忠義の騎士の新たなる人生   作:ビーハイブ

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地味に苦戦するサブタイトル


狂いし歯車

 

 

 

 

 

 

――『十二月八日』――

 

 

 

 現在エイミィは本局に診察に向かったなのはの付き添いで付いていったユーノと通信を行っていた。

 同時に守護騎士との戦いに備えて修復と強化を施したレイジングハートとバルディッシュの受け取りも行うことになっている。

 

『そう…やっぱりディルムッドの行方はわからないんだね』

「うん。広域探査をかけたんだけど何らかの妨害術式が掛かっててうまくいかないの」

 

 おそらくはアサシンの主という者が何かをしているのだろう。

 現在展開している守護騎士の魔力の痕跡を追跡する術式は作動しているのだが、ディルムッドとイスカンダルの魔力を探知しようとするとシステムに異常が発生するトラップがかけられている。

 

『アサシンの主の狙いがわからないね。彼らの話を信じるなら無事に目が覚めているそうだけど』

 

 わざわざそのような機能を本局に仕込み、分身するアサシンを有しているその人物は、こちらの行動を邪魔するだけだと思ったのだが、

時折現れるアサシンから送られてくる情報には守護騎士の行動パターンが記されていたりなど、本当に場を引っ掻き回すことばかりを行っている。

 

「おかげで守護騎士の行動パターンはわかるんだけど…アサシンの主って絶対性格ひん曲がってるよ」

『ハハハ……』

 

 名前も顔も知らないアサシンの主を思い浮かべ、エイミィが口を尖らせながら言うとモニターの向こうのユーノが苦笑している。

 

 直接局員を派遣し人海戦術で直接探そうとしたのだが、アサシンの奇襲を受けて全員気絶して帰って来る始末である。

 

「でもここまで探知を妨害してるって事は…」

「ディルムッドが生きてる可能性は高いね」

 

 少なくとも死亡しているいう可能性よりは だが。 

 アサシンの言葉を信じるならば、ディルムッドはすでに目を覚ましているらしい。にもかかわらずディルムッドが接触を行ってこない事、そして無数に分裂して行動するアサシンの存在。

 

「考えられる可能性はディルムッド君が捕まっているか」

『動けない状況を作らされている…かな?』

 

 物理的な拘束か脅迫による拘束か。

 後者であるならば人質を取られているという可能性もあるだろう。

 

「まぁとりあえずは戻ったらバルディッシュとレイジングハートのカートリッジシステムの説明を―――」

 

 現状答えがわからない以上考えても仕方がない。彼の無事を祈って前向きに考えようとした矢先、鳴り響いたアラートが緊急事態を告げる。 

 

『どうしたの?!』

「守護騎士の二人が見つかったの! 今クロノ君に向かって貰うけど、ユーノ君達も現地に向かって貰っていい?!」

『わかった!』

 

 画面が切り替わり、そこには武装隊に囲まれた赤と蒼の守護騎士の姿が映っていた

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

――『十二月八日』同時刻――

 

 

 

「友の家で食事?」

「うん。そうなの。ディルムッド君もどうかなって思って」

 

 鍛錬を庭で行っていたディルムッドにすずかが声をかけた。

 これから図書館で知り合った友人とその家族と一緒に食事を取るということだった。

 

(まさかな…)

 

 図書館と聞きディルムッドの脳裏に一人の少女の姿が浮かんだが、それを振り払う。彼女は両親がいないと言っていたからだ。

 

「せっかくの誘いだが今回は遠慮しておこう……今から少々しなければならない事が出来てしまってな。今夜は戻れんかもしれん」

 

 この場所に接近してくる感じたことのある強大な気配に、ディルムッドが手にしたデバイスを握り直す。

 

「そう…残念だけどそれならしょうがないよね…」

「すまんな。また次の機会があれば誘ってくれ」

 

 残念そうに項垂れるすずかの頭を撫でてやる。

 そのまま二人のメイドと友に車に乗って屋敷から離れていったのを確認したディルムッドが森の中に入る。

 

