忠義の騎士の新たなる人生   作:ビーハイブ

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ISの方に逃げてましたが、厨二スキルを全解放したらけっこう書けたです。




絶望と救済

 

 

 

 

「ディルムッド君!」

「無事だったんだね!」

 

 強襲によるダメージを与えた隙に、管制人格とビーストから距離を取り、建物に影に身を隠す。

 ようやく一息吐ける場所に辿り着くと、無事に戻ってきてくれた少年の姿を見て二人が安堵の声を上げる。

 

「あまり強力な生物はいなかったからな。特に危険は無かった……魔猪の大群に襲われる以外は」

 

 トラウマを抉る光景を思い出し、死んだ魚の目になったディルムッドの脚には、銀色に輝く機械の鎧が装備されていていた。

 

 これこそがディルムッドが依頼した機能を搭載した改良型アームドデバイス《グラニア》である。

 

 以前の《グラニア》は空戦能力を与える為に飛行魔法を使用可能にする事に特化させていたが、それを完全にオミットし、代わりに新開発されたAGSと呼ばれるメインシステムを搭載している。

 

 AGS。『アンチ・グラヴィティ・システム』と呼ばれるこのシステムは、装着者に掛かる重力の方向を接地面に合わせる。簡単に言えば重力下でも壁走りを可能にする事ができるという代物だ。

 

 市街戦や広めの室内での戦闘の幅を広げ、空戦能力を持たない魔導師に擬似的な空戦を可能にし、現在は展開していないブースター搭載の槍型デバイスの爆発的な機動力と併用する事で縦横無人に動く事ができる。

 

 以前から計画され開発されていたのだが、AGS発動中は常に接地面に意識を集中させなければならないという欠陥を抱えており、先日まで計画が凍結されていた。

 

 さらには重力の操作にのみ特化させているだけで、鎧の方にはブースターが無い。使用者の身体能力がデバイスの最大発揮スペックになる。

 

 そして、重力補助がデバイス自身に働かないせいで、展開中は常に十キロの重りを抱えたままであるのと同じであり、障害物が無い場所では邪魔なだけの代物である。

 

 結果としてAGS搭載デバイスは、それら問題点を自身の能力で補えるディルムッド専用装備となった。

 

 

 

―――――最も全盛期の力が戻れば不要になる物ではあるのだが

 

 

 

 再会に喜びを露にしていたなのはとフェイトだったが、自分達の命を救ってくれた者達に礼を言っていない事に気付き、二人に向き直る。

 

「助けていただきありがとうございます!」

「そう畏まらんで良いわ。この程度助けたうちに入らん」

 

 なのはが感謝を伝え、フェイトが丁寧にお辞儀するとイスカンダルが愛嬌を感じさせる笑みを浮かべながら言った。

 

「ええ。騎士として当然の事をしたまでです」

「えっ! 喋った?!」

 

 その隣にいる全身を漆黒の鎧で覆うランスロットが喋った上に、その言葉が非常に丁寧な物であった事になのはが驚く。失礼な反応かも知れないが、狂化し大暴れする彼の姿しか見ていなかったのだから仕方が無いだろう。

 

 一応先ほど二人を助けた時に宝具の名を叫んでいたのだがそれを聞いてる余裕が無く、二人とも驚いてしまったのだ。

 

「改めて自己紹介をさせていただきます。私はランスロットと申します。以後お見知りおきを」

「よっ……よろしくお願いします!」

 

 なのはの反応にも(甲冑のせいで見えてないが)笑顔で対応し、自己紹介する。

 

 聖杯戦争の時は狂化のせいで暴走していたが、本来ランスロットはモルガンの策謀によって不貞を暴露されるまでは

同胞であるガウェインに堅物と呼ばれる程真面目で礼節を重んじ、理想の騎士道を歩み、多くの騎士から慕われていた人物である。

 

 子供にちょっと失礼な反応をされたくらいで気分を損ねるような小さな男ではない。

 

「フェイト、状況の説明を頼む」

「実は――――」

 

 フェイトができるだけ簡潔に纏めてディルムッドに伝える。

 

 はやての見舞いに行ったら守護騎士と遭遇し、戦いになった事。その途中で仮面の男が二人出現して守護騎士を裏切ってシュウシュウによって彼女達を取り込んだ事。そして守護騎士三名を取り込み、

