VR 艦隊これくしょん   作:ちーまる

5 / 10
翔鶴・瑞鶴のごつごつとした足の艤装とスカートとの間の絶対領域、プライスレス。
あ、お二人とも改二おめでとう!

アニメは鶴姉妹のために5話(ツンデレ回)→6話(紐パン回)→7話(中破回)→8話(浴衣回)→最終話でループしてます。如月ちゃんなんて無かったんや……


5 接触→介抱

艦娘の姿は船だった頃の大きさに準じているとされている。

 

駆逐艦に幼い容姿のものが多いのは、船自体が小さかったから。逆に戦艦や空母といった船自体が大きかったものは背や風貌も一部の艦娘を除いて大人に見えるものが多い。そんな設定を思い起こしながら、男はもうすでに出来上がっている隼鷹に絡まれている、「一部の艦娘」の軽空母龍驤や装甲空母大鳳からそっと視線を外した。

 

では提督である男と言えば、過去遡ること数十年前の十代後半から今に至るまで背は低かった。

 

それはこのゲーム内で使っていたアバター、現在の体にも当てはまる。華奢なと言えば聞こえはいいが頼りない、ましてや人の上に立って指揮するような立場にある姿とは見えなかった。今更ながらにもっと髭とか生やして威厳ある姿にしておけばよかったと後悔しているが、残念ながらもう遅い。

 

つまるところ、空母に分類されている中でも背の高い彼女たちと比べると背丈は頭一つ分下がってしまう。はたから見れば、姉と弟のようである。間違っても上司と部下という関係には見えない。なんとなく居心地の悪さを感じる男だが、周囲を取り囲む彼女たちにとってはどうでもいいことらしい。少し前の金剛型包囲網と同じように今度は空母包囲網が出来上がっていた。行く先々でこれが出来上がるのかと考えると、男は眩暈がするのを隠せなかった。

 

ひきつりそうになるのを堪えながら笑顔で絡んでくる酔っ払い空母たちを捌きつつ、男はこれからのことを思考する。

挨拶の流れ的に言えば、まだ行っていない巡洋艦、駆逐艦たちのところに行くべきだろう。だが、行きたくない。空母と戦艦は百歩……いや一万歩譲ってまだ耐えられるだ。数も少ないのに加えて、ある程度大人といっていい彼女たちだ。会社の上司に対する接待とでも思えば、多少艦娘への恐怖も薄くなる。しかし、巡洋艦はともかく駆逐艦は無理だ。自分の処理能力を超えるほどの人数にあの幼い容姿、ぼろを出さない自信が無い。

 

子供は苦手だ。

嘘をついてもすぐに見抜いてくるし、遠慮や気遣いというものを知らない。人が触れて欲しくないところまでずかずかと踏み込んでくる。ましてや、純真無垢という言葉がぴったりと当てはまる彼女たちを見ていると嫌なことまで思い出しそうになるのだ。

 

「っ……」

 

つきりと痛む頭を誤魔化すように酒をあおった。あの日からもう何年も経っているのに、まだ引きずっている自分に嫌気がさす。忘れたいわけではない、でも思い出したくない。治りかけの傷をかきむしるような無駄な行為、駄目だとは思っていても身に染みついてしまったものはすぐに直せるものではなかった。

 

「提督、大丈夫ですか?」

「あっ……翔鶴か、まだ全然飲んでいないから平気だぞ」

「いえ、でも顔色が優れないようでしたので……」

 

過去へと遡りそうになった男を引き戻したのは、近くで飲んでいた正規空母の一人である翔鶴の心配そうな声だった。さらりと綺麗な銀髪がたなびき、少し赤くなった頬と相まって何とも言えない色気を彼女から感じる。そんな動揺を隠すようにへらりと笑みを浮かべグラスを振れば、もうすでに酔っていると判断されたらしい。そのまま横に座ると手に持っていたグラスを奪い取られ、代わりに水が差しだされた。

 

「もう提督ったら、あんまり飲みすぎたらだめですよ?飛龍さんや千歳さんに勧められるのは分かりますけど」

「いや酔ったわけじゃあないんだが」

「とにかく、飲みすぎは体に毒ですから」

 

