忠義の騎士の新たなる人生   作:ビーハイブ

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連続投稿はちょっとストップすると思います。


深夜の開戦

――『十二月一日』――

 

 

「久しいな。ユーノ」

「ディルムッドも元気そうで良かったよ」

 

 アースラの食堂で再会したディルムッド・オディナとユーノ・スクライアが互いの息災を喜んだ。

 

「僕、半月前にここに来たけど、まさか出発直前まで会えないとは思わなかった」

「ここ半月はデバイスの調整が忙しくてな。なかなかアースラに戻れなかったのさ」

 

 ディルムッドは事実上無罪となったのだが、破魔の紅薔薇、必滅の黄薔薇、大なる激情、小なる激情は危険と判断され、封印処置を受ける事となった。

 それと同時にディルムッド自身にも封印が施されており、ただでさえ弱体化した身体はさらに力を失ったが、包帯なしで『愛の黒子』の能力も低下しているのであまり困っていないどころか感謝している。

 

「ストレージを無理矢理武器に改造したんだっけ?」

「あぁ。そのまま武器型を使えれば良かったのだが…それだと飛行魔法が上手くこなせなくてな」

 

 ディルムッドの左手に付いているのは管理局から支給されたデバイスだ。

 待機状態は時計型でディルムッドの位置を常にアースラに伝える『首輪』としての機能も有している。

 

「宝具無いとキツくない?」

「騎士は得物を選ばん。それに我がデバイスは俺に合わせて作られた物だ。今の状態でも最高の力を発揮できるだろう」

 

 そう言ってデバイスを一瞬だけ展開し、栗色の柄の槍をユーノに見せて仕舞った。

 

必滅の黄薔薇ほどの長さであるが今のディルムッドの身長よりも大きい。最初は主力武器であった破魔の紅薔薇に合わせようかと思ったが、特殊能力を持たないデバイスであるならばリーチより小回りを優先した方がいいということでこの長さになった。

 

「明日はようやく裁判の判決日だね」

「ハラオウン執務官殿が尽力してくれたのだ。何の問題もないさ」

 

 現在はクロノの護衛兼先兵としてアースラに所属しているので、クロノは直々の上官となっている。

 

 少し離れたところに座っている本人の嫌そうな顔からわかるようにまだディルムッドに敬語で話されるのに慣れていない。普段はタメ口で話しているが、公の場では上官として敬意を示さなければならない。

 

「それよりレティ総督より厄介な話を聞いてな。おそらく明日、アースラは地球に向かう」

「何かあったの?」

「とあるロストロギアの調査の為に地球に向かった調査隊からの連絡が途絶えたらしい」

 

 ディルムッドのアースラ所属へ尽力してくれた恩人から聞いた話をユーノに伝える。周囲の人間……特に別の席で食事をしていたクロノ達がその言葉に反応を示す。

 

「なんていうロストロギア?」

「そこまでは教えてくれなかったが、第一級捜索指定の危険物であるとは言っていたな……まぁ確定すればリンディ殿より何か連絡がされるだろう」

 

 そう言ってディルムッドが優雅に紅茶を飲む。

 それを見ていた女性局員が頬を染め、男性局員が歯軋りするといったいつもの風景に戻った。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「「ぐああああっ!?」」

 

 深夜二時。オフィス街の薄暗い路地裏から男の叫びが響き渡った。

 

 彼らは時空管理局の魔導師であった。最近頻繁に痕跡が発見されている第一級捜索指定のロストロギアを調査する為、第97管理外世界『地球』を訪れたのだが、突然現れた存在に抵抗も出来ずに倒された。

 

「雑魚いな」

 

 倒れている二人の魔導師を見下ろしているのは左脇に大きな魔導書を持った赤いスカートの少女であった。

 

「こんなんじゃたいした足しにもならないだろうけど」

 

 そういって赤い少女が脇にあった魔導書をかざすとページが開き、不気味な光を放つ。

 

「お前らの魔力…闇の書の餌だ」

 

 魔導書がリンカーコアから魔力が吸い取り、二人が苦悶を声を上げるが少女は眉一つ動かさない。

 