闇の書が起動した直後に現れた漆黒の獣が仮面の男達を倒した事を伝える。

 

「状況は理解した。あの黒い獣の正体もな」

 

 シャマルを蒐集した直後にアレが出現したと聞けばアヴェンジャーが影響していると考えるのが妥当である。おそらくは彼女に取り付いていたこの世全ての悪を取り込んだ事で闇の書がさらに何らかの悪影響を受けたのだろう。

 

「ところでディルムッドはどうして戻れたの? それに二人とも今まで見つけられなかったのに……」

 

 今度はフェイトが三人が何故一緒にいるのかを尋ねる。ディルムッドは別世界に飛ばされていたし、イスカンダルとランスロットは見つけられないようにハサンが巧妙に管理局を撹乱していた。

 

 バラバラに行動し、管理局が行方を見つける事ができなかった三人が同時にこの場に来た事にフェイトは疑問を感じてもいた。

 

「管理局が感知するよう爆発を発生させ、居場所を管理局に捕捉させる事に成功した。代償に宝具一つを使い潰したがな」

「爆発?」

 

 ディルムッドが行ったのはサーヴァントの持つ最終手段の一つ『壊れた幻想』

 

 神秘の具現化たる宝具の力を爆発させることで瞬間的に膨大なエネルギーを発生させる荒業で、発動の代償に宝具を一つ失うので迂闊には使えない諸刃の剣である。それを攻撃にではなく管理局に対する信号弾として使ったのだ。

 

「後で詳しく教えるさ。そして管理局に回収された俺は治療を受けていた。その時に大規模な魔力反応が感知され、デバイスを受理して現場に向かった」

「私も結界の発生を察知しこの場に向かいまして、チャリオットで上空に浮かんでいたイスカンダル殿を発見致しました」

「余がこの町を出ようとした矢先にこのような物が出てきおってな。無視する訳にもいくまい」

 

 そうして出会った三人は状況を確認し合ってから結界に侵入した。そこで拘束されて動きを封じられた二人が襲われていたのを発見したという訳だ。

 

「では問答は仕舞いだ。彼奴もこちらを見つけたようだしのぉ」

 

 イスカンダルの視線の先には、初撃のダメージから持ち直しこちらに向かってくる空を舞う闇の書の管制人格と砕いたはずの剣を持ってビルの上を駆ける漆黒の獣の姿があった。

 

「あの獣は俺達が抑える。二人とも増援が来るまで無理はするなよ?」

「貴女達はマスターに呼び掛けてください……どうかマスターはやてを救ってあげて欲しい」

 

 決着を付けなければならない事があると言っていた友の姿を思い出しながらディルムッドが破魔の紅薔薇と必滅の黄薔薇を構える。

 

 ランスロットも生前の技術を完全に再現した完璧な構えをしながらも、黒き鎧の中では険しい表情を浮かべ、胸の内では己を責めていた。

 

「わかったの!」

「ディルムッド達も気を付けて……!」

 

 なのはとフェイトが管制人格に向けて飛翔する。管制人格はこちらに興味が無いのか、一瞥しただけで攻撃対象を二人に切り替え離れて行く。闇の書にたった二人だけで挑ませるのはあまり得策とは言えないが、ビーストを無視するわけにはいかない。

 

 それに宝具には魔導師のデバイスと異なり非殺傷という概念が存在しない。実際に宝具を使用した戦いでザフィーラの命を奪ってしまっている。

管制人格とはやてが融合している以上、自分達が攻撃を行うのは危険である。ディルムッドはそう考え、二人に管制人格のを任せたのだ。

 

 一方ランスロットは生前の技術を完全に再現した完璧な構えをしながらも、黒き鎧の中では険しい表情を浮かべ、胸の内では己を責めていた。

 

 自身の行動が悪手となる。生前の彼が持つ後悔の一つである。ランスロットが単独行動をとったのは八神家という輝かしい場所を壊してしまうと恐れたから。

己の不義によって大切で守りたかった円卓の崩壊を引き起こした事が完全な騎士の心に弱さを与えてしまった。

 