にっこりとほほ笑むその表情に有無を言わせない圧力を感じたのか、男は酒を取り返すことを諦めた。ちびちびと酒を飲むように水をなめる。翔鶴の親切心から来ているのは分かっていたが、この状況で酒無しは正直なところキツイ。ただでさえ自分の中にある艦娘に対する恐怖に呑みこまれないように、酒で誤魔化してきたのだ。素面の状態に近づけば近づくほど、男は上手に彼女たちと話せる気がしなかった。

 

これまでの様子から、恐らく今すぐ死ぬレベルでは嫌われてはないとは思う。だが、好かれているかと聞かれればそこには疑問が残る。感情など幾らでも取り繕うことが出来るのだ。ましてや彼女たちのその好意がシステムによって植え付けられていないとも現状では言い切れない。

 

向けられている好意を本当に信じてもいいのか、そんな疑念ばかりが胸の内に渦巻いている。もし何かの拍子に好意が敵意に変わったら、もし自分より遥かに有能な提督が現れたら、もし、もし、もし……

 

そんな止まることを知らない不吉な可能性が、一歩を踏み出そうとするたびに男の肩に重くのしかかってきていた。信用したい、でも裏切られないとも限らないそんなジレンマがさらに警戒心を引き上げる。あの笑顔の裏で何を考えているのか、せめて敵意を持っていないどうかだけでも分かればいいのにと叶いそうもない願いがよぎった。

 

今こうやって彼女たちと話しているのも、全部自分の安全のためだ。打算にまみれた情けない自分に反吐が出そうになる。彼女たちと話していると、自分の汚さを見せつけられているようで。男はため息を押し込めるように水を飲もうとグラスを口に付けた時、足音が背後から近づいてくるのが聞こえた。後ろを見ようと振り向くと若干の衝撃を感じるとともに、視界が柔らかい何かで塞がれる。

 

「てーとくさーん!翔鶴姉ばっかりじゃなくてー、瑞鶴にもかまってよー!ふてくされるぞー」

「ちょ、瑞鶴!何やってるの?!」

「えー。だって、翔鶴姉ばっかりずるいんだもんー!」

 

聞こえてくる会話から察するに、飛びついてきたのは翔鶴の妹でもある瑞鶴のようだ。相当酔っているのだろう、体中から酒の匂いがした。

 

 

抱えられた頭を胸元にさらに抱き寄せられる。僅かに目線を上に向ければ、酔っているのか赤く染まった顔でこちらを見る瑞鶴と目があった。視線に気づいた瑞鶴はふにゃりと笑うと、マーキングする猫のように顔をこすりつけてくる。普段着けている胸当てが無い分、余計に柔らかい感触と高めの体温を感じた。

 

「んふふーてーとくさんーあったかいー」

 

ベストポジションを見つけようともぞもぞと動いていた瑞鶴の動きが止まる。丁度彼女が男の後ろから覆いかぶさる、俗に言う「あすなろ抱き」の形に落ち着いたようである。さらにご機嫌な様子で今度は背中に顔をこすり付け始めた。完全に主人に甘える猫である。

 

数分の間そのままにしていたが、流石に辛くなってきた。椅子の背もたれを横にして翔鶴と向き合っていたために、背にしがみつく瑞鶴を落とさないようにある程度力を入れ続けなければならない。かといって無理矢理に振りほどくのは忍びない。何となく振り払うことを躊躇った男は姉の翔鶴に応援を頼もうと横を向いて、尋常ではないその様子に思わず口をつぐんだ。

 

「翔鶴……?」

「……」

 

恐る恐る声をかけても返答は無かった。ひらひらと目の前で手を振っても反応は無い。スカートの端を握りながらぷるぷると震え、下を向いている彼女の表情は男からは見えなかった。覗き込むように様子をうかがうと、翔鶴は――静かに泣いていた。

 

男の顔が一瞬で青ざめる。

折角なけなしの根性を振り絞って好感度を稼ごうとしてきたのに、女性を泣かせたとなれば一気に努力が無駄になる。それどころか却って収支はマイナス。雀の涙ほどの好意は嫌悪に変わり、クソ提督に何か従えないと裏切られ、ぷちっと殴られ死亡というバッドエンドルートに一直線だ。

 