「さて…少しは気配を隠す努力をしたらどうだ…ライダーよ」

「ランサー。貴様は気配を……ほう、おまえさんもずいぶんと小さくなったのぉ…」

 

 森の開けたところで声をかけるとそこから大柄な男…イスカンダルが姿を現す。

 

「そちらもずいぶんと若返ったようだが……それで、なんのようだ?」

 

 半壊したままの槍の切っ先を突きつけ、ディルムッドがイスカンダルに問いかける。

 

「そう殺気を出すのではない、ランサーよ。余の言いたい事は一つである。今度こそ余の朋友となる気はないかの?」

「貴様はまだそんな事を言っているのか?」

 

 初めて出会った時のように勧誘してくる男にディルムッドが呆れた声を出すが、イスカンダルは当たり前だと答えを返す。

 

「無論である。余の願いである受肉を果たした今こそ! 世界征服に乗り出す時であろう! ランサーよ。マスターがおらぬ今の貴様ならば余の軍門に下ることになんの問題もないであろう?」

「大有りだ。平和な世に争いを齎すなど言語道断であろう!」

 

 その誘いをバッサリと両断した。人柄としては認めるところであるが、無益な争いを引き起こすなど認められる筈も無い。

 

「ランサー殿」

 

 一触触発の空気の中、ディルムッドに人質を取った男…ハサンの一人、ザイードが姿を現す。

 

「ほう…アサシンの奴めも現界しておったか」

「民を人質に取る下種だがな」

 

 その姿を見た二人がそれぞれ反応を示す。どちらもアサシンには良い印象が無かった。

 

「そっ……そう邪険にしないでいただきたいですな。今宵は貴方様にお力を戻しに参ったのですよ」

 

 優れた武を有する英雄二人に睨まれて冷や汗を流しながらザイードが、手に持っていた機械を操作すると周囲に鎖が千切れたような音が響き渡る。

 

「……これは」

 

 その瞬間、ディルムッドを縛っていた能力限定が解除され、意識を込めるとその両手に破魔の紅薔薇と必滅の黄薔薇が現れた。

 

「我が主にとっては管理局の物など所詮はただの玩具…この程度造作もないのです。それでは…失礼致す!!」

 

 最後に急に早口になったザイードが即座に姿を消す。

 全力を取り戻したディルムッドとイスカンダル相手だと命がいくつあっても足りないと判断し、速攻で逃げたのだ。

 

「…ランサーよ。ならばここは一つ賭けをしようではないか」

「賭けだと?」

 

 しばらく何かを考え込んでいたイスカンダルがディルムッドに提案する。

 

「余と一騎打ちを行い、余が勝ったならば軍門に下れ。貴様が勝ったならばここは素直に引こう」

「……いいだろう。だがここでは周囲に被害が出る。場所を移すぞ」

 

 このタイミングで封印を解除したのはディルムッドとイスカンダルをぶつける為だろう。

 アサシンの思惑に乗るのは気に食わないが、このまま問答をしていても埒があかないと判断し、それを受ける。

 

「安心せい。最高の舞台を用意してやろうではないか!」

「……固有結界か」

「うむ。余の『王の軍勢』の内部であれば誰にも邪魔されずに戦うことが出来よう」

 

 キャスター討伐の時にあの巨大な海魔を転移させたイスカンダルの宝具。確かにそれならば周囲に被害は及ばないだろう。

 

「承知した、征服王。俺はそれで構わないぞ」

 

 海魔討伐時のやり取りから内部に軍団を展開する宝具であることはわかっていたが征服王は一騎打ちと言った。ならばそれらが襲い掛かって来る事はないだろう。

 

「ならば見るがいいランサーよ!いずれ貴様も加わることになるイスカンダルたる余が誇る最強宝具――『王の軍勢』の勇姿を!!」

 

 

 イスカンダルの叫びと友に膨大な魔力が展開し、その場から二人の姿が消えた。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