 彼女達の大切な世界(居場所)を壊してしまうのならば、己は永遠の孤独の闇にいる方が良いと思い、離れた事がこのような結果を招いてしまった。

その事を強く後悔していたが、以前のように逃げる気はない。

 

 一つは代償行為。かつて果せなかった主君への忠義を今度こそ果す。かつて聖杯戦争でディルムッドが願った事と同じ悲願を叶えたいという想い。そしてもうひとつは彼の目の前にいる漆黒の獣を討つ為。

 

「その聖剣にかの王以外が触れる事は許さぬ。王の誇りを汚す無礼を償って貰う」

 

 ビーストの手にある剣は歪に歪んで変貌し、邪剣のようになってはいたが、その剣の輝きを傍で見続けていた彼が気が付かない筈がない。その剣に誇り高き騎士王が持っていた勝利の剣の面影がある事に。

 

 償いと敬愛の心。湖の騎士がこの場で命を賭けるには十分であった。

 

「ふむ……」

 

 フィオナとブリテンの騎士がそれぞれの思いを胸にビーストと向かい会っている中、マケドニアの王は『軍略』と『カリスマ』スキルによって戦況を見定め、最適な指揮を行おうと冷静に思考していた。

 

 イスカンダルに参戦する理由など無い。

 

 はやてと出会ったのも一度、確かに彼女から特別な物を感じたがそれだけであり、それ以上の感情は無かった。加えて守護騎士を臣下に加える意思も無い以上、イスカンダルにこの戦いがどうなっても利益を与えない。

 

 そんな彼が戦う理由はただ一つ。ディルムッドとランスロットにとっても当然の事過ぎて、わざわざ改めて意識していない大前提の行動理念による物である。

 

 

 

―――――この地にいる者達の命が危ない

 

 

 

 征服王イスカンダルにはそれで十分だった。

 

「さてどうする? 征服王」

「指示はお任せします」

 

 イスカンダルの指揮能力が高い事を理解している二人は、この場限りであるが己の槍と剣を彼に託した。

 現状でも破格の強さを持つ二人。片方は勧誘を二度も断られた相手、もう一人は狂化していたせいで声を掛けなかっただけで、本来ならばイスカンダルの目に十分適う者である。

 

 そんな英霊二騎に采配を任された征服王だったが、その表情は晴れない。

 

「奴の再生能力は相当の物のようだ。並の攻撃では効かぬかもしれぬう」

 

 難しい表情のままにイスカンダルがビーストを睨む。上空から振り下ろされたランスロットの斬撃はビーストの胴体を深く切り裂いていた。

あの位置であればその一撃は確実に心臓を捉えており、相手がサーヴァントであれば現界を維持できない程のダメージであったはずだというのにその身体には傷一つ存在しない。

 

「対城宝具級の一撃ならば確実に討ち取れるであろうが……」

 

 アルトリアがキャスターの操る海魔を消滅させた時の様に、再生する間も与えない強大な一撃を使うのがこの手の相手には有効である。しかし、ディルムッドもランスロットも所有する宝具は対人宝具のみである。

 

 イスカンダルの宝具は共に対軍宝具であるが、遥かなる蹂躙制覇は協力だが相手を一撃で消し去る程の威力は無く、王の軍勢は軍団による制圧攻撃であり軍勢の兵士の個々の力だけを見れば二人の対人宝具に劣る。

 

「まずは再生不可能の傷を負わせて無力化する。二人の攻撃ならば十分にアレを消し飛ばせるだろうからな」

「それしかあるまいな。余とランスロットであやつの隙を作る。その隙にその槍の呪いを与えよ」

 

 必滅の黄薔薇は治癒不能の呪いを付与する効果がある。それによって相手の息の根を止めるか、

それが不可能ならば四肢に黄槍を使って致命的な損傷を与えて行動不能にし、その間にディムッド達が管制人格の足止めを行って二人にビーストの撃破を任せる。

 

 二人に頼る事になるがやむを得ない。相性の良し悪しというのはどうしても存在し、今回の場合はそれが顕著なのだ。

 

「幸いあれは理性なきの獣だ。真名解放や壊れた幻想の警戒は必要―――」

 

 無いと言おうとしたディルムッドが予想外の光景を目にして絶句し、彼の端正な顔が引き攣る。咆哮を上げるビーストの後ろに信じられない物が見えたからだ。

 