急いで周囲を見渡す。幸い一番ばれたらまずい瑞鶴は、すでに背中で幸せそうに寝息を立てていた。他の空母たちも酔いが回ってきたのかこちらに気付いている様子はなく、空母包囲網のお蔭で他の艦娘たちからも見えにくい。

 

「だ、大丈夫か?」

 

慌てて拭うものを探すが、生憎とハンカチは隼鷹に酒をぶっかけられた飛鷹に貸してしまっている。近くに顔を拭けるようなものはない。他の艦娘に気付かれる前にこの事態を鎮静しなくてはと、伸ばした手が翔鶴によって突然掴まれる。そしてそのまま押し倒さんばかりの勢いで抱き着いてきた。

 

倒れてしまえば背中の瑞鶴を押しつぶすことになる。倒れまいと必死に足腰に力を入れて衝撃に備え、何とか翔鶴を受け止めた。多少体勢を崩したものの、受け止めることに成功した男はほっと胸を撫で下ろす。

 

「翔鶴、ちょっと落ち着こう。な?」

「いやですー!てーとく、わたしがんばるから、見捨てないでー!」

 

――あ、駄目だこれ

 

びえーとお淑やかそうな彼女からは考えられないような泣き方をする翔鶴に男は悟った。

少し目を離した隙に一体どれだけ飲んだのだろうと周囲を見渡せば、空けられた酒瓶がごろごろと転がっている。というよりも、よく見れば翔鶴の傍だけではない。そこらじゅうに酒瓶と酔いつぶれた艦娘たちが横たわっているではないか。

 

 

死屍累々という言葉がぴったりな状況に眩暈がするのを隠せない。そこらで吐かれていないだけマシとでもいうべきか、自らを慰めた。そんな状況なので比較的酔っていない艦娘たちがゴミを集めたり、寝込んだ者に毛布をかけたりしている。

 

ここは自分も後片付けを手伝うべきなのだが、まずはこの身動きが取れない現状を何とかしないといけなかった。男自身がこのまま二人を抱えて移動出来たら問題はないが、いくら軽い女性といえど二人合わせて80kgは下らない。残念ながら、インドア派の男には二人を運べる自信が無かった。

 

そんなわけで誰かに頼んで部屋に送ってもらうのが良いと判断し、近くで頼めそうな艦娘を探すことにした。なるべく力持ちそうで、多少の無理でも頼んだらやってくれそうな……とふるいにかけてしまえば選べる人は意外と少ない。

 

まず、背の低い駆逐艦は除外。翔鶴・瑞鶴ともに背丈が高いため、背負うこと自体が困難だろう。

次いで巡洋艦も除外。体格の条件はクリアしているが、殆どが酔いつぶれているし、酔っていない艦娘もその対応に追われている。

 

となると、残りは空母と戦艦しかいないわけだが……

 

「ちょっ!お二人ともここで吐かないで下さいよ!」

「全然大丈夫じゃないですか!今バケツ持ってくるんで、ここでは絶対にやめて下さいね!」

「一航戦の誇りをこんなところで失うわけには……うえっ」

「が、鎧袖一触よ。問題ないわ」

 

「……飛龍、急がないとちょっとこれ本気でマズイよ」

「あのペースで飲めばこうなるよねえ……よしっ!二航戦、出撃します!」

 

――酷い出撃もあったもんだ

男は心の中で先輩の後始末に追われる蒼龍・飛龍の二航戦コンビに合掌をし、そっと目を逸らして見なかったことにした。

 

まさかあんまり羽目を外さなそうな一航戦たちがあんなになるとは、まったく予想がつかなかった。人は見かけによらないというか、意外とお茶目な一面もあるのかもしれない。……後始末をさせられている後輩はそんな状況ではなさそうだが。軽空母の面子は呑兵衛の名を欲しい侭にしている千歳と隼鷹に絡まれているから、そもそも頼りにはしていない。

 

となると残りは戦艦しかいないと視線を向けた先で一人の艦娘と目があった。

酔いつぶれてしまった長姉の世話を次姉が焼く中、サポートするように寄り添ってはいるが今のところ手は空いているらしい。丁度男の視線にも気づいていることだし、タイミングはばっちりだった。小さく手招きをすれば、ぱたぱたと小走りで駆け寄ってくる。

 

「提督!榛名に何か御用ですか?」

「すまんな榛名。ちょっとこの二人を部屋まで運ぶのを手伝ってほしい」

「はいっ!榛名で良ければ喜んで!」

 