「ふーむ。妙な魔力の流れを感じたんで覗いてみたのだが……ずいぶんと物騒な事になっておるのぅ」

 

 次の獲物を探そうと思っていた少女に後ろから声をかける存在がいた。

 ここには封鎖領域という魔法が掛けられており、魔力の無い人間は入れるはずが無い。

 

 声を掛けられるまで気がつけなかった事に驚きながら少女が振り返る。

 

「察するに小娘。貴様、そこの小僧共から魔力を奪った…といったところか?」

「なんだよおまえ。文句あんのか?」

 

 真冬だというのに胸に『大戦略』と書かれた奇妙なTシャツとGパンというラフな格好をした大男が立っていた。

 

(なんだコイツの魔力……15ページ…いや……()()()()()じゃ()ねぇ?!)

 

  まるでリンカーコアよりもさらに奥……()()()()()()莫大な魔力が潜んでいるよう様である。

 

「いやっ! 敵を蹂躙し略奪する! この征服王イスカンダルと共に歩むにふさわしい行いである! お主、我が軍門に降らぬか?」

「……は?」

 

 睨み付ける少女に対し、イスカンダルは高らかに笑ってそれを否定する。

 

「酒が飲みたくなって街に出てみれば、このような逸材を見つけるとは全く持って運がよい! 小娘! 余と共にこの世界を征服しようではないか!」

 

 同居人の命令を無視した発言だが、ライダーと呼ばれた疾走者がその程度で止まるわけがなかった。

 

「寝言は寝ていいな! おっさん! ついでにその馬鹿でかい魔力も貰ってくぜ!」

 

 無論少女がそんな滅茶苦茶な話に乗る訳がなく、型に担いでいたハンマーを突きつけながら拒絶する。

 

「ふーむ…? おおそうか! 安心するがいい、待遇は応相談である」

「そういう問題じゃねぇ!」

 

 叫びながら少女が跳躍し、ハンマーを大きく振るう。

 

「まーた交渉決裂かぁ…。セイバーやランサーにも断られたが……なーにが気に入らんのだ?」

「なっ?!」

 

 コンクリートすら砕く破壊の鉄槌を大男の巨大な手が掴んで止めていた。

 

「どれ、小娘。ならば征服王イスカンダルにふさわしい方法をとらせてもらおうか!!」

 

 そう言ってイスカンダルはハンマーを掴んだまま、空に向けて少女を放り投げた。

 

「うわぁ?!」

 

 少女が空中で静止し、下に視線を向けるとイスカンダルの服が変化していた。

 真紅の外套を纏い、巨大な剣を握っていたが、飛行能力は無いのか、こちらを見ているだけだった。

 

「売られた喧嘩…買ってやろうじゃねーか……アイゼン!」

 

《Schwalbefliegen》

 

 先に喧嘩を売ったのはどう考えても少女の方なのだが、そんなことは少女にとってはどうでもいい事で、呼び出した2センチほどの鉄球をハンマーで打ち出す。

 

「ぬぅんっ!!」

 

 高速で飛ぶ鉄球は相当の破壊力を秘めているはずであるが、イスカンダルはその手の剣を一閃し、全てを弾き落とした。

 

「なるほど。空中戦が望みか…であれば余がそちらに向かってやろうではないか!!」

 

 オフィス街に響き渡る大きな声でイスカンダルが叫ぶと、剣で空を切った。

 

「一体何を…?!」

 

 イスカンダルの行動が読めなかった少女は、次の瞬間、その意味を理解することになった。

 

 突如雷雲が辺りを包み、巨大な雷がイスカンダルの傍に落ち、抉れた地面から発生した粉塵がその巨体を覆い隠した。

 

「なん……だそれ?!」

 

 粉塵が晴れた時、そこにあったのは巨大なチャリオットを率いる雷を纏った巨大な二頭の雄牛の姿であった。

 

「物は試しであったが、『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』は元通りになっておるな! さーて。小娘……『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』を使わせるほど余を追い詰めることができるか試してみるがよい!!」

 

 イスカンダルがチャリオットに乗り込むと雄叫びを上げながら空中にいる少女の元に突進してきた。

 

「ほう、その奇怪な魔方陣、ずいぶんと硬いではないか!」

「あたしの防御はヴォルケンリッターの中で一番なんだよっ!」

 

