと否定されるだろうけれど、意外と加賀は感情豊かだ。今だってむっつりと眉間に寄せられた眉を見れば機嫌が悪いことは一目瞭然で、彼女の意志の強さを表すような切れ長の目は不安げにゆらゆらと揺れていた。

 

加賀がこんな状態になってしまった原因は分かっている。今朝になって突然秘書艦の任から外されたことだ。

 

深海棲艦との戦いが一段落してからはずっと加賀が秘書艦として働いていた。加えて加賀が古参であることもあって、他の艦娘に比べて秘書艦経験は多い。そうなると執務室から一歩も出てこなかった提督と接している時間が長いのも、必然的に加賀や任務やその他諸々を受け持っている大淀になるわけで。

 

以上の事から金剛を筆頭としたいわゆるおおっぴらな「提督LOVE勢」からも、霞や曙といった残念ながら隠しきれていない「隠れ(笑)提督LOVE勢」からも羨ましがられていたのだ。LOVE勢筆頭の金剛に至っては妹たちを引き連れて常日頃からアタックを繰り返していたし、その座を虎視眈々と狙っていた艦娘も多い。無論、本人もそんな状況に満更でなかったというより、その乙女心からか喜んでいたのは言うまでもなかった。

 

言わずもがな、赤城自身も少なからず加賀の立場が羨ましく思っていた。同じ正規空母で一航戦、着任時期もほぼ変わらず練度にも大きな差異は無い。のにも関わらず、自分が秘書艦を務めたのは両手で数えるほどしかなかった。見た目もそんなに変わりはない……と思う。若干加賀の方が大きいかもしれないが、自分だってそこそこある方だと赤城は向けていた視線を逸らした。

 

じゃあ何故こんなにも回数が違うのかと聞かれれば、それは分からないとしか答えようがない。提督の好みと言ってしまえば身も蓋も無いが、そういうことなのだろう。まあ、加賀は可愛い。照れ屋で、不器用で、でも一生懸命で。言い方がきつくなることも多いものの、それは相手の事を思ってのことだ。だから、後輩である瑞鶴も口では色々と言っているが、それが本心ではない事を皆知っている。まあ、彼女は蒼龍曰く「ツンデレ」という性格らしいから仕方ないのかもしれない。

 

――もう……私だって提督の事好き、なんですからね

 

そう思いながらもこうやって世話を焼いてしまうのは、加賀の事も好きだからに違いない。ほかほかのご飯に合う焼き魚をほぐし口に放り込む手は止めずに、赤城は加賀に尋ねる。

 

「それで、加賀さんは提督に直接聞いたの?」

「……いえ、まだ」

 

赤城の口からため息が思わず漏れた。『私、提督に何か嫌われるようなことしてしまったでしょうか……?』と泣きそうになりながら部屋に飛び込んできたのは何処の誰だったか。そんなに気になるなら提督に直接聞いてしまえばいいのだ。そう思いながらも、それが出来たらとっくに二人はくっついていると囁く自分がいるのもまた確か。

 

これはまた自分が一肌脱ぐしかないと赤城は心に決めた。

 

「加賀さん」

 

にっこりと笑みを浮かべ、箸を置く赤城の笑顔を見た加賀の背に冷たいものが伝う。この笑顔を見た後はロクなことが起きないと加賀は今までの経験から分かっていた。前にちょっとした意地の張り合いから瑞鶴と艦載機を撃ち合う喧嘩になった時は、二人そろって正座でお説教された後に一週間ご飯を減らされた。

 

「執務室、行きますよね?」

 

疑問符が付いてはいるものの、加賀にそれを断るという選択肢はない。いつの間にか食べ終わっていた食器を片づけ、赤城は執務室に向けて歩き出す。加賀は赤城に手を引かれながら、引きずられるように連れて行かれることとなった。

 

「赤城さん……自分で歩きますから」

「そう言って、手を離したら加賀さん逃げるでしょ?」

「…………」

 

ぐうの音も出なかった。




家の瑞鶴はデレしかない(宣言)
ツンデレ瑞鶴も可愛いけど、デレデレ瑞鶴も可愛いと思うずい。心がずいずいします。

じ、次回こそ二航戦と鉢巻回になるはず……です。
暫く正規空母及び軽空母が出張るかもしれないけど、許してください!何でもしますから!

後、お気に入りが1000超えたら何かしようかなーと考えております。

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