 

◇◇◇

 

結局榛名の助力を得たものの、しがみつく瑞鶴と翔鶴のどちらを運んでもらうかを決めるので数十分を費やすことになった。

 

正確に言えば、両者ともにがっしりと男に足を巻きつけて熟睡していたため引き剥がすのに時間がかかったのである。何とか妹の瑞鶴を榛名に背負ってもらったものの、そこに至るまでのやり取りで男の体力と気力は既に限界に近い。ただでさえ、色々と緊張を張り巡らせていたのだ。今すぐにでも布団にくるまれ、夢の世界に旅立ちたかった。

 

何とか二人を部屋に送り届けた帰り、少し後ろを歩いていた榛名は小さな声で男に問いかける。

 

「提督……提督は今日の宴会、少しは楽しんでいただけましたか?」

「ん、ああ。十分楽しかったよ。今まで皆とあまり話したことが無かったから、良い機会だった」

 

これは男の本心であった。

嫌われたくない、好感度を稼ぎたいという目論見に丁度良かったとはいえ、出された料理はどれも美味しくお酒もある程度は堪能することが出来た。男にとっては当初の目的と艦娘たちへの気疲れという点を抜きに考えれば楽しめたと言えるだろう。まあ最後は皆酔っぱらって大変だったけど、と苦笑する男。榛名は思わずその袖を掴んでいた。

 

「榛名は……」

「どうした?」

「榛名は、少し、今が怖いです」

――この幸せが壊れてしまいそうで

 

世界が変わってしまったという荒唐無稽な事態に混乱する中、変化したのは自分たちが置かれた環境だけではなかった。

今まで関わることを避けてきた提督が、これからは手の届く距離にいてくれる。自分たちから話しかけることだって禁止されていないし、会いに行くことも出来るようになった。提督ともっと話したい、触れ合いたいと望んでいた艦娘にとっては、何よりの幸運だった。だから、怖い。

大好きな提督と一緒にご飯を食べて、話すことが出来て、側には大切な仲間たちが誰一人欠けることなく笑っていて……何よりあなたに触れることが出来て知ってしまった。優しさを、愛おしさを、守りたいと思うこの幸せを。

 

一度手にしてしまった幸せを手放してしまうことになるのが、とても怖い。

 

「提督は、これからも榛名たちと一緒にいてくれますか……?」

「っ!」

 

縋りつくように榛名が絞り出したその質問に男は即答できなかった。

 

未だこのゲームのような現実に閉じ込められた原因もそこから抜け出す方法も何一つ分かっていない。長い付き合いになるだろうことは予想していた。けれど、それを口に出して肯定してしまえば自分の置かれた現状を認めたような気がして。そんな彼女たちと付き合っていく決意も提督として振る舞う決心も、何よりも元の世界を捨てる勇気が今の男には無かった。

 

口の中が酷く渇いている。自分は今どんな顔で彼女と接しているのだろう。

 

「当然だよ、俺が榛名たちを見捨てるわけないだろう?」

「そう、ですよね。すみません、変なことを言ってしまって」

 

榛名も少し酔っていたみたいですと、照れたように笑みを浮かべた彼女を見ることが出来ずに目を反らした。虚飾に塗れたあまりにも軽い言葉が口から滑り落ちる。自分を少しは信じてくれているだろう彼女たちを裏切る行為に確かな罪悪感を感じながら、男はいびつな笑みを浮かべた。

 

自らが纏う衣服をこんなにも重いと感じたのは初めてだった。




何で正規空母組の太ももはあんなにエロいの?prprしたい(真顔)
蒼龍と飛龍はあの着物も相当だと思います。あの袖、凄く好きです。というより、清楚さを感じさせる子が黒タイツとかが良いんですよね。つまり、加賀の絶対領域もプライスレス。

赤城・蒼龍・翔鶴は動物で言うと犬っぽいけど、加賀・飛龍・瑞鶴は猫っぽいですよね。でも、好感度高いと全員から漂う忠犬臭……正直言ってたまらないです。だから正規空母組の出番がちょっと多くても仕方ない。
つまり次回のメインは……

まあ、そんなことで次回は黒タイツ回……ではなく鉢巻回になります。

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