 突進しながら振り下ろされた剣を展開した障壁で弾く。それを見たイスカンダルが愉快げに笑った。

 

「ではこのイスカンダルがその限界を試してやろうではないか! 小娘よ! 我が宝具の一撃を見事受け止めてみるがいい! 『遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)』!!」

 

 

―――『遥かなる蹂躙制覇』

 

 

 イスカンダルの有するこの宝具は言ってしまえばただの突進である。

 しかし神牛の蹄と車輪に雷神ゼウスの顕現である雷撃が付与された攻撃は触れたものを消し飛ばす圧倒的な破壊力を有している。

 

「防御…最大展開っ!!」

 

 おそらくは爆走する二tトラックに轢かれる方がまだ生存率が高いのではないかという必殺の疾走を少女が全力を込めた障壁で迎え撃つ。

 

 激突の瞬間、尋常ではないかは威力を秘めた雷撃が飛び散る。もし攻撃がぶつかったのが上空でなければ雷撃がビルを粉砕し、地面を抉っていただろう。

 

 

 

―――爆音の後の静寂が訪れ、やがて煙が晴れると

 

 

 

「ほう! 見事防ぎおったか!!」

 

 イスカンダルの視線の先には障壁を展開した少女の姿があった。

 

 神威の車輪は衝撃によりチャリオットの一部が損傷し、雄牛にも傷があったが、イスカンダルには全く負傷は無く。腕を組んだままそこにあった。

 

 対する少女は魔力を使いきり、身体に傷は少ないが、バリアジャケットはボロボロであり、これ以上戦えないのは明白であった。

 

「その力! 余を守る盾として是非とも欲しい! 小娘よ! 再び尋ねるが、余の軍門に下り、共に覇道を歩まぬか!!」

「断る……!! あたしが守るのは…はやてだけだ!」

 

 満身創意となってもイスカンダルの誘いを躊躇いなく切り捨てる。

 

「ふむ。すてに仕える王がおる身であったか…ならば仕方がない! 今宵は諦めるとしよう!」

 

そう言ってイスカンダルが地面に降りると、再びその姿がラフな格好に戻り、チャリオットが虚空に消える。

 

「どういうつもりだ…?」

「なぁに。王がいるから余の軍門に下れぬというならば、余がすべき事は一つ! お主の王を蹂躙し征服するだけである!!」

「…っ?! ふざけるな! てめぇにはやてをやらせる訳ねぇだろ!!」

 

 ボロボロの身体でもなお、主を守る為に武器を構える。

 

「落ち着けぃ! 貴様のような猛者が命を賭けて守ろうとする王の命を奪う訳なかろう」

 

 今にも飛び掛りそうな少女を手で制する。

 

「じゃあ…どうするつもりだ…」

「決まっておるわ! その王を我が軍門に下すのだ! そうすれば貴様も余の軍門に下る! どうた? 素晴らしい案であろう?」

 

 滅茶苦茶な宣誓に少女は絶句していたが、それを気にせず高笑いしながら男は結界から出て行ったのであった。

 

「……帰るか」

 

 なんとも言えない気持ちになりながら、少女もその場から立ち去り、オフィス街は再び喧騒を取り戻した。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

―――『十二月二日』―――

 

 

 地球に向かっていたアースラに緊張が走った。

 

 観測を行っていた者達が、鳴海市に突如発生した大小二つの結界の存在を感知したのだ。

 

「状況は?!」

「駄目です! 先遣隊にも現地の高町さんにも連絡が取れません!!」

 

 リンディの問いにアレックスが返す。

 昨夜連絡が途絶えた調査隊の者を捜索するために先に地球に降りた数名のアースラのクルーとも結界の展開と同時に連絡が途絶えたのだ。

 

「おそらくはどちらかの結界の中にいると思いますが…リンディ殿。如何致しますかな?」

「二手に別れて内部に突入します。ディルムッドさんは小規模の結界に。大規模の結界にはフェイトさん、アルフさん、ユーノさんの三人が突入してください」

「承知致しました」

 