「ち。管理局か…」

 

 囲まれた騎士の一人、ザフィーラが呟く。

 周囲にはすでに強固な結界が展開されており、離脱が困難になっていた。

 

「だったらこいつらぶっ飛ばして――」

 

 もう一人の騎士…ヴィータがデバイスを構えると、局員達が一斉に散開する。

 

「上だ!」

 

 突然の行動に訝しげになるヴィータがザフィーラの声で慌てて上を見る。

 そこには魔方陣と複数の剣状の魔力弾を展開しているクロノの姿があった。

 

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!!」

 

 百を超える魔力刃が一斉に二人に襲い掛かる。

 それらすべてがザフィーラが直前で展開した障壁に直撃し、魔力刃が爆散する。煙が晴れた時、そこには悠然とそこに構えているザフィーラの姿があった。

 

「くっ……!」

 

 全力で放った一撃だったが、殆ど効果が無かった。その腕に三つの刃が刺さっているが、非殺傷設定であるのでダメージになってはいなかった。

 

(ディルムッドの槍ならば…!)

 

 あの堅牢なシールドを貫き、行動不能のダメージを与えられるのではないか。行方不明になっている友人の姿を思って歯軋りする。

 

『クロノ君! 武装局員配置完了したよ! それと今、助っ人を転送したから!』

「助っ人?」

 

 その言葉に視線を向けるとなのはとフェイトの姿があった。

 そして二人がバリアジャケットを展開するとその手に握られている二人のデバイスの外見が変化している。

 

 カートリッジシステム…守護騎士の使用するベルカ式デバイスにも搭載されている魔力を増幅する機構を搭載したのだ。

 守護騎士に敗れ、大破したレイジングハートと中破したバルディッシュが自らの意思で搭載を希望したそのシステムは二度と主を敗北させない為の決意の証でもあった。

 

「私たちは貴方達と戦いに来た訳じゃない。まずは話を聞かせて」

「闇の書の完成を目指している理由を―!」

 

 まずは会話を行い、その真意を探ろうとする二人の言葉をヴィータが一蹴する。

 

「あのさぁ。ベルカの諺にこんなのがあるんだよ。『和平の使者は槍を持たない』ってな!」

 

 ザフィーラ曰く、諺ではなく小話のオチだったそうだが言いたいことは伝わった。話し合いに応じる余地はないのだろう。

 

 その瞬間、捕獲結界の上空から新たな影が現れ、地面に降り立つ。

 

「お前は…!」

 

 桃色の髪の剣士シグナム。その姿を見たクロノが睨みつけた。全力ではないとはいえディルムッドを倒した相手に怒りを隠せない。

 

「クロノ君! 手を出さないでね! 私、あの子と一対一だから!」

「私も…彼女と…」

 

 武器を構えたクロノを二人が止める。前回のリベンジマッチと話し合いをする為なのだろう。

 

「…わかった。それならちょうどいい…『ユーノ。僕らは手分けして闇の書の主を探すんだ』

『闇の書の?』

 

 途中で念話に切り替えたクロノが一緒に転送されてきたユーノに声をかける。

 

『奴らは持っていない。ならばもう一人の騎士か主が持っている可能性が高い。僕は結界の外を探すから君は中を頼む』

『わかった』

 

 守護騎士三人の相手をなのは達に任せ、クロノが結界の外へ向かった。

 

「レイジングハート!」

「バルディッシュ!」

 

 二人が新たな姿『レイジングハート・エクセリオン』と『バルディッシュ・アサルト』を構える。

 

「「カートリッジロード!!」」

 

 二人の掛け声に答え、デバイスがスライドし、カートリッジを排出し、強大な魔力を使い手に与える。

 これによりデバイスの差は無くなった。後は純粋な実力と気合の差が勝負を決するだろう。

 

 なのははヴィータの元へ、アルフがザフィーラの元に。それぞれが戦うべき相手の向かった。

 