「……なぁ征服王」

「……なんだ?」

「奴の背後に見える空間の歪みに見覚えがないか?」

 

 黄金色の空間の歪み。そこから大量の宝具が出てこようとしている光景は既視感が凄かった。

 

「見覚えがある所ではないわ。余はアレにやられたからのぅ」

「私も見覚えがあります。というよりもアレで狙われた事が何度かあります」

 

 何かの間違いであって欲しいと思ったが、アレと直接対峙したイスカンダルとランスロットが肯定した事で己の勘違いでない事を悟る。そして三騎士が同時に駆け出した直後、ディルムッド達がいた場所に必殺の威力を持つ宝具が降り注いだ。。

 

 

『王の財宝』

 

 

 バビロニアの英雄王が持つ数多の宝具の原典を乱射する大技である。

 

 一撃食らえば即致命傷というとんでもない攻撃をビーストは縦横無人に駆け巡りながら射出してくる。

 それをディルムッドとランスロットは敏捷性を生かした回避、イスカンダルは遥かなる蹂躙制覇で宝具を蹴散らして攻撃を食らわないように立ち回る。

 

「ぐっ……征服王!こちらは俺とランスロット卿で抑える!お前は二人の援護に向かってくれ!」

「むぅ……すまぬっ!」

 

 ただでさえ素早いビーストが操る宝具の雨を相手に、敏捷性で劣るイスカンダルは不利である。攻撃に転じる隙を無理に立ち回って魔力をいたずらに消費するよりはその方が良いと判断し、イスカンダルもそれに応じてなのは達の元に向かう。

 

「ちぃっ!!」

 

 ランスロットが無毀なる湖光を消失させる。そして飛来してきた『絶世の名剣(デュランダル)』と『赤原猟犬(フルンディング)』を掴み取り、支配下に置いた原典宝具で迎え撃つ。

 

 受肉した事でマスター無しで現界できる代償として、魔力供給を受けられないという点がある。無毀なる湖光によるパラメーター補正は失うが、こちらの方法の方が魔力消費が少ないのでやむを得ず自身の最強宝具を封じたのだ。

 

「背中は預けるぞ!」

「承知致しました!」

 

《悲恋忠義》

 

 かつては敵だった二人の騎士がその命を預け合い、ビーストに立ち向かう。

 

 王の財宝から武器を奪い反撃できるランスロットは一見回避しか選択できないディルムッドより有利に見えるが、長期的に見ればそうではない。

 ランスロットは保有魔力はそこそこあるが、強力な宝具をしようする代価に相応の魔力を使用しなければならない。反対にディルムッドの魔力は多くないが常時発動型の宝具はあまり魔力を必要としない為、デバイスに回す余裕さえある。

 

 つまり短期決戦ならランスロットが、持久戦ならばディルムッドに軍配が上がる訳であり、この場に置いてはディルムッドが優位に立ち回れる。

 

「ハァッ!!」

 

 ディルムッドがデバイスの力でビルの外壁を駆けると彼が通った部分に余多の宝具が墓標のように刺さって行く。英霊王と違い、ビーストは宝具の射出時に一ヶ所に留まらない。縦横無尽にビルの間を飛びながら正確に二人を狙ってくるのである意味こちらの方が厄介かもしれない。

 

「ふっ!」

 

 宝具を奪い、投げ、叩き落としながら接近したランスロットが螺旋剣(カラド・ボルク)を振るうがビーストはそれを防ぎ、流れるような動作でエアを突き出す。

 

「大いなる激情!」

 

 ランスロットの腹に剣が突き立てられる直前、デバイスの機能であるウェポンラックに破魔の紅薔薇をマウントしたディルムッドが接近し、右手に呼び出した剣を真名解放し、破壊の一撃をエアに叩き込み粉砕する。そして武器を失い隙を晒したビーストの脇腹に蹴りを叩き込み、身体後ろに吹き飛ばす。

 

「感謝致します!」

「気にするなっ!」

 

 その隙に後退した二人に向け、息つく暇を与えまいと王の財宝が降り注ぐが、それぞれ左右に分散してそれをかわした。

 

「くっ!また武器が……」

「厄介だな……!見た目だけで中身が伴って無いのが救いか……!」

 

