忠義の騎士の新たなる人生   作:ビーハイブ

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お久しぶりです。もうすっかり内容も存在も忘れ去れてる気がしますが久々の投稿をさせていただきます。


後一度だけ起こった奇跡

―――痛みは訪れなかった

 

 代わりに訪れるのは金属がぶつかる鈍い音。自身の鼓膜を震わせる物の正体を知ろうとフェイトは閉じていた眼を開く。

 

「……っ?!」

 

 そうして視界に入ったのは必滅の黄薔薇の一撃を漆黒の投擲刀型のデバイスで受け止める少女の背中。突然現れた自分よりも小さな少女の存在にフェイトは驚いて息を飲んだ。

 

(いつの間に……)

 

 だがそれ以上に驚いたのは、管制人格の攻撃を両手とはいえ少女がその細腕で抑えているという異常さ。その姿を視界に納めるまで存在を全く知覚できなかった。視界に捉えた今でも、目の前にいる少女の気配を感じることができない。

 まるでスクリーンに投影された映像のように目の前の少女は曖昧で不確かな存在であった。

 

「今です」

 

 誰かと問いかけようとしたフェイトより早く少女が誰もいない空間に声を掛けた瞬間、少女の身体がブレたように見えた。

 

「なっ?!」

 

 見間違いかと眼を擦り、再度少女の姿を確認したフェイトは更に驚かされる事となる。フェイト達を囲むように三十を越える不気味な人物が空中に佇んでいたのだ。

 体躯や性別は様々だが、骸骨の面と黒衣という共通点があり、全員がいつの間にかフェイト達を囲うように現れていた漆黒の鎖を足場にしている。その姿を見てフェイトは少女の正体を理解した。

 

「アサシン……?!」

 

 アースラを襲撃し、ディルムッドとフェ イト達が分断される原因を作り、守護騎士発見を妨害していた暗殺者の英霊。

 

 襲撃者の中に小柄な少女がいた事は伝えられていたが、映像データは破壊されて確認不可能であった為にフェイトもなのはもその姿を知らなかった。少女以外のアサシンの外見的特徴として聞かされていた骸骨の面と黒衣を見てようやく気が付いたのだ。

 

「捕縛開始」

 

 アサシンの少女がそう告げると全員が一斉に新たな漆黒の鎖を放つ。放たれた鎖は管制人格に幾重にも絡み付くとプレシアの姿が霞み、管制人格が再び姿を現す。

 

「……主の眠りを阻む者は排除する」

 

 乱入者を排除すべき敵だと判断した管制人格が、邪魔な鎖を破壊しようと魔力を込める。莫大な魔力と英霊の力を持つ管 制人格には、この程度の脆弱な鎖など障害にはなりえない。

 

――――――そのはずであった

 

「……?! 破壊……できない……!」

 

 だが、その簡単に壊せそうなその鎖に捕らえられた管制人格は身動きすること破壊する事も出来なかった。

 

「無駄。このAMFチェーンの前では貴方の莫大な魔力も無意味になります」

 

 困惑する管制人格へ冷たい声でアサシンの少女がそう告げた。

 

「AMFチェーン……?」

 

「詳しくは伝えられてませんが魔力を封じる鎖です。小型化し過ぎたせいで絡めとった相手にしか効果はないそうですが」

 

 聞き覚えのない言葉にフェイトは疑問を抱き、思わず呟くとアサシンの少女は丁寧に答えを返してきた。こちらの言葉は無視されると思っていたので、面食らってしまう。

 

「お気付きのようですが改めまして。アサシンのサーヴァント、ハサン ・サッバーハと申します。我らが主の命によりお嬢様をお守りいたします」

 

 丁寧な挨拶と共にハサンを名乗った少女がペコリと頭を下げる。

 

「お……お嬢様って……」

 

 呼び慣れない呼び名とハサンの様子に戸惑う。目の前のサーヴァントは敵意どころかフェイトに対して敬意を示しているのだが、その理由が全くわからない。

 

「主が貴女に強く関心を持ち、丁重に迎えたいと考えているからです」

「あなたの主は誰なの?どうして私を……」

「今はまだ。ですがいずれお会いする日が訪れます」

 

 少女のハサンはそう言って口を閉ざす。少なくとも今は自身の主について語るつもりはないようであった。

 

「フェイトちゃん!」

 

 突然の事態に固まって しまっていたなのはがようやく我に返りフェイトの元に駆け寄る。

 

「大丈夫?」

「うん。この子が助けてくれたから」

「あの、フェイトちゃんを助けてくれてありがとう」

「礼は不要です。我等は意思なき刃。お嬢様をお救いしたのは主の命に従ったまで」

 

 人でも英霊でもなく、心無き物であると。恐ろしいほど無表情でそう返すハサンの少女にフェイトは思わず言葉を失った。

 

「そんな悲しい事言わないで」

 

 しかし優しい少女(高町なのは)がその言葉を受け入れるはずはなく、その言葉を否定する。

 

「それが我等の生き様です。同情など必要ありません」

 

 だがハサンの少女は表情を変えることなく、なのはの言葉を拒絶するかのように淡々とそう告げる。

 