 そしてフェイトはシグナムと対峙していた。

 前回はイスカンダルの介入で決着をつかなかったがあのままでは負けていたのは確実であった。

 

 だが、フェイトはあの時からいっそう鍛錬を積み、バルディッシュは新たな力を得た。今は勝利を得る自身がある。

 

「戦う前に一つ聞かせてもらう…ディルムッドはどこにいる?」

「……なんだと?」

 

 フェイトの質問対するシグナムの反応でわかった。守護騎士は…少なくともシグナムはアサシンとの繋がりはないと。

 

「その反応で充分だよ…今は貴方を倒すことだけに専念する…!」

「そうか…ならば先ほどの質問の意味は貴様を倒してからにすることにしよう」

 

 互いの言葉が言い終わると同時に二人も全力でぶつかり合い、結界の中では三者三様の戦いが始まるのであった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

「…いた!」

 

 結界外部に出て周囲を探索していたクロノが闇の書を持つ騎士を発見した。

 内部の仲間と連絡を取っているからか周囲への警戒が甘いようでクロノの接近に全く気がついていない。

 

「捜索指定ロストロギアの所持。使用の疑いで貴方を逮捕します」

「っ?!」

 

 即座に背後に杖の先を突きつける。相手が動くより先に攻撃を行える自身がクロノにはあった。

 

「抵抗しなければ貴方には弁護の機会が―――」

「やれ。狂った騎士よ」

 

 降伏勧告を言い終わる前に第三者の声が聞こえた瞬間、横から襲ってきた一撃がクロノを弾き飛ばし、隣のビルのフェンスに叩きつけた。

 

「ガッ…ハッ…?!」

 

 バリアジャケットで怪我はしていないが、それでも衝撃は全て防げるわけではない。痛む身体に鞭を打ち、顔を上げるとそこには鎧を纏った騎士の姿とその背後には仮面をつけた男が立っていた。

 自身を攻撃した騎士の姿を脳裏に焼き付けようとしたのだが、思考がそれを拒絶するという異常な現象を先ほどからクロノを襲っている。

 

「A――urrrrrrッ!!」

 

 漆黒の鎧を纏った騎士が咆哮を上げる。

 全身から溢れ出る黒い靄状の魔力によってその姿の全貌を知ることは出来ない。

 しかし四肢を胴を…頭部を覆い隠している兜をも縛る白銀に輝く鎖とその手に持つ武器の姿だけは脳が認識することができた。

 

「あれは…杖……か?」

 

 黒く染まり、そこに赤い不気味な紋様が浮かび上がっているという異常な状態であるがその形状から武装局員の使っている杖と同型であることがわかる。

 

「あ、あなたは?」

 

 守護騎士…シャマルが驚いた様子で尋ねている様子から、彼女自身も想定していなかった援軍だったのだろう。

 

「闇の書の力を使って結界を破壊しろ。そこの局員は狂戦士が抑えてやる」

「A――urrrrrrッ!!」

 

 仮面の男が答えがそういうと、漆黒の騎士が飛び掛ってきた。

 ビルとの間には相当の距離があるのだがそれを軽々と飛び越えクロノに接近し、手にした杖を叩きつけるように振るった。

 

「なっ?!」

 

 咄嗟に障壁を展開してその打撃を防ぐが、その瞬間、ありえないことが起きた。

 

 杖で殴っただけで障壁にヒビが入ったのだ。AAA+クラスのクロノの障壁をただの打撃で損傷させるなど普通ではありえない。

 

「いったい…こいつは…?!」

 

 それだけの衝撃を障壁に与えたのにその手に持つ杖には壊れた気配の全く無い。

 障壁を破壊できないと判断した騎士が空いている左手で足元に強烈な打撃を叩き込むと、屋上のフェンスの一帯が崩れ、足場を失ったクロノの身体が空中に投げ出される。

 

「しまっ―――!!!」

「A――urrrrrrッ!!」

 