 ディルムッドがウェポンラックに大いなる激情をマウントし、紅槍を構え直しながら再びエアを手にしたビーストを睨み付ける。

 

 

 変異劣化した神造宝具をこうまで連続で元に戻せるのは、未来においてアヴェンジャーの依り代となるとある少年の力が影響している。それを今の二人は知ることができないが、わかった所で対処はできなかっただろう。

 

「何としても一撃を通す……!」

「援護致します!」

 

 最悪の化け物相手に獅子奮迅の闘いを繰り広げていたが、莫大な魔力の奔流が放たれた直後、ビーストが二人に背を向けて走り出す。

 

「不味いっ!」

 

 ビーストの進行方向では管制人格がスターライトブレイカーを放ち、ビーストは王の財宝の矛先を障壁を展開するフェイト達に向けていた。そして管制人格の攻撃が収まった瞬間を狙い、収束砲を防いで疲弊したフェイトに向けて宝具が放たれようとした。

 

 ディルムッドがその敏捷を生かして放たれる宝具の速度を越える速さでフェイトの所に向かった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 管制人格の攻撃を防ぎきり、この結界に迷い混んでしまったアリサとすずかを逃がす事に成功したフェイトは一瞬警戒を解いてしまう。その為、管制人格の後ろから攻撃を放つビーストへの反応が遅れてしまう。

 

「フェイトちゃん!」

 

 なのはが幾つか宝具を撃ち落とすが、間に合わず、飛来した紅い槍がフェイトを貫こうと迫る。自分を殺す一撃に思わずギュッ!と目を閉じたその直後、肉を穿つ嫌な音と共に、血が飛び散りーーフェイトの顔に温かな血が付着した。

 

「……え?」

 

 フェイトの可愛らしい顔を鮮やかな紅が汚していたが、深紅の槍はその身を貫いていなかった。じゃあこの血は誰のものかと目を開ける。

 

「あ……」

 

 フェイトが見たのは死よりも恐ろしい絶望だった。彼女を庇うように立つ少年、ディルムッド。その胸を貫いていたのはフェイトを貫こうとした深紅の槍だったのだから。

 

「がっ……!ぐっ……!」

 

 ディルムッドが苦悶の表情と声を出す。受け止めようとした大いなる激情は砕かれ、槍は心臓を貫いてしまった。

 貫かれた心臓が破裂した衝撃で肉体がショック死しそうになるのを身体中の魔力を集中させて抑え込み、激痛によって意識が消えそうになるが、意識を手放せば二度と目覚めないと思い、精神力で繋ぎ止めた。

 

「……無事―――か?」

 

 致命傷を負いながらディルムッドは自らが守った少女に声をかける。

 

「……っ!早く治癒を!」

 

 フェイトは発狂し叫びそうになったが、ディルムッドを死なせたくない想いが辛うじてそれを抑え込み、不馴れな治療を施そうとした。

 

「いや……」

 

 ディルムッドは致命傷を負ったというように冷静に……いや致命傷負ったからこそそれを断る。

 

「なんでっ!?大丈夫だよ!アースラでならっ!」

 

 かつて母を失った時のように目の前で大切な人が消える恐怖がフェイトを襲う。だが、冷静なディルムッドの頭は己を貫いた槍が何か理解していた。

 

「この槍は―――アルスターの光の―――御子の―――この傷は―――癒えない」

 

 血を吐きながら事実を告げる。

 

 アルスターの光の御子、クー・フーリン。槍使いであるディルムッドがケルトの大英雄の槍を見間違うことはない。

 

 『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)

 

 それは因果逆転の槍。心臓に命中するという結果を確定し、放たれた槍は担い手が死んでもその心臓を穿つ。ビーストは魔名解放は不可能だが、ゲイボルグの呪いである治癒阻害の効果は存在している。必滅の黄薔薇と違い永続的ではないが、治癒阻害が解ける頃まで自身が生きていられないのはわかる。

 

 死に行く運命を受け入れたディルムッドは、力が抜けそうな身体に魔力を行き渡らせて出血を抑え込む。

 

「三分―――」

「えっ?」

「奴を―――止める。その間に――――――逃げろ」

 