「そんな同情なんかじゃ――――」

「その問答は後でよかろう」

 

 それでも諦めず話を続けようとしたなのはの言葉を背後からの力強い声が遮る。

 

 なのはとフェイトが振り替えるにやってきたイスカンダルがハサンの少女を威圧感溢れる眼光で見据えている。その隣に立つクロノの表情も険しい。

 

「それよりも先に確認せねばならぬ事があるであろう」

「あぁ、そうだな……。アサシン、ハサン・ザッバーハ。君達は僕らの敵か?」

 

 イスカンダルの言葉を引き継ぐようにクロノがデバイスを突きつけ問い掛ける。

 

 それは今この危機的状況下の中で何よりも明確にしなければならない事であった。

 

「フェイトを助けてくれた事は感謝する。だがそれだけで君達を信用する事ができない」

 

 確かにフェイトの命を救った。

 

 しかしそれでこれまでにハサン・ザッバーハによって管理局が受けた被害、その行動を指示していた背後の人物が不明であるという事。その二点だけでもアサシンを信用できない要素としては充分すぎる要因である。

 

 いくら共闘の意思を示したからと言ってそんな相手をあっさり信用するなど余程の馬鹿か思考を放棄した愚者以外は到底不可能だろう。

 

 だがアサシンを無視して戦うというのも絶対に避けなければならない。

 

 全サーヴァント中最弱ではあってもアサシンはマスター殺しに特化したクラス。

 

 いくら優秀な魔導師であっても人間であるクロノ達には充分すぎる驚異となる。

 

 暗殺者の英霊に背後を晒し、常に奇襲を受ける可能性の中で闇の書を相手にする訳にはいかない。

 

 最悪敵対する事になるならば今この場において管制プログラムより先に撃破しなければならない程の危険要素となりえる。

 

「当然の反応ですね」

 

クロノとイスカンダルの殺意に全てのハサンは一切の動揺を見せず、その中心に立つ少女はそう答えた。

 

「我等は『アレ』を破壊する必要があります。しかし我等だけではそれは不可能です。故にお嬢様方に協力したいのです」

「……!」

 

 信頼する必要はない。あくまで利害の一致による共闘を。そう告げる少女の眼にイスカンダルを除くこの場にいる者達は恐怖を感じた。

 

 悪意も善意もない虚無。暗く冷たいその眼を見ただけで、自身の身体が虚数空間に落ちて行ったかのような錯覚を抱かされる。

 

「ご決断を。鎖もまもなく限界ゆえ」

 

 本能が感じる恐怖と時間がないという事実がクロノ達から思考する余裕を奪い、今鎖に囚われているのは自身ではないかと錯覚させる。

 

――――――人を縛るものは言葉や暴力その物ではなく、恐怖という感情だ

 

 恐怖は歩みを止めさせ、意思を揺らがせる。それを深く理解している暗殺者はそれを利用し、この場にいる者達を支配しようとしていた。

 

 サーヴァントという未知なる存在の中でも異彩を放つハサン・サッバーハ。

 

 人々に羨望と尊敬の念を向けられる英雄とは真逆の血塗られし暗殺者は眼前に存在するだけで恐怖を与える。

 

 それは無意識であれ意識的であれ周囲にある者達は恐怖を抱く。

 

 それは脳を蝕む毒のようであり、または思考を縛る見えざる鎖となってその身に絡み付く。

 

「よかろう。貴様らの進言に乗ってやろうではないか」

 

 その様子を黙って見ていたイスカンダルが自らの乗る神威の車輪を進めてクロノとハサンの間へ入り、宣言した。

 

 その瞬間、クロノ達を恐怖の闇に引きずり込んでいた見えざる鎖は唐突に砕かれ、脳を蝕む毒は消え去り思考がクリアになる。

 

 反英雄が恐怖を与える存在であるならば、万夫不当の勇壮なる英雄は恐怖を打ち払う者。

 

 そしてクロノ達の眼前に立ち、ハサンと対峙せし英雄はマケドニアの征服王。

 

 幾千の英雄を統べ、彼らを鼓舞して率いた王。その背に立つだけで恐怖など忘却し、本来以上の力が沸き上がっていくような感覚が生まれる。




1年以上遅れてしまい、待っていてくださった方がおられましたら申し訳ありませんでした。久方の投稿をさせていただきました。

なぜ遅れていたのかといいますと・・・まず一つ目に以前に活動報告で書いたように一度データ吹っ飛んでやる気8割失ってたって言うこと。

そして艦これにハマってました。具体的には現時点で全艦娘コンプ、ケッコン艦8隻目という程度にです。

とりあえずレベリングか資源オンラインしかする事無くなったのでまたこれから続き書いていこうと思います。

今回の内容は前半書いたのが8ヶ月以上も前で後半は艦これの夏イベの後です。
その間に設定思いついたり忘れたり変えたりもしたので、推敲はしましたが文章がおかしいかも知れません。突っ込みどころがありましたら教えていただけたら幸いです。

それでは次がいつになるかわかりませんがお付き合いいただけたら幸いです。

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