 空中で無防備になったクロノに向けて 強烈な打撃が振るわれ、一気に地面に叩きつけられそうになったが、浮遊魔法を使って辛うじて激突を避ける。

 

「なんなんだ…?! こいつ、まるで獣みたいに…!!」

「狂戦士…バーサーカーといえばわかるか?」

「っ?! こいつも?!」

 

 上空でこちらを見下ろしている仮面の男がバーサーカーと呼んだ騎士が上空から落下の勢いを付けて杖をクロノに突き刺そうと迫る。

 それを加速魔法で回避し、一気に上昇してバーサーカーから距離を取る。ディルムッドと同じならば飛行魔法は使えないと判断し、空中に逃げた。

 

「なっ?!」

 

 確かにバーサーカーは飛行魔法は使えなかった。

 だが、ビルの間を高速で壁蹴りをして上ってくるというありえない方法で一気にクロノの元に接近してくる。

 

「止まれバーサーカー。もう終わった」

 

 仮面の男が片手で何かを引っ張るような仕草をすると、クロノに迫っていたバーサーカーの身体を縛る白銀の鎖が後ろに引っ張られ、その身体が勢いよくビルに叩きつけられる。

 

 慌ててクロノが上空を見上げると、そこには強大な魔力が収束しており、今にも放たれんとしているところであった。

 

「撃って…破壊の雷!!」

 

 そして、シャマルのその掛け声と共に、強大な威力を秘めた一撃が結界に叩きつけられた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 晴れ渡る蒼穹に熱風吹き抜ける広大な荒野と大砂漠。それを埋め尽くす無数の英雄が見守る中で二人の男がぶつかり合う。

 

「ぬぅん!」

「はぁっ!!」

 

 イスカンダルのキュプリオトの剣とディルムッドの小なる激情が火花を散らす。

 

 戦いが始まってからすでにおよそ二時間以上が経過している。

 ディルムッドの必滅の黄薔薇は砕かれて失われたが、神威の車輪の雷牛一頭の命を引き換えにした。

 大なる激情はチャリオットと共に失われ、破魔の紅薔薇は残りの雷牛の頭蓋を穿ち、今は地に倒れているイスカンダルの愛馬の心臓に刺さっていた。

 

「まさか貴様と剣でぶつかるとは思っておらんかったぞランサーよ!!」

「俺も貴様とこのような心躍る戦いをする事になるとは思わなかったぞ! ライダー!!」

 

 純粋な白兵戦ではディルムッドが有利であったが、未成熟な身体で神威の車輪をかわしながらの戦いを行った後であり、すでに満身創痍である。

 対するイスカンダルは神威の車輪を失っているとはいえ肉体は二十歳の状態であり、さらに余力を残している。

 

 打ち合えばディルムッドが弾かれるのは当然であり、すでに身体を何度も弾き飛ばされていた。

 

「ぐっ…!」 

 

 再び吹き飛ばされたがそれはディルムッドの狙い通りであり、地に伏した馬の心臓から破魔の紅薔薇を引き抜き、両手で武器を構えイスカンダルに向き合った。

 

「はぁ…はぁ…はぁ……!!」

 

 破魔の紅薔薇と小なる激情が残っているとはいえ、すでに限界を訴える身体では満足にそれを振るう事も難しい。

 認めたくはないが目の前に立つ男が己より格上の存在であると再認識せざるを得なかった。

 

「まったく……聖杯戦争で貴様と戦わなかったのは……正解であったな。こちらにいるのが信じられんぞ…」

 

 もし目の前の男と生死をかけた全力の死合いをしたのならば、背後にいる無数の軍勢に飲まれ、なす統べなく死を迎えていただろう。

 この世界にいるということは聖杯戦争で敗退したということであろうが、イスカンダルが敗北したというのが信じられない。

 

「うむ。アーチャーの奴めに見事に破れてしまってなぁ…」

「なるほど…あの宝具の弾丸にはこれほどの軍勢であっても…届かなかったか」

 