 途切れそうな意識の中、生命活動が終わるまでの最期の時間を全員が離脱する為の殿に使う道を選んだ。

 

「そんなのダメ―――」

「あちらは私が抑えます」

 止めようとしたフェイトの言葉を遮るようにランスロットが前に出る。その視線の先では無感情に此方を見下ろす管制人格がある。

 

「……感謝―――する」

「おきになさらず。王の退路を開くのは騎士の務めでしょう。それではイスカンダル王。皆を頼みます」

「……任されよう」

 

 そう言うとイスカンダルは、この場に残ろうとしていたなのはとフェイトを掴み上げ、チャリオットに載せると疾走する。

 

「ディルムッド――――――!」

 

 フェイトの叫びを背に受けながらディルムッドが破魔の紅薔薇と必滅の黄薔薇を構える。

 

「さぁ……ここから先には行かせんぞ」

「アーサー王……どうか見届けてください」

 

 敗けが決まった戦いが最期であるのは無念であるが、それで守られる命があるなら無意味ではない。そう信じて希代の英雄は絶望に向けて駆けた。

 

 助からないならば出し惜しみも負傷も恐れる必要がない。防御を捨て、回避を最小限に抑えてディルムッドがビーストに槍を放つ。ビーストのエアが胴を裂くがビーストの身体を紅槍が穿ち、黄槍が右腕を斬り落とす。

 

 口からは血を吐き、血涙を流しながら修羅となったディルムッドに美しさの面影はない。だが、僅かな命の焔を燃やしながら守るべき者の為に戦う姿はその魂を輝かせている。

 

 その身を斬り裂かれながらもディルムッドが放った渾身の黄槍による一撃がビーストの首を斬り落とすと同時に、燃えすぎた蝋燭がきえるように、その命も尽きていく。

 

 そしてディルムッドの身体が死を迎える刹那――――――

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 アロンダイトを解放したランスロットが鎧を砕かれながらも奮戦する。対魔力を喪失した彼は管制人格の攻撃に身を裂かれながらも全力の斬撃を放ち、堅牢なな障壁を粉砕する。

 

「マスターはやて!目を覚ましてください!貴女はここで死んではなりません!」

 

 肉薄したランスロットが負傷しながらも闇の書の中にいる彼女に呼び掛ける。

 

「がっ……!!」

 

 しかし、無情にも想いは届かず、管制人格はランスロットの身体を貫いた。

 

「まだだ――――――!」

 

 ここまでランスロットが迫ったのは無駄死にするためではない。管制人格の手にある『武器』ストレージデバイス闇の書を掴みとる。

 

 強力なレジスト効果があるようで騎士は徒手にて死せずでも支配権の完全な奪取はできなかったが、闇の書の一部の制御を奪う事には成功し、闇の書に記録された魔法を読む。

 

「これならば!」

 

 そして、その術式を強制起動した。その瞬間、討ったディルムッドの身体が消滅する。だが、必滅の黄薔薇によって付けられた傷は戻らず、不滅のビーストはその身体を維持できず消滅した。

 

 仮面の男から聞き出していた闇の書の情報。ランスロットはそれに賭けた。

 

 それは闇の書に備わっている肉体ごと生きたまま夢に取り込む能力。致命傷を負ったディルムッドを救う為、そして闇の書の内部に侵入するためにこの魔法を使わせたのだ。

 

「私達は内側で戦います……外は任せましたよ……」

 

 ランスロットも自らを吸収させる事で内側に侵入する。

 

 

 

――――――眠れる王を目覚めさせるために

 

 




ビースト撃破時の貌は聖杯に呪いあれ!状態。その前のフェイトに語りかけてる時は口からゴパァ程度です。流石に小学三年生が間近であの顔見たら夜寝れなくなる。

ランスロットは闇の書使えないよ。もしくはフェイト取り込んだ魔法は元々持ってるだったっけ?
と思った方は申し訳ないですが作者特権を発動いたします。

当方のオリ設定です。いやまぁ後者の方はよくわからなかったからこんな感じになってます。

途中の四文字はBASARAのBGM聞いてて浮かびました。

気が付いたらUA68000超えにお気に入り650件超えててびっくりしました。
失踪しないように頑張って書いて行くのでこれからも読んでいただけたら幸いです。

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