 ディルムッドが転送ゲートの中に入り、デバイスを展開する準備を整える。

 直接内部に入ることは出来ないので上空からの侵入になる。初の実戦での飛行魔法の使用になるが、それほど緊張はしていない。

 

「ディルムッド。気をつけてね?」

「フェイトもな。お前達が容易くやられるとは思えんが、何が起こっているかわからん以上、警戒は怠るなよ」

 

 そう伝えると同時に光に包まれ、次の瞬間には鳴海市の上空にいた。

 

「さて。いくぞ『グラニア』!」

 

 かつての想い人の名を与えられたデバイスが展開する。

 普段の服がバリアジャケットの性質を持っているので変化はないが、その手には栗色の槍が握られていた。

 

 ディルムッドがアームドデバイスではなく、杖型のストレージデバイスを槍に改造したものを使っているのには訳がある。

 

 半年前の戦いは、飛行能力を持たないディルムッドは戦える舞台が大きく制限されていた。

 その為、デバイスで飛行能力を手に入れようと考えたのだが、魔法サポートに劣るアームドデバイスではディルムッドの才能では飛行魔法を行えず、ストレージデバイスであれば辛うじて使用できた。

 

 しかしディルムッドの真髄は武器を扱う技量であり、魔法の才能はゼロに等しいので飛行魔法のみに特化した特殊仕様でやっと飛べると言ったところであった。

 

 そうして完成したのが、飛行魔法だけに絞り、武器のリカバリー性能と硬度を限界まで強化したアームド風ストレージデバイス『グラニア』である。

 

 この名前をつけた時のアースラの一同は微妙な反応を示したが、ディルムッドとしては己の命を預ける物にふさわしい名だと思っている。

 

「アル! ブルーノ! フィル!」

 

 結界内に侵入したディルムッドが見たのは、鎧を纏った女性の前で倒れているアースラの仲間達であった。

 

「お前もこの者達の仲間か?」

 

 ディルムッドの侵入に気がついた女性がこちらに問いを投げかける。長い桃色の髪を後ろに束ねた女性の手にはアームドデバイスと思しき剣が握られていた。

 

「いかにも。時空管理局アースラ所属の嘱託魔導師だ。とりあえずおとなしく投降してもらおうか?」

「それはできない。我が主の為にもここで捕まえる訳にはいかんのだ」

「ほう。主の為に尽くす騎士であったか。ならばこちらも騎士として対応するのが礼儀であるな」

 

 ディルムッドの表情が喜びに染まる。まさかこの時代に騎士の心意気を持つのに逢えるとは思っていなかった。

 

「なるほど。その様子だと貴様も騎士道を重んじる者であるようだな」

 

 騎士王の物に似た意匠の騎士甲冑を纏った女剣士も嬉しそうに微笑んだ。

 

 それぞれが槍と剣を構える。そして互いの顔に浮かぶ歓喜の色に気が付き、二人は仲間であると直感的に悟った。

 

 

 

 

―――すなわち戦闘馬鹿(バトルマニア)であると

 

 

 

 

「フィオナ騎士団『輝く貌』ディルムッド・オディナ」

「ヴォルケンリッター『烈火の将』シグナム」

 

 互いに名乗りを上げ、喜びに打ち震える。 

 二人ともこの一時は立場も目的も捨て、訪れる最高の時間を予兆し歓喜する。

 

「誉れある勝負を望むぞ。『烈火の将』!」

「無論だ。全力で相手させてもらうぞ。『輝く貌』!」

 

 時を越えた二人の美男美女は訪れた運命のめぐり合わせに感謝していた。

 一目見た瞬間にディルムッドはシグナムが強者であることを見抜いており、シグナムも先ほどから見せるディルムッドの精錬された動きからその実力を感じていたのである。

 

「いざ!!」

「参る!!」

 

 そしてかつて主君に殉じた騎士と主君のために戦う騎士の戦いが始まった。

 

 

 




一話からこの対決がやりたかった。絶対気が合うと思うんですよね。

イスカンダルも(なのはで一番)ヴィーダも大好きなんですが上手く描写できてるか…。

賛否両論ですが、予定通りの流れで行くつもりです。
ここで変えちゃうと話がグダグダに崩壊してしまう可能性があるので(大体私のせいですが)

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