 無数の宝具を打ち出す黄金の鎧の男を思い浮かべる。あれを防ぐのは至難の技であったのだろう。

 

「それよりも余の軍勢を一撃で粉砕する対界宝具の方が厄介であったな」

「……なんだそれは」

 

 そんな非常識な宝具が存在するというのか。不幸だと思っていたがもしかすればあそこまで生き残ったのはかなり幸運だったのかもしれない。 

 

「だが、騎士に二度も敗北は許されん。悪いが勝たせてもらうぞ! 征服王!」

 

 シグナムに続いて二度も敗北するなどディルムッドの騎士としての誇りが許さない。

 勿論、客観的に見れば全力でなかった上に第三者の奇襲を受けたのだから仕方が無いと思われるかもしれないが、それを良しとする事ができる男ではない。

 

「うむ!と言いたいがな…今宵はこの辺でお開きとしようか」

 

 イスカンダルがそう言うと広大な大地が霞み。周囲の光景が再び鬱蒼とした森に戻った。

 

「どういうつもりだ……?」

 

 突然の幕切れに困惑するディルムッドをよそにイスカンダルの装いがTシャツにGパンと真冬にはありえない格好に戻る。

 

「なぁに。余の根城にしてるとこの小娘がうるさくてなぁ…そろそろ戻らなくてはならんのだ」

「……そんな理由で戦いを中断したのか?」

 

 くだらないとは思わないが勝負を中断する理由としては納得が出来ず、怒気を込めて尋ねる。

 

「貴様は立っておるのがやっとであろう? 決着は貴様の身体が戻ってからにする。その時に改めて貴様を倒し、余の軍門に迎える事にしよう」

 

 それだけ答え、イスカンダルの身体が森の中へと消えて行った。気配が離れていったのを確認するとディルムッドがその場に膝を付く。

 

「……強いな」 

 

 中断された事に怒りを覚えたが、あのまま続けていたらどうなっていたかわからない。いや、悔しいが敗北を刻む事になるのは間違いなかっただろう。

 

「次こそは…必ず……!」

 

 全力を取り戻した時に再度挑めと征服王は言った。ならば次こそは必ず勝利し今回の不名誉を返上する事を己に誓った。

 

「さて能力が解放されたという事は…」

 

 おそらくは愛の黒子も本来の状態に戻っている。そうなってしまえばすずかの家にいる訳には行かないだろう。

 

「しっかりと別れの挨拶ができなかったのは心残りだが……」

 

 友人と語らい、楽しむすずかの姿を思い浮かべる。勝手に出て行ったとなれば優しい少女を傷つけてしまうかもしれない。

 

「アサシンよ。これよりこのディルムッドはアースラと合流する! それともまだ俺をこの地に縛るか?」

 

 虚空に向けて声を上げると、足元にアサシンの黒塗りの短刀が投げつけられる。

 地面に突き立てられていた短刀に巻かれていた紙を開くと、そこには地図が書かれていた。おそらくはアースラ関係者と合流できる地点であろう。

 

「五日か…長かったな……」

  

 傷だらけの身体を引きずり、地図に記された場所へと向かう。本当は今すぐにでも意識を手放したいほど満身創痍だったが、合流するまでは気絶する訳には行かない。

 

 

 暗い森の中をディルムッドはゆっくりと歩き、目的地に向かうのであった。

 

 




バサスロット登場。
聖杯戦争で脱落したのに狂化している理由は後ほど。

宝具壊しても直せるって言っても壊し過ぎだろお前。って思われそうですが…。
宝具壊れるほどのダメージ…ていうと凄いって感じる。っていう作者の短絡思考が原因です。

弓と剣本人は出ないのでこれで四次英霊ようやく揃いました。
さてこっからが大変です作者の妄想ワールドを最大展開して書いていきますが、ある程度の矛盾が見逃してくれたら嬉しいです。Fateとなのはの魔法は違うとかはそもそも別作品なのでご勘弁